麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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今回は短め


(48) デリバリーサービス ※挿絵

 現在深夜の2時、男は部屋に籠り鍵を閉めて布団をかぶっている。

 

 照明を切った部屋の中、ブラウン管の怪しい光がピコピコパチパチと目には優しくない。不健康極まりない、そんな引きこもりスタイルで現実から目を背けている男がいる。そして信じられないかもだが、男はマフィアの頭目であった

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

『……てれれれーてーてーてってれー』

 

 

 時刻を告げる針は淡々と過ぎていく。しかしアブレーゴの手は止まらない

 

 その顔は諦め、どうせ死ぬならやり残しを残さずくたばろう、そんな思いから部屋を見渡して、そして見つけたのは買ったはいいもののやらずに腐らせていた日本のテレビゲームであった

 

 

……酒も切らしていた、女を抱く気も起きねえ、ゲームは良いなぁ。誰とも話さないでいい

 

 

 足元の無能な部下のバカでとばっちりを食らい、明日にもなれば抗争という名の一方的な蹂躙、アブレーゴは完全に腐っていた。半日にして熟成度数十年の引きこもりダークオーラをその身にまとっている。

 

 

……おれはぁ、いったいなんのために、こんな所まで来て

 

 

 思い返せばそれは逃げの繰り返し。幼少期、中流家庭で生まれ稼業があるもそれを継がずに逃げたのが最初のきっかけだったか

 

 ギャングになって、身を落として、いい目を見たいと思えどその場所が、カルテルが内部衝突の激しい毒巣と気づく頃にはもう逃げられず終い。

後悔を重ね、さらに逃げを続けているうちに背負いたくないものまで背負って、そして気づけば幹部コースに乗り上げて、最後には命惜しさにこのロアナプラまで逃げてきて

 

 だが、それも最後は無様に終わる。

 

 今思えば、もっと部下に日頃命令を聞くしごきをすればよかったのだろう。だが、あの時はそこまでここでのマフィア活動にも没頭する気にもなれないし、また今も下のフロアで騒いでいる部下たちに言い聞かせる気力も起きない。

 

 上に立つリーダーとして指導する日々ではなく、常にバカをいさめる苦労役を押し付けられた日々。やりがいはない、日々何のために自分がマフィアの頭になったのかもう訳が分からない。

 

 

「……くそ、エンディングだ。達成感あるじゃねえか、ジャパニーズRPG」

 

 

 ふと、目頭に涙があふれてきた。それはゲームのストーリーに感動したのか、いやきっと違う。ゲームを閉じて、ふとブラウン管テレビの液晶に映った自分の顔に嫌気がさしたのだろう。

 

 

「チクショウ、チクショウ……くそったれカルテル、くたばりやがれマフィアども」

 

 

 もはや中指を立てる気力もない。布団を頭からかぶったままアブレーゴはベッドにふて寝。

 

 せめて眠っている間に全て終わって呉れれば楽だろう。そう思い、しかしかといってすぐ寝られるものではない。手さぐりに酒瓶を、だが空っぽ。汚い部屋には空いた瓶と缶ばかり

 

 

「……どっかの部屋に買い置きがなかったか、くそ」

 

 もそりのそり、芋虫のようなけだるい動きでふらふらと立ち、ドアへと歩いていく。

 

 だが、アブレーゴがドアノブを握るよりも前に

 

 

 

……ガチャリ

 

 

 

「!」

 

 

 扉が開く。もう来てしまったか、そう悟り、アブレーゴは目をつぶった。

 

 受け入れて、もう眠ってしまおう。それで楽になる。そう身構えて、ただ待って

 

 

 

 

「………………ぁ」

 

 

 

 

 だが、何も起こらない

 

 

 

 

 

「もう、何しているんですか?引きこもりの中学生ですか??……しっかりしてください、アブレーゴさん」

 

 

 

 

 声は、自分よりも低い位置、目を見開くとそこに居るはずのない相手がいて、驚きから膝をついてしまった。

 

 

 

「おめえ、なんで……ここに」

 

 問いかける、相手は恥じらった顔でこっちを見下ろし、いじいじと自分の髪の毛を触っている

 

 恥ずかしいくせにその衣装なのか、そんな指摘が脳内をよぎるが、しかしまずは返答を待ってみた

 

 

 

「ノックしたのに出ないから開けました。その、用件というのは……そう、なんというかですね」

 

 

 

「……ケイティ、おめえ」

 

 

 

 

 緊張感がただよう、といってもケイティ側の一方的な羞恥心で、一体全体何がどうしてそのような格好をしているのか、いつものポニーテールに男物の服装でギリ性別を男に寄せている姿が、今の姿は完全にメスに振り切ってしまっている

 

 それはかつてローワンの店で働いていた頃に身に着けていたドレス。体のラインを隠さない、スレンダーな魅力を余すことなく伝えてしまう夜の姿

 

 ふわりと降ろしている頭髪、薄いピンクで飾ったネイルに愛らしいパンプス、色白な肌を晒す姿は、果たしてどんな目的でアブレーゴの前に見せているのか

 

 回答は、本人の口からストレートに

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

「デリバリーです」

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわすっご、包囲ってすごいね」

 

「そりゃ三勢力集まって、圏外にもイタ公がいるし、まあ壮観ね」

 

「戦争かぁ、本国のチケットはどうする?さよならしないといけないかもね、ローワン泣くかな?」

 

「不吉なこと言わないで、あんたとあたしと、そんでエダ、いざという時は連れ出せばいいから」

 

 この距離からね、そうつげるアーシェの手には背丈ほどあるごついライフルに、さらには対戦車用と思わしいロケットランチャーまでそのそばに、公園の土管のような気軽さでいくつも積まれている

 これらすべて、暴力協会からの追加物資、そして彼女達二人に指示を出すのもまた協会のシスター

 礼服をまとってはいるが、今の彼女の手に十字架のロザリオは決して握られることはない。その手に取るのは車のハンドルと、そしてホルスターにしまったグロックぐらいだ

 

 目標より離れて数百メートル、既に展開されたホテルモスクワの死角に潜み、贈り物の成果を彼女たちは待っている。

 張維新の計らいによって意図的に開けられた隙間を利用しケイティを送り届けるのには成功。三人はこの雑居ビルの屋上で身を潜め、いざという時には強硬に映る準備をしている

 信じて送り出したケイティ、しかし無作為な行動ではない。此度の騒動はエダの背景、つまりはこの街の本当の支配者にとっても面白くない結果を及ぼす故に、アブレーゴには命を捨てる諦めをさせるわけにはいかない。だからこそのケイティであった

 かつて、自分の心だけじゃなく、この街の顔である大物の心を開かせた非凡な性質、魔性の魅力に頼ってエダは待っている。

 

 押し付けたわけではない。信じているからこそ、その背中を押して送り出したのだ

 

 

 

「……痴女ども、ケイティの様子はどうなんだい」

 

「コリンネ、音は拾える」

 

「だめぽよ、ジャミング張られちゃってる……サーモで見る限りは、一応無事っぽい」

 

「そうかいそうかい、なら信じて待つしかねえなこりゃ」

 

 

 瞳の見えないサングラスの奥、そこにどんな表情を隠しているか。エダはたばこを取り出し深く一服をすませる。

 

 残り時刻、タイムリミットの針が過ぎていく。アブレーゴの処刑まで残り8時間

 

 

 

 




以上、次回はもう少し長くなる予定ですのでちょっと短めでした。挿絵はおまけ


感想・評価等あれば幸い、モチベ上がって執筆が捗ります。次回もお楽しみに、ケイティのアレがアブレーゴに見舞われます。
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