麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
辛いね
ローワンさんのお店のバックヤード、仮眠室としてつかうスペースで僕は目が覚めた。随分と酔いが気持ちよく回っていたのか、かなりぐっすりと眠ってしまっていて、気づけば街の様子も元通り。適度に喧嘩と殺し合いでにぎやかないつも通りのロアナプラに戻っていた。
ただ、壊れた店の外観はどうしようもなく、これからやることは大積だと理解させられた。店に関してはビルの基礎そのものがだいぶ危うく、いつ倒壊してもおかしくないまさにゲーム終盤のジェンガみたいなもの
失った調理器具、製麺機や各種貯蔵用の業務用機械も、ただ住処を戻すだけでは足りない。一から店を立ち上げる手間、やることは山積みだ
だけど、その前に僕は一つ、やらなければいけない大事な課題ができてしまった。というか、教えられたのだ
……ミス・バラライカに花束を、張維新の伝言よ
着飾ったドレス、整えた化粧は時間をかけて丁寧に。アーシェ姉達から指導を受けて、自分なりに頑張って着飾ってみる。本来ならそれが出来たのだけど、生憎そうはいかない事態に陥ってしまった。
というのも、僕が一張羅として使っていたドレスはクリーニング中ですぐには戻ってこない。前にアブレーゴさんの部屋で一晩明かしたために匂いが染みついてしまったのである。あの時は言わなかったけど、控えめに言ってアブレーゴさんの部屋は良い匂いではない。というか臭い、酒とたばこと女とその他もろもろ、ゴミも片ついていない汚部屋ということもあって染みついた匂いは珍味ゲテモノ食材にも勝るとも劣らない。食えない分こっちの方がたちが悪い
仮にもそんなドレスであの人の前に立とう者なら、その時はきっと悲惨な末路があるに違いない。僕はバラライカさんの匂いを知っているし、バラライカさんもまた僕の匂いは重々知っている。たがいに鼻が利く関係性だから、例えば以前にも直前に張さんと会っているとすぐあの人は指摘してくる。
と、そんなことだからいつものドレスは使えない。そもそもドレスなんか着る必要があるのかと思われるかもだけど、あの人不機嫌にさせてしまった場合ぼくは自主的にそういう装いをしないといけないのだ。変と思うなかれ、そういう関係性に仕上がってしまったのだから。さもないと、どんな服を着せられるか分かったものじゃない
そして話は戻る。バラライカさんの前で見せる綺麗な一張羅、そもそも店が壊れて服も取りに行けないから、ローワンさんの店でサイズの合う服を探さないといけない。けど、あの店は基本グラマラスな体系のお姉さんたちが身に着けるものばかり、店にあって僕の華奢なサイズに合う服、バストAAでも着られる服がないか、正直望み薄だったのだけど、けど
……一着だけあった。それもとっておきの一張羅
それは昔、ローワンさんが外国より取り寄せた衣装で、けど発注したサイズとは違いどの嬢も袖を通さず、かといって高価故に箱にしまったまま今日まで開けなかった代物
コリンネ姉さんが上機嫌な顔で持ってきて、けど披露していざ着てみてその姿に皆はほほを緩めてくれた。でも、アーシェ姉だけはやめておけと進言してくれた
今回のことが無ければきっと喜んでくれたかもしれない。だけど、普通の出で立ちで赴いて誠意が伝わるとは思えない
……仕方ないよね、きっとバラライカさんも
バラライカさんの機嫌は基本的に不安定だ。でも、僕が綺麗な装いをするときは決まって機嫌がよくなって小一時間膝の上で抱きしめられる。
だから、それを狙って僕は女装をしないといけない。まともじゃないと思うなかれ、繰り返すがそういう関係性なのだから仕方ない
……さあ、進め
「失礼します」
慣れないパンプスで歩幅が慎重になる。ワンフロア丸ごと使ったVIPルーム、いくつかある部屋を抜けて、僕が目指したのはベッドルーム
街を見下ろす夜景が見えるガラス張りの部屋。キングサイズのベッドを置いてなおスペースがあまりある間取り
扉を開ける。そして、視線を一面の窓辺に向ける。明かりをつけてみると、椅子に座ってくつろいでいるバラライカさんがいる。
「……ッ」
……いた、待っている
無言、視線だけを向けて眼光に背中が震えた。ベッドには雑に脱ぎ捨てたスーツが、今の出で立ちは下着姿、お酒のボルドーを思わせるダークワインのカラー。レースの入った扇情的で挑発的なデザインのショーツ、その上にコルセットのような布が腹部を隠し、そしてその上にはちきれんばかりのトップを支えるブラがある。
垂涎者の下着姿、だけどその手にはライフル銃があって、油汚れを気にしてその姿なのか、僕の呼びかけにも答えず銃のメンテナンスを続けている。
話しかけるべきか、僕は扉を閉じて、ただじっとその姿を見ていた。銃を整備するバラライカさん、AKだったか、ロシア製だと思うその銃を手に、構えてそっと何もない虚空に銃口を向けて、カシュンっと間の抜けた音を鳴らした。
