麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
直近の騒ぎも落ち着いた影響か、最近のこの街はドンパチが控えめだ。今は先日の余韻を肴にどこも酒宴を開くばかり、汚ならしく騒ぐがそれはそれで治安も整っているとすら言えてしまう
そんな騒がしい皆々だか、愉快痛快にハメを外したあまり厄介ごとが行きすぎないよう、レフェリーを勤めるのはこの街の支配者、マフィア達の勤めであるわけだが
皆、気づいていないのか。そのマフィア達の様子がおかしい
メイド騒ぎを馬鹿話にして酒をかっ食らう連中達を見張る通りの兵隊達、張維新率いる三合会、彼らが妙に目を光らしているのだ。
張の命令で劉が人頭に町を見回る。町人達はそんな彼らをお勤めご苦労と、見回りご苦労です看守様だのと笑って指を指す
指を指す。ただそれだけで彼らの意識はどこかへ消える。だから、気づかない。
町を回るのは三合会の兵隊達ばかり、通りや店の中、どこにもロシア人達がいないことに
ロシア人、バラライカ率いる遊撃隊の兵士達の姿が見えないのだ。スーツ姿で景気はどうだと集金したり、勘違いした馬鹿者の全身を風通り良くしてやる光景も、今日は何故か見当たらない。表にも、陰にもである。
ロシア人達が空気になっていること、そんな背景にとある一通のやりとりがあるとか、そしてそんなやりとりとはこんな具合に
……ケツは、いやこの言い方は失礼だな。貴君の背後はこちらで預かる、だからそっちは気兼ねなく、最高の前戦を楽しんでくれ
……今度は企みもなにもない。威圧行為とはいえ矛を向けた詫びだ。ケイティにもよろしく言ってくれ。では、良いパーティーを
日中、事務所にかかった電話から告げられた、とても一方的なお返しであった。
癪に触るバラライカ、彼女は通話が終わるやコツンと電話機を指で押した。床に落ち、壊れた音が響く。
粋な計らいとわかっていても、それを素直に賛辞することができない故、しかし張の計らいは結果的に言えば受け入れられた。
歴戦の兵士達ですら浮き足立たせてしまう勝利の宴。無礼講に水を差すのはナンセンス、故に
……まあ、仕方ないわね
クローゼットケースを開く。開いた奥に、バラライカは一着の水着を手に、鏡の前に立つ
「……バストがはみ出るか。まあ、仕方ないわ……本当に、仕方のないことね」
ハイレグタイプの白い水着をそっとしまう。夜までまだ時間はある、バラライカは一人車を出し仕立て屋へと顔を出すのだった。
× × ×
屋上のプールサイド、そこには炭焼きのBBQコンロがいくつも設置されている。今日のために、ラグーン商会に頼み数を揃えてもらった。
会場の準備は遊撃隊の兵士達も設営に協力してくれるからかなりスムーズに整った。野営に慣れている兵士だ、こういう集団の催しは得意なのだろう。けど、それ以上に皆楽しみにしてくれて、本当に乗り気で良い顔をしてくれていた。
今日やる催しは日々の労働に対する慰労。僕から休んでくださいとお願いしても兵士たちは皆積極的で気を使わなくていいと、なんだか事件が終わってから僕に対して皆さん優しい。そして息を吐くような頻度で
……大尉をよろしく頼む。あの人の穏やかな笑みを、俺は初めて見たよ。
……肌艶でわかる。葉巻と酒も減って、健康的でなによりだ
……何がとは明言しないが、計画的な営みをするように頼むよ
サムズアップと綺麗な笑顔を見せて、皆そんな言葉をこっそりと伝えてくる。少々意味深な言葉もあったりしたけど、そこはまあ、うん
準備にかられる数日の間微妙な心境に駆られていたけど、でもようやく今日、手間暇をかけて用意した打ち上げパーティーが開催だ。
ラーメン屋なのに焼肉、料理人として趣旨替えかと思われるかもだけど、ラーメン屋たるもの肉に関しては一日の長があるから問題ない。
