麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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久しぶりの投稿

前回の続きでラーメン要素少ない日常パートです。


(68) シスターズ・ホリデイ

 クーラーが壊れた、これから暑い夜を過ごすというのに困ったものだ。何より風呂上がりで火照った熱を冷ましたかったところだったのに

 

 しかし、こんな時間に修理業者も呼べない。かといって、このまま熱さに溶けるのもやるせない

 

 せめて、この暑さの中、少しでも涼を取れないものかと考えた結果

 

 

 

 

……シャリシャリシャリ

 

 

 

「はぁ……ひゃっこい」

 

「夜中に不健康なこった」

 

 

 

 エダさんといっしょにかき氷を食べることにした。

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 かき氷と言えば、遠く日本で聞くのは細かく削った氷に人工着色で色を付けたシロップをかけるだけの代物

 

 けど、それじゃあ味気ないということで、日本好きの師匠は別のかき氷を僕に食べさせてくれた。

 

 だから、僕にとってすぐに思いつくかき氷というのは、こういった台湾風の具沢山のかき氷だ

 

 

 

……乗せるのは、果物と白玉、小豆

 

 

 

 あらかじめ練乳入りの牛乳と豆乳の氷を作っておいた。削った真っ白な山にはあらかじめ作っておいた特性のシロップ。人工甘味料や着色料じゃない、ちゃんと果汁と果肉、お茶や小豆

 ちょっとした贅沢と思い、買い集めて用意していたこのかき氷セット。味の組み合わせだけで何万通りも成立する。我ながらスウィーツ欲の業が深い事

 

 

「太るぞおめえ」

 

「あいにくやせ衰えたことはあっても太ったことはありません。しいて言えば、ちょっとお尻と太ももがむちっとするぐらいです」

 

「効果あんじゃねえか、しかも下半身が太るとか……男誘うならやり方は教えてやるぜ?」

 

「……」

 

「おいこら、無言で皿を下げんなって……アタシにもくれよスウィーティ」

 

 わざとらしく背中に大きな塊を押しつぶしてきた。クーラーが消えているせいか、歓喜をしていても互いに肌は汗ばんでいる。じっとり、むわっと、変な気分にさせる良くない感触だ。自覚を持って欲しい

 

「セルフです」

 

「冷たいねぇ」

 

「かき氷ですから……っと、かけ過ぎた」

 

 

 ガラスの平皿に盛った練乳の氷、そこへ抹茶のシロップと甘く煮詰めた小豆の赤いソース、果物、白玉団子、ちょっと盛りすぎぐらいかもだけど、これでいい

 

 具沢山のかき氷、卓上に乗せた色んなトッピングで自分好みのかき氷を作る、それが台湾風の醍醐味だ。

 

 

「夜中に罪深いねえ。汝両の頬を差し出せってな、虫歯がねえか聖書片手にチェックしてやってもいいぜ?」

 

「ロアナプラの虫歯治療とは如何に?」

 

「爆薬でドン」

 

「……」

 

「嘘だよ、ドル札積めばちゃんと詰め物されるさ……気にしねえで食え、溶けちまうぞ」

 

 ケラケラ笑いながら、エダさんは自分の豆乳ミルクかき氷、柑橘系の果物山盛り、ソースをかけて白とオレンジ色のコントラストが綺麗なかき氷をかきこむ

 

 甘くて冷たいひと時

 

 虫歯は嫌だけど、目の前の甘みの誘惑には抗えないし、なにより涼を取らなければこの熱帯夜を乗り越えられないから

 

 

「……はむ、今夜から毎日一時間歯磨きします」

 

「冗談真に受けんなって、ちゃんと金払えれば地雷踏んでも死にゃしねえ。ケイティ、お前さん金まわりは良い方だろうに」

 

「お金、まあ食いっぱぐれないぐらいには……連日にぎわってますし」

 

「最近は臨時休業もねえしな……っと、まずかったか?」

 

