麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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タイトルで察した人は生粋の頭ロアナプラ民です、誉れ


(76) 火

 タケナカさんとお話をした。

 

 タケナカさんを満足させるラーメンを作る為に聞き込みをしたわけで、けれどあまり良い回答は得られなかった。

 

 

……国を出る前に食べたんだ。あれは凄かった、今でも忘れられない味だ

 

 

 そんな言葉を頂けた、でもその味を具体的には説明できないみたいだ。

 なにぶん昔だし、かなり美化されているからこそ詳細を欠いている。

 

 場所は東京の屋台。だけどそれだけ、それ以上もない。

 

 昔からあるトンコツラーメンとしかわからない。

 

 トンコツラーメン、豚骨を用いて作るシンプルなラーメンならば間違えようのないはずだけど、それでも僕の出したものはタケナカさんのしるトンコツラーメンではないと言い切られてしまった。

 

 過去に食べたものに比べればインパクトに欠けるという理由からだ。何をもって欠けるかは、タケナカさんにもわからないということだ。

 

 

 

 

 なので、作るべき味は決まった。

 

 

 

 

 

 

 約束に日に来てくださいと取り次いだ。タケナカさんだけど、なんでも次の仕事の準備のためにしばらくロアナプラで滞在しているらしく、仕事が無い時間はもっぱらお酒を飲んで気楽に飲んだくれ親父をしているとのこと。アーシェ姉さんから聞いた。

 ローワンさんの店に入り浸り、仕事相手と思われる誰かと楽し気に歓談していたとか。それに、嬢の皆との遊び方も紳士的で、一部の姉さんたちは逆に入れ込んで夜の誘いをしているとか。

 

 謎なお人だ。しかし、それを明かしたいとは思わない。ロアナプラにいる人間で、それも日本人なんてなれば碌な人はいない。うん、ブーメランだ。頭に刺さって痛い。

 

 

「おい、お前さんちゃんと歩くね……ここ、か弱い女子の尻なんかあっというまに剥がされちゃう場所ね……ちゃんとついて来るしないならボディーガード意味ないよ」

 

 

「すみません」

 

 

 シェンホアさんの言葉を聞いて速足、そうだ。考えことばかりしてたらダメだ。

 今、僕がいる場所は危ない場所だ。ロアナプラ自体が危ない街ではあるけど、それでもここは来たいとは思わないイカれたゴロツキの集まる場所。掃除屋ソーヤの住まいがあると言えば、誰もが納得するだろう。

 

 下町の雑多なビル群を抜けてちょっと治安の悪い場所に足を運ぶ。そこは薄暗い通りで、妙に音が静かだ。

 

「……あの、ここって」

 

「妙に静かだって言いたいね?そりゃそうなるます、ここは変人ばっかよ……変な癖やら思想やら、まともな殺し屋いないよろし」

 

「なるほど、アウトローのなかでもイレギュラーの人たちが集まる場所ですか」

 

「そういうことヨ、ですから迷子なるは死ぬ思うネ……死体はバラす、犯す、食べる、だいたいそんな感じで無くなるから葬儀屋要らずネ」

 

「……あの、くっついていいですか?いいですよね。」

 

 

 シェンホアさんの腕に抱きついて、この恐ろしいサイコパスの吹きだまりに来たことを早々に後悔。

 

 娼婦売春関係の人達がいっぱい集まる場所なら散歩できるぐらいには慣れてるけど、ここは毛色が違いすぎる。

 

 往来で並ぶ酒場にはその手の依頼の交渉や支払いをするやり取りやら喧騒やら、そのまま銃を抜いてバンバン殺し合っていたりして、とにかく荒っぽい。

 荒っぽいだけではなく、とにかくおぞましい。

 

 道端でうずくまる浮浪者も、ギラギラした目で通行人を見ている。僕も視線をたくさん浴びるけど、そこはシェンホアさんの隣ということもあってどうにか安全を維持できている。もしなければ、考えたくないッ

 

 危ない場所だ。来たくない場所だ。

 

 

 でも、仕方ない。取引先の相手の要望でちゃんと顔を見て物を扱いたいと言うから、仕方ない。

 

 気の合う人としか商売をしないらしい。

 

 

 

 

「まったく、お前さんいったいどんなつもりでこんな場所に……ケイティ、お前欲しいもの、本気か?」

 

「はい、火炎放射を」

 

「……お前さん、商売替えでもするつもりならやめておくよろし」

 

 

 変な勘違いをされてしまった。間違っても僕は人殺しを商売にするつもりはない。

 

