麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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ロベルタ事変はひとまず収束、ここからオリジナル展開に移行します。


(46) バラライカVSアブレーゴ、24時間後の極刑

 

 

 早朝、街に活気が見られていく中人々の様子がおかしい。 

 

 騒がしいことに変わりはないが、皆どうにも落ち着かない様子で表情も引きつっている。やけ酒も交えて昨夜のことを少ない情報から誇張して吹聴しまわる者もちらほらとみられる。

 それだけ昨夜の出来事はロアナプラ中で未だ鮮烈で色あせない事実なのだろう。

 

 すでに日付は変わり日も登った。ラチャダストリートに転がる空薬莢も死体も、鉄くず拾いや人身バイヤーといった拾い稼業の者たちに全て回収されたか、痕跡は血痕と焼け焦げた道路だけ、あとは、見るも無残なロアナプラ亭の店構えだけ

 

 ストリートを通る者は皆総じて悟った。昨夜に起きたことはドラッグトリップの夢なんかじゃなく、現実のショウタイムであったことを

 

 未だ騒乱の兆しは消え去っておらず、こうして日が昇り朝粥を煮込んでいる今でさえ、この街の支配者達はにらみ合いを続け一歩間違えれば核戦争手前だということを、街の皆々は理解せざるを得ないと溜息を漏らしている。

 

 

『逃げるべきか、それとも残るか……行く当てなんてないのにな』

 

 

『ホテルモスクワがカルテルを全滅させてすべてが終わる、それまでおとなしく引きこもっていればいいさ』

 

 

『横入りした三合会、イタリア人も加わるかも? この街は爆心地になるかもしれない、いやなるに決まっている。酒でも飲んで寝ていりゃいいさ。起きたらそこは』

 

 

 街を巡る話題は大抵そんな感じだ。マニサレラカルテルとホテルモスクワ、そしてその間を取り持ち両者の接触を防いでいる三合会、日常を送りながらも皆気にしているのは結末、このままホテルモスクワが指をくわえ続けているとは誰も思わない。この街でひときわデカい花火を上げるのは決まって奴ら危険な軍人崩れ達だと

 巻き込まれて死ぬのはもってのほか、だからといってとりわけできることもなければ、やれることはお祈りぐらいだ。敬虔なものは神に祈り、あるものは自らの信条に、それが酒でも女でも心酔して現実に目を背けられれば誰でもいい。祈れるものにとかく祈るだけ

 

 だが、事の始まりのきっかけを知る者は別だ。此度の起きた騒動、全てを解決できるカギはたった一人のみ、故にこの街の数名だけはそのたった一人にこそ祈りをささげる。

 

 ミス・バラライカに感情的な行動を取らせた要因、ロアナプラに合って奇妙に歯車を狂わす異端者。ロアナプラ亭、店主ケイティにあえてベットする。

 

事の終息を彼の細い、料理以外にとりえのないその腕ぷしにかかっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

……シャァァァァ

 

 

 

「……」

 

 昨日ぶり、まだ昨夜のドンパチのせいで耳が痛い。無茶にバイクを乗り回したりもしたから少し腰と背中も痛めている。

 

 ストレスから、湯を浴びている今でもそのままふらっと倒れてしまいそうだ。昨夜の深夜にこのホテルへ連れていかれて、そしてこの昼時までずっと眠っていた。10時間以上も眠っていたけど、まだ体の疲れは取り切れていない。洗い流してもわずかに震えがこびりついている。

 昨夜のこと、ロベルタさんの襲撃事件は、一応の終息は得たけど、まだまだ問題は継続中だ。それもきっと心労にたたっているのだろうか

 

「……ぁ」

 

 ため息が出る。シャワーを終えて部屋着に着替えて、部屋に戻り大きすぎるベッドに転がって仰向けになる。

 大きすぎるこの豪華な部屋で、僕は何をするでもなく、またあの人がいつ帰ってくるかも知らず、半ば軟禁であると再び理解するだけ

 

