麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
どうしてこうなった、何度アブレーゴはこの言葉を唱えたことか、数えだしたらきりがない。
「ちくしょう、ちくしょうが……なんでこんな、また胃が……ぐ、おぼろぉ」
辛すぎてゲロってしまった。彼は今自室のトイレで絶賛リバースタイム。というのも、彼の直参の部下である者から届いた報告があまりにもストレスフルであったから
「ペドロス、あの野郎人の言ったこと全く理解しねえで……バカなのは知ってたけどよぉ、限度が、限度ってもんがあんだろうがぁ」
ここ数時間、彼アブレーゴの耳に届く情報の全てが想定外。彼は自分の過去の命令をいくら掘り返しても間違いがあったようには思えない。アブレーゴは事を穏便に納めんとむしろ神経を巡らしていた側だ
そもそものきっかけ、本国の幹部連中のひとりがしでかした憂さ晴らし、南米の名家ラブレスに地上げ屋をしようとした連中の腹いせを押し付けられたわけだが、アブレーゴはすべて承知で穏便に納めんとしたのだ。
本国より依頼が来て、すでにラグーン号が荷物の受け渡しで動いていることも知ってから、そこからの彼の動きはこんな感じだった
~数時間前、電話中~
……ミスター・アブレーゴ、コロンビア人を探している奇妙なメイドってのはいったい何者なんですかい。
……ロザリタ・チスネロスだ。お前もブラックリストの最優先候補だから知ってるだろ
……まじですかい! カルテルの賞金首、なら始末を
……始末はいらねえ、いいか! 俺たちはあのガキもそんな女も見なかったことにする。本国の奴等には知られるな、そんな奴らはこの街には来ていない、そういうことにするんだ
……はぁ、それはつまり
……うるせえ、こっちで色々考えてんだ。お前は言われた通り積み荷を回収する仕事を完遂しろ、いいな!余計なことはするな、俺の命令通りだ
……アブレーゴ、それはいったい。本国の命令は
……黙れ!てめえら暴れるしか脳の無いのは言われた通り動きゃあいいんだ!頼むから、頼むからッ!!あのロザリタ・チスネロスなんていう化け物を、カルテルのいざこざでここに招いたなんてことは避けたいッ!
……えっと、つまりどういう?
…………いいか、とにかくだ。本国の思想バカ共なんざ知ったことか、奴等はこの街には来なかったことにする、だから言うとおりに回収しろ!!いいな、回収だ!!
部下を前に劇場的なふるまいをするアブレーゴ、しかし通話中の声色とは対照的に顔色は土色で不健康そうだ
メイド服、その正体ロザリタ・チスネロス。彼女の存在をアブレーゴはかねてより知っていた。カルテルのブラックリストに載る存在、そして腕利きの猟犬、そんな彼女はラブレス家のメイドをしていることを。
つまり、アブレーゴはラブレス家が手出し無用のやばいところであると事前に知っていた。秘密をなぜ知っているか、それは彼がマフィアの幹部でありながら小心者、肉食獣を装った草食獣であるからだ。かかわってはいけない存在、そういうものには特に神経を張り巡らしている彼はまだ本国にいた頃だ、すでにラブレス家の危険性を悟っていた。
だが、彼がここロアナプラにきて月日が経ち、本国に残る幹部が目ざとく資源を見つけて今回の事件が起きてしまったわけだが、この時点でアブレーゴは早々に悟ったのだ。まずい、とばっちりだと。
苦労人、不憫な彼だが物事の嗅覚には鋭い。故にすぐ伝達、こうして部下に命令を下し全て平穏に、平和に片付けようとしていた、はずだったのに
~数時間前、通話中~
……結局、俺たちはその賞金首をどうすれば
……居場所は?
