麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
夜中に食べるチャルメラ袋麺が最高。
海老の扱いを研究しながら毎日のラーメン作りに精を出す今日この頃、毎日ラーメンを提供しながらも僕は日々海老のことばかり考えている。もう夢にまで海老が出てくる始末だ。
作る上での課題は、やはり海老という食材の個性の強さ。
海老の風味は香ばしく強いうま味はどこか甘味を帯びていてとても魅力的。単体で調理するなら問題ないが、他の食材と組み合わせるとなると難易度が上がる。どうしても、海老という食材は味を占める面積が広く、他の味を支配しやすい。トンコツや鶏ガラ、魚介系の節類と違う点はそこだ。
ラーメンにする、海老をテーマにして作るとなればまた選択肢は限られる。
海老を中心に濃厚な味を作るか、もしくは海老に負けないぐらい他の食材も主張の濃いものをぶつけるかだ。
研究を重ねていく内に美味しい海老のスープは取れるようになってきた。けれども、それを扱って美味しいラーメンを作るとなると悩ましい。
……海老
「…………海老」
海老の濃いラーメン、は作ることが出来る。でも、海老を使って美味しいラーメンを作るとなると、まだ完成には至らない。似ているようで、この二つは大きく異なる答えである。
既に試作でこってりエビラーメンは出来ている。でも、まだ海老を使って作る美味しいラーメンは至っていない。
僕はラーメン屋だ。創作海老料理ではなく、あくまでも美味しいラーメンを作る。海老が濃くて美味しい、海老が濃厚で最高、なんて感想よりもまず始めに旨いとだけ言わせたいのだ。
そうでなければ、食材を使いこなしているとは言えない。
ラーメン屋たるもの、美味しいラーメンを作るべきであり、海老はあくまでもその過程だ。
「海老、海老海老……ブツブツブツ……海老、海老ッ」
答えを出すために空いた時間は研究と試作、本日のラーメンに出せる品まで、あともう少し。
スープ、タレ、香味油、いくつか候補も出来た、けど納得できるものはまだまだ
あと少しで満足いくものが仕上がる。
「……邪魔するぜ」
「海老~海老……あ、いらっしゃいませ」
「醤油ラーメンか、最近はこってりだったからな……あっさりが欲しい気分だったんだ。一杯頼むぜ」
「了解しました……海老海老、シュリンプッ」
「……薬ヤってんのか?」
「やってないです。失礼な海老ですね、もう……あ、違う、アブレーゴさんじゃないですか」
「ケイティ、おめえさっきから俺のことどう見えてたんだ。頭大丈夫か?」
ガチめの心配、失敬なちゃんと頭はまとも、いやまともじゃない。常に頭の中で海老を飼ってるみたいなものだし、このまま答えを出せないでいるとその内僕は海老になってしまうかもしれない。
海老はいったん、忘れて……うん、今はラーメン作りに集中。といっても、今日のラーメンはシンプルだから、手間もそんなにない。
~本日のラーメン~
東京レトロ醤油ラーメン、過去に作った魚介出汁オンリーと違い今日のスープは動物系食材オンリー。豚骨と鶏ガラを同程度の割合で煮込み、濁さずうま味をじんわりと引き出したスープは臭みもなくあっさりして飲みやすい。
でも、あっさりしすぎて足りなさもあるから、味を足す必要がある。
水で戻した昆布と干しシイタケ、そして煮チャーシューの煮汁でタレを作る。丁寧に作った醤油ダレは昔のラーメンの決め手、スープはあくまでも引き立て役というのが昔のラーメンの定説だから、今回のスープは少し控えめのあっさり味。
醤油ダレの出来の良さを感じてもらいたい。
「お待たせしました、東京レトロ醤油ラーメンです」
「ん、前にも同じ名前のラーメンがあったな。同じ奴か?」
「被っちゃいましたか……まあ、もうなんでもいいです。東京レトロ醤油ラーメン二号、お待ちどう様です」
「……なんか適当だなお前さん」
小言を頂く、でも仕方ないほぼ毎日違うラーメンを作っていると名前を決めるのも大変なのだ。醤油ラーメンだってこれで何種類になるか
「味が良けりゃいいんですよ……普通に美味しいラーメンなら、僕は問題なく作れますから」
「……ずるる、自信があって良いことで……っく、まあうまいな……あっさりだがイケる」
食べ進めていく内にサングラスを外し、腰を直して、どんぶりを両手にもつ。
レンゲじゃなく、ドンブリから直にスープを飲む。アツアツの温度と立ち昇る風味を楽しむにはレンゲを使わない方がいいこともあるのだ。
無論、こってりしていたり香味油を浮かべたりするラーメンだと上澄みの油ばかり口に入ることもあるから、スープの味わい方はどちらも正解で不正解。まあでもレンゲで飲む方が楽なんだけど、だからわざわざレンゲを置いてドンブリから直にスープを飲む今のアブレーゴさんは、本当にラーメン好きでわかっている通なお人だ。
「……ぅ……ぁ、あぁ……いいな、良い味だ。醤油ダレが良くできてるな」
「あ、わかりますか……レトロなんでね、昔ラーメンみたくタレの出来にこだわってます」
「チャーシューの煮ダレと醤油ダレの味が同じなんだ……食えばわかる。あっさりしたスープが豚の旨味の利いた醤油の良い匂いを昇らせてやがる……いい味と香りだ。ベーシックでシンプル、力強い逸品だぜ。こいつはイケる」
うまい、何度もそう言っている。べた褒めが過ぎるなぁ。さすが、僕のラーメンで舌を肥えさせただけある。
でも、高頻度で通い過ぎて最近のアブレーゴさんちょっとふっくらだ。肥えさせ過ぎたかな?
