麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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締めの一杯、今回短め

※ サブタイ変更しました。


(58) 冷やし牛コンソメラーメン、モヒート仕立て

 

 熱帯の地、夜も暑さはじっとりと肌を伝う。熱い肉にお酒も入れてしまえば体の火照りは煩わしいことこの上ない

 

 焼き肉の最後、締めの一杯には清涼感ある料理が好ましい。デザートのアイスも考えたけど、お酒とお肉で口の中は濃厚な甘みとコクで飽き飽きしていることだ。それに、僕はどこまでいってもラーメン屋だから、最後は美味しい麺料理で締めて終わりたい

 

 今日の日中、焼き肉の仕込みをする傍ら厨房でじっくりとスープの仕込みはしていた。材料はくず野菜にヒレ肉やロース肉等をグリルで香ばしく焼きを入れたもの。

 それらを鍋にいれて味に濁りがでないように時間をかけてゆっくりと火を入れる。香草を足し、余分な雑味になる灰汁を取りながら、そうやって上品であっさりとしたコンソメスープを作る。

 

 そうして仕込み終えたスープは一度徹底的に冷やし、今度は油分を完全に取り除く。そうして出来上がるのは上品であっさり、しかし丁寧に抽出した牛肉の旨味で奥行きもある冷やしスープが完成する

 

 締めの冷やしラーメン、スープの味は各種香辛料と塩を合わせた自家製シーズニングスパイスで整えて、具と薬味を散らして完成だ

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

 

 プールサイドのテーブルに腰掛けて、向かい合ったぼくたちは同時にその言葉を唱えた。手を合わせて、食への感謝を込める所作、僕と一緒の時は必ず合わせてやってくれる

 

 久しく食べるラーメン、焼肉の後の締めの一杯。本当なら遊撃隊の皆さんにもふるまう予定だったけど、そそくさと退散してしまったから仕方ない。明日、朝食にでもふるまえばいいだろう。

 

 このラーメンなら締めの一杯だけじゃなく、朝餉にもちょうどいい。悪い酒も抜け切る清涼な一品だ

 

 

…………チュル、ル

 

 

 加水率の低いストレート麺、つるつると滑りよく口へ流れていく。シャキシャキと歯切れのいい面は程よくスープの味を吸って、且つ麦のうま味を携えている。

 冷たいスープに細い麺、けどラーメンの麺であるからその食感にはプッツンとした歯切れの良さがある。冷やしラーメン故に麺の醍醐味がよく伝わり、あっさりとしたスープに力強い食べ応えを与えてくれる。物足りなさは感じさせないはずだ

 

 バラライカさんのお気に召すかどうか、口にした瞬間を失礼ながら見て探ってみる。

 

 食べる所作、片手で髪をかき分け、器用に箸でチュルルと麺をすすっていく。レンゲでスープをさらに口へ、口元を隠しながら咀嚼、そして嚥下。喉を伝う瞬間そのほほに嬉しさの色が見えた。

 

 煌びやかな水の光は下からバラライカさんの顔を照らす。宝石のようにまばゆい光を受け止めるあなたの頬に、美味しさの喜びでかすかな赤色が灯るのが見て感じられた

 麺を食らい、腹に落ちてたまる炭水化物の喜び。そして、深く味わいスープへ感心し頷いてくれる。

 手間暇をかけた牛コンソメスープはバラライカさんの、ロシア人の舌に馴染んでいるようで安心できた。よかった、成功だ

 

 

「……いかが、です?」

 

 

 手ごたえを感じつつ、僕はさらなる喜びを欲張って引き出さんとしてしまう。褒めて欲しい、そんな下心を隠しきれない僕に、バラライカさんは和やかに微笑んで返してくれた

 

 

「……ぁ、えへへ」

 

 

……くしゅ、しゅしゅ

 

 

 頭をなでられた。髪に触れられる嬉しさ、無言で呆れたような顔をするけど笑みは全く隠しきれていない。

 

 

「美味しいわ、本当に美味しいラーメンよ」

 

 

「……よかった、です」

 

 

 撫でる手が伝いながら降りて、ほほを触って、首を撫でた。首と顎周り、犬を褒めるような手遣いの撫で方に疑問を持つことは、もうとっくにやめてしまっている。

 自分が人間でよかったと思えた。きっと犬か猫であったなら、僕は尻尾で感情の震えを余すことなくバラしてしまっていただろう。

 

 

「品のいいコンソメスープ、具のローストビーフもジューシーで美味よ……それに、このスープに入っているハーブ類」

 

 

「……ぁ、それは」

 

 

「ええわかるわ、ペッパーミントにレモングラス、ルッコラにパクチー、それと日本のハーブねこれは……モヒートなんでしょ、参考にしたのは」

 

 

「おぉ、ご明察」

 

 

「面白い試みね、嫌いじゃないわ」

 

 

 指摘はご明察、見透かされた僕は素直に驚いてしまって、そんな顔が面白いのかバラライカさんは微笑を向ける。

 

 そう、このラーメンはお酒のモヒートを参考にした逸品だ。ジンやウォッカなどの透明なお酒にハーブがミックスされたお酒、それをラーメンに取り入れてみたのがこの品。今言い当てたように、ラーメンには各種ハーブ、紫蘇やレモングラス等香りの強いものをスープに散らしたことで、爽やかな後味が僅かな肉の臭み、味の重さを消し去ってくれる。後に残るのは品の良い味わいだけだ

 アブレーゴさんのところでワインラーメンを作った影響か、少しお酒への興味や料理意欲がわいてきたからちょっとチャレンジだ。ちなみに、スープには少量ウォッカを混ぜてかすかにアルコールを付与している。

 

 酔うほどじゃない。けど、夜に水着で二人きりだから、火照る肌の温度はちょうどいい重ね着になるはずだから

 

 

「気に召しましたか?」

 

「ええ、でも今度は普通のモヒートも頂けるかしら」

 

「ハーブは、余ってる……バラライカさんのウォッカで割りますね。ヴェルデール、薄くならないように炭酸水は少なめ、いいですか?」

 

「よくわかってるじゃない、じゃあ入れて頂戴……一緒に酔って、気持ちいい夜にしましょう」

 

 

 微笑み、料理を頼むやり取りに心が躍る。求められるまま、僕は望んでバラライカさんへお酒を提供する。麺でお腹も満たされて、ほど良く酔いの火を灯す。

 

 さっきまで、あんなに大勢との時間を楽しんでいたのに、今はそれ以上に二人きりの時間を楽しんでいる。

 

 今日は、本当に良い夜になりそうだ

 

 

 

 

 




あっさりした逸品、次回はケイティとバラライカのちょっと大事なお話回。甘々で終わらせます。健全に、もちろん健全に

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