麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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(61) 炎のニンニクラーメン

 時刻は遡る。日没後、二人のオオカミが一触即発の状態になる少し前のことだ

 

 ロアナプラ亭の工事は未だ続いている。残る店の部分を改装を含めて施工するため、工事業者とケイティは打ち合わせをしつつ店内のレイアウトをああでもないこうでもないと言い合い図面に線と数字を追加する

 

 工事は休憩を挟む。その際に取り付けたばかりの調理場の試運転も見込んで、ケイティは昼食を振る舞うのだった

 

 そうして、直に日が暮れていく

 

 

 

 

 

 

「ローワンさん、お店はまだ改装中ですよ」

 

「うるせえ、うまそうな匂いぷんぷんさせやがって何が改装中だ」

  

 夕刻、日が落ちていく通りからぬっと男は姿を現した。派手な装い、アフロとサングラスで派手に決めた装いは改めて悪い趣味だと思う。舞台の上のロックシンガーじゃないのだから

 

「……店はいつになるんだ」

 

「たぶん、このまま予定通りにいけば今週中には……セレモニーでもしますか」

 

「タダメシ振る舞うってか、そいつはいいこった……またジロウラーメンでも作ればどうだ。客はこぞって金を落とすぜ」

 けらけらと笑うローワンさん、適当に言っているだけ、でもそれは間違ってない

 

 お金はたくさん落としてくれる。そして同時にバラライカさんもゲンコツを落とす。想像に容易い

 二郎系の騒動も激辛つけ麺の時ほどじゃないけど大概な事件である。ニンニクハラスメント、二郎信者の暴走、街を騒がせるのは飲食店としては望ましいことだけど、実際売り上げは十倍近く上がったし

 

 

……二郎か、また作りたいよね。みんな、とっても喜んでくれたし

 

 

 売り上げがあるに越したことはない。だけど、大事なのは食べて喜ぶお客さんの反応だ。承認欲求に駆られた愚かな僕はダメだと言われてもついつい破ってしまいたくなる。美味しいと言ってくれる反応さえ見られれば、正直売り上げなんてどうでもいい。だから、日替わりで飽きることなくラーメンを作り続けられるのだと我ながら思う、というか呆れてしまうぐらいだ

 

 街をにぎやかす刺激的なラーメン、激辛つけ麺だってそんな延長から編み出したと今では思う。ラーメンは常識や決まりにとらわれず、作り手の自由な発想でなりふり構わずうまさを追求するのが王道だから

 

 ラーメンは自由、師匠の教えだ

 

 

「……作りたい、ですね」

 

「俺も食いてえな。ガツンっと脳にまでクるラーメンが……って、あんなもん始めりゃまたこっちの店が立ち行かねえよ」

 

「嬢の皆さんも食べますからね、ニンニク臭で接客どころじゃなくなりますし」

 

 思い出した。二郎を始めた初日にまずコリンネ姉さんが全マシマシを平らげて、そして夜の業務は無理だと店から放り出されて、そして店内で働いた。

 

 そのあと他のお姉さんたちもローワンさんから禁じられたけど我慢できず食べに来て、そして働けなくなって結果ローワンさんはお店を休業。ついでに皿洗いやら接客やらで人手が足りない僕の店を仕方なく手伝うことに。

 あの時は通り一面に机や椅子を置いて、それで足りなくて、路上で無心になってどんぶりの豚ラーメンを貪り食うお客さんだらけになってしまった。

 

 今思い返してもあの時の光景は異質だった

 

 

 

……ぐるるぅ

 

 

 

「ローワンさん」

 

 

「二郎の話すっからだ……まだか」

 

 

「もうすぐです……あ、ニンニク入れますか?」

 

 

 話をしながら調理、もう完成間近だ。煮豚のシンプルなチャーシューとメンマにネギ

 

 

「おう、今日はもう店に顔を出さねえ……どーんと入れてくれよぉ、女も野郎もぶっ飛んでいくぐらいヤっちまってくれ」

 

 

