麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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久しく投稿、暑くなったらやっぱりこれ


(65) 冷やし中華はじめました

 熱帯であるタイの港町、ここロアナプラは類に漏れず暑さが辛い地域だ。

 海から来る風のきまぐれで時たまに涼しく過ごしやすい時(教会のお昼寝スポット限定)もあるけど、基本は汗にまみれて湿気に嫌気が指すことばかり。長袖の服を着るのも一苦労する、張さんやバラライカさん達をはじめ、マフィアな人たちは暑くないのだろうか。なんてことを時々思う

 

 まあ、とにもかくにも年中サマーシーズンがこの土地の宿命。暑さに文句を言っても今さらだし、だけど暑いものは暑い

 

 あいにく僕にはあの人たちみたいに暑さに耐える度量も足りない。エアコンが恋しくてエアコンなしでは生きていけない。

 エアコンに依存するめんどくさい奴、女々しくて情けないだろうが知ったことか。暑さなんて大嫌い、あついのはラーメンと人肌で十分

 

 だから、今日もエアコンはガンガンに利かせて、涼んで暖かい緑茶でも飲もうと、思っていたのに

 

 

「……くうぅ、はにゃぁぅ」

 

 

 今現在、手に持つのは冷えた瓶コーラ。だけど、もう冷たかったのはさっきまで。あと少しで手の温度に負けてしまいそう。うん、負けた

 

 

「……あ、つ、い」

 

 暑い、熱い、厚い、脳が解けて言語機能が故障するぐらい、今日はとかくホットなのだ

 

 その上、頼みの綱のエアコンはちょうど一刻前にご臨終なされたばかり、このままでは店を開いたところで

 

 

……誰も食べない、熱いラーメンなんて誰も

 

 

 エアコンのきいた店内でなら問題ないけど、こんな異常気象の日にラーメンなんてとんだ罰ゲームだ

 

 そして、エアコン亡きあとの弊害はまだ続く

 

「……材料買いなおさないと」

 

 

 本来の予定なら北海道ラーメンを作るつもりで仕込みを前日にしていたのだけど、この暑さでは絶対に受けない。作るは旭川スタイルの醤油ラーメン、鶏ガラと魚介ベースのスープに鮭節を揚げて風味付けしたラードを浮かべて、そこへ多めの湯で野菜に七味唐辛子。そんな寒いお国のラーメンを作るだなんて、まずまず相反しているにもほどがある

 

 うん、熱帯地域で何雪国のラーメンだなんて思われそうだけど、でも夜はそれなりに涼しくなるのがこの街だし、エアコンガンガンに利かせてるのにみんな薄着だから逆にあったまるラーメンも美味しいかなって、はい、空回りでした。大量のラード、使い道考えないと、最悪火炎瓶にでもして張さんに買い取ってもらうべきか、

 

 と、馬鹿なことを考える時間もほどほどに

 

 そろそろ

 

 

 

「……エダさ~ん」

 

 

 

 おもむろに外へ出るケイティ、手を振って迎えると

 

 

 

『……キキィイイッ!!!』

 

 

「……バザールまで」

 

「タクシーじゃないよ、馬鹿たれッ」

 

「怒ってます?」

 

「こんな暑い日にツーリングしろって言われて、くそったれ……さっさと後ろ乗りな」

 

 

 早くしろと催促、そんなエダさんはいつものシスター衣装ではなくホットパンツにチューブトップでアメリカンなお姉さんだ。ヒッチハイクでお尻と胸を強調してボードを持っているときッと似合うだろう。

 というか、昨日そういう映画を見た。金髪でスタイルのいい女優さんを見ちゃうとついつい見てしまうのは、悪いことだろうかいや仕方ないはず

 うん、だけど罪悪感は消えない。心の後ろからいつも怖くてきれいなお姉さんが銃口を向けているのです

 

 

「……痴漢じゃないですから、ね

 

「いいから、早く乗れ」

 

「…………はい」

 

 

 念のための確認、しかしそんなことは良いからとエダさんは僕を引っ張り上げる。後部座席に乗った僕は、当然ながら振り落とされないためにしがみつかないといないわけで

 その場合、今のエダさんにつかまらないといけない

 

「……暑苦しいけどしゃあねえだろ。ほら、体くっつけな」

 

 そういわれ、言われることが最後の後押しになりぼくも腹をくくった

 

 おそるおそる、許しを得たとはいえ触れがたい魅惑の肌。汗でじっとりと蒸れた背中の熱気、お腹の柔らかさの奥に隠れた腹筋の硬さ

 

 手のひら、顔、伝わる情報の全てが生々しい

 

 

「なあ、ちゃんと捕まれって。いいんだよ、今更おめえに触られてもこっちはなんともねえんだから。ていうか、お前の方も慣れていろよ」

 

「な、慣れません……刺激、強すぎです」

 

