麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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重いかな?


(8) 運の悪い日

 

 

 また、時をさかのぼる。店を開けてしばらく、開店して一週間の頃だ

 

 宣伝は人伝にすでに知れわたっていた。ローワンさんがお客を集めた成果もあり、それなりにリピーターも安定して客足は毎日途絶えなかった。

 

 店が軌道に乗っているか、その軌道は良いものか、見極めるには良い頃合い。あぁ、はっきりと言える。

 

 

 店は、最低の軌道に乗り上げている。

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

……めでたく貯金を解放してラーメン屋を開くのだ

 

 

 

「と、そんな風におもっていた頃が僕にもありました」

 

 

 机に突っ伏してスプライトを自棄酒の様にあおりマイナス感情を吐き出している。情けないと思えば笑えばいい、否定なんてできないのだから

 

 

 

「おいおい、そう落ち込むなっての……ま、元気出しなよ」

 

「……」

 

 慰めの言葉、しかし今その言葉で満たされるものは無い。

 

 無事ラーメン屋は開業したものの、一週間で売り上げは2500ドル、まあ悪くはないだろうけど、ソレはあくまで稼いだ帳面上の数字だ。実益は、損害を差し引かねば出てこない。

 

 ローワンさんの店の隣、知り合いの伝手で店は広く知れ渡り、それなりに現地民の客も多く来てくれた。だけど

 

 そうした客入りとの中には、たいへん悪いお客も含まれているのだった。

 

 

「…………はぁ」

 

  

 深く吐いたため息、吐いた息は吹き晒しの良い入り口の風でかき消される。ガラスの引き戸で閉じるはずが、もう二度も乱闘で壊れてしまったため入り口は開けっぱなし。

 

 座って食べる椅子もあらかた壊れて、今や店内は立ち食いソバ屋。ローワンさんが立つカウンターも、一部は欠けていて傾いてしまっている。プロレス張りの乱闘でパワーボムが炸裂しているのだ。つい昨日の話である

 

 

「無銭飲食十回、レジの持ち逃げ五回、レジを持ち逃げしようとする者同士の喧嘩七件……もう、飲食業ってこんなに難しかったっけ……ハハ」

 

 

「……エイメン」

 

 

 十字架を切り、そっと多めに料金を払われた。ローワンさんは去り、一人空しく僕は店じまいをする。

 

 ロアナプラで店をやるのは、そこまで難しい話ではないはず。いくらマフィアが跋扈する街とはいえ、それなりに良識もあれが平穏な営みだって見られる。けど、それでも運のめぐりあわせは悪いことになれば、こうもなってしまう。

 

 せめてもの救いは、提供する味にお客方は満足していること。多少の悪報で客足が途絶える程この街は繊細ではない。客足は途絶えない。途絶えないからこそ、店は壊れて直して、その繰り返しだ

 

 イエローフラッグのバオさんの気持ち、今僕はそれがものすごく共感できる。 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 後ろ盾を見つける。店の営業を妨害する客を大人しくさせるにはこれしかない。

 

 ローワンさんも色々なマフィアと取引をして良好な関係を継続している。でも、マフィアだって商売的に考えるもの、僕の店はただの飲食店で普通の風俗経営に比べれば実入りは少ない。ローワンさんのつてを頼って何処か大きい所に頼るという手も考えたけど、いくら懇親ある中とはいえその頼みは受け入れられないものだ。たかが小さな飲食店の後ろ盾を頼むローワンさんは、果たしてマフィア側からしたらどう見えるだろうか

 私的な理由で、たいしてうま味の無い商売に人件費をかけて欲しい、そんな間抜けな願いをローワンさんにさせてはそれこそローワンさんの築いていた関係性に悪影響が出る。

 

 だから頼れない。この街で、僕は自分の力で生きないといけない。良好なマフィアを見つけて、良い関係を築けるかどうか、これは一種の博打だ。

 

 

 

 

「……さて、どうするべきか」

 

 

 

 

 バイクに積んだ資材、市場で仕入れたそれは店の修理用。壊れたカウンターテーブルぐらい直さなければ、そう思い出かける夕暮れのこと。

まだ比較的安全な時間に街を移動する際中、車の渋滞で遅くなる合間に考えることは後ろ盾、とにもかくにも後ろ盾のことだ。

 

ただ料理を作るしか能がない僕がどう話をつけたものか、まさかヤクザの事務所へラーメン片手に後ろ盾になって欲しいと、まあまともな目には遭うまい。笑いで済んで蹴飛ばされればいい方だ

 悩ましい、そうなれば思考はあることに傾く。今あるビルを離れて、チャルクワンストリートに屋台を構えて無難に店を始める、そうすれば少なくとも今の悪い客を遠ざけることはできるはず。この街でもアソコは警察の目が届く場所、警察の袖にお金さえ通せばある意味一番まともで安全な後ろ盾を得られるというものだ

 

 だけど、それを決断するには、僕はまだあの店を

 

 

……あの人の、師匠の店をないがしろにはできない

 

 

 いない人に想いを馳せて、行動が縛られるなんて良くないことは承知。でも、それでも僕は誠実さを捨てたくない。

 

 あの店には思い出がある。あの店で、あの人が料理を作る姿に僕は憧れを抱いた。だから、僕は

 

 

 

……まだ、あきらめたくない……僕の味は、あの店でこそなんだ

 

 

 

 そう、諦めるわけにはいかない。自立の道は難しいことは最初から承知していたはず、何よりまだ一月も絶っていない。

 

