麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
お風呂に浸かって呆けていた。随分と長く浸かっていたら、急にそこへ裸のエダさんが入ってきたのだ。まあ、いまさら驚くことじゃない。
バラライカさんと過ごしたあの日より以降、忙しいのかバラライカさんとはあまり会う機会は無い一方で、エダさんと過ごす時間はとても増えている。教会の宿舎よりもこの部屋で寝起きすることも増えて、お風呂場にはエダさん用の手入れ道具なども置かれて、そして冷蔵庫にはビール缶もダースで常設されてしまった。場所取りで困る
ちなみに、エダさんと入浴する際は明かりを消している。流石に見えている状態だとどうも切なくて辛いから
そして、今日もそんな感じか、いつものように扉を開けて押し入ってきて、背中を流し流されて一緒に浸かった
言われるまま、拒むことはできず僕はエダさんの体を綺麗に磨いた。どこか挑発的で、そして蠱惑的に振る舞うエダさんに振り回されながら、でも入浴はあくまで入浴で、普通に一緒に浸かって、世間話をして、そしてお風呂から上がった。
下着を身に着けて、パジャマに袖を通す。ホテルで使っていたバスローブも気持ちいけど、安っぽいこのナイトキャップが似合いそうな服がなんだかんだと落ち着いてしまう。馴染むのだ、庶民的なものが
服を着替えて、湯上りの熱を冷まそうとクーラーの風が当たる場所に腰掛ける。火照った熱が抜けて出ていくのが気持ちいい。
「……テーブルとイス、やっぱりお願いして正解だった」
部屋は相変わらず仕切りのないワンルーム。だが改装に当たって部屋の無機質な床はフローリングに変わり、そして畳スペースも適当に安物を敷いたわけでなく新品のモノで和室スペースが作られている。
和洋折衷の部屋。というか、少しモダンな旅館のような部屋。以前の事務所を無理やり住まいにした時よりも違って圧倒的に住みやすさを感じる。文明的で、そしておしゃれ
……日本風な建築材の調達、高くついただろうけど、まあ構わないって言ってたし
あの事件の後に、アブレーゴさんは日を改めてから僕の前に来て謝罪を告げた。そして全面的に修理修繕改装なんでもござれとお金を出してくれて、僕が止めなかったら屋上に露天風呂だの地下にサンダーバードの基地だのと、何でもやりかねない勢いだったのは今でも忘れられない。
うん、アブレーゴさんとは親しくしているつもりだったけど、なんだかサービスが濃くなったというか。なのに視線を合わそうとすると目を背けてやけに早口になってすぐ立ち去ったり、なんだか妙だ。
事件が凄まじすぎてうつ病を悪化させたのかもしれない。
「アブレーゴさん、あまり店に来ないしなぁ……また部屋に行って作ってあげようか……アタッ」
「……やめとけバカ」
「叩いた、ひどい」
「人助けだっての」
「?」
叩かれた上に理由が意味不明だ、エダさんもしかして酔っているのだろうか
「……ビール、飲み過ぎでは?」
「うるせぇ、こんなもんピスみてえなもんだって……それに、風呂上りだ。熱を抜かねえとメルトダウン起こしちまう」
だから冷えたビールを飲むと、でもアルコールだから余計に火照るのでは、なんて言おうと思ったけど即セクハラ攻撃を食らう未来が見えてお口にチャックを付けた。僕って賢い、たぶん
……ゆさ、ゆさ、たっぷん
「ん、かあぁッ……ふぃ、ああぁ……あ?何見てんだよ、興味深々か?」
「……服、着てください」
閉じたチャックだが結局開いてしまった。僕は服を着ているけど、エダさんはまだ下着一枚、タオル首掛けでかろうじて胸の先を隠しているだけ。最近になってショーツを履いてくれるようになったけど、それでも裸族癖は止められないみたい
うん、バラライカさんの時もアレだったけど、もうこれはそういうことなのかな?
お胸の大きい女性は皆タオルブラでショーツ一枚が入浴後の基本なのかもしれない。そういえば、バラライカさんにも指摘したら、なんでも胸に熱がたまるから仕方ないとか、誰のせいで胸が大きくなって余計に熱をため込むようになったのかと、何とも返しがたい台詞に赤面したことを思い出す
あれ、なんだか疑わしくなってきた。熱いって言いながら、そのあとに抱き着いて来たし、今のエダさんも
「ふぎゅ!」
「あぁもう熱いねえ……着替えるからさ、もう少しこのままでいいじゃねえかよ」
「や、当たってます当たってます!!後見えちゃいます!!」
椅子から転げ落ちるように逃げて、けどつかまってそのまま畳スペースに敷かれた布団へと不時着
クーラーの風で冷たくなった布のヒンヤリした感触が気持ちいい。エダさんはほぼ裸だから、余計に気持ちよさを感じるのだろう。背後から抱き着きながらだから、耳元にイケない声が入ってきた
背中に感じる質量、そして人肌。うん、風呂上りに服を着たがらない、そんなことをする人の本当の狙いは、結局僕を揶揄いたいだけかもしれない。いや、かもしれないじゃないや、たぶんそうだ
「……濡れた髪の匂いがするな」
「あの、ドライヤーで乾かすのは」
「いや、面倒だ……このまま自然にまかせちまおう」
「…………」
「嫌か、わかったわかった……しゃあねえ。じゃ、ちょっとそこで座ってな」
「いや、僕は」
「乾かしてやる、ちょっと来な」
「……自分で出来ます」
「いいっての、あたしがしてやりてえのさ……ほら、座れって」
「えっと、順番は」
「安心しな、ちゃんと自分用に持ち込んでんだなこれが……二人同時にやっちまおう」
「お風呂の洗いっこじゃないのですから、でも……それもいいですね」
互いに濡れた髪に触れる。相手の髪に触りあって、互いに濡れた髪の匂いを感じ合う
淡く甘い花の香りが付く一本一本、色も長さも違うけど、匂いだけは一緒なことに嬉しさを感じたのだ
× × ×
スイッチが入る、清風が柔らかく頭皮をくすぐった
冷たい風、徐々に温度は上がっていく。ヘアドライヤーで徐々に乾燥させる一方で、空いた手は頭皮をほぐす様に指を立てる。押し込み、回し、髪を漉いて、ふわりと持ち上げて
そして、結果
……ブツン
「あ?」
「ひ!」
突然消える灯に異なる反応。向かい合っていたから飛びつくケイティをエダは優しく胸に抱き留める。無論、むき出しの乳房でだ、しかし明かりが無い以上何も見えない
しかし、冷静になって家電を一気に使ったことが原因と気づき、ならばブレーカーを探そうとエダがケイティを抱えて動く。落ちたレバーを戻し、これで電気もついて、さあ元通り
と、なればよかったのだが
「……エダさん、エダさんエダさん!!」
涙目のケイティ、その手にはリモコン
そう、エアコンのリモコンは正常に動いている。だが、肝心の本体は
「……はぁ」
「十字架切らないで!」
死んでしまった。熱さでうだる夜の中、部屋の唯一にして絶対な希望が、今ご臨終を迎えた
だが、考えてみればそれも仕方なきこと。改築に当たって買いなおす家電類の中、これはまだ使えるからと貧乏性で以前のエアコンをそのまま流用させたケイティの判断ミスである
「……どうするか」
「どうしましょう、ぐすん」
次回に続く
エダとの日常シーン、まだ続きます。一応飯テロ予定