麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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ちょっと汚い言葉を使ってるから食後を見計らって投稿

ブラックラグーンらしい海外ネタ、ブラックジョークがほんと難しい。伝われば御の字、そんなつもりで書いてます


(60) ハードドランカー

 

 

 騒々しい事件が終わる。熱烈で鮮烈で、時にまどろんで行き過ぎればインモラルにもプラトニックもなんでもあり、そんなバケーションにもいつか終わりは訪れる。

 

 ラチャダストリートより、建設業者の作業音が鳴りやみ最低限住まいのスペースは復元されるに至った。宿なしではなくなった以上、滞在し続ける理由は無くなってしまう。もとより、何時何時までと期間を決めた滞在

 互いに思い、共依存する背徳的な関係ではあるが、適度に距離を置けばそれだけ逢瀬が味わいも深くなる。

 

 今は、互いにそう理解をしあった

 

 

 

 

 

……お世話になりました。また遊びに来ますね、では

 

 

 

 

 

 

 名残惜しそうに手を振るケイティ、出立の際はなんども玄関前で抱擁を交わし合い、後ろ髪をひかれる思いも晴れないまま、どうにかこうにかさよならの言葉を告げたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ラチャダストリート、ロアナプラ亭前~

 

 

 

 

 店が壊れてしばらく、外見はすっかり新調された商業ビルだ。ただ、暖簾のかかる入口はあんぐりと大口を開いたまま、ガラス戸も張られていない。スケルトン物件という状態だ。

 

 ビルの一階と二階はお店、三階は倉庫、そして住まいは四階。裏手には小さな納屋が付けられている。テトリスのカギカッコみたいな形をした僕の城。そして、元は僕の師匠のモノ

 

 崩壊寸前のビルから運び出された家財一式も元通りだ。僕のものから師匠の置き土産まで、まとめて運び出して、そちらはもうある程度部屋に備えられて、残る小物は箱詰めで置かれている。

 引っ越し業者もとい、今回の事件のやらかし戦犯なアブレーゴさんに頼めば部屋のレイアウトから床暖房工事までなんでも叶っただろうけど、あまり欲張っても気持ちよくはならないのが自分の生まれ持った性、国民性というものだ。日本人は遠慮をする生き物である。 立て直しやらで十分働いてくれたから、これぐらいは自分でしようと思いたった所、そして今日帰宅をして、今に至る

 

 もとよりモノをため込むくらしはしていなかったから。テレビより重い家財も無いのでやることは少ない。

 

 

「……まあ、こんな感じかな」

 

 

 部屋は前と変わらずワンルームに生活スペースを押し込んだ形。新調された畳を敷いた居間にテレビを置いて、衣装ケースに着替えをしまって、あとは

 

 

「何か、作ろっかな」

 

 

 部屋に備え付けた冷蔵庫、中身にはバラライカさんのホテルで試作のために買い込んだ材料がそのまま詰め込んでいる。一階に置いていた業務用調理器具こそないけど、一般家庭用の調理器具もあるから、何か作ることもできる。

 たくさんのお客さんにふるまうのは無理だけど、工事の人たちに差し入れぐらいなら問題ないかもだ

 

 

「……鶏ガラ、醤油ラーメン、何か他に」

 

 

 冷蔵庫には詰め込んだ冷凍の材料たちとにらめっこ、頭を回して何を作るか考える。

 

 

「……元気の出るラーメン、何がいいかなっと」

 

 

 久しく、多数にふるまうラーメンに胸が躍る。安らぐバケーションも最高ではあるが、やはり料理人冥利を味わうのが自分の本望であると、ケイティは一人納得するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~時刻、深夜~

 

 

 

~某ホテル、バーラウンジ~

 

 

 日付をまたぐ。夜が深くなるこの時間、ロアナプラは本来の顔を見せる。

 

 乱痴気騒ぎが起こる地上とは違い、ここ丘の上のハイクラスな地区においてはその限りに及ばず。ラーメン屋が夜なべをして仕込みをする一方、昨日まで閨を共にしていた彼女はというと、少し寂しい夜を過ごしていた。

 

 

……カラン

 

 

 

「……氷はいらないわ。グラスだけ」

 

 

 

 夜、バラライカは一人誰もいない自室へ帰ることなく、夜の酌で渇きを潤していた。そこはホテルモスクワが後ろ盾を受け持っている高級バーのカウンター

 