そして僕の師匠は変態レベルで料理の天才だ。そんな師匠から日式焼肉から本場韓国の焼肉までちゃんと履修済みである。まあ、本場で食べたり本場の人から評価を貰ったわけじゃないけど、自分なりによい焼肉パーティーができると自信はある。
それに、この日のために牛一頭丸々、健康的な和牛を卸してもらった。お酒もバオさんとローワンさんから良いのを回してもらった。
プールには装飾でライトを照らし、淡くBGMでボサノバをうるさくない程度に。ナイトなプールで良いお酒と美味しい料理で無礼講、ちゃんと水着だって用意している。いかがわしいパーティーにするつもりはないけど、水着の解放感というのは理屈抜きで語れない良いものがあるのだ
ロアナプラの街に日が落ちれば、あとはぞろぞろと今日のために非番を取った皆さんが足を運ぶ。
さあ、ロアナプラ亭、出張版。お疲れ様焼肉パーティーの開催だ。
〇
「……レモンが合うな」
「ゲテモノかと思ったけど、これはいいな……ビールが進む」
焼き肉の定番、ネギと塩ダレで絡めた薄切りの牛タン。アジア人以外にはキワモノ部位、けど一口食べればその食感と味わいに皆夢中だ
コースみたく順番にするわけじゃない。皆食べたいように好き勝手食べて欲しい。けど、皆事前に調べてか、いくつも卓上に並べたお肉の皿からまず牛タンを選んだ。それから、ロースとかカルビとかにも手を伸ばしている
……皆ロシア人なのに、お箸がお上手
肉を取るトング、それとフォークや串も用意した。けど皆が迷いなく選んだのはチョップスティック。水で湿らした割りばしを手に、網の上で焼き上がる肉を皿に取っていく
今日のパーティーの形式は立食。ビーチサイドのフロアで、皆水着を着用してお酒とお肉で盛り上がってくれている
厳しい上司もくだけて酒を楽しんでいる。今日は無礼講、皆酒の場の流儀を心得てくれていた。
楽しんでくれるか、日式焼き肉よりもBBQの方がとか、ロシアの伝統から何か、そんな風に悩んでいたことが全部杞憂に終わった。
安心していたら、どんどん網の上がスカスカになっていく。どんどん焼いていこう
「タレが良い味してるよ、ウォッカの辛さとも合う」
「肉がうまい、和牛ってもっとこってりしてるかと思ったけど、これはいいな」
カルビ、ハラミ、ロース、網の上で次々と肉が焼き上がっては捌けていく。
牛タンは片面だけで15から20秒、カルビやロースは厚めの薄切りだから30秒。美味しい焼き加減は片面八割、なんならひっくり返さなくても良いぐらいだ
目の前で焼いてあげて、ノウハウを掴んでくれたら皆あとは勝手に焼いて楽しんでくれる。最悪生焼けでも全然問題ない
「皆さーん、お肉はまだまだありますから、どんどんいっちゃってくださいね!あ、そのレバーはちゃんと焼いてください!」
「え、レバーの刺身?ダメです、生食用はこっちで用意してます。ポンポン壊しても知りませんよ! はい、そっちはこっちのテーブルで」
「ユッケにセンマイ、ナムルにキムチ、一品料理も出していきますから。どれも、お酒にも合いま…………はい、あ、サワークリームですね。ちゃんと自家製で用意しました。どうぞ、ボリスさん以外にも欲しい人は、あぁ全員ですね。ほ~ら、持ってけドロボー!」
ボトルに入れた手作りクリーム、事前に用意していてよかったと安堵。投げ売りするように渡してやった。焼き肉に乳脂肪と砂糖、まったくロシア人はカロリーの過剰摂取だ。
……ほんと、悲鳴があがる。嬉しい悲鳴でキャーキャー鳴きそうだ
プールサイドに用意した簡易調理所、そこでクーラーボックスから次々と肉を出して切り分けて皿に盛り付ける。時にはレバ刺、ユッケ等の一品ものも皿に盛り付けて、兵士の皆さんが積極的に配膳や片付けもかって出てくれるからだいぶ楽にできる。けど、それでもやはり繁盛この上ない