「……別に」

 

「そうか、ならいい……はぐ、っくぅぅぅぅッ……染みやがる」

 

「…………はむ、むぐ」

 

 

 涼を取るために食べ始めたかき氷

 

 台湾風と豪勢に用意したためか一杯では我慢できず、団子やタピオカ、タロイモ、お腹にたまる具材もてんこ盛り、甘みを飽きるほどお腹に詰め込んでかきこんだ。

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

 

 

 目が覚めて、時計の針は10時過ぎ

 

 結局、昨日の夜は夜更かしをしてしまい寝入ったのは午前の4時ぐらい。一緒の布団で互いに汗だくになりながら目を覚ました。汗だくになったのはエダさんが僕を抱きしめて寝ていたから。

 だから、目が覚めて真っ先に口の中の塩味を感じた。谷間の汗を無意識に舐めてしまっていたからだろう。

 

 

「……ふぅ、工事が終わるまで暇ですね」

 

「適当に歩いてりゃいいさ」

 

 

 朝飯を食べるには、昨夜の夜食が消化しきれていない。自堕落に目が覚めて、僕とエダさんは一日の目的もなくとりあえずバイクに駆けた。市場と屋台街が隣接している観光向けの地域、そこに足を運んだ。

 

 時刻は11時と半ば、適当に歩いていれば昼飯を食べられる腹具合に落ち着くだろう。

 

 

「冷たいものばかり食べてますね、出来立ての暖かい料理が食べたい……お姉ちゃんは何が食べたい?」

 

「馬鹿シスター、お前財布忘れたな」

 

「うん、ごめんなさい」

 

 誤魔化せなかった。

 

 カーゴパンツのポケットに入れる財布の重さが無い。スられたかなッと思ったけど、店を始めた当初はともかく今その手の犯罪においてはまず逢うことは無い。スリをする人たちに僕の顔は危険リストに数えられているからだ

 

 まあ、それでも逢う時は逢うけど。といってもその場合は金銭目的じゃなくて、後先の危険なんて考えられないHENTAIさんだけだ。女性なら注意喚起、男なら……撃たれるか、ソーヤさんの……

 

「……何考えてんだ」

 

「僕に痴漢してしまった、哀れな変態さん達の断末魔を、少し思い出しました」

 

「あぁ、そういやあったねんなこと……って、飯前に食欲下げる話すんなっての」

 

「すみません、お金も忘れてその上」

 

「手前に手を出した馬鹿野郎は大抵ミンチだからな……あぁクソ、ひき肉料理の食う気が消えちまった」

 

 ちょうどよく目の前に焼き饅頭の屋台があったが、今の話では食欲がそそられない。

 

「……鶏肉でも食べますか」

 

 食欲を下げることにはなったが食べたいものの方向性は無事決まった。さあ、どこに行こうか、そう思っていたら

 

 

「!」

 

「馬鹿、こっち来い」

 

 

 人の流れが速くなった。遠くで喧嘩が聞こえる、トラブルを避けようとして流れが変わったのだろう

 

 少し、立ち止まって話をしていたから、流れに巻き込まれる前にエダさんの体の内に僕は収まっていた。

 

 顔いっぱいに素敵な感触があって、うん、流石にここで鼻の下を伸ばした顔は見せられない。

 半歩下がって見上げると、呆れのため息を吐く顔に視線があった。

 

 

「……ぁ、お前さんに対してじゃないさ。だから、ほら、泣きそうになんじゃないよ、弱々しい顔も晒すんじゃねぇ」

 

「ご、ごめん、なさい……ぅ」

 

 顔についた汗をぬぐう。ぶっきらぼうな優しさがこわばりをほぐし

 

 掴んだ手のひらが、心に安心感の熱をともす

 

 

「……エダさん」

 

「財布忘れた罰だ。手ぇ繋いでずっと離れんな……ほら、人込み多いから肩くっつけとけ」

 

