麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
カメラが回っている。激しくベッドがきしむ音とともに、水気の籠ったサウンドで夜が深くなる
上にまたがり、踊る姿が夜景に照らされる。逆光で黒に染まるシルエットは蠱惑的で、実に悩ましい
ミス・バラライカ、火傷跡と畏怖に染められ鳴りを潜めるその美貌が、グラマラスが、あられもなくベッドの上で踊りを舞う
愛を叫ぶ言葉もない。ただ、感覚に応じて声が上がる。酒はないが、酔いしれる快楽に二人はもう止まらない
……ギシ、ギシギシッ……ダン、ガガッ
力任せにちぎられはぎ取られたメイド服は床に散らばる。その下に身に着けた女性ものの下着も何もかも、色の無い影の姿に裸の二人を見いだした
カメラは交わりを記録していく。ミス・バラライカにより手折られる瞬間を連続のフレームで一連の物語へと変えていくのだ。
……だ、だめだよ……こんな、だめ
…………止まって、バラライカ、さ
…………ァ
押さえつけられる。腕力にまかせて一方的に、無抵抗なケイティをさらに屈服させんとする。
その首の下、華奢で平らな胸元に顔を近づけて。牙を開いた。
カメラに映る二人の影が密着して重なり一つになる。響く音は、貪る獣の舌使い、そして食われる喜びを隠しきれない被食者の喘ぎを重ねて
夜の二重奏、イントロからすでにトップへと、荒々しいセッションがケイティの理性を壊していく
褥は交わす。だが、主導権は常に上に取られる。対等ではない。 開いた口で肌に唾液が溶け込み、そして犬歯の針が傷跡を残す。
痛みの声は上がる。だが、あくまでも声色は艶やかなまま
……や、やめない、で
……もっと、強く
「……ぁ、ちがう……そんなこと、求めてッ ァ、かぁは……なッ……ひ、はひ……ひぐぅ」
すすり泣く声で、痛みを感じてなおさらに被虐を求めてしまう。
与えられる感覚、それ全てが愛をもたらす。より素直に、欲望のままに
本能は、ずっと素直に心を伝える。思案して組み上げる言の葉よりも、ずっと如実に受け取らせてしまう
「そそらせる、お前の声はいつだって……わたしの渇きを満たす。だが、それは更なる渇きももたらした」
「……だめ、バラライカさん、だめ、だよ……ひゃ」
「心配して、押さえて堪えてきた……だが、もう我慢ならんのだ…………はぁ、すぅ…………ッ、あァ」
音が響くひときわ深い音が、混ざり会う二人分の影から奏でられた。
カメラとマイクは見逃さない。だが、これ以上先は二人を覆う毛布の中。
光の届く場で行うにはあまりにも業が深い。息をするように唇が重なる行為の連続、ブレーキは無い。本能のアクセルがピストンでエネルギーを生み続ける。
包まれた世界の中で、いったい二人は何を得て、そして何を失うか
「……包んでやる、誰の目にも見えなぐらいッ 抱きしめ、てッ……染めて、溶かして……ッ……ぁ」
……ギシギシシッ、ガタ! ガタッ、ガ……ザッ!ガガッ!
「ぁ……――――ッ!!?? あ、ァ……はあ、ァ……ケイ、ティ…………わたしの、バユシキバユ」
黒い影が大きく動く。ブランケットは二人を包み込み、音だけが密に響き渡る。
瑞々しい声が、艶やかな叫びが
混ざる。溶けあう。夜の全てが記録の轍を残していく。
決して明かすことのならないパンドラの箱が、ピンホールサイズの穴の開いた陶器の中に出来上がってしまった
夜は、騒がしいまま徐々に明けていく
〇
「……――――ッ」
騒々しい、何かの音でまどろみから抜けてしまった。
目覚ましの音ではない。けど、どうせどこかでドンパチが起きた時の音だ。ロアナプラの生活音でしかない発砲音、でも妙に過敏だ。
一連の事件でまだ神経が過敏なままか、それとも服を着てないから
日が昇る前まで行い続けていた行為のせいなのか
「……ッ」
× × ×
「大尉、失礼しま……ケイティ、君か」
僕よりもずっと背の高いボリス軍曹、バラライカさんの片腕の位置にあるかっこいい大人だ。
そんなお人に僕は気まずい顔をさせてしまった。もうしわけない、というかばれてしまっている。急いで着替えたこのメイド服、何もないわけがないのだ
「疑問はあるが、聞かない方がいいこともある。大尉に繋いでくれないか?一応、お耳に入れなくてはならないことが」
ある、そう言い切る前に顔つきに異変が出る。何かを察した顔、そして驚きを押し殺して平静を保たんとする、そんなご様子
……あぁ、ばれてる
エレベーターの音が鳴り、急ぎ着替えてこうしてエントランス前まで来たはいいものの、この部屋を漂うピンク色の香気までは消しきれなかったとみるべきか
ボリスさんは明らかに気を遣おうとしている。急いで見に付けたこの出で立ちも、見苦しいだけで何もごまかせていない。
「……ケイティ、大尉をよろしく頼む」
「は、はいッ」
