麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
~深夜~
ロアナプラ亭の暖簾を下げて、外はシャッターを閉めた。でも、厨房の火はまだ落としていない。
今日もまた海老ラーメンの試作、エダさんが来てさっそく味を見てもらった。試作品を並べて、僕も一緒に小皿にレンゲをもって、味見
「やるじゃねえか、良い味だよ」
レンゲを手に、エダさんは笑ってそう言った。これには嬉しくて手を握る。
「よし!」
ノウハウは身に着けた。単純な味、複雑な味、淡いも濃いも自由。
明日は定休日だから、いっぱい仕込みしてどんどん海老ラーメンを提供しよう。
「ん~待てない!……よし、今からでも徹夜で仕込みニャッ!?」
「————おい、馬鹿、ラーメン馬鹿」
痛い、普通に痛い。笑ったままエダさんが僕の頬をつまんでそのまま吊り上げ、つま先立ちになって辛い。
なんでなんでなんで?
「主は言いませり、いい仕事にはチップを払え。店に入ったら店員がワッツアップだ、何しに来たかはっきり言わねえなら客じゃねえ、強盗だろ。……つまりは、礼儀の話だ。わかるな?クソ真面目日本人」
「お、怒ってます?」
聞くまでもない。僕を釣り上げる美人はとっても愉快に笑っていた。
当然、笑っているからと言って上機嫌とは限らないのである。
「だ~れ~が、毎日毎日実験台になってやったんだって話だっつの!……バカシスター、ひん剥いてファックするぞああんッ!?」
「ご、ごめんなさいッ……エダ、さん」
「謝んな日本人、痛くはしてないだろうが……なあ、ちゃんと礼を言え、じゃねえと気絶するキスの刑だぞ」
「あ、ありがとう……ございまひゅ……エダ、おねえひゃん」
「わかりゃいいんだ、わかりゃあな……おら、行くぞ」
「!」
頬から手が離れて、地に足が付くと思えば僕の視界は真っ暗闇。熱くて柔らかい、そして海老の匂いが染みついている。
知っている良い匂い、でも今日は
「おいしそうな匂い」
「たく、誰が好き好んでシュリンプの香水なんざつけたがるってんだ。おら、上行くぞ」
「?」
「アタシの自慢のビックバストに変なフレーバ付けやがって……トンコツウィークとやってること変わんねえじゃねえか」
「ひゃ……ふが、ぷはッ」
「風呂だ風呂ッ……労働意欲染みこみすぎなんだよ、デトックスしてやるから暴れんなっつの」
「……ッ」
この後めちゃくちゃバスタイムした
〇
~翌日~
昼間におはようございます、不健康な朝の挨拶を天井にする。右を見ると、枕元に金髪の毛が二本、でもエダさんは姿を消している。布団にあるのは人がいた空洞の痕跡と、熱と匂いだけ
先に帰ったのか、荒れでちゃんとシスター業務に駆られているのだろう、と思うのは失礼か。賭けの約束か荒事か、後者なら当然何も言わない。教えてくれない。深入りはエヌジーだ。
休日を昼時に始めた僕はまず朝食を兼ねた昼食を食べて、その後は溜まった家の家事。よく汚れる布団はクリーニング業者が取りに来るから玄関先の籠に移しておく。部屋は軽く、店の方は念入りに、掃除をしていたらもうおやつ時。
スナック菓子でも開けようか、そして日本製のテレビゲームでも、と思うも停止。せっかくの休みに外の空気を吸わないのはちょっと勿体ない。だから開店前に買い出しに出た。
スクーターに乗ってちょっと市場へお買い物。
目的もなく市場をうろつき、少しの買い物をして後は帰るだけ、なんだけど
「盗まれ、てる」
市場のすぐ近く、ただの空き地にゴミ置き場のような乱雑な駐輪風景が並ぶ。
土の上に麻ひもをくさびで打ち付けた程度の駐輪場。だけどすぐ近くに見張りをしているおじさんもいる。