「……バラライカさん」
沈黙に耐えかねて、挨拶よりも先に名前を呼んだ。
胸中を察そうとする僕の思考、今まで何度も聞いたバラライカさんの声で僕を責める言葉がたくさん脳内をよぎる。言葉がないゆえに、勝手に不安になって、震えて、涙腺が熱くなってくる
「…………ら、さん、ばららいか、さん……その、えっと」
「————」
銃を置いた。そして、テーブルの前においてある葉巻を手に、火をつけて煙を噛みしめる。
「何をしに来た、帰ったのではなかったのか……忘れ物でもしたのか?」
低く、ゆっくりとした言葉で空気を震わした。どなるでもない、けど心は身構えて後ろへとかかとが引っ張られそうになる。
「……ただいま、バラライカさん」
こんばんわではなく、ただいま。帰るべき場所というのを強調している言葉、意図して媚びへつらったわけじゃないと思いたい、けど気づけばその言葉を選んでしまった。
「迷惑、いっぱいかけてごめんなさい……でも、ちゃんと帰ってきました」
精一杯、見せるべきは誠意。僕は深く頭を下げた。
事情はすでに聴いている。バラライカさんはすごく頑張ってくれていた。片や、僕は僕の作ったラーメンで事件をかき回しただけだ
怒られるのは覚悟している。
「……何をしに来た、かと聞いている」
「怒られに、です……ごめんなさいを、言いに」
「なら、なぜその服を選んだ」
頭が痛い、そんな素振りをしてみせた。バラライカさんが指摘した僕の出で立ち、指摘されると恥ずかしくて涙目になってしまう
「恥じらって泣くならなぜ着た」
「……だって、かわいい服着た方が喜ばれると思いまして」
「ジャパニーズのおもてなしという奴か、だとしてもよ……馬鹿なの?」
「うぅ」
悩んで決断した結果、僕は阿呆認定を貰ってしまった。
喜んでもらいたい、そんな思いで恥じらいを我慢して可愛い女の子の服を着てきたけど、でも、メイド服姿はやはりまずかったみたいだ
「なぜ、よりにもよって」
「……これしかなくて、お気に召しませんか?」
そう、今日の僕はメイド服装備。贈る花束は僕自身である。ちょっとしたユーモアのつもりでもあったけど、さっそく後悔は脳内をしっちゃかめっちゃか暴れまわる。脱ぎたい
〇
……シャワーを浴びるわ、ベッドで良い子にしていなさい
「……」
言い残した言葉、最後に付け加えるつもりだった一言は想像できてしまう。
逃げたこと、何も言わずに、許可を得ずに、勝手に動いて心配をかけたこと、良くは思っていないだろう。
「…………はぁ、どうしよう」
ベッドの上、ニーソとパンプスを脱いではだし、パタパタとシーツの上で足踏みして、なんだか切なくなってそのままうつむいて寝ころんだ。
「……ん」
バラライカさんが寝ているベッド、髪の匂いが移っている。でも、それと同じぐらい葉巻の匂いも感じる
……いっぱい、吸っていたんだ
葉巻を控えると言った。胸の中で抱きしめられていたエレベータの一夜、僕の苦手な匂いだと知って、そこから控えると告げてからバラライカさんの匂いは甘い花の香りが強くなった。
別に、前の匂いが嫌いなわけじゃあない、そんな匂いもバラライカさんらしいから、でもこうして強くなる苦みはそれだけストレスをためさせた証なのだろう。
……負担、なのかな
小手先の媚びへつらい、こんな浅はかなもてなしで心の疲れが取れるだなんて、僕の安易な一方通行だったのだろうか。
ロベルタさんのことがあって、なのにメイド服姿で姿を現して、そんな行為が馬鹿なことぐらいぼくでもわかる。でも、それでも冷静な思考をかざしてこれが正しいと貫いたのは、そこには紛れもなく僕自身の欲望があったからだ
叱ってほしい、なぶられてもいい。僕は求めていた。一心不乱に、それも寵愛を求める愛玩動物のように
ペットと飼い主の関係、でも、僕はすこし調子に乗っていたんじゃないだろうか
「…………ッ」
遠く彼方に置いてきた思い出、欠けた十代以前の記憶。
我慢して、表面的は恥じらって跳ねのけてみせて、でも結局僕は情けない己の欲に抗えていない。承認欲求はいつも狂っている
認められたい、褒められたい、肯定されて存在を受け入れてほしい。
甘えたい、甘やかされたい。そんな僕を受け入れてほしい。僕の浅ましさはそんな言葉で容易に表現できてしまう
「……でも」
迷惑をかけた。身勝手に動いて、やったことは結局周りを振り回しただけ、アブレーゴさんのことにしても、僕という存在が無ければ果たしてこんな結果になっただろうか。
僕がいるせいで、みんなに駄目な影響を与えてしまっているのだろうか。
僕が、ラーメン屋なんて、このロアナプラで始めてしまったから
……ポツ
「………………ぁ」
雨が降る。部屋の中だけど、大雨が僕を覆いつくしている。見える世界は、もうぼやけて見えない