 あくまで料理に必要なのだ。だから、張さんを頼み火力の高いものをと頼んだら、数珠つなぎで結果ここに至ったわけである。

 

 

 

 

「……ここね、ここのモーテルにそいつはいるます。危険を感じたらすぐに連れ去るからわかった言うよろし」

 

 

 

 太腿のスリットの布をずらす、扇情的なラインと艶やかな肌に目が行くと同時に投げ短刀の刃が光る。背中が震える。

 

 一応は守ってくれる、とのことだ。そういう契約だ。

 

 

「わかりました、シェンホアさん……守ってくださいね」

 

 

「可愛いお前さん死んだらこっちも不都合ね……無理するは駄目よ、子は長生きする大事ね」

 

 

 そっと頭を一撫でされる。常連のお姉さんは皆等しく頭を撫でてくる、レヴィさんを除いて。

 

 自分ではあまり好きになれない容姿と背丈だけど、良い印象を持ってもらえるのはありがたい話だ。だから、これから会う初対面の人にも、それが通用してもらえると助かる。わりと、切実な話。

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

~アブレーゴ~

 

 

「鍋ならなんとかなりそうだが、ソレは難しいな。取り付けの際に一番性能が良いレンジを用意させた、それで足りないってなりゃ、難しい話だな……そこまでして必要なのか?」

 

 

 

 

 ビル丸ごと新調してくれたアブレーゴさんが言うのだから、きっと無いのだろう。業務用のガスレンジでは足りないのだ、火力が必要なのだ

 

 見つからない。しかし、今から業者を探して急で用意してもらって間に合うのか?もっとすぐに、約束の日は近いのだ。このさい、レンジに拘らなくてもよいのでは?

 

 

「……火炎放射なら、ガスレンジより火力のあるもんは手に入りそうだが」

 

 

「あ、じゃそれで」 

 

 

「おいおい、冗談で言ったんだが……」

 

 

「ありがとうございますアブレーゴさん、今度お店に来たらよしよししてあげますね」

 

 

「————ッ!?」

 

 

「なんて、冗談です。えへへ~、じゃあ切りますね、今度はお店で会いましょう」

 

 

「ま、マリアッ……俺の、母に……はッ、今のはちがッ!忘れ」

 

 

 

 電話を切る際に何か言っていた気がするけど、良く聞こえなかったしいいや。

 

 

 

~張維新~

 

 

 

 

「火力の高い火炎放射器か、そんな物をお前に渡してミス・バラライカが良い顔をすると思うか?」

 

 

 

「……無理ですか」

 

 

 

「そんなものは勝手に手に入れろ……だが、教会あたりなら何か知っているかもな。武器の話はあそこに集まるだろうが、問題は顧客の個人情報だな……お前さんには色々と甘いはずだ、なんとか頼み込んでみるんだな」

 

 

 

「おばあちゃん、頼んだら教えてくれるかな」

 

 

 

「ヨランダ婆さんのことか、末恐ろしい孫娘だ……とにかくだ、殺し屋相手との交渉ならボディーガードを付けておく」

 

 

 

「殺し屋……確かにこの街ならいてもおかしくない、放火魔の殺し屋、物騒な話です」

 

 

 

「料理の為に火炎放射を注文する奴も大概だと思うがな」

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 人伝に人伝、最終的にたどり着いた場所はとあるモーテル。殺し屋達が好き好んで住む場所だ、碌な人はいないと覚悟してドアベルを鳴らした。

 

 

 

「やぁ、話は聞いてるよ……どうぞ中へ入りなさい」

 

 

 

 中肉中施、白人社会で見かけるおじさん、おっさんの類の人。そんな印象の、とにかく普通の外見の人だ。一般人にしか見えない。

 

 それもタケナカさんと並ぶぐらいには人当たりが良い、そんなお人だ。

 

 

 

「初めまして、麺処・ロアナプラ亭の店主のケイ・セリザワです……皆からはケイティって呼ばれてます。本日は商談を受けて頂き誠にありがとうございます」

 

 

 

 思いつく限り丁寧な言葉で、丁寧な振る舞いで接する。礼をして表を上げると、相手もまた

 

 

 

 

「クロード・トーチ・ウィーバー……しがない殺し屋だ。よく来てくれたね、ミス・ケイティ」

 

 

 

「すみません、僕男です」

 

 

 

「そうか、失礼したねミスター」

 

 

 

 笑顔を見せる。殺し屋と名乗る割にはまったくそうは見えない。血の匂いはしないし、代わりに焼け焦げた匂いばかりだ。

 