 そう、ここはバラライカさんの私室。ホテルの最上階フロアを丸々使ってしまったトップスウィートのお部屋、けどその家主は今も作戦会議室かどこかにか、聞くこともできないしただここにいれば安全だと言われて扉を閉められただけ

 

 昨日のことから状況は変わっていない。

 

 

「……バラライカさん、怒っているのかな」

 

 

 

 昨夜のことは今でも鮮明に覚えている。レヴィさんとロベルタさんが一騎打ちをしていて、その最後の刹那に突如として姿を現したバラライカさんのことを

 

 遊撃隊の人の放った弾丸はレヴィさんの右手を打ち抜き、そして数に囲まれた二人は抵抗をするも結果は取り押さえられて拘束されて、そして強引に事態は収束に導かれた。

レヴィさんまだ待遇は良いだろうけどロベルタさんは不安でしかない。遊撃隊の手際の良さ、そして相手に対して一切容赦なく襲い掛かる仕打ちはどこか既視感を感じた。その既視感は、かつて僕が体験したものと同じ

 ある事件の冤罪で僕が遊撃隊に拉致された時のように、今バラライカさんの命令でロベルタさんはきっと暗く寒い地下の部屋に軟禁されているかもしれない。僕にはそう思えて仕方ないのだ

 

 

「バラライカさん、止めないと……でも、どうすれば」

 

 外にも出られず、通話もできない。与えられる食事と娯楽で時間を潰せと、そんなのは酷でしかない。まだラーメン屋の営業を再開していた方がずっといい

 このまま、誰かが不幸になって終わる結末は望ましくない。アブレーゴさんも、ロベルタさんも、誰も常連には消えてほしいと望んでいない。

 

 きっと、ロベルタさんの癇癪だって僕の激辛料理がなければ、アブレーゴさんにしてもきっと何らかの誤解があって昨夜の暴挙が起こったはず。あんな一夜の出来事が策略や謀略で起きた事象だなんて思えない。 

 

 

「……バラライカさんに伝えないと、外に」

 

 

 ダメと分かっていても我慢できない。僕は扉をたたいて見張りの遊撃隊の人に食って掛かる。どうせ殺されはしないんだし、ハリウッドの俳優のティーン娘並みにうざったい我が儘で首を縦に振らしてやるんだ。

 

……ローワンさんのお店で働いていたんだ、男を困らせるしぐさの一つや二つ、心を殺せばやれないこともないッ!

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

~某所~

 

 

 

 沈黙は葉巻に火をつける間、交わす言葉はナイフよりも鋭く銃弾よりも重い

 

 夜を明かしてまた会談につく。軍服と黒服、部屋中に煙が充満する中で酒も飲まずに両者言葉のせめぎあいは今日も継続する

 

 

 

「Mr.張、どうしてあの男を庇いたてる……そこまでして守る価値がどこにある?」

 

 

 冷ややかな問い、張もまた表情は変えず、サングラスの奥の底が見えない黒でお返しとばかりにビジネススマイルを返す。

 

 

「かばうも何も、アブレーゴとはこっちが先に抗争中なだけだ。たまたま、あの事件の直前に抗争に発展していたなんて、虫のいい話だが、どうか信じてくれミス・バラライカ。今回の件は協定を優先して引いてくれ。他人の抗争に口を出さない、敵にもならなければ味方もしない、俺とあんたとの間で交わした約束だ」

 

 毅然と、余裕のままに返す。言葉の形こそ変えているが、結論はずっと変わらず。張とバラライカの階段は平行線を保つ

 

 此度、ホテルモスクワは明確にカルテルの戦争意思を受け取り抗争が始められんとした。だが、そんな彼女の動きを止めているのは張であった。協定を盾に、バラライカからすれば実に癪に障る行為をやってみせたのだ

 口約束ではあるが、張とバラライカの間には深く結ばれた協定がある。それをやり玉に挙げて、張はバラライカとアブレーゴの対面を妨害している。

 

「何を考えているか知らんが、邪魔するのなら貴様もろとも焼き払うだけだ」

 

「……」 

 