「……らじゃ」

 

 

 了解は得た。すでにたれとスープ、そして麺と具も入れた醤油ラーメンにこれでもかとニンニクスライスをばらまく

 

 突然の奇行、ただの醤油ラーメンに乗せるにはあまりにもアンバランス、それもおろしたのではなくスライスした生ニンニクだ。

 

 このままでは生の辛さと歯触りで食べても調和しない出しゃばった薬味過多のラーメンだ

 

 

「……顔、引いていた方が良いですよ」

 

「は?」

 

「アフロ燃えても知りませんからね」

 

 

 ろくな用意もなく、在り合わせで作ったシンプル醤油ラーメン

 

 だけど、今から行う仕上げでこのラーメンは店で売り出すだけのインパクトある品に変わる。

 

 スープは鶏ガラ、醤油ダレは昆布と鰹節、そこへ大量に乗せたニンニクスライスの山。ガスコンロでは小鍋にラードを入れ、油から焦げる匂いが発するぐらいカンカン熱して、それをお玉一杯分を躊躇なく

 

 

 

 

――――バチバチバチバチッ!!?!?

 

 

 

「おわッ……おま、こうなるなら先に言えっての!!」

 

 

「アハハハハッ!!」

 

 

 突然舞い上がるラードの炎、それは一瞬にして大きな火を灯して、けどすぐに火はスープの温度で一定に下がる。

 スープの上のニンニクは高温のラードで見事火が入って香ばしい色合いに変わり、そしてラーメンからは当然最高の食欲そそるニンニク風味がガツンと胃を殴りつける。

 

 殴られたのは当然ローワンさんだ。驚いて、危うくアフロが燃えるところだったとかなんだと怒っているけどその表情は笑いで吊り上がって、もう興奮しっぱなし

 

 

……見ているこっちもお腹が空くよ

 

 

 いざ店でやるなら注意しないと、火事騒ぎで消防車が突っ込んできたら笑えない

 

 

「は、箸をくれ……こんなもん、冷ましちまったらイエスを殴るより罪が重いぜ」

 

「言い過ぎですって……お熱いのでお気をつけて、っと」

 

 

 渡した箸は奪い気味に取られた。

 

 レンゲを手に、アツアツのスープに臆することなく一口。シンプルな鶏ガラのスープだから、揚げたて作り立てなニンニクラードの風味とコクが際立って感じられるはず

 

 

 

「ん……おぉ、こりゃ……ズルルッ!!??」

 

 

 

 口にしたスープを舌で回し、味わい嚥下。飲み干すやすぐ次は麺を食らう。すする音が小気味良い

 麺は中太のちぢれ麺、むせかえるほどのニンニク風味を堪能しながらみるみるとラーメンのかさが減っていく

 

 気持ちの良い食音、狙いは的中ご満足なようでなにより。ただ、懸念するべきは

 

 

 

「……熱くないのですか」

 

 

「水、お冷くれ……喉にッ!!」

 

 

 ほら、言わんこっちゃないと。氷を入れたお冷を渡してローワンさんは一気に飲み干した。

 

 スープには熱した油、温度こそはスープで冷まされてだいたい70°前後に留まっている、とはいえだ。

 油の保温機能もあってラーメンは常にその熱々が継続。食べ終わる最後までアツアツ、それはそれでいいことだけど、代償に口の中の粘膜にはあまり優しくない結果になってしまう。

 

 額に汗を浮かべて、ローワンさんは熱いスープを飲み、麺に息を吹きかけては一気にすする。熱さとニンニク、味のインパクトはその味だけに限らず。アツアツというのも食べる側にとって刺激的な要素になる。

 

 

『ズル、ズルルルッ!! ズズッ、ズルルルッ!!!』

 

 

 熱々のラーメンと格闘するローワンさん、店の中を響かせるすすり音は君の悪い音じゃない。僕にとって、オーケストラへ送る拍手喝采がこの音と同意犠だ。

 欧米ではヌードルハラスメントだって言うけど、すする音に抵抗があるけどここはアジア圏だし、ここにいる白人の人たちも抵抗なくすすってくれる。やはりラーメンはすすってなんぼだろう。