「……う、グス……どうしよう、どうしたら」
考えてしまう。このまま迷惑をかけてしまっていいのか、かかわりを断つべきか
でもそんなことは望んでいない。僕自身が、こうして感情を溢れさせてしまっているのがいい証拠だ
……自分が、いやになる。どうして僕は、こんなに依存したがるんだッ
バラライカさんを求めて、縋って、でも迷惑はかけたくない、けど求めてしまう、そんな堂々巡りが自分に嫌悪感だけを残していく。
涙は止まらない。自分を嫌う涙は、どうしたら止められるのだろうか
「…………ごめん、なさい」
謝る。情けなく、縋りつくしかできない。やはり、求めてしまうのだ
「……ケイティ」
「ごめん、なさいッ……こんな、見せてしまって…………バラライカ、さんッ」
足音で気づいた。すぐそばに、バラライカさんは僕を見ている。情けない姿を見てしまっていて、でもそうしているとまた優しくしてくれるのではと、あさましい僕は縋ってしまっている
見せたくない、見ていて欲しい。心が、裂けそうだ
「めん、なざい……ひぐ、あうぅ……ぁ、ああぁ……うわぁぁ」
涙腺が壊れる音がした。引き金を引いたかのように、くるってあふれかえる涙の洪水。
せっかく用意した服が台無しになる。整えたチークはきっと意味をなさない。ルージュも、何もかも意味はない
僕は何をしに来たのだろうか。こんな情けない姿を見せてまで、そうまでして
ぼくはバラライカさんに、甘えたがっている
× × ×
部屋に二人の男女がいる。片や愛らしい少女の、見習い女中を思わせる出で立ち、そしてもう片方は服の類は全く身に着けていない。対照的に比べるのも違う、とにかく異質な二人が並んでいる
泣きじゃくるケイティを前に、バラライカはシャワーを浴びるのも中断し、髪も拭かないままに今ここにいる。
一糸まとわぬ姿、長髪の金色がわずかながらに乳房を覆い隠すだけ。夜景の逆光に記された姿の、黒だけのシルエットでさえ艶めかしさが如実に伝わる。
部屋には一台のカメラがある。警備上付けてはみたが、用途は隠し撮りのポルノムービーを作るぐらいしか利用できない代物だ。
ただ、バラライカはおもむろにこれを試しに起動させてみた。ケイティが来ると、いけ好かないサングラスより通知が来た時から、ずっとこのカメラは起動されていた。無論、それは音声を拾う
本来なら、ケイティの独り言から本音でも探れば程度の思案、しかし耐え切れずバラライカは動いてしまった。動くカメラのことも忘れて、全てを晒した姿で、ケイティの前に立ったのだ
「……下を向くな、そう言っていたのはあなたじゃなかったのかしら」
口にした。重く、とげのある言い方。ケイティは泣いている。かぶりを横に振って、ただ否定して
「あぁケイティ……そうね、これはそう…………もう、面倒なのよ」
「!」
カメラは捉えている。胸元をつかみ、バラライカはベッドの奥へとケイティを放り投げた。力任せに、そして自身もベッドへ乗り込んで、上回る体躯を生かして強引に迫っていく
「私を見ろ、その涙を……全部、隠すな」
「……やだ、見せたくないッ」
「駄目だ、全て表に晒してやる……ケイティ、口を開いて舌を出せ」
命令を告げると同時に、バラライカは行動に移していた。馬乗りになり、手首をつかんで、そして開いた口に自身のそれを重ねて、交ぜ合わせた
音が震える。ベッドがきしむ。唾液と唾液が混ざり合い、そしてこすれる布の音が一枚一枚と減っていく
「……勝手に動いた挙句、勝手に自暴自棄に陥って、身勝手な飼い犬はうんざりだ!」
「でも、だって……僕のせいでバラライカさんは」
「迷惑をしている、そんな言葉は天地がひっくり返ろうと、米ソが交じり合おうと決して許可しないッ……今の私はどうだ? どんな姿だ、ケイティ貴様には私がどう見えるッ!!」
「……ッ」
「言ってみろ! 嫌悪に陥るのが貴様だけだと思うな、このたわけがッ!!」
明かした本音、交わす言葉はまだ終わらない。夜は、まだ始まったばかりだ
忘れられない夜、かけがえない夜、決して消せない告白の夜、カメラは全てを収めている。逆光で白と黒に分けられたシルエットの映像劇がテープに刻まれていく、二人だけの夜の褥も、そしてその先に行われる営みも全て
次回に続く
全年齢でできるギリギリを攻めていきたい。もとい、責めてイきたい。次回より三人称、隠しカメラ君が頑張って皆様に描写を映していきます。
エッチなバラライカさんが見たい、その成果はカメラ君にかかっています。カメラ君を応援してあげてやってください
感想・評価等あればよろしくお願いします。次回の投稿もできるだけ早めに
追記
投稿は明日の夕方か夜に
再・追記
バラライカとケイティの夜のストレッチを書いていたのですが、普通にR18でしかない感じになってしまいました。エロ過ぎたので書き直します。もう少しお待ちを