 無言、バラライカの威圧に張は表層を崩さない。あくまでも協定を盾に邪魔をする、といった身構えを続ける

 

 苛立ちは確かに募る。面にこそ出さないが、バラライカは無意識に葉巻を潰していた。灰皿へ捨てるように放られた葉巻、火は消えずクズになったたばこ葉をじりじりと燃やしていく。

 

 灰になって消える。火はすでについてしまっているから

 

 

「今から24時間後、我々は包囲した武力を持って、この街の地図に空白を作る。それまでに尻尾を巻いて巣穴に帰れ、でなければ……殲滅対象を増やす」

 

 

 席を離れる。ヒールの細い足音が妙に、強く重く響いてくる。扉が閉じ、ようやく事務所の中に安堵の息が漏れた。

 

 

「劉、お前あからさまだぞ」

 

「……失礼」

 

「息が詰まるのは俺も同じだ。たく、換気をしてくれ、葉巻の匂いにミス・バラライカのにおいも強く混じって、これじゃあどうも落ち着かん」

 

 部下に言って聞かせ、すぐに窓が開けられ清らかとは言えまいが空気は流れていく。甘ったるさと苦みの強い匂い、痕跡を洗いすすいでようやく張は深呼吸をした

 

「……以前とは違う、ミス・バラライカの不機嫌は俺の予想を超えている。これは、どうしたものか」

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「お前らは気づかんだろうな。今回の件は相当にお冠ってことだ。そしてミス・バラライカの気を静めるためには生贄が必要なわけだが、それが意味することを……劉、お前から言ってやれ」

 

「……は、自分がですか」

 

 目配せ、急に投げやりな、しかし劉は大公の意思をくみ取りその場にいる数名、この場を取り繕う幹部やボディーガード数名に、此度の事態の危険性をまとめだす

 

 

「……第一、此度のことはアブレーゴの失態、そしてカルテルの本拠地のとばっちり、そう認識できる」

 

 

 紐解く、すでにバラライカたちがロザリタの正体を暴いたように三合会でも調査は完了している。

 

 

「ホテルモスクワとカルテルは緊張感が走っていた、そして今回のメイド騒動、カルテルの阿呆どもにはロシア人達をやれと、明確に敵意を向ける発言と行動も見られた。ホテルモスクワは結果動き出し、結果今の拮抗状態が作られた」

 

 

「劉、ならここで俺たちが身を引けばどうなる?」

 

 

「……最悪の事態が、始まります」

 

 

 考えられる最悪の事態、それは今回の騒動すら生ぬるい、張が留意しているのはこの地のカルテルの連中ではなく、その本拠地

 

 解説は引き継がれ、張が続けて語りだす

 

 

「マニサレラカルテルは少々特殊な組織だ。反政府ゲリラの思想集団に非合法のマフィア組織が癒着し、混ざり切らず混沌なまま一つの塊として成り立っている。こいつが厄介な点だ」

 

 

 反政府、思想主義、共産主義社会主義、いつの世も狂気ではびこる危険集団、革命軍(FARC)はマフィアと手を結ぶも溶け合うわけではない。二匹の蛇は頭を残したまま解けないほどに絡まり合っている。つまり、革命軍は何処まで行ってもその某弱無人な思想の暴走を捨て去りはしない

 

 張が予期する結末、それは破滅ないしロアナプラの分裂、それをもたらすのは革命軍、南米より悪神テスカトリポカがこの居心地よき悪党の巣を踏み荒らし、慣らし、結果この地の修復は不可能となってしまうのだ。

 

 

「アブレーゴがここを収める間、革命軍はここに手出しはしない。だが、今奴が消えればその穴を誰が埋める?……正解は革命軍の思想バカだ。香港に身を置く俺たちには、奴らコミーの思想を掲げる武力集団のたちの悪さは、簡単に想像できる。流儀もくそもなく、思想仲間たちのごっこ遊びでロアナプラが荒らされるんだ。それは簡単に、容易に、想像できてしまう結末だ。奴らは何処まで行っても思想集団、マフィアじゃない……お呼びじゃないんだ、ゴミ共はな」