……ラチャダストリートにいると、のことです
……よりにもよってそこか、ならどうするかはわかるな
……ボス、それはつまり
……とっとと問題を片付けろ!たく、本国のバカ共が、厄介なものを誘いやがって、厄介事ははやく消えてくれってんだくそったれッ
と、そのような会話を部下とし、最後に八つ当たりぎみに受話器を叩きつけて通話を終えた。そして、そこからしばらく
まず、前提としてアブレーゴだが、繰り返しになるが彼は此度のことを穏便に片付けるつもりであった。それは間違いない
彼はガルシアラブレスを保護し、そしてロベルタことロザリタ・チスネロスに受け渡し、その後身の安全を保証して密かにロアナプラから追い出す、はずであった。
なのに
「なのに、なのにあのバカ野郎共!!ロザリタ・チスネロスどころじゃねぇ! ペドロスのバカ野郎が、いやそれだけじゃねえ、なんで俺の下にはドンパチしか頭にねえノータリンばっか集まるんだ!!ふざけんなッ!!?」
最初の報告、ペドロスから来たのはターゲットの保護をしたとか逃げられたとかではなく
……ボス!大変だ、全員やられちまう!
……おまえ、いったい何をしやがったッ?
……くそったれ、あのロザリタがいるラーメン屋ごとぶち壊すぐらいに銃弾ぶち放ったのによぉ!あのメイド女手こずらせやがる!!ロシア人とも相手しなきゃならねえのに、くそったれ!!
……おまえ、なに、言って
……命令どおり、ボスの狙い通りデカい抗争を起こす火花にしなきゃならねえのによぉ、あの女強すぎだ!頭がおかしいぜ!なあそう思うだろ、ボス!!
……おか、しい、のは……てめえの、オツムだイカれぽんちが!?……ぁあああああなんでこんなことにぃいいいい!!?!?
あろうことか、彼はアブレーゴの命令をニュアンスで把握、というか最後の問題を片付けろを拡大解釈。怒りぎみに感情を荒げて会話していたのも、あぁ俺たちのボスは抗争をやるつもりなんだと好意的解釈
具体的には、以下のようなやり取りがアブレーゴの知らないところでやっていましたとさ
~以下、部下達だけで行われた会話~
……ラーメン屋だぜ、ロシア人達も来るんじゃ
……ボスは何て言ってたんだよペドロス
……問題を片付けろ、女は見なかったことにする、とかなんとか
……女?待てよ、それってつまり、ロシア人のクソ女のことを言ってんじゃねえか
……そういや、見たくねえ女だって前から愚痴ってたし
……いやいや、話が違うだろ。この場合の女はそのメイド服だけだって、ってペドロスの兄貴、どうしたんで?
部下のつぶやき、ペドロスに電流が走る
……なるほど、そうか!賞金首もロシア人も、何もかも全部やっちまえってことか!!そういえば本国がどうのこうの言ってた、応援も来るのか!?……こいつはやべえ、俺たちのボスがついに天下を取るつもりだぜ!!
電流が走った結果、変な解釈でとんでもないことを言い出した。突っ込むべきだが、しかし周りの連中も
……なに!?そんなことまさかッ
……いや、間違いないぜ。本国からここに来て以来待ち続けていたんだ。俺にはわかるッ、俺たちのボスはそういうお人だったんだ!!
……なるほど、こいつぁ面白ぇことになってきたぜ!!そうだよな、わざわざ自分からこのロアナプラに飛び込んできたボスだもんなッ、それぐらいするにきまってるぜ!!
……ミスター・アブレーゴ、俺たちはあんたについていく!さあ野郎共、カチコミだぁあああッ!!!
