麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
最近のロアナプラ亭はコッテリしすぎている。
豚骨ラーメンを探求して連日博多屋台の匂いを撒き散らし、火炎放射で超濃厚な久留米ラーメンまで手を出して、そして最後は激辛ラーメンで悪臭一歩手前の味を客に提供しました。
お客さんには好評とはいえ、さすがに片寄りすぎた。だからか常連のおじさんから、たまにはあっさりでも良いんじゃないかって言われてしまった時は顔が熱くなってしまった。
アンバランスで尖った魅力のある料理こそラーメンなんだけど、あっさりしつつも奥行きのある大人しい味もまたラーメン。バランスを崩すのもいい、でもバランスを守ってこそ作り上げられる味もある。それを忘れてはいけない。なので、ロアナプラ亭は当面あっさりラーメンのお店に方向をチェンジ。
タケナカさんの件も終わったのだから、ワンパターンは避けねば。なにせ、ロアナプラ亭は日替りラーメン屋、毎日違う味を楽しんでもらえる楽しいお店なんだから。
「できました、どうぞ」
本日のラーメンはシンプルな醤油ラーメン。前日から準備しつ、目指す味はあっさりしつつも奥行きのある美味しいラーメン。調和した味わいのラーメンを作りたい。
そんな思いから、取り寄せた食材を手に僕は頭を巡らしていた。出来上がりの絵図を浮かべ、模索しながらも最適なバランスを構築してスープを仕上げる。
店を開く、少し早めの時間、約束の定刻通り足を運んだエダさんにさっそく試食を頼んだ。
出来上がったら箸を手にずるる、スープを一口、二口、結果、開口一番に出た感想は
「まずい」
「……ストレートに言われると悲しいです」
やはりというべきか、提供した一杯は三口に至らずそこでストップ。
箸をおき、エダさんは難しい顔を僕に向ける。
「風味は悪くないが………海老の味が尖っててマズイ。トンコツも鶏ガラも中途半端に感じるからいっそ邪魔だな」
「ですね、煮干しとなら釣り合いのバランスは慣れてるけど……やっぱり、出来は悪いですか」
「悪い、少なくともロアナプラ亭の看板で売る代物じゃないね、常連のアタシが保証する」
「……頼りになる意見です」
公正な判断、客観的に味を知った上で判断してくれた。そこは間違いない、気を使うことなくエダさんは現実を突きつける。
「んだよ、スランプにでもなっちまったのか?……こんな味じゃあ打率2割程度、速攻首切られて球団からケツ蹴られちまう」
「ですよね、僕もそう思います……下げますね」
香りは、そこまで悪くない。だって、スープを漂うのは香ばしい海老の匂いだから。
スープはシンプルに醤油ベースのタレに合わせるため淡麗系に取ったモノ。海老を引き立たせるために抽出した動物系のスープ。タレにも海老の頭を煮潰してコクを加えたつもりだった。しかし
「海老の味がうるさくてまずい……食えないわけじゃねえがよ、これならコッテリ濃厚なスープにしちまったほうがいいんじゃねえか?はっきり言ってバランスが悪い味だ、半端に海老で、半端にまずい。海老が余計だなこりゃ」
「……よくおわかりで」
的確な指摘だ。海老を使って美味しいラーメン。表現しようとしたのだけど、結果はこのざま
芯にも当たらず、ぶつかっても飛ばず明後日の方向。
「打率三割はイケるかと思ったんですが」
「無理な話だ、小便みたいなファール打ち上げて終わりだっつの……こんな味、馬鹿な酔っ払いにゃいいが舌の肥えた常連客に出せねえだろ。店は閉めとけ、無理すんな」
「……あ、一応煮干しスープのストックがあるので……今日は別の味にします。海老ラーメンはまたの機会にですね」
どんぶりを下げ、残る干し海老スープを僕は厨房の床の側溝へと流して捨てた。仕方ない、出来の悪いものを残してもどうしようもないのだ。
「……バランスの見極めかな、もっと作って海老を理解しないと」
「研究熱心で良い子だね……まあ、アタシはあんたを信じて待つさ。次は、腹に溜まる程度には食わせてくれよな。シスター、愛してる」
代金を多めに置いてエダさんは店を出る。
一人残る僕は、徒労を吐き出し大きなため息。もったいない、そして悔しい。
「今日のラーメン、用意しないと」
冷蔵庫を開けて、別で用意していたトンコツスープ、そして魚介食材を取り出す。あっさり煮出したトンコツと鶏ガラスープに乾物の節類の出汁を会わせてベーシックな醤油ラーメンを作ろう。
たくさんの煮干しカツオ節、アジ節、乾物類を個別にまとめたビニール袋の中をまさぐる。
探していると、乾物にまぎれて幾つもの干した甲殻類食材を見た。
「干しエビのスープ、中華料理を参考にして……うん、明日はもっとよくなるはず」
自分を鼓舞、せっかく張さん紹介の業者を頼り、中華のモノから日本のものまで質のいいモノが手に入ったのだ。今日みたいに無駄にすることはしたくない。
