麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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新人賞作品も落ち着いたので色々と執筆再会、久々の投稿なのでちょっと短め

でも飯テロにはいい具合の出来かと思われ。夜中に届け、ラーメン食いたい欲求無差別乱射


(71) 悪い娘ケイティの特製こってり野菜ラーメン

 

 

 野菜というのは強烈な食材だ。油脂のコクに頼らず、甘味酸味苦味渋みで奥行きある複雑な味わいを料理にもたらす。

 野菜は便利だ。肉と魚を引き立てる優秀な食材だし、豚骨ラーメンだって香味野菜なくしてあの味は成り立たない。野菜侮るなかれ、とここまではわき役としての野菜の価値についてであるが

 

 僕は言いたい。本当に良い野菜が手に入ったなら、そんな使い方はもったいない。

 

 濃厚な旨さと鮮烈さを持った野菜なら、出汁だけに飽き足らず丸ごとすべて食べさせなきゃ勿体ない。

 

 濁った動物系のスープにだって負けない。野菜を丸ごと磨り潰して繊維も果肉も全部食らわせる。

 

 濃厚な味なのに後味すっきり、食事満足度も高い。

 

 そんな野菜ラーメンを作りたかった。今日僕はなんて運が良い、本当にラッキーガールじゃないラッキーボーイだ……うん、ボーイだ。絶対にボーイのはずだ

 

 

 

 ロアナプラ亭、今日のラーメンは濃厚濁々なあっさり醤油味。矛盾していないよ、野菜こってりラーメンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょう、くそったれがよぉ……俺の酒場を何だと思ってんだこの街の奴らはぁ」

 

 

「バオさん、泣かないでください……せっかくのスープが薄まります」

 

 

「……ちくしょう、染みやがる。健康的で旨いぜくそったれがぁ」

 

 

 

 今日も今日とて店を壊されてやけ酒、そして締めのラーメンを泣きながらすするバオさんを見る。この人、いつも負のオーラ全開でラーメン食べてる。

 

 

 

「いっそ張り紙で武器の持ち込みを禁止すれば、とか」

 

「ロックさん、そんなことすれば銃弾乱痴気パーティーが連日大騒ぎです」

 

「……だね、すぐ想像できた」

 

 

 カウンターで麺をすする姿が実に良く似合う。ホワイトカラーの姿で、濃厚なスープで白を汚さないか心配になってしまう。

 

 それにしても、今日はいろんな顔見知りが足を運んでくれた。今だって、この二人もだ

 

 野菜ラーメンは思いのほか口コミを呼んだ。皆、ジャンクなものばかり食べてると頭の血管が飛ぶのが怖いのかもしれない。

 

 野菜補給という名の塩分過多供給をしに、今日もロアナプラ亭は大賑わいだ。

 

 ちなみに、アメリカン女性なくせにあっさり健康志向な味がお好きなエダさんも味に満足してくれた。ヨランダおばあちゃんは辛さマシマシにして三杯も食べて帰って行った。相変わらずかっこいいおばあちゃんだ

 

 あとは、店のお姉さんたち。知り合いの商人。

 

 殺し屋、ごろつき、常連客も足しげく通った。

 

 そして、今はもう二人だけ。バオさんが泣きながらラーメンをすすって、ロックさんと僕はおしゃべりしている。

 

 年上の、それも日本人のお兄さんだから、なんだか話をしていて落ち着くんだよね。

 

 ただ、妙に僕のことを丁寧に扱い過ぎているきらいがあるから、そこだけは引っかかる。

 

 そういえば、この前買い出しに行く際に荷物を持ってくれたり、足場悪くて躓いたら率先してかばってくれたり。

 

 妙に紳士だった。僕、そんなに弱っちいように見えているのかな?まあ華奢だし、否定できないけど。

 

 

 

 

「くそが、ケイティお前さんが羨ましいぜ……ひっく、俺の店にもケツモチはいるはずなんだがなぁ……なんだよ、酒場が壊れるのは日常茶飯事ってか?」

 

「ひどく壊れるといえばイエローフラッグ、ですね……ロックさん、替え玉はいりますか?」

 

「あぁ、もらうとするよ……今日は酒を入れてないから食事の気分だ」

 

「くそたれがぁよぉ……酒代もバカになんねぇのに」

 

「はい、替え玉どうぞ……バオさんは強く生きてくださいをどうぞ」

 

 

 今日も今日とていつもの深夜営業だ。

 

 それにしても、冷蔵庫に収めた野菜。誤発注で送り返すこともできないあの新鮮な野菜たち、そのほとんどが消えてしまった。

 

 流石にまずいかな?