 

 

 言い切った、その張の表情に先ほどのポーカーフェイスはない。ことを重く受け止めて、胃に力を込めた身構えを見て取れる。

 

 バラライカは間違いなく動く、もとよりこの街の均衡にさほど執着もない彼女にとってこの危機は共有できるものではない。戦場が広がるのならそれを受け入れる、戦争ジャンキーであることは前提、覆らない

 

 だが、もしも踏みとどまる者があるとすれば、それはきっと合理的な理由ではない、もっと逆

 

 合理を取ったうえで、さらに私情に後押しされた結末だけ、期限を損ねない解決方法は思い付きこそすれ張の手には実行できない

 

 

「大公、では我々はどう動けば、このまま火傷顔と事を構えるべきなのでしょうか?アブレーゴ、あの無能を守るために?」

 

「劉、そいつは違うな。アブレーゴは臆病者ではあるが無能ではないさ。南米由来の輩は陽気な無鉄砲が多い中で奴だけは知的な現実主義、その上ネガティブでリスク回避を優先するときた。そんな奴にはこれからも是非この地でトップにいてもらわねば困る。奴の意思がそれを拒もうと、そうじゃなきゃ困る現状が今ここにはある。……いやはや、奴はよくやってくれていた」

 

 故に、アブレーゴは死ぬべきじゃない。あくまでもそこは絶対だと強く置いた

 

 時計の針は動いている。現在夕刻、また日が黄昏に落ちて紫雲が浮かぶ頃合い、それまでに策を講ずることは必須

 

 

「……命令を、大公」

 

 

 劉をはじめ、その場にいる皆々は張の声を待つ。この状況、ロアナプラの先を維持するために、望まない乱入者を食い止めるために

 

 

 

「あぁ、待機だ……というか、お前ら全員休んでいいぞ」

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 声を上げたのは劉だけじゃない。その場にいる皆あっけにとられて声が重なった。そんな様子を面白がってか、ふんぞり返ってたばこをふかす張

 

 

 

「なに、どうせ俺たちに出来ることはない。なら適当に時が過ぎるのを待てばいい。時期に風は吹く」

 

「……は、いやいや、そんな適当な。大公、事態は重いはずでは」

 

「あぁ重いさ、だが実際問題できるのは時間稼ぎだ。そして、時間なら十分に稼いだ……あとは、うまくやってくれる」

 

「……誰か、すでに」

 

「俺の口からは語れん。だが、すでに動くことは承知だ。俺は連絡を受けてないが、予測はできる。現に、こうして最善は尽くした……24時間、すでにデリバリーは向かっている」

 

「…………あの、いったい何を」

 

 理解しがたい、伏せられた情報で何もわからない一方で、張はすでに納得気にしている。疑うわけではないが、それでも理解は得たい。

 

 自分たちを置いて、此度の事態を収拾できるものがいるとして、それはいったい何者か、興味を抱かない方がおかしいというもの

 

「大公、いったい誰を動かしたのですか?」

 

「言わなかったか、俺は何も動かしていない。ただ、動くものがいるだけだ」

 

「ですから、それはいったい」

 

 回答にならない返答、張は深く煙を吐きながら少しだけ思案して、そしてこぼすように正解を伝えた

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 聞いた一堂に納得はいったかと聞かれればそれはノー。はぐらかす楽しさで張はまた意地の悪い笑みを一つ浮かべるだけ

 

 

 張の言葉に偽りはない。実際、すでに動くものは行動に移っている。

 

 

 その狙い通り、事務所で語らう一方とある場所にて、彼女たちは計画を進めるのだった。

 




今回はここまで、もろもろ説明会でしたが理解してもらえると幸い。カルテルにはアブレーゴが残ってもらわないとより大変なことになってしまい的な感じです。Second Barrageまで見ていると納得はしてもらえるはず

ひとまずロベルタは安静に、ガルシア君はロック達と一緒なのでご安心を。問題はあくまでアブレーゴ、アブレーゴ危機一髪、首はどこまで高く飛ぶのかな?結末をお楽しみに
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