「……たく、ファックした相手にとる態度じゃねえよ」

 

「————ッ」

 

「はいはい、熱くなんのは結構だが……勝手に熱中症になんじゃねえぞっと」

 

 

 ブルン、大きく揺れるエンジンの音と同時にバイクが一瞬上を向く。

 

 赤面して悶絶する暇も与えてはくれない。走り出したバイクの勢いに飛ばされないように、僕は必死にエダさんのお腹にしがみつく

 汗ばんだお腹、香る匂い、ゆだった頭のせいか思考が纏まらない

 

 良くない気持ちが沸き立つ、だけど熱い。熱い、やらしい、熱い、やっぱりあつい、あつい

 

 

 

 

「……あつい」

 

 

 

 

「いうんじゃねえよ、余計熱くなるだろ」

 

 

 

 

 熱気に囲まれて逃げ場のない道半ば、車が混む中信号を待つ間が辛い。

 

 こんな町でも信号を守るルールがあるから仕方ないことなんだけど、うん、ローグタウンのくせになんで交通ルールなんてあるんだと思うけど、実際道路上の無秩序は悪党にとっても都合が悪いのだ

 

 

 

「……あついよぉ」

 

 

「あちぃなぁ」

 

 

 

 気が付けば、二人共に熱いの一言ばかりがむなしくループする。溶けた思考でバイクを走らせる仲良し姉妹二人がたどり着くのは目当てのバザール、に行くために通らないといけない道半ば

 

 小回り効くバイクとはいえショートカットには限界がある。というか、やけに車の行き来が激しい今日この頃なことにロアナプラで何か起こる予兆が見えてはいるが、そこまで二人の思考はまわらず

 

 夏、熱帯ではあるロアナプラで降り注ぐ快晴と熱帯気温。そして海風が運ぶ湿度が、さながらとある島国の夏の気風を模している

 

 

 

……ちりーん

 

 

 

「————」

 

 

 遠く彼方の記憶、エダの汗ばんだ背中に顔をうずめ、色香と塩味を含んだ梅雨で唇をふやかしていたそんな折

 

 異性に抱き着く際の本能でか、染みついた癖でエダの豊かなバストにぶれて、手の甲をつねられた痛みが解けた脳に電気を流す

 遠い記憶の彼方、ケイティはふと記憶にない情景を脳裏に浮かべた

 

 体験したわけではない。だが、日本人として生まれた以上遺伝子に刻まれた季節の慣例

 

 暑い夏が来た、そうだ京都に行こう見たいなテンションで、ふとつぶやいてしまった

 

 

 

 

『ひやしちゅうか、はじめました』

 

 

 

 

「What?」

 

 

 

 ふとこぼした日本語にエダが首をかしげる。めったに聞かないケイティの日本語、するとべったり抱き着いていたケイティが急に体を起こし

 

 

「……戻って」

 

 

「あ?」

 

 

 燃えるような暑さに浮かれて、ケイティの中で何か妙なスイッチが起こる。時折起こす無茶なバイタリティが、この暑さで妙な方向で発揮されていく

 

 

「ケイティ、おめえ」

 

 

……もにゅぅ

 

 

「ほわぁあ!??」

 

 

 

「……こおぉぉぉ」

 

 

 何を思ったか、ケイティはエダの胸に開いた指をねじ込んだ。つまり、背後から揉みしだいた

 

 特異な呼吸音。一子相伝の拳法家か、それとも未来のコミックで有名になる剣士の特殊な呼吸か、とにかく変な息づかいで妙な気配を匂わしたケイティはエダに対しておねだりを開始する

 

 

 

「行って、バイク戻って、向こう」

 

 

 

「は、はぁあ??」

 

 

 

 揉みしだかれる胸の感覚はもちろん、豹変したケイティにこそエダは戸惑う

 

 ケイティの暴走はさらに加速する。全ては、夏の魔力のせい。まあ別に夏ではないのだけれど

 

 

 

 

 ケイティの心は、ここではない極東の島国の夏に染まり切っていた

 

 

 

 

『いいから、食材よりも必要な物があります確か港の盗品市場で見かけました思い出しましたなんであの時に買わなかったんだ悔しいでも今ならまだ間に合うかもしれないだからほら早く今すぐ行ってください超速く行ってくださいおねがいおねがいおねがいおねがいオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャン』

 

 

 

「!?」

 

 壊れたジュークボックスの方が幾分かマシ、そう思われるほどにケイティはおかしくなった。というか壊れた

 

 後ろを見てその顔を見る。汗に濡れて艶を帯びた黒髪の少女がどことも眺めているかわからない目をして、なのに瞳孔の奥に異様な光を浮かべているのには素直に気味悪さを感じた

 

 夏、夏、夏

 

 ケイティは何かにとりつかれていた。完全にエクソシスター案件である

 

 