律儀に起立して頭を下げてきた。思わず反射的に体が動いて、不格好で不慣れな敬礼をする僕はきっと滑稽なのだろう。苦笑いでボリスさんは部屋に入ることなく下へと降りて行った
「…………」
廊下を進み、また元の部屋へと戻りベッドに上がる。
きしむベッド、一夜だけでこのベッドの耐久年数はいかほど減ってしまったのだろうか。
「……ッ」
忘れられない夜、決して消えない夜、拝み続けた姿も今はブランケットに覆われて一見何もないように。だが起きたことは決してないことにはならない。失って、そして得たのだ。もう、僕は子供じゃない
一線を超えないように踏みとどまっていた今までがあったから、より色濃く刻まれてしまった。バラライカさんの前に僕は貪られるだけであったから、けどこの手で懸命にあなたを悦ばそうと頑張った。次は、もっとうまくできると信じたい
「……バラライカさん」
伸ばした手のひら、呼吸で上下する膨らみにそっとおしあてる。
布越しに、その弾力と柔らかさを感じ取って、ほんの少し優越感のようなものを感じてみたり
「……失礼します」
もぞりもぞり、毛布の中へ忍び込んで、今度は素肌で柔らかさを感じる。
……熱い、まだこんなにも
女性の肌は冷えつくものだ。けど、今のバラライカさんはどこもかしこも温まっている。さりげなく、ブランケットの中で手を伸ばして、触れた。いたずらをするように寝ていて無防備なバラライカさんの柔らかいを堪能するのだ。
バラライカさんのお腹から、ゆっくりとあがって膨らみとお腹のつけね。毛布に隠れているからまるで服の内に手をいれて不敬を働いている
指を這わして、力を込めて感触を知って、気分はますます良くないものになる
……筋肉もある、でも柔らかい
……お腹も、胸も、いつも顔を埋めているから知ってた。でも、何か違う
触られることは数多く、だけど自分から手を出して触る行為は数える程度。今、まさにその回数を噛み締めながらに刻んでいる
出るものは何もない。けど、ここからしか得られないものがあるから
口もとが寂しくなる。日が上った時間なのに、心は切なくて安眠を求めている。満たされる暖かさ、包容の甘さを欲してしまう。
イケない。本当によくない
「……ケイ」
「!」
呼び声に表をあげる。左胸あたり、鎖骨に額を押し当てていたから、上目使いでバラライカさんの顔を見る
切れ目は半分だけ、まだまどろんでいるのか目を閉じている時間が多い。
「…………ーー……ッーーーー」
「?」
おぼつかない口元、何か言葉を発したかもだけど良くわからない。けど、何か提案するような問いかけだったのは何となく伝わる
のそりのそりと動く体、仰向けの態勢から右足をあげて、そのまま僕の方へと倒れるように
「……ぁ」
背中にまわる右手と右足、横向きになる寝返りの中に引き込まれて、態勢はいつもの状態になってしまった
バラライカさんの豊かな胸の中で、世界で一番危険で、しかして耽美な空気を頂く
ただ、いつもの違うのは、さえぎる下着もバスローブもないこと
そして、もう一線を越えてしまっているから、僕は空気だけじゃなく直に優しさを求めてしまって、そしてそれは許されてしまうということ
「……すぅ、ふぅ……ん…………す、ぅ……あ、んっく」
母性に包まれた昼のまどろみ、誰にも見られないように深く顔を埋めて、ブランケットからはみ出るあなたの上半身を僕は覆い隠す
不敬にも手のひらで乳房に触れて、そして顔で、そんな僕にあなたは優しく髪を撫でて歌をささやく
バユシキバユを、母の子守唄を口にしながら。僕の口にあなたは愛を注いでくれる
胃を満たすものは何もないけど、不思議と心は満たされる。盃に注がれる甘い水が、溢れかえってもまだ注がれ続ける。満たされ続けてもなお欲してしまう
「……ん、コク…………ぁ、あッ…………ァ…………ん……コク」
情けない自分の音、我に帰れば身もだえしてしまう。耳に届くのは、あなたの子守唄だけでいい
バユシキバユ、コサックの子守唄
眠って、私の美しい赤ちゃんと、あなたはいつも語りかけてくれる。
眠りなさい、私の天使、静かに、甘く、バユシキバイ
忘れないで、あなたの母を、眠って、私の美しい赤ちゃん
……ケイティ
……わたしの、バユシキバユ
「……おかあ、さん」
不敬な言葉を一つ、撫でられる頭が心地よくて欠伸を二回
寂しい口は優しさで塞いでくれる。着ている服がいっそ煩わしい
心がせつない。子守唄を聞かせて欲しい。あなたが私の母を語るなら、ぼくは喜んでコサックの兵士にもなろう
僕はバユシキバユでいい。あなただけの、ミス・バラライカの美しい宝、バユシキバユで在り続けたい
だから、もっと強く抱き締めて欲しい。壊れるぐらいに、強く、強く
次回に続く
これにてストレス発散、ただ幕間はもう少し続きます。
次回、打ち上げ
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