 

 

「————ッ」

 

 

 

 シェンホアさんが僕の肩に触れている。まるで、何時でも背後に逃がせるようにしているみたいだ。

 

 

 

「立ち話もなんだろう、奥に来て欲しい……見せたいものがある」

 

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 

 部屋の奥に進む、一人で住むには妙に広いのは仕事道具の置き場所の為だと理解したけど、それにしても壁紙や天井にに焼け焦げた跡が多い。

 

 部屋のいたるところに危険物と思われる道具が置かれている。可燃物だろうに、無造作だ。ここが火元で街に大火事が起こってもおかしくない、というか部屋が燃料臭い。

 

 

「煙草は厳禁で頼むよ」

 

 

「吸いませんのでご安心を……これは?」

 

 

 

 なんとなく目の前に置かれている瓶の様な水筒の様なものを見る。飲み物、ではなさそうだ。

 

 

 

「これは昔趣味で使ったテルミットだよ。初恋の彼女へ選別に使った残りをね、インテリア代わりに置いてあるんだ」

 

 

「はぁ」

 

 

「こっちは妻との思い出だ……良い火力を出してくれる、今でも仕事道具にしているよ」

 

 

「……思い出」

 

 大きなタンクと繋がった火炎放射器、シェンホアさんが警戒してしまった。

 

 リアクションに困る。しかし、ここで狼狽しても仕方ない。

 

 

「お前さん、本気で交渉する気か?」

 

 

「そうですよ、その為に来たんですから」

 

 

 自分をサラリーマンと思い込んで、僕はクロードさんの話に耳を傾ける。

 

 

 

「これはガソリン、こっちは鯨油をつかっている……色々と試行錯誤していてね。良い火力を出すためには燃料から厳選しないといけない」

 

 

「良い火力、それは……なんとなくわかります」

 

 

「ほぉ」

 

 

 

 顔がパッと明るくなる。

 

 火の話となると嬉しいのか

 

 

 

「熱を通すモノによって必要な火力は変わりますが、やっぱり強い火力は魅力的ですね。一瞬で表面を高温にして全体を包みこむ」

 

 

 

 うま味を逃さないように、遠火の強火、焼き物の基本だ。

 

 

 

「そうかそうか、いやあ確かにそうだ……火が大きければ良いというわけじゃない。見た目の美に甘んじて肝心な熱を伝えなければ意味がない……わかる、わかるとも」

 

 

 

「長時間火を通す際も常に安定に温度を与えたいですから、良い火力、そして安定した火加減……求めればきりがないですが、こだわりますよね(揚げ物なんかを作る際はとくに)」

 

 

「そうとも、そうともそうとも!妥協はできないんだ!!……火は繊細だッ……使うモノが浅慮では火も浅くなるッ……芯から熱を灯して一瞬で焼き上げることが出来た時の快感は実に艶やかだ!……あぁ、君は良い趣味をしているね……仲良くなれそうだ」

 

 

 

「僕も火は使いますからね、火加減に関しては常考えることはあります。アツアツでぎゅっと引き締めて、中からじんわりと熱を入れる……焼きすぎず、かといって焦がしたら意味が無いです(焼き豚のチャーシュー)」

 

 

「焦がしてはダメなのか?」

 

 

「えぇ、表面だけに焼きを入れて、そうしてじっくり火を通す……内側がジューシーになって良い仕上がりになるんです。(チャーシューは)実に艶やかな見映えですよ」

 

 

 

「最初は高温で、そして後は低温でじっくり……なるほど、それは盲点だった。いや、若いのに教えられたね」

 

 

 

「え、何か役に立つこと言いました?」

 

 

 

「殺しの役には立たないけどね、良い情報だったよ(半殺しの方法のね)」

 

 

「そうですか、仕事が違うから余計な話かと思いましたが……そうですか、それは良かったですね(チャーシューでも作るのかな?)」

 

 

 

 和やかな空気が流れる。怖い人のようだけど、案外気のいいおじさんかもしれない。

 

 後ろでシェンホアさんが何かを言いたげに見ているけど、どうしたんだろうか。

 

 

 

「よし、君のことが気に入った。商談は成立だ!」

 

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 固い握手を、ちょっと痛いぐらいの握手を交わした。

 

 

 

次回に続く




次回、実食


火炎放射おじさんは本来もっと後の登場ですが、一足先にロアナプラで移住していることにしました。常連客にしてラーメン食べさせるかまでは未定

キャラの濃いモブキャラは積極的に出していきたい。
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