 寡黙なロシア人がグラスを磨く中、バラライカは一人静かにグラスを傾ける。深紅のドレスコードは誰の為か、それとも単にいつもの習慣か

 

 見せる相手もいない。しかし何故かその服に袖を通してしまった。銃も隠せない扇情的な社交場にも赴けるドレスコード、だがしかしシャルウィーダンスははるか下に

 

 

 突き放した結果でもない。バラライカの我儘で、ケイティの生き方は拘束できない故に、もとよりこれも想定されていたこと。決別ではないと重々承知ではあるが、それでも酒は必要以上に喉を通ってしまう。

 

 

「………………ッ」

 

 

 コンポから流れる淡いクラシック。レディが夜に一人酒をたしなむ姿はひどく寂しいものだ。誘いをかける言葉を待つのならその姿は正当だろう。しかし、それは誘いかける者がいるならのこと、隣に座るはずの誰かさんがいれば、この場はさぞ魅惑的なムービーのワンシーンであっただろうに

 そんなわけから、彼女バラライカ美に影がかかるのは無理もない。願わくば、そんな彼女に手を差し出す者がいれば望ましいが、ミス・バラライカの来訪で他の客は蜘蛛の子を散らすように去っていったのが直近の出来事。誰も彼女に勇気を奮うことはない

 

 共に夜を過ごす誘いは誰も告げることなくバラライカは一人夜を明かす、これは、本来ならただそれだけの、語るまでもないワンシーンでしかない話だった

 

 だが、そうはならなかった

 

 

 

……カタ

 

 

 

 蜘蛛の子を散らす客の中でたった一人、バラライカの腰かけるカウンターによりにもよって

 

 不遜にも、主の愛を身にまとう彼女は悪魔を恐れず、しかし十字架を構えることはなく

 

 ホルスターをしまうスペースに頼れる相棒も置かないまま、ハンズアップで彼女の隣に無言で席についてみせたのだった。

 

 

 

「……何用だ、尼を呼んだ覚えはないのよ」

 

 

 語気を強めて、酒で焼いた低い声を前にエダは気丈にふるまってみせる。サングラスの奥、その瞳の奥には若干の身構えをしまい込んで

 

 シスター・エダは、ミス・バラライカと対面を果たしたのだった。

 

 

 

「さすがロシア人だ、火のつく酒を平気で飲み明かして屈強なようで」

 

 

「……太鼓持ちを呼んだ覚えも無い」

 

 

「本音さ。あんたの喉が永久凍土で出来てるって言われても、あたしはきっと信じちまうね」

 

 

「……腐れ尼め」

 

 

 一人、この世で最も恐ろしい女性のトップワンを前に、平然と普段のアウトローを隠さない修道士崩れが一人

 

 シスター・エダ。どんな因果か、はたして策略なのか、彼女はバラライカの隣に坐した。そしてあいさつ代わりにいつもの軽口を飛ばす

 

 そんなエダにバラライカはひるまず、何も言わずにマスターへアイサインを送る。意図を察したマスターがエダの前に空のグラスを置いた。

 

 注がれたのはバラライカがたしなんでいたヴェルデールのウォッカ。ロックアイスと水で割られた酒を前にエダは正直な驚きを見せていた。

 

 

「……邪険にされると思いましたが、これは懐の広いことで……感謝しますわよ、フライフェイス様」

 

 

 頂いた酒には素直に感謝を、バラライカは怖い笑みでエダを見る。品定めをするように

 

 

「穴をあけるのは簡単よ。けど、あなたを含めて……貴様らは不愉快だ。気に食わない、だけど心が広い私はね……今は、口は紡いであなたを見るとする。ただ、それたけだ。」

 

「……ご配慮、痛み入ります。痛みすぎて胃薬が必要だよ、ホリーシット」

 

「お互い様だ。こっちは米国の繕う顔に反吐が出てしまう。配慮なんていいから、付き合いなさい……癪には障るけど、ここに来たことには感謝をするわ」

 

「……はい?」

 

「あなたにはね、前々から少し興味があるのよね。もちろん、プライベートの、あの子のことでよ」

 

「…………あぁ、ははは、そっちかよ」

 

 

 

 悪態、しかし状況は変わらず。気丈さが崩れものおじした振る舞いが隠し切れなくなるエダに対しバラライカは威圧をもって畳みかける。

 

 いつの間にか、彼女の足はエダのつま先にふれていた。それはいつでも踏み抜けるという意味か、会談の席はすでに退路がなくなっていた

 

