麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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ロベルタ編から始まり、アブレーゴ、幕間、焼き肉、そしてバラライカとエダ、ここまで引っくるめてロベルタ騒動は終幕となります

お疲れ様でした!


(64) 閉幕

 

 気がつけば他人のベッドで目が覚める。とくに珍しくないことだ

 

 目を開けて、寝返りを打てば顔が柔らかいもので包まれる。そしてそのまま腕にホールドされて息苦しくなる。これもよくある、珍しいことでもなにもない

 

 

……この張り、弾力、匂い

 

 

 料理人ゆえに鼻が機敏、最後が決め手になって相手が誰か判明する。

 

 ブロンドの髪をたなびかせ、暴力的なまでに豊満なバストをお持ちになられる相手

 

 ここは、バラライカさんと僕が寝泊まりしている部屋。だけど、相手は

 

 

「……エダさん」

 

 

 ぼそりと、胸の中で言葉を発した。くすぐったいのか、少し身悶えして。体を自由にしてくれた

 

 肩に手をつき、顔を離して、話ができる距離を保つ

 

 フェイストゥフェイス、まどろむ貴方はいつもの粗野さはどこに見えない

 寝起きの麗人を盗み見ているような、少しの背徳感が背中をくすぐる

 

 

「あの、んッ……そこ、は」

 

 

 くすぐられている。それはもう、物理的に

 

 

「ひゃの、しょこは……ひう、あわわ」

 

 

「……んだよ、朝のじゃれあいは嫌いかい?」

 

 

「……き、きもちよく、なっちゃいますからぁ」

 

 

「わかってんじゃねえかよ、辛いならまた漏らせばいいぜ……ケイティ」

 

 

「!」

 

 

 

 脇やお腹、お尻に内腿をくすぐられるケイティに電撃が走る。

 

 それは昨夜のこと。人生一番ともいえる大恥を

 

 

 

「……ぅ、記憶喪失になりたい、ぐすん」

 

 

 

 思いだし、そしてガチ泣き。エダはそんなケイティを待ってましたとばかりに胸に抱いて撫であやす

 

 愛玩動物が、溺愛する弟が、素直になって胸に甘える姿、行動に達成感を感じている

 久しく、騒動から始まって今に至るまで、お預けになっていたエダはたっぷりとケイティを味わうのだった

 

 

 なお、ケイティは指摘しなかったが。エダの衣類はランドリールームの乾燥機の中にある

 

 

 キングサイズのベッドで、ケイティを抱きながら別の抱き上げる行為へと移行するのもごく、自然の流れ

 

 

 

 エダは全裸だった

 

 

 

「……へ、エダさん待って!超待って!!」

 

「んだよ、あのロシア人とはよろしくやったんだろうに」

 

 

「それは、でもだからこそですね、あの人を怒らせないほうが、ね、ねッ」

 

 

「馬鹿言ってんな、それぐらい……当の本人が了承したよ

 

 

「!?」

 

 

「……驚いてんな、けどまあ、そういうこった」

 

 

 

 

……もぞ、にゅる

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

「安心しなベイベ、あんたのことはあたしが守る……そういう約束なんだ」

 

 

 

 本当に、取り返しがないほど失う前に

 

 

 

「痛いほど気持ちはわかる。だから、これでいいのよ……って、なんであたしが言わなきゃなんねえんだ。あのバカロシア」

 

 

 

 

 ふさがれた唇。吐息を流し込まれてしまえばあとはされるがまま

 

 日は登って朝になった。だが、部屋はカーテンを閉ざされ朝日を拒絶して闇に閉じ込められる。せめて行為は部屋を暗くして、ケイティの願いである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

~某所~

 

 

 黄金夜会、街の支配者である四勢力が一同に会する場所。そこは張維新が所有するとあるホテルのラウンジであった。中央には円卓代わりに待合席が四人分。だが、いまだ席は空白のまま

 

 時刻は予定された時をまだ示していない

 

 

 

 

「……良かったのか、これで?」

 

 

 

 開口一番、人払いをした二人の会話は、張による不躾な問いかけから始まった

 

 声を届けた相手は。当然バラライカ

 

 

「噂なんだが、昨晩ゲストを招いてパーティだったとか……そしてケイティとゲストがそろって留守番と」

 

 

「……何が言いたいのかしら」

 

 

 不機嫌そうに、葉巻の煙を咀嚼する。足元には深く吸いすてた吸い殻がいくつも散っている。

 

「もうじき夜会だ、くだらない世間話なら部下としなさい、張」

 

「いやはや、焚きつけた俺にも責任は感じているんだ。ケイティは元気か、それさえ聞ければ問題はない」

 

「……」

 

「ただ、ついでだが……シスターはどう動いている?」

 

 

 ついでの問いかけにしては、妙に語気が強い

 

 シスターエダ、彼女の存在は張にとって大きい。そして、その大きさの知るところは誰であろうと口外はできない

 

 この町の裏を知るゆえに、触れずの不文律で動いていた。だがしかし、此度の騒動ではそれが大いに揺らいだ

 

 シスターエダ、CIAのエージェントが現地協力者を用いてまで私情で動いた。本来なら、起こりえないイレギュラーに、自分たちも身を巻き込んでいた

 