「がんばろう、千里の道も一歩二歩」
未だ僕は海老の美味しいラーメンを作れていない。
それが本当に悔しくて、歯がゆくて仕方ない。仕方ないけど、この悔しさは本当に納得のいくものが作れるまで解消しないのだ。
「大変だなぁ、それにしても師匠は何で教えてくれなかったんだろう……いや、そんな泣き言ったらだめだ。自分で乗り越えないと」
× × ×
日替わりラーメン、定番味から創作系まで幅広く作り提供してきた。無論、アイデアを練るためには過去に師匠から学んだ知識だけじゃなく現在進行形で料理を学び食材を研究して知識を更新しないといけない。
ここ、ロアナプラはタイの港町だけど住んでいる人たちの人種がサラダボウルなこともあり、色んな食文化も混ざっている。アメリカ圏、中華圏、ヨーロッパ圏、他にも様々に、だから学べることは多いし、珍しい料理を出す店となれば探求の為に足を運ぶ。
そこで、僕は屋台街で台湾系の麺料理を出す店で、海老味のスープを飲み、気づいてしまった。
過去、これまでにおいて僕は甲殻類の食材、特に海老系の味を試したことがないことに
自分でも知らぬ内に避けていたことに、僕は気づいてしまったのだ。
~醤油ラーメン焼き海老トッピング~
「……まずい、焼き海老の匂いは悪くねぇが、そんだけだな。はっきり言っちまうが、邪魔な具だ」
色々試してみた。というか、僕は全く海老を使ったラーメンのノウハウを持ち合わせていない。
何故か、過去に学んだ師匠の料理に、海老を使ったものがなかったからだ。
~海老出汁ラーメン、スーラータンメン風~
「うまいけどよぉ……これじゃただのトムヤムクンじゃねえか、麺がいらねえ。啜ったらむせちまう」
師匠は海老アレルギーだったのか、今となっては聞けないがとにかくノウハウが無い。あの人の作ったラーメンには甲殻類というとのがまったくなかった。豚牛鳥羊山羊、ありとあらゆる魚の乾物、野菜、キノコ、スパイス、いっぱい食材の特性やら使い道、組み合わせについて学ばされたことは本当にたくさんの財産で感謝してる。でも、足りない。
自分で言うのも手前味噌だけど、身に着けた経験と知識もあって僕は恥じることのないラーメン職人だと自負している。
でも、そんな僕でも、海老だけは未開拓の領域だった。教えと経験があっても、ゼロから一を作る作業はとても困難なのである。
~ビスク風濃厚トマトラーメン
「……ただのビスクだな。ラーメンじゃねえ」
「じゃあ、次……ッ」
「ちょ、いったんストップ……ハーフタイムぐらいよこせっつの……あぁ、くそッ……海老の化け物にファックされた気分だ。水飲んでもまだ口から海老が消えねえ」
試食で手伝ってくれたエダさんも辟易している。中々思うように行かない、海老という食材でラーメンを作る、ただそれだけが難しい。
もう試作のしすぎですっかり厨房も海老の匂いが染み付いてる。他の料理に支障が出るから、ちゃんと洗って換気して、海老を消さないと。
「ケイティ、まだ続けんのかよ」
「ごめんなさい、納得のいくものが作れないと落ち着かないので……次はどうしよう」
海老、身近なようで難儀な食材。既存の海老料理を参考にしたり、自分なりに出汁の取り方を研究するけどどうにも納得のいくものはできない。慣れない食材でノウハウが無いというだけでこんなにも大変だなんて、いやでもそれでこそ意味がある。
師匠の件もあって、僕は自分がまだ未熟者であると理解した。ならば、師匠に教えられていない味を会得することはきっと成長に繋がるはず。
だから、納得がいくまで続ける。休日返上で今日も研究に勤しむのだ。
美味しい海老ラーメンを、自分が認めることの出来る最高の海老ラーメンを作るために。
ラーメン屋として邁進するために、僕は海老を極めないといけないのである!
「進展はなし、まあでもこれからです。とりあえず、適当に当面の日替りラーメンさっき12種類思い付いたから、仕込みが必要なのは今からするとして、定休日でも忙しい忙しい」
「働きすぎだジャパニーズ、てか……今さっき思い付いたって、なあもう十分じゃねえか?シュリンプぐらいで休みにまでラーメンワーキングしてよぉ、体壊しちまう」
「大丈夫、不思議とラーメンに熱中してるときって疲れるけど疲れないんです。なんか、イケるって……いっぱい頑張れちゃうんです……というわけで、この後も頑張って海老研究をムグォ!?」
「ブレーキ踏めジャパニーズ………ちょっと来な、溶かしてやるからちょっとは休みなバカシスター」
「――……ふぁ、ふぅぅ」
甘い香水、乳の汗、そして海老の匂い。
今日作ったどんな海老ラーメンよりもエダさんの谷間が一番美味しい海老料理だったとさ。
めでたし
次回も続けて海老
オチに困ったらおっぱい。爆発オチよりかは良いでしょう。
感想、評価等いただけますと幸い。モチベ上がって日々の励みになります。あと美味しい海老のラーメンも出来上がりますたぶん