 

 

 まあでも、今日は売り上げもいいし、最悪お金返せば、うん、張さんも許してくれるはず。

 

 

 

 

 

 

    ×     ×     ×

 

 

 

 

「ご来店ありがとうございました。またのお越しを」

 

 

 

 

 時刻はAM1:23

 

 閉店まではまだ早い。けど、もうスープが残っていない。出せて、何とか一杯程度。

 

 冷蔵庫に残る野菜も少ない。

 

 

 

……これぐらいなら、明日のまかないにカレーライスでも作ろうかな

 

  

 

 ラーメンスープをベースに煮込み料理を作ると結構おいしい。ポトフだったりおでんだったり、カレーなんかもありありだ。

 日本食をエダさんに振る舞う。普段ラーメンばかり作るけど、基本料理は全般好き。

 

 エダさんに喜んで欲しい。そんな思いから昼食や昼食を振る舞うそんな日々。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 時たまに思う。エダさんは大好きだ、いじわるで優しい、本当のお姉ちゃんみたいな、そんな人

 

 全幅の信頼を預ける相手、このロアナプラにて、僕の過去の恥部を明かしている数少ない異性。

 

 でも、最近の僕は少し、甘え過ぎだ。我ながら自覚がある。必要以上に、構ってもらえるために行動している自分がいる。

 

 エダさんからくるけど、結局迎えられる準備をしているのは僕の方だ。

 

 そして、そうなる理由は単純明快

 

 

 

 

 

 寂しい、から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ガララ

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて、センチに浸っている傍から

 

 

 

 

 

 

 

「い、いらっしゃいませ……って、てて……どうして、連絡」

 

 

 

「……あら、予約がないと入れないのかしら?」

 

 

 

 来てしまった。見間違いではなく、幻でもなく

 

 

 

 久しぶりの、肉眼で見るバラライカさんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「——————……ッ」

 

 

 

 

 

 

 バラライカさん、母の如く僕に接して、甘く暖かく包み込んでくれる、とてもうれしいお姉さん。

 

 だけど、あの夜以降からは、すっと温度が冷めて距離を置かれていた。なのに、なのに今

 

 

 

 

 

 

「ばら、バラライカさん……えっと、あぁ……いらっしゃいませ、今用意しますね」

 

 

 

 

 

 店じまいを取り消し、すぐに冷蔵庫から鍋を取り出し、火にかけて暖めなおす。

 

 

 うん、おもうことはいっぱいありすぎる、けど

 

 

 店に来た以上、することはただ一つ、だ。

 

 

「……」

 

 

 珍しく、カウンターに座った。二回の個室ではなく、すぐ目の前に

 

 よくよく見ると、妙に落ち着きがある。それと、自分の鼻は人一倍においに敏感だから、わかってしまう。

 

 

 

 

……匂い

 

 

 

 

……葉巻と、香水

 

 

 

 

 苦くて甘い、大人の色気の匂い。だけど、今はただただ匂いが焦げている。火薬の匂いが、甘さを消している。

 

 だから、いつもなら傍で眺めるだけで体の力が抜けて心が落ち着いてしまうのに、今だけは、妙だ。

 

 身構えている僕がここにいる。

 

 

「あの……バラライカさん」

 

 

 なにか、ありましたか

 

 そんな疑問符を並べる前に、先んじて

 

 

 

「……構わないわ、作りなさい」

 

 

 

「は、はい……————————」

 

 

 

 優しく、ともとれる。低く、そして震えの少ない平坦な言葉。

 

 苛立ち、葉巻を吸いつくすわけでもない。艶やかに優美に、僕を見て微笑む魅力ある女性として振る舞う様子もない。

 

 ただ、そこにバラライカさんが居座っている。

 