上司に確認を取らず、彼らの勝手な解釈は止まるところを知らない
……おおおおッ!!(大勢のお馬鹿)
……野郎共、マニサレラカルテルの力、見せてやろうぜ!!(核弾頭級のお馬鹿)
以上、部下に恵まれないアブレーゴの顛末の原因、そのすべてである
そして、それらを事が終わってもう手遅れな状態で知ってしまったアブレーゴであるが
「おおんッおおおんッおおおおおぉおおおおおぉんんんッーーーーッッ!!?!?」
現在、彼はひどい頭痛で奇声を上げてベッドの上をバインバインと悶え苦しんでいる。
ドンパチしかできない楽観的でやる気だけある部下たちを抱えて、ここまでどうにかうまくやってきたアブレーゴだったが。ついにどうしようもないぐらいの状況に行きついてしまったのだった。なればこそ奇声も上げるし血の涙も流す、当然のことだ
「死んだ、こんどこそ死んだ……ごばはッ」
目から、鼻から、そして口から、ずっと赤い液が垂れっぱなしだ。ストレスで血管やら粘膜がズタボロボンボンなのである
「……田舎に、平和な田舎で畑耕していてえよぉ。生まれ変わったらカナダのマリファナ農家の次男がいいなぁ。ブスでもいいから心根の優しい女に毎日慰めてほしいよぉ」
現実逃避から来世レベルで理想の生活を想像しだしてしまった。現在進行形で続く包囲網、鳴りやまない内線電話のベル。アブレーゴは不憫な男である
だが、そんな不憫な男にも味方はいた。彼が真っ黒で陰気なオーラで部屋を埋め尽くす中、此度のことを抑え込まんと一人の伊達男が矢面に立っているのだが、それはまだ知りえないこと
がんばれアブレーゴ、まだチャンスはあるぞアブレーゴ、そして部下の教育はより徹底しよう。勝手な判断厳禁、まずは上司に一言、何を置いても上司に連絡、これを徹底させるのだ。そして命令を勝手に解釈させないためには相手に復唱させるなりメモを取らせるのが肝心だぞ。
〇
一方、港の集積場では
「ダッチ、もしもレヴィが負けた時は君の銃に頼るつもりなんだけど」
「よしてくれベニーボーイ、その時はガキを置いて尻向けて逃げるしかねえさ。最悪、穴が増えて締まりの悪いケツになるだけで済むだろうさ」
「二人とも、笑えないよそのジョーク」
動かない車両の中、男たち三人は暗い顔で窓越しにただ見守ることしかできない。そして、出る言葉はなんとも卑屈なものばかり
そう、彼らの視線の先にはコンテナの上で激しく銃撃戦と格闘戦を織り交ぜてドンパチを繰り返す勇ましすぎる女性が二人、片やメイド服と片や用心棒のガンマン。意識を取り戻したレヴィはそれはもうアドレナリン溢れかえって鬼神のごとく戦ってみせるが、それ以上にロベルタことロザリタの戦いは彼女の上を行く修羅っぷりだ
それはもう、見守る若様が応援の言葉を喉奥に引っ込めるぐらいに。弾丸を見て避けるは序の口、その辺の鉄骨を片手で掴んで振り回したりと明らかに人の領域をスキップして進んでしまっている。
普段の彼女も十分に並はずれであるが、そんな彼女には今もなお腹の中で熱くたぎる異様なエネルギーが秘められている。片や、レヴィはここ数時間食事もろくにとっていない。
火事場のなんとやらで持ちこたえられるのはあとどれぐらいか、だがそれを待っていては次の獲物は自分たち
「……なんとか、しないと」
事の原因、知れっとロック達がいる場に回って観戦中のケイティはおもむろにバッグから道具を取り出す。逃げ出すときに詰め込んだ貴重品やその他もろもろ
何かをしだすケイティにロックがまず気づく
「え、ケイティさん……君、いったい何をしているんだ?」
「見てわかりませんか!料理です!」
「は?」
「このままじゃレヴィさんが負けちゃう……だから、作ります!勝負飯!レッツもぐもぐタイムです!!」
「……ごめん、ほんと何言ってるかわからない」
「説明はあとでしますから、暇なら手伝ってください……これ、僕たちの命にかかわりますから」
「……あ、あぁ」
いまいち要領を得ないロック、しかしケイティの熱意に押し切られて。手伝いを買って出ることに
戦闘はまだ続いている。怪物を相手にするなら怪物でなければならない
……もう、これっきりで激辛料理はやめよう、ドーピング料理になるなんて想定外すぎるッ
ロベルタを狂暴化させた原因は自分にあると反省するケイティ、二郎に続き封印するべき二杯目でのラーメンになるが、今一度だけその味を作り出す。これが最後の激辛クッキングだ、おそらく
次回に続く
以上、アブレーゴがメインのお話でした、ホウレンソウって大事
感想・評価いただいて本当にうれしい限りです。特に感想とかで独自解釈アブレーゴに好意的な意見貰うのうれしい。苦労人っていいよね、存在しない設定だけど
次回の投稿はできるだけ早めに
追記
執筆に苦戦してます。しばらく投稿は無理そうです、一度プロットを見直していますので、また気長にお待ちを。忘れられない程度の頃には戻ってきます