 

 すすり食いは実益のある食べ方だ。空気と混ぜて麺を口に入れる食べ方は食べ物の風味が鼻腔を抜けてくれる。

 今のローワンさんみたいに、強烈なニンニクの香ばしい風味が鼻を突き抜ける心地は想像に容易い。

 

 今、目の前で見ているだけでニンニク風味を感じるのに、食べているあなたにはたまらなく、それこそガツンと来る快感なのだろう

 

 

 

「ケイティ!ラーメンはよぉ!! ニンニク風味でなんぼってもんよ!! 俺が許す、またジロウでもなんでも作っちまえ!!」

 

 

「あはは、ローワンさんにどんな権限があるんですかって……まあ、でもそれもいいですね」

 

 刺激に飢えたロアナプラの住人、ニンニクの香ばしい風味は需要にダイレクトなのだ。需要と供給の観点から見ても、ニンニクを前面に出した味はベストアンサーのはず

 

 街が騒がしくなるほどの刺激はよろしくないかもだけど、こういうニンニクを強みにしたラーメンを増やしていけばそのうち皆も慣れてきて順応する。かもしれない

 

 結局、大事なのは段階を踏むことだ。段階さえ踏めば

 

 

……今度は家系ラーメンとか、熊本ラーメンもいい、背脂チャッチャ系にセルフニンニクをいっぱい用意なんかしたり

 

 

……見えてくる。二郎系へと至る本日のラーメンロードマップが、見えて、くる!

 

 

 思考を巡らせる。要は刺激の強いラーメンにお客さんが慣れていけばいい、そうやって刺激に慣れればまた二郎系のラーメン屋、なんなら激辛つけ麺だって出しても問題にされなくなるはずだ

 

 

……もう、ロアナプラの住民全員がニンニク臭くなればいい。そうなれば、なにも問題なんてないのでは?

 

 

 

「あ、そうか……これが真理かもしれない」

 

 

「ズル! ズルル!! くっそ、バチクソにニンニク利かせやがって……おめ、なんも反省してねえじゃねえか!ギャハハッ!!?」

 

 

「……反省?」

 

 

「なんでもねえ!!……いいぞもっとやれ、ケイティやっちまえ!!」

 

 

「これ、店で出したらまた騒ぎになりませんか?」

 

 

「知るか!!……うまけりゃいいんだようまけりゃッ おかわりだ、替え玉をくれ!!」

 

 

「はい、ですよね!替え玉了解です!」

 

 

 

 興奮してお代わりを言うローワンさんから器を受け取る。替え玉というけど、もうスープだってほとんど飲み干しているではないか、やはりニンニクは正義か

 

 おかわり分はニンニクに加えてネギも増量。またラーメンの上に大きな火を灯すとローワンさんは大興奮、ファックだのホーリーだのゴッドなんたらと汚い言葉でもう理性崩壊気味だ

 

 ニンニクの効果は絶大。次はぜひ大勢のお客さんにも振る舞いたい。繰り返すけどやはりニンニクは正義、多少騒ぎになってもそんなの知らない

 

 なんだか、食べてないのに作ってるこっちも楽しくなってきた。もっと激しいラーメンを作りたい

 

 

 

 ロアナプラ全部ニンニクで染めること、直近の目標は決まった

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ジリリリ

 

 

 

 

 

「?」 

 

 

 ふと、鳴り響く家の固定電話。シャワーを浴びて、さあ夜更かしのまんがタイムとしゃれこもうとしたタイミングだった。

 

 いったいなんなんだと、ちょっとふてくされた僕は受話器に手を取る。手を取る、その際に見た番号は、見覚えのあるものだった。

 

 

……連絡用の、バラライカさんの

 

 

 

「……なにか、あったのかな?」

 

 

 

 




次回で合流。ケイティ、バラライカ、エダ、三人の絡みをお楽しみに

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