麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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久しぶりの投稿、煮込みすぎて超濃厚なトンコツスープ出来ちゃう。

個人的にトンコツラーメンはドロドロよりもほどほど濃厚、そして臭いのがいい。


(77) 約束のトンコツラーメン

 

 

 大腿骨、頭骨を1日水に付けて血を抜く。血抜きをした骨は一時間ほど下茹で、湯を捨てて骨を洗い骨をハンマーで叩き割る。下処理を終え、髄を剥き出しにした骨を鍋に投入。トンコツラーメンだから当然他の出汁になる具材は要らない。他に入れるのは香味野菜だけ、丸のニンニクと生姜、そこに雑に刻んだ玉ねぎニンジン長ネギセロリ。かなり煮込んで濃厚な豚骨スープにするから臭み封じは徹底しなきゃならない。

 

 必要な工程は普段のトンコツスープ作りと変わらない。大事なのは不要な臭みを取り除くこと。そのことに徹底するだけ、だからある意味シンプルな作り方だし根気さえあれば誰でもできる。でも、誰でもできることを毎日何時間も繰り返すのだから手間暇は複雑な味わいのラーメンにも負けていないどころか上回る。根気よく煮込んで作るトンコツラーメン程大変なことはない。

 

 ここまで、タケナカさんを満足させるために挑んで何日も試作に明け暮れた。その工程は地味で辛いもの、とにかく根気を詰め込む作業だった。

 だからこそ、つぎ込んだ根気が美味しさという成果につながる。実際、試作段階で出来上がるスープには皆満足だと声を上げてくれた。

 

 自分の頑張りを誇りたい気持ちもある。けど、やっぱりクロードさんから貰った何やら禍々しい火炎放射器の賜物だ。火力のおかげでここまで理想の調理に近づけたのだから。

 

 トンコツスープを作る原理は乳化、油分と水分が骨髄から出るゼラチンによって一体化しまろやかな液体になる。これが大事だ。

 乳化を促す為にも強い火力は必要。液体は100度を超えないけど強い火力によって鍋の中は大きく揺らぐ。その揺らぎが鍋の中で骨髄をかき回し圧力を加え、骨からうま味と油分とゼラチンが効率よく抽出される。

 火力が必要になったのはそういうことだ。より強くトンコツスープを作る為、さらに煮込み時間を短縮するため。僕は最高の火力を求めた。

 

 トンコツスープは一度完成すればそれで終わりじゃない。出来上がったスープにまた新たな豚骨を入れて煮込むことを繰り返し、水が蒸発すれば足して豚骨を入れて、作り続けてこそ味が深くなる。ちんたら作ってタケナカさんを待たせるわけにはいかない。

 

 

……試作は十分、いよいよ明日だ。

 

 

 火力のおかげでなんとかタケナカさんの約束には間に合いそうだ。

 明日、とにかく明日だ。きっと、このトンコツラーメンなら満足してもらえるに違いない。

 でも、タケナカさん一人に振る舞うにしてはスープの量もありすぎるし、まとめて買ったトンコツもまだまだ余ってる。

 しばらくはトンコツ系のラーメンが続く。これからが大変だ。

 

「ケイティ、スポドリ買ってきてあげた……って、熱ッ!」

 

「アーシェ姉……ごめん、そこに置いといて」

 

「……あんた、よく一人でやれるわね」

 

「美味しい料理の為なら火もまた涼し……くはない」

 

「無理はしないでよ、ほんと」

 

 差し入れに来たアーシェ姉さんに心配されてしまった。まあ、実際ここは熱いし、最悪の職場だろう。

 

 上質なトンコツスープを作るために調理場を拡張した。外に。

 店の裏に納屋を立てて、その中に高火耐性の竈を三つ、そこへクロードさんの火炎放射器を搭載して常に火を焚いている。

 

 ほぼ屋外、でもはっきり言ってすごく熱い。

 

 汗がダラダラだ。

 

 アイスでも食べたいけどすぐ溶けてしまうだろう。

 

「……あっつ」

 