「おま、なんだよ英語でしゃべれっての……あ、こら、胸を揉みしだくな!!ひゃぁああ!?? 背中でしゃべるな、んだよ日本語知らねえよ!?!?」

 

 

『※※※※※※ッ!!!!』 

 

 

 路上で繰り広げる奇怪なやり取り、暴走したケイティは背後よりエダの胸を揉みしだき、そして彼女の耳元で高速日本語夏語録を読経のようにリピート。周囲でそれを見るドライバーやバイカーをはじめ、現地民やマフィア者たちはみな等しく目を背けた

 

 一見それはエダというナイスバディ痴女が乱れ乱れるサービスシーンではある。しかしその後ろに乗るケイティとかいうSランク要注意人物のせいで

 

 

 

……見るな、かかわりを持ったらヤバいBy一同

 

 

 

 見たい光景も拝むことはできず、皆何事も無いように目を背けた。

 

 そんなことも知らず夏の亡霊に取りつかれたケイティはエダに日本語で要求を通そうとし続ける

 

 

 

 

 

「オネエチャンオネエチャンオネエチャン!!!」

 

 

 

 

 ぐにゃぐにゃもにゅもにゅ、揉みしだく手の巧みさはいったいどこで身に着けたのか、くすぐったいと叫ぶエダも次第に良くない声を上げてしまう

 

 だから、怒るよりも、銃を抜くよりも先に、腰が引けて倒れそうになる寸前で音を上げた。

 

 ケイティのおねだりに屈服してしまった。

 

 

「わ、わかった言うとおりにする! だが、ケイティ……ぁ、くぅ……ァ、ぁあ、ふぐぅ……てめ、おぼえておけよ、終わったら腰が砕けるまでお仕置きだぞバカシスター……ッッ」

 

 

 

 湿った声、乱れた姿に目の恥に雫も一つ。猛暑の暑さに加えてまた別の熱さが籠った頬は実に色香を放っていた。

 本来ならばグロック取り出しブリッツで額をぶち抜かれてもおかしくない所業であるが、そこはシスコン気味なエダの弱所、ケイティに求められてしまえば首を横に触れないどこまでも甘い溺愛お姉さん故

 

 おねえちゃん、そう呼ばれてせがまれてしまえば何も抗えなくなってしまう、エダとケイティの関係は今日も平常営業であった

 

 

「夏休み、河原で虫取り、冷えたスイカ、宿題やりたくない……あ、そうだ、冷やし中華はじめなきゃ」

 

 

「会話にもならねえ。くそ、いい加減バストから手を離せっての……視線がむず痒い」

 

 

 

 ひとまず、エダの降参で収まる暴走ケイティ、転進するバイクの向かう先は支持された泥棒市場の方向

 

 

 ケイティは求めていた。冷やし中華を作るために必要なアレのこと

 

 

 かつて、ケイティに料理の道を指南した今はいない師匠が伝授した冷やし中華。そのために必要な、あの愛らしくも素晴らしい夏のアイテムを

 

 

 

「ひやしちゅうか~~~~~」

 

 

 

「おま、揺らすなバカッ……ん、ふぁあッ 胸揉むんじゃないっての、そんでどこ摘まんでんだおめぇはよぉおおお!!!?!?」

 

 

 

 

 

 賑やか姉妹がバイクで向かう。

 

 そしてその日の夜、ケイティはトラウマになるほどにエダよりお仕置きを貰う。当然の帰結である

 

 

 

 

 

 

 

    ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、後日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んだよ、これ?」

 

「日本語の張り紙だ」

 

「へえ、またなんで?」

 

「で、なんて書いてんだよロック……まさか店じまいじゃあるまいし」

 

「このホットな天候じゃ無理もねえな……で、なんて書いてんだロック」

 

 

 

 ふらり立ち寄ったロック達ラグーン一行

 

 唯一読めるロックはその一文の奇妙さ、少なくともこのロアナプラにおいて見ることのない張り紙に首をかしげるが、しかしここがケイティの店であったことを思い出し腑に落ちてしまった。

 

 

 

「あぁ、これはね……うん」

 

 

 

 少し試案、日本独自というか他国に理解されにくい名前である故に言い換えるべきか考えて、しかしまあいいかとそのままに、この場の外国人三名に伝える

 

 

「冷やし中華、俺の国の……夏場に食う麺料理だ。一応、日本食だよ」

 

 

「「「…………」」」

 

 

 眉をしかめられた。想像通りの反応、しかしまあ、仕方ない。冷えた中国とはなんぞや?と

 ロックは自身の故郷の誇らしくもある文化、されどいい加減な文化、そんな二面性ある部分を再認識したのだった。

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 




冷やし中華を出すだけのシンプルなお話、だけど久しく書くもんだから導入で濃い描写入れちゃう。よくない、よくない

エダにナニされたかは読者ニキの想像で補ってください


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