 

 

 

 

……上等、これぐらいじゃなきゃ面白みがないってもんさ

 

 

  

 

 

「……言うまでもなく、あの子のことだろうね。あたしの、そう……ディア・マイ・シスター(アタシのケイティ)のこったろ」

 

「あら、察しが良くていいわ。そうよ、私が所有権を持つ、バユシキバユ(”わたし″のケイティ)について」

 

 

 爪でカラんとグラスを鳴らした。人を殺す闇の深い笑みを載せて、一気に場の空気が凍り付いた。まるで、そのグラスに浮かべられた氷のように

 

 相対して、エダは引きつりながらも笑って返してみせる。硬直状態では場は動かない、故に彼女たちがとった選択は

 

 

 

……ダン

 

 

 

……トプトプ

 

 

 

……グビ

 

 

 

「……さあ、レディ」

 

 

 

 ふるまう酒、エダはバラライカと同様にストレートのウォッカを前に、臆することなく、そして迷うことなく一気に喉に火を流し込んだ

 

 

 

 

 

「貴様を酔わせて潰す。そして私は優雅な夜を過ごすわ」

 

 

「へえ……言うじゃねえかよ」

 

 

 まるで場末の酒場の遊戯、しかし静寂な場でたぎる闘気は抑えどころを間違えれば一大事だ。

 

 立場も同じ、違うのは順番程度、血生臭くない分この選択は筋が通っていて納得がいく。フェアに、共にキツイ酒を飲み合う。つぶし合ったからといって何も得られるものはないが

 

 

 

……気に食わない奴を潰せれば、それでいい×2

 

 

 

 共にそのような見解の一致がある故に、この勝負は誰に求められることはない。それは外で待つ遊撃隊にとっても、例えるならレバノンの戦場並みに

 

 

 

「安心なさい、潰れてもベッドぐらいなら用意してあげるから。裏手のゴミ箱なら暖房いらず、生ごみが程よく腐っているから暖かくて風邪をひくこともないでしょうね」

 

「……はは、刑務所よりは快適で、ありがたいことで」

 

 

 

……ダンッ!!

 

 

 

……トププ

 

 

 

 

「強い酒だね。嫌いじゃない味さ」

 

「そう、それは良かったわ。あの子も気に入った酒なのよ、天にも昇る良い酒というわけ」

 

 

 わざと強調した言い方。対してエダもひるむことなく次なる皮肉を返す

 

 

 

……ダンッ

 

 

 

「いい酒ねぇ、だが天に昇るっつーのはさすがに過言だろ。良い酒だが、こいつじゃ神を拝むことはできねえ。シスターのあたしが保証する。……神に会いたきゃ布施をしろ。それが嫌ならロケットにでも乗りな」

 

「敬虔な信徒の意見らしい、立派な見解ね。けど、金を積もうと宇宙に行こうと神には会えんよ。あのガガーリンですら神を拝んではいないのだからな。真空に神はおらんということだ。神は蒙昧な人間の頭蓋骨の中にだけ現れる、酒はその切符だ。覚えておけ」

 

「見解ならそっちも御大層なものだ、けど反論を言うなら、あんたのところの船乗りが神とご対面できなかったのはお国の怠慢だろうに。反対に、神の大地に降り立ったアームストロングなら神を感じたかもしれねえだろ。おっと、ソ連様にはもちろん二番目を譲るつもりさね。ま、たどり着くならの話だけどな」

 

 

 

 皮肉、さらに皮肉の応酬。酒をあおって空のグラスを置き返すついでに

 

 ダンダンとグラスを叩きつける音には隠し切れない苛立ちがこもってしまう

 

 

 

 

……ダン!!

 

 

 

……ダンッ!!ダンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「……米ソの喧嘩はまだ終わってないようだな」

 

「リベンジマッチなら受けて立つぜ……さ、もう一杯」

 

「後悔するなよ、私は貴様を必ず潰す。貴様の吐くモノで、御大層なクソ星条旗を汚濁で染め上げてやる」

 

「言いやがる、ならあたしはあんたのところの書記長様の頭にあんたのを……」

 

 

 皮肉は続くどこまでも

 

 ボトル二本目、夜はまだまだ終わらない

 

 

 

 

次回に続く




今回はここまで、次回二者面談は続投。エダとバラライカ、原作では接点が意外にもない二人、慎重に書いていきたい。

感想、評価など貰えれば幸い。モチベ上がって執筆が捗ります
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