 以前に料理関係の資料で日本のグルメ番組を見た際、すっぽんの鍋の火を見てびっくりしたけど、こっちの方がずっと迫力もある。

 安全な場所に立っていて熱気で汗が出てはすぐ乾く。でもすぐに汗が出る。ぬるくなったスポーツドリンクを飲んでいないと今にも倒れてしまいそうだ。

 

 うん、それにしてもこの火炎放射器すごい。まるで兵器だ。あぁ、そうだ兵器だった。

 

 

「ケイティ、ローワンから苦情だよ……近所で何臭い匂い垂らしてんだって」

 

 

「アーシェ姉さんから説得して、これだけはどうしても必要だから」

 

 

「わかった、じゃあ後でキスして頂戴」

 

 

「わかりました」

 

 

「え、いいの……じゃ、やっぱりセ……って、なに、今いい所……は?ダンス??……んなもんコリンネに、ああちょっと!!」

 

 

 姉さん達にアーシェ姉さんが連れていかれた。うん、熱気と茹る鍋の音であまり話が聞けていなかった。アーシェ姉さんなんて言ったんだろ、まあいいや。

 それにしても、下処理をしてもこの匂いは堪えるものがある。苦情が来るのも、正直仕方ない。

 

「……臭いな、まあでもマシな方か」

 

 蓋を開けたまま煮込み、アクが出れば掬い取る。ラーメンとして提供する頃には良い具合に臭いも消えているだろう。

 普段よりずっと味の強いトンコツスープが作れるということは普段よりも匂いが強いスープを作るということだ。骨から出る雑味、取り切れなかった血のカス、エトセトラだ。

 根気はいる。熱い鍋の前に立ち、臭みのもとを丁寧に丁寧に取り除く。大変だけど、美味しさの為に手は抜けない。

 

 作るラーメンはトンコツラーメンの原点ともいえる逸品。

 トンコツの魅力を今以上に引き出すためにもできることは全部やらないとだ。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

「で……毎日毎日汗だくになって悪臭に塗れて、なあ、おい」

 

「……ん」

 

「一緒にいる奴の気にもなってみやがれっての。あの人に嫌われちまったら尼さん商売も上がったりだよ。」

 

 熱いではなく温かい。

 

 外は熱帯夜だけど、不思議とお風呂のお湯が暖かいのは気にならない。頭からかぶる程よい温度のシャワーが心地いい。

 

 汗も匂いも、一日の苦労も全部泡となって流れ落ちる。

 

「トンコツ臭いったらありゃしねえ……香水にしてもマシなもんがあるだろうが。ったく、しゃあねえ」

 

「……あたま、きもちいぃ」

 

「口閉じてな、泡飲んじまうだろが……おら、動くな動くな……馬鹿シスター、綺麗にする手間も考えやがれっての」

 

 スープの試作で体にこびり付いたトンコツ臭が酷いから、試食に手伝ってくれたエダさんと一緒にお風呂に入る。

 

 もうすっかり習慣になってしまった。ここ最近ほぼ毎日だから。

 エダさんとお風呂に入るのがほぼ毎日。ここ一週間、で

 

 朝と夜にも入ることあるから、週に14回だ。

 

 自宅のお風呂は家庭用のちょっと大きめな程度だから、二人で入っても余裕のあるお風呂がいいなぁ。すごく贅沢な悩みだ。

 

「バラライカさんのホテル……あそこのお風呂、大きいですよね」

 

「ぁ?……まぁ、確かにありゃでけぇわな。けどよ、狭い方がいいこともある……互いに密着できんだろ」

 

「……バラライカさんも一緒に……いたッ」

 

「強欲だ、馬鹿シスター……それと裸の女と風呂入ってる時に他の奴の話なんてすんじゃねえ。嫉妬で噛みついちまう」

 

「吸血鬼ですか、ルーマニアですよ……アメリカ人さん」

 

「上げ足とるんじゃないよジャパニーズ……ほら、もっとバストに頭あてろ。ふらついて倒れたらあぶねぇだろ」

 

「……気持ちいから、ねむい」

 

 

 授業中の居眠りみたいに、頭をシャカシャカされていると舟をこいでしまう。前に傾いて、そのままふらっと倒れそうになる。

 