「……熱い、むちむちしてる」

 

「喜べっての」

 

 悪態を吐きながらも握る手は心強い。膨らみに時折頭が当たるぐらい密着して、今は人込みの流れに逆らって端を歩く。

 

 チューブトップとホットパンツ、私服のエダさんと密着して歩く。周りの視線が少し痛い

 

 

「適当に落ち着くぞ、カオマンガイでいいな?」

 

「……はい」

 

 

 ふらり立ち寄って、目の前に見えた屋台食堂。空いている席に坐して、待ってる間にエダさんが料理を取りに行った。

 

 ここはカオマンガイのお店、メニューは一品だけ。チキンスープの染み込んだご飯と焼き目を付けたもも肉、野菜と特製ソースを添えて提供される。ワンコイン程度の値段で腹にたまるし味もいい。良いお店だ

 

 

「……ぁ」

 

 

 久しく訪れた屋台街、まかないで昼食をすますことが多くて利用する機会がなかった。

 

 屋台街の店は乱雑で、どこに何があるかなんて全く覚えていなかったはずなのに、ここは、覚えていた。

 

 ここで食べたカオマンガイ、僕は知っている。

 

 

「…………ぁ」

 

 少し呆けていたら、隣に大きな膨らみがドカンと現れた。というかエダさんだ。

 

「となり座るよ」

 

「……はい」

 

 向かいの席が空いてるのに、とりあえずお尻を横に、そしてエダさんが肩をくっつけてきた。

 

 目の前にカオマンガイを二皿置いて

 

 

「……何悩んでんだ」

 

「?」

 

 

「昨日からだ、急に呆けやがって……何を思ってっか知んねえけどよ、取り合えず冷める前に食え」

 

「……うん」

 

 

 卓上のスプーンを取る。がつがつと横でかっこむエダさんを見て、自分のお腹が鳴っていたことを思い出した。

 

 

「……いただきます」

 

 

 パクチーともも肉、ご飯、甘辛くて濃厚で美味しい熱を胃に流し込む。

 

 考え事を整理するのは、空腹を満たしてからでいい。ここ最近、ずっと頭をよぎっていること

 

 久しく会っていない、僕の師匠のこと

 

 

 

「ん、美味しい……炊いたチキンスープ、丸で煮込んだ鶏肉なんだろうけど、良い味してる」

 

「……飯代の利子は高くつくからな」

 

「エダお姉ちゃんは優しいから」

 

「お前、こういう時だけ姉呼びしやがって……この馬鹿シスター、タレが顔についてんぞ。食べて欲しいならベッドでそう言いな」

 

「ん、むぐ……お姉ちゃんのいじわる」

 

「甘えるなら後にしな、ここじゃ脱げねえっての」

 

 何をするつもりだ、と突っ込むべきか悩んだ。

 

 けど、ついお姉ちゃん呼びしてしまったから人肌恋しい思いが出てしまった。お昼寝は膝枕が欲しい、うん、して欲しい。

 

 

「言い当ててやる、膝枕して欲しいって思ったろ」

 

「……ッ(コク)」

 

「素直だ。素直で可愛い馬鹿シスターだよ……くす、飯さっさと食っちまうぞ」

 

「はい……ん、んっく……コク、うん……おねえちゃん」

 

「?」

 

 

「なんでもない、呼んだたけ」

 

 

「…………スウィーティ」

 

 

 痛いぐらいの加減で頭を撫でられた。

 

 

 

「…………ん(コク)」

 

 

 昼食のカオマンガイを堪能した。エアコンの修理が終わった頃合い、僕らは店に帰るとした。

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 




姉妹の日常的なお話でした。二人でいると高確率でお姉ちゃんと馬鹿妹のごっこが始まります。そんなエダさんとケイティの関係

浮気じゃないよ。乗り換えでもない、バラライカの姐御とのパートも触れたい

本編に至る展開に中々進めないぜ。次回も気ままに投稿
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