高級ホテルの屋上は、あっという間に焼けた肉の臭いとお酒の臭い、そして楽し気に笑う声がいっぱいだ
……よかった、皆満足そうだ
肉は北海道から、健康的な和牛を丸々一頭分仕入れた。けどこの調子ならすぐにでも方がつきそうだ。牛タンとか、少ない部分は余計に注文していて正解だった。みんな、本当によく食べてくれる
「ケイティ、カルビをもう二皿頼むよ。味噌ダレとねぎ塩でな」
「メニショフさん、配膳助かります」
「ああ、けど調理ばかりで悪いよな。君も折を見て食べてくれ」
「おきになさらず、これはこれで楽しんでいます」
「はは、さすが料理人だ…………水着」
「?」
「……似合ってるよ、それと、やっぱりそっちだったんだな。安心したよ」
視線に気を使わなくて良い、そんな言葉が聞こえたような聞こえなかったような
皿をもってメニショフさんはパーティーへともどる。追加に肉に歓声があがって、その声ではっとした
「そっち、て…………男物の水着ですよ、ぼくは」
指摘されたのは着ている服装。兵士の皆さんには屋上のプールサイドでパーティと伝えたから、当然水着着用だと勝手に勘違いして、まあ流れで僕も水着を着ることにした
髪はくくってポニーテールのまま、男姿の時の髪型だ。ここ最近女装ばかりしてたから、今日ぐらいは避けたい。流石にビキニやら女性の水着を着用するのはバラライカさんの頼みといえど困る。
だから今日の水着は男物のトランクスタイプ。
そして、その上にパーカーを羽織ってジッパーを上げている。どこからどうみても男にしか見えない姿だ
「……ふぅ」
包丁を置いて、額にたまった汗を拭う。熱帯夜で、近くで火も焚いているから仕方ない
できれば、僕と皆みたいに下一枚がいい。でも
……まあ、いいかな別に
不思議と、男なのに上半身を見られることに抵抗を感じてしまう。生き方のせいか、でもそう感じてしまう自分が自分で嫌になる
どうせ、みんなご飯に夢中だし、前を開くぐらい
「…………ひゃわ、涼しい」
清風が吹く。冷たいプールで冷やされた空気がパーカーをひらひらと揺らす
気持ちが良い。着込まなければ、今日は良い夜だ
……ぼくも、お腹減ってきたな
切り揃えた骨付きカルビ、皿に持ったそれを手に僕は焼き場の方へと
食事と談笑に夢中なみんながこっちを見る。間を譲ってくれてありがたい
「焼きますね、あと僕もいただきます……お皿を」
「…………ぁ、ゴホン」
咳払い、視線が明後日の方向に
「……ど、どうも」
くださいを言われる前に皿を受けとる。なんだろう、皆ちょっと
「もう、のりが悪いですよ……気にせずどうぞ、ほら焼きますから」
網に肉を並べていく。皮を剥くように薄く長く開いた骨付きカルビ。
一枚の帯肉を焼いていくとタレの焦げる香ばしい香りが漂う
「……あの、みなさんどうしました?」
良い匂い、なのに沸き立つ声もない。みんな、どうしてそっぽを
「……?」
……パチパチ……チ……ッ、バチンッ!
「ぁアッ!…………いっ、ぁ……んンッ……熱い、火傷しちゃったかな?」
油が跳ねた。パーカーの隙間を塗って、胸板に当たってつい声が出た
変な声が出ちゃった。恥ずかしい
「……だ、大丈夫か?」
「は、はい……ちょっと熱くてびっくりして…………なんで、目を背けて」
「……前を、隠してもらえると」
「?」
「すまない、頭ではわかっていても、な…………君の、は、な……わかってはいるが、脳が混乱する」
「「「「「「「「……ブンブン(無言で頷く遊撃隊諸君)」」」」」」」」
「??」
次回に続く
以上、水着回で飯テロで色々なお話でした。
次回、星5URの水着バラライカが登場します、たぶん。美味しいとえっちを同時に提供したい