 安眠が足りない。夜更かしのせいだ、つまりエダさんのせいだ。 

 

「寝るな、こら」

 

「……きもちいぃ」

 

「床屋じゃねえっての」

 

「……耳の裏あたり、とか……もうちょっと、強くしてほしい」

 

「床屋じゃねえっての……痒い所、ここか?……ぁ、ここなんだな……よし、よしよ~し……ん…………ふふ、ここか……ここが良いのか?……そっか、ほら……おっし、お~しおし……きもちいいな、声出ちまうよな……おい、目開けんなよ。顔も綺麗にしてやる、ほらあともうちょいだ」

 

「…………うん、ん……ぁ、はあぁ、んぅ」

 

「よし、がんばった……流すぞ」

 

 

……ジャァー

 

 

 約束の日が明日、試作に次ぐ試作でようやく物になった気がする。でも、硬いトンコツをたたき割ったり、根気よく鍋の前に経ったり座ったり、地味な作業だけどトンコツスープだから長時間の労力がかかる。

 

 でも、苦労して煮込んだスープはどろどろで濃厚で、食べれば食べる程病みつきになる言葉違い無しだ。

 

 

「……まだ匂うぞ」

 

「うそ」

 

「嘘つかねえよ、こちとら神の使徒やってんだ……ほら、体も洗うからスポンジかしな」

 

「……ぁ、ボロボロになってたから捨てちゃった」

 

「新しいのは、外か……取りに行くのも面倒だ。このまま洗ってやる」

 

「……おもい、柔らかい……苦しい」

 

「上物だよ、文句言っちゃあ地獄に落とされるぜ」

 

「……エッチ」

 

 

 

 明日だ、とにかく明日。このトンコツラーメン問題に終止符を打つ。

 

 作るトンコツラーメンは、博多トンコツラーメンではない別のトンコツラーメンだ。

 

 言うならば、トンコツラーメンの原点になる逸品だ。 

 

「……においますか?」

 

「今は女の匂いしかしねえよ……アタシの匂い、いっぱい付けて置いたから感謝しな」

 

「……おっぱいとふとももと、柔らかいのがいっぱい」

 

「そこに詰まってんだよ、女の匂いってのは」

 

「……むちむち」

 

「誰のせいだっての」

 

「誰だろ……ぁ、んぅ……ひゃ、エダしゃん、甘噛みやめて……声出ちゃう、ひゃぅ」

 

 

 

 タケナカさんにはわざわざ頭を下げて期日を伸ばしてもらった。

 

 約束に日まで、僕は通常営業をしながらスープを試作し続けた。そうして、やっと出来上がった渾身のトンコツラーメン、人を選ぶけどアブレーゴさんや張さんは美味しいと言ってくれた。

 

 久留米トンコツラーメン。明日はそのお披露目だ。

 

 

 

「まあ、とにかく明日でトンコツ地獄も終わりってこった……ん、ぁむ……ぅ、はぁ……あっさりした塩ラーメンでも作っておくれよ……前に作った冷やし中華でもいいね、ありゃさっぱりしてて超イケる……ぁ、れぇる……ぅ、じゅる」

 

「……ん……甘噛み、くすぐったい……吸わないで、何も出ない」

 

 

 首筋、耳、いっぱい吸われる。抱きしめられて逃げ場がない。

 

 

「チェックだ……まだ、味が残ってやがる……ほら、綺麗にしてやっから……良い声で泣きな」

 

「え、ちょっと……あ、セクハラ駄目……な、何で急に」

 

「トンコツ臭以外にもついてっからな……デスダヨ中国人の匂い、こんな所にこもびり付いてやがる」

 

「あ、だめ……ぃ、抱き着いただけですから、防犯上必要で……ぁ、やだ、お風呂のお湯汚れちゃうからぁッ」

 

「……明かりは消してんだ。暴れると危ないだろ」

 

「うぅ……あ、明日は大事な日ですから……そ、そういうのは」

 

「うるさい口だね、塞ぐぜ」

 