「出来が良いのはタレだけじゃねえ。スープはあっさりで単調だが、妙に滋味深い。鶏ガラとトンコツはわかるが、あともう一つ混ざってるな。……肉の出汁なんだろうが、それが効いててうまい。何を使ったんだ?」
「……ふふ、良くお気付きで」
南米育ちのアブレーゴさんには馴染みの無い中華の高級食材、知らないのは無理もないか。
味は当然美味、だって世界三大ハムの一つとして名高いあの金華ハムだから。
……そのまま食べても美味しいけど、金華ハムはスープの材料としても使えるもの。だから、贅沢に出汁ガラにしてみました。美味しくするために、そう美味しくするため
…………原価、高くなっちゃった
コンセプトは東京レトロ、でもレトロというだけ懐かしさを感じさせるためには今の水準の美味しさも必要だ。タレの出来が良くても、肝心のスープに魅力がない古いラーメンの欠点はブラッシュアップ。
けど、今風の複雑でうるさい味にしてはレトロを感じにくい。だから動物系の食材に絞り、そして食材の数も最低限にするのが最適なレシピだ。
煮込み時間の少ない鶏ガラトンコツの清湯スープなのに、金華ハムを入れたことであっさりしながら力強い味を表現することができた。あっさりしていてシンプルな味なのに深みがある、だから出来の良い醤油ダレと合わさると醤油の香ばしい匂いを素直に感じられて美味しい。
あっさり煮出したことで肉の臭みはほぼ無く、肉の香りが醤油の香りで引き立てられて実に食欲をそそる。
肉食文化のつよい文化圏の人にとって、東京のレトロと銘打った名前だけど馴染みやすさがアブレーゴさんにもあるのだろう。
良く食べてくれている。替え玉、用意しないとかな?
「で、正解はなんだ?……教えてくれよ、気になって夜も眠れなくなっちまう」
「企業秘密、と言いたいですが……ふふ」
「?」
「良い舌のアブレーゴさんにご褒美です……教えてあげるついでに、いいモノあげますね」
ちょっと悪戯っぽい言葉遣いで、僕はアブレーゴさんに話しかけてみる。
金華ハムはまだ余分にある。店の修繕をしてくれたお礼に、いくつか包んであげようという、僕からの計らいだ。
「ご褒美上げます、お礼もかねて……特別です。それと、皆にはナイショですからね」
高い食材をタダでおすそ分けだ。他の人には言えない、だからナイショ。
「ご、ご褒美……ぉ、おぅ、なな、ナイショッ!?」
「?」
出で立ちを直し、背筋を伸ばしてシャキッとしだした。そんなにご褒美が嬉しいのだろうか、まだ何も言ってないのに。
それにしても、お腹出てるなぁ。顔色も良いけど、全体的にちょっとぽちゃぽちゃだ。
僕の作ったラーメンで肥えた体だ。責任取ってあげないと、かな?今度、野菜たっぷりヘルシーな塩ラーメンでも作ってあげよう。
「……ふふ、いいモノあげます。つまんでどうぞ、とっても美味しいですよ」
「つ、つまむ?……ぉ、おぉ……ん、んんぅッ……ぉ、おぉう、おっふ」
変な声出てる。どうしてか知らない、けどまあいいや。最近僕と接するときのアブレーゴさん、何だか変だけどもう見慣れちゃった。
「良いハム、晩酌のお供にどうぞ」
「……は、はむ?」
「はい、ハムです」
「……(´・ω・`)」
座った。そしてまたズルズルとラーメンを食べ進める。なんで悲しんでるのやら。ちょっとわからない人だ、悩みごとでもあるのかな?またマイナス思考に落ちてるなら励ましてあげないと
「ハムと侮るなかれ、高級食材の金華ハムです……後で包んであげますね」
「……うん」
「美味しいものを食べてるのに、どうして気落ちしているんですか?……もう、元気出して、ほらチャーシューもおまけしてあげますから、がんばれがんばれ、えらいえらい……なんでか知らないけど落ち込まないでアブレーゴさん」
「……………うん」
次回に続く
飯テロ完了、次回はえちえち
ロアナプラ亭は食欲と性欲を程よく刺激して読者の安眠を妨げる作品を目指しています。
次回をお楽しみに。