 では、そのようなことが起きたすべての原因は誰か。そう、ケイティである

 

 イレギュラーを生む存在、そんなケイティと近しくあるバラライカと、そしてエダ。ここが共通項を得て接触することは、本来なら起こりえない。ありえないことだ

 

 

「……今夜の夜会の議題はメイドとマニサレラカルテルだが、少なからずケイティのことについて触れる」

 

 イレギュラーをもたらす異分子

 

 その扱い、非情な結論が下るのはとうぜん避ける

 だが、今後予測される事態ぐらいは言及するだろう。いざというときは、選ぶことも起こりうる

 

 

「ミス・バラライカ。一つ、推測を立てよう」

 

「……」

 

 煙を噛み、静かに聞き流す。了承を得たと受け取り、続けて張は語る

 

 

 

「ゲストのシスターの接触は、失礼ながら盗み聞きで知った。そのうえで聞くが、なぜ勝負を受けたか」

 

 

 

 不文律を知る、それは張以外にも少なからず知る者はいる。そして知りえなくとも、鑑賞するべきでない闇があることはこの町の有力者であれば理解できる

 

 シスターエダ。アメリカ人であり、そしてこの町の中でどの勢力にも関わらず自由気ままに動く彼女に、ある一つの背景による意思があることは、予測できないことではない。

 

 ましてや、米ソの歴史を踏まえれば、触れずに去ることも選択肢にあった。だが選ばなかった

 

 バラライカは、エダの接触を許した

 

 エダは、バラライカとの接触を望んだ。

 

 両者には同意があった

 

 

 

「ケイティを守らせる為。本当にどうしようもなくなった時に、シスターがこのロアナプラからケイティを連れ出す。保険を作りたかった。だから、寝させることを許した……という予想だが」

 

 違うか?……と、長々と説明を終えて息継ぎのついでに一服を済ませる。

 

 煙だけが宙を踊る。言い当てられたことで、バラライカに感情の揺らぎはない

 

 

「張……あなた、つまり何が聞きたいのかしら?」

 

「ふ、遠回しな言い方になったな。聞きたいこと、それ自体はシンプルだ」

 

「なら、勿体ぶらずに言え。返答次第ではこの指を引き金に戻す」

 

 

 流石にか、若干の苛立ちを声色に滲ませる

 

 そんなバラライカを見て、張はほんの少し表情を落とした。率直に、誠実に

 

 同じ守るものを持つ者同士、そんなフラットな気持ちから心配事を一つ

 

 シガレットの煙とともに吐きこぼした

 

 

「ケイティを守るために、他人に頼る……これでいいのか?これが満足いく結果なのか?」

 

「は!……まるで日向を生きる住人の考えだな。貴様らしくない」

 

「……らしくないのはお互い様だろう」

 

 

 言い切る。その言葉に対しバラライカの返答はない。吸い殻になった葉巻を捨て、また新しく火を灯す

 

 いっぱいの煙を肺に入れる行為は、どこかやりきれなさからくる苛立ちをぶつけているようだ

 

 かみしめた葉巻は、ほぼ吸いきることもなく地面に落ち。ヒールの靴に踏みつぶされる

 丹念に、粉になるまで、強く、強く

 

 

「あの子を守る、それさえ保てるならいいのよ」

 

「……嫌な質問をしてしまったかな」

 

「傲るな、ただつまらない質問だ」

 

 

 踵を返し、バラライカは張の前を横切る。時間を無駄に費やした、気丈なまま嫌味だけをはいて、何も問題はないと自分に言い聞かせるように

 

 

 だが、だがしかし

 

 

 

「……これでいい。見捨てることができる私だから、あの女が必要だ」

 

 

 

 吐き捨てるようにして、バラライカは苦言を漏らした

 

 最後の声色だけは、張維新を相手に向ける色にしては、少々威圧が物足りない。ただの、素の心が垣間見えてしまっていたことは、張も黙して気づかないふりをするだけ

 

 

「……罪作りだな、お前は」

 

 

 一言だけと、諸悪の根源である憎み切れない阿呆へと愚痴をこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金夜会を経て、ロアナプラはメイド騒動及びカルテルのことに完全な区切りをつける

 

 ケイティ本人も、ロアナプラ亭にもどり通常の営業を再開する。日常は滞りなく進展する

 

 

 

 

 ただ、そうなる前のとある一夜を境に、ケイティのもとに二人の女が手を結んだことは後々になって大いに意味を持つ。

 ロアナプラの異分子、悪党にすら踏み入るその非凡な存在、それ故に起こる新たな騒動が起きるまで、今はただ平穏が続いていく

 

 イカれた世界、銃弾が飛び交い命が路傍で転がるこの悪徳の都で、ケイティは今日もラーメンを作り、そして愛される日々を送る

 

 ひとまずは、次なる脅威が現れるまでは

 

 

 

 

 

NEXT>>Goat, Jihad, Rock'N Roll

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 




綺麗に終わっているようで終わらせない、そんな終幕です。とにかく、これで次の原作エピソードに移れる

予定通りなら文書争奪戦。さあ、どうアレンジしたものか。竹中は旨そうにラーメン食べそうだから食べさせてあげたいんよね
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