おじさんに正規料金を払えば盗難防止サービスを受けられるのがここの売りだったのに。印をつけた二輪を盗もうとするやつがいたらちゃんと盗んでも良い二輪を教えてくれるぐらいには親切なおじさんなのに、だ。
今日に関してはちゃんとドル紙幣を渡したのに、少しむかっ腹が立ってしまう。
雨の日のビニール傘と同じ感覚で乗り物を盗みまわすのがローグタウンの常識だけど、それでも盗まれたくない個人の財産はこうして守られる仕組みがあるというのに
「あの、おじさん……僕のスクーターなんでないんですか」
土地の隅に坐している。ちょっと薬品臭いドラム缶焚き火の傍で呆然としている浮浪者風のおじさんに、僕は話をかけてみた。
話が通じるかわからないけど
「……あまり盗みはしたくないけど。もう、開店時間近いし……おじさん、持って帰って良い奴見繕ってよ。」
「…………」
「あの、聞いてますか……おじさん」
「………………」
無言、だけど催促している手先の動き。
お金を求めているのか、しかし手持ちがない。
……仕方ないなぁ、歩いて帰るか
「失礼します……おじさん、あまり薬やり過ぎちゃダメですよ。」
「……かみさま」
「違いますただの霊長類です」
お薬の時間のようだと理解。たぶん知らずに僕の自転車を貸し出し(意味深)してしまったのだろう。よくないな、客商売なんだからちゃんとしてもらわないとだ。
駐車場から踵を返し、土埃が常に舞う道路横の歩道を行く。
スクーターを使えばそこまで時間がかからなかったけど、でもこればっかりは仕方ない。
たまの運動も悪くない、と思うことにしよう。
滅多のことが無ければ、別に歩いていたぐらいでトラブルに会うなんて、早々ない。こ
んなだだっ広い通りで、昼間から、まさか起こるまい
さあ家に帰って配管工親父を遊ぼう。今日こそあの回る炎のバーを越えるんだ。
~一時間後~
~富裕層の住む丘の街~
~高層ホテル~
~所有者名、ジェーン・ドゥー~
~最上階、プライベートルーム~
「明日は休みなさい、定休日よ」
「でも……」
「……針を塗った足で、大丈夫とは言えないわ」
「それは……そう、ですけど」
痛い。
膝から下の足には包帯が巻かれている。
血がにじんでいる。
骨に行くほど深くはないけど、縫わないといけない傷を負った。悪漢に襲われて、抑えつけられて、足を切られて
もし、もしも助けが来なかったらどうなっていたか。
ひどい目にあわされて、路地裏にでも連れられて、捨てられて、血を流したまま地面にはいつくばっていたら危うく命を、最低限足を失うかもしれない。終わって振り返ればそんな事態だった。
あんな昼間から、性犯罪と殺人容疑で国を逃げてこのローグタウンに流れ着いたなんていうヤバい事しかしない経歴の新参者に遭遇するなんて。
うん、いくら何でも不幸すぎる。日頃の行いはそんなに悪いはずではないのに、あ、でも直近でお野菜を横領してしまった気が。
「いや、やっぱりその……あはは、不運でしたね。たまたま、運悪く……えっと、星座のせいかも、血液型占いとか……見てないけど、きっと悪かったかもしれませんね」
「ティーンみたいな顔して、無抵抗な女児が道を歩いていたのよ……攫われて当たり前とは思わなかったかしら?」
「いや……暗い道でも細い道でもないし」
車通りの激しい道、広くて見渡せる大通りだ。
「そうね……だから、歩道で犯罪があった所で誰も助ける為に停車しないの。おわかりかしら?」
「……」
「ケイティ……素直に謝れる子は素敵よ」
「……ぅ、んぅ……うぁ、うわぁ、あぁああ、ううぅ、ひっく……えぐ、怖かった……うわぁああああッ!!」
休みの日
怖い思いをした僕は久しぶりにバラライカさんの胸で泣いた。
次回に続く
今回はここまで、次回はバラライカさんとのターンです。