「い、イケメン過ぎる台詞……ぁ、はうぅ、んぅ、んむむッ」

 

 お風呂で汗を流したのに、僕らはまた汗をいっぱいかいてしまった。

 布団のシーツも、またクリーニングか買いなおしか。こんなこと師匠に知られてしまたらどやされるだろうな。

 

 

〇 翌日

 

 

 さあ約束の日。前日のスープ、鍋ごと冷却してから冷蔵庫にしまったスープ鍋を暖めなおす。

 用意は出来た。あとは、タケナカさんが来るのを待つだけ、なんだけど

 

「あった、値段は……30ドル……地味に高いな」

 

「んだよそれ」

 

「紅ショウガです」

 

「んだよ、ただのピクルス程度に人をタクシー扱いかよ」

 

「失敬な、日本の牛丼愛好家に怒られますよ」

 

 

 ちょっと買い出し、エダさんのバイクに乗せてもらって市場まで足を運んだ。

 ロアナプラの市場だから、タイのアジア風な物以外にも色んな土地の文化が混ざって中々に混沌としてる。そんな市場では最近日本の食品が買えるお店もちらほらと増えてきたのだ。

 ちょっとしたもの、保存の聞く調味料や加工品なら市場に行けば買えることもある。外注で業者に頼む以外にも即手に入れられる手段があるのはありがたい。

 まあ、それにしても高いけども。

 

 

「付け合わせの定番なんですよ……さあ、帰りましょう」

「しっかり捕まりな、けど運転中に胸揉んだらお仕置きするからね」

 

「この前はごめんなさい」

 

「まあ、場所さえ選んでくれりゃあ別にいいけどよ……てか、ケイティよ。自前のバイクとかスクーターはあっただろ?……なんで使わねぇ?」

 

 

 

「……色々とやらかしまして、主にロベルタさんの時に」

 

 

「あぁ、なるほどご愁傷様だ」

 

 

 バイクはおじゃん、それに荒っぽい走行の危険を咎められてスクーターすらも危険視されている。乗るな、乗らせるな、僕の移動手段は徒歩かタンデムか相乗りだけだ。

 

 不便だから自転車でも買おうかな?ロードバイクなんかもいいかも。

 

 

「どこかピクニックでも行きたい、ランチバスケットを持ってのどかな時間を過ごしたい」

 

「そりゃいいな、あたしもご相伴預かってもいいかいマドモアゼル?」

 

「もちろん……最近はドンパチもないですし、平穏な内に平穏を満喫しないと」

 

「おいやめろバカ、んなこと言ったら前振りになんだろうが……お約束ってのを知らねえのか?」

 

「大丈夫ですって、さすがに……ねぇ」

 

 

 ロベルタさんの騒動が良くも悪くもかなり大きく爪痕を残した。ロアナプラ亭に手を出したらどれだけ大事になるか、町の皆はよく知った。

 

 地の底みたいなローグタウンでも皆が皆好んで地獄を作る訳じゃない。心地いい地の底の秩序を皆好む。そのはず。

 

「そう簡単に悪いことは起こりませんよ。また店が壊されるなんて」

 

「ケイティッ!!」

 

「……へ?」

 

 

 

 

 急ブレーキ、バイクが金田もビックリな横停止をする。僕はエダさんに捕まって

 

 

 

 

 

「あの、いったい」

 

 

 

 

 

 

 何が、あったのか、そう尋ねた時

 

 

 

 

 

 

……パシュ

 

 

 

 

 

 

「ふぇ」

 

 

 

 

 

 

『ドゴォオオオオオオオンッ!!?』

 

 

 

 

 

 何か、間の抜けた音が耳に触れた瞬間、轟音。視界には爆炎。

 ロアナプラ亭の入り口が爆発した。爆発した。爆発したのだ。何が?はい、ロアナプラ亭がです。

 

 今日の教訓、口は災いの元

 

 

『ドォオオオオオンンッ!!』

 

 

「ぎにゃぁあああああああッ!??」

 





気ままに執筆、飯テロありエチエチありバイオレンスありでお送りします。



次回の投稿もお楽しみに
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