 お客として、最低限の振る舞い以外決して見せないように

 

 

 力を込めて、自分を律しているように

 

 

 

……いや、考えちゃ駄目だ

 

 

 

 

…………約束、満足させる一杯を作る

 

 

 

 

 

 今出来ることに集中しよう。僕は、温めたスープに仕上げの行程を加える。

 

 野菜をミキサーで潰して、それらを煮干し鶏ガラ豚骨カツオ節、ベーシックなラーメンスープに溶け合わせてひと煮立ち。そんな単純で力強い作り方のラーメンを、今から作るのだ。

 

 

 

……シンプル、だけど気を付けないといけないのは、野菜の火加減

 

 

 

 過剰に熱して土の風味を壊さないように。とくに、野菜は熱を加えると味わいが甘味に突出するからその点は注意しなければならない。

 

 だからこそ用意する鍋は二つ。

 

 ズッキーニ、アスパラ、ピーマン、灰汁の強い出汁は動物系スープで強く煮立たせる。油脂のコクと苦みを調和

 もう一方で、魚介の出汁は煮立たせ過ぎず、そこへソラマメ、インゲン、皮を剥いたナスとトマト。フレッシュな甘みと酸味を飛ばさないように軽く煮立たせる。

 

 野菜は固かったり色合いを損ねるモノは下処理、それ以外は可能な限り丸ごと投入。ミキサーで磨り潰して、繊維も果肉も全てスープに煮溶かして創り上げる。

 

 そうしてできた温度差のある二種の野菜スープ、魚介と動物、ダブルスープが出来上がればすぐに仕上げだ。

 

 たまり醤油をベースにまろやかでコクのある醤油ダレをドンブリに注ぐ。そこへ熱々の動物系スープ、その上から被せるように魚介。

 

 最初に香り立つは新鮮な野菜の風味と魚介の香ばしさが混じった風味。食べ進めていく内により癖のある野菜の風味と鶏ガラ豚骨のコクが合わさっていく。

 

 食べ進めるたびに、複雑さが増していく。強烈で鮮烈な旨さを持つ野菜があってこそ、このラーメンは成立するのだ。

 

 

 

 

「……よし、出来ました。どうぞです、バラライカさん」

 

 

 

 

 具はチャーシュ二枚、そこへ薬味にネギと、ミョウガを置く。

 

 具も野菜ラーメンらしく仕上げている。メンマに変わる触感の良い具材に茹でたアスパラと炙って熱したパプリカの細切りを添える。

 

 バラライカさん好み、あっさりしつつも奥行きのある、ボルシチの濃厚な味わいにも負けない味わい。立体感ある味の構成。そして旨さの柱にトマトを際立たせている。

 醤油ダレにはドライトマトを採用した。三ツ星淡麗塩ラーメンと同じようにだ。

 

 

……さあ、どうなる

 

 

 奇しくも、今日食べさせられるラーメンはバラライカさんの舌に合いやすい条件だ。

 

 

 だから、きっと満足してもらえる。

 

 

 そう願って、固唾を飲み実食する姿を注視する。

 

 

 

 

…………ずるるる

 

 

 

 

 きっと満足してもらえる、そう思う以外他にない。

 

 そして、これまでの経験からして、きっと満足してもらえると心の底では確証に近い安心感もある、あっていいはずなのに、だ。

 

 なんだか、妙だ

 

 

 

 

「…………あぁ、美味しい味ね。とても新鮮な野菜の風味、うま味」

 

 

 

……ずるるる

 

 

 

「混ざり合ってより複雑になるスープ、たまらないわね……ほんと、あなたの料理は格別……褒めてあげたいわ」

 

 

 

 

「え、やった……えへへ~」

 

 

 

 

「これが盗んだ食材じゃなければね」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丁寧に

 

 フラグ踏み抜く

 

 僕のバカ

 

 

 byケイティ

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 

 




今回はここまで、野菜ラーメン作って有頂天ケイティは即落ち2話。無事撃沈です

次の回でバラライカの姐御がどうしちゃうのか、お楽しみに



感想・評価等貰えると幸い。モチベ上がって執筆の励みになります。あとケイティが逆セクハラされる因果律も上昇します。
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