 もう少し、僕は自分の味を信じてみる。店を慕うお客が増えれば、きっと現状も変わる

 

 変わるはず、そう胸に誓い

 

 

 

「……よし、気を取り直して」

 

 

 

 

 

 

『――――――――――ッ!!?!?』

 

 

 

 

 

 

 がんばろう、そう生き込んだ僕の視界に、あまりよろしくないものが見えている。

 

 店の前、そこにはいくつもの装甲車が並んでいて、なにやら大層明るい光がいくつも散って、あぁ何を間抜けに静観しているのだろうか

 

 鳴り響く轟音、それはこの街では大層珍しくない騒音、つまりは銃声だ。そしてその銃声は、僕の大事な店に向けて惜しげもなく放たれている。まあ、つまり何が起きているかといえば

 

 

 

 

……逃げろ!!マフィアどもが抗争を起こしやがった!!!

 

 

 

 

……ばか、離れろ!!ロシア人たちだぞ!!!

 

 

 

 

……誰だ!ロシア人相手に喧嘩売りやがって!!疫病神を呼び寄せんじゃねえよ!!!

 

 

 

 

 

 

「…………は、ハハ」

 

 

 いっそ笑えて来てしまう。いったいどんな理由があって彼ら遊撃隊が僕の店を銃撃しているのか。

 

 わからない、わかるはずがない。思い出の詰まった店がRPGで吹き飛ばされて、ついぞビルは形を保てず崩壊する様を眺めては、どうして正気を保っていられてようか

 

 

 気づけば僕は逃げるようにバイクに乗り、現実逃避でその場を走り去らんとしていた。だけど、それを許さない屈強な兵士が気づけばすぐそばに

 

 

 

「■■■■▼▼■▼」

 

「▼■■……▼▼■■■▼」

 

 

「……へ?」

 

 

 聞き取れない言葉、どうしてか英語ではなくロシア語で、二人が会話を終えるやその手は僕の腕を掴み、あっという間に捕縛術でその場に組伏される。

 

 

「!」

 

 

 命の危機、それを感じた僕はどうにか逃げんと抵抗する。けど兵士二人の力ではどうあがいても逃げられず、どうにかならないかと必死に思考を回す。

 

 答えが無いか、だけど解答どころか数式を書くよりも前に、答案も座席も強制的に撤去されてしまった。真っ暗になった視界、荷物のように扱われ車両か何かに詰め込まれれば、すぐに時速何十キロかのGに体が襲われた。

 

 

 どこぞともわからない場所へ連れ去られていく中、聞こえる意味の分からないロシア語は今でも忘れられない。理解できない意味に、恐怖心がたいへん耳触りのよろしくない予想を当てはめてしまうからだ。埋める、バラバラ、バラバラにして埋める、ミンチにして埋める、色んな随所で聞いた生々しい報復やら制裁やら、そんなスプラッター好きな変態が喜んで金を払いそうなムービーの主役、それが僕になると想像してしまう。否定したいのに、今の状況が僕の否定をひねりつぶすのだ。

 

 帰りたい、気持ちが悪い、不安で意識も混濁とする中、不快感は肉体にも影響を及ぼして気分がどんどん悪くなる。吐きたい気持ちをこらえていると体の中身が溶けてドロドロになったみたいでより気持ちが悪い。

 時間の間隔も曖昧、そうこうしているうちに、僕の意識は押しつぶされそうな深いなんで次第に沈んでいく。

 二人の兵士に拘束されながら、僕は気を失い、時間は流れていく

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

…………ッ

 

 

 

 

……………………!!

 

 

 

 

 騒ぐ声、何もわからない、気持ちが悪い。眠るなんてやっぱりできなかった。生殺しの不快感で、いっそ殺してくれと思うほどに状況がキツイ。光が見たい、飲み水が欲しい

 

 助けて欲しい、死にたくない、祈る神を持たない僕は、日本人らしくやたらめったら信仰を掲げる。誰だっていいのだ、海を割った男でも奇跡の復活者でも、もうなんだっていい

 

 この苦しみから解放してください。そう乞い願うばかりだ。頭を下げる相手は、いったいどこに

 

 

 

 

……………………ッ

 

 

 

 

…………?

 

 

 

 

…………ッ…………!………………!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい」

 

 

「!」

 

 

 水が降りかかる。被り物が取れていて、僕の視界には光が満ちていた。

 

 眩しさに顔をしかめる。手で隠そうにも手を動かせば動かないし親指がちぎれんばかりに痛い。結束バンドの拘束は肉を裂かんばかりの痛みを生み出してくる

 

 痛みではっとなって、ようやく思考に活が入った。息をして、脳を動かす酸素の歯車をあてはめる。時間にして一分もかかっていたかもだ。そうまでしてようやく、僕はやっと状況を整理することが出来た。

 

 状況は依然変わらない。兵士が僕を囲み、いつでもその引き金が引ける状態であるということ、それすなわち逃げ場がないということ

 

 だけど、気にするべき点として、もう一つ

 

 

 

「……おい、馬糞女」

 

 

 

 

……はぁ?

 

 

 

 理解が追い付かない。僕の前には女性がいて、見ている限りその女性はこの場の兵士を束ねるトップに見えてしまう。けどそれも納得してしまった。その顔と胸元の凄惨な傷、この人は誰か僕でもすぐに察してしまった。

 

 ロシア人たちを束ねる棟梁、バラライカの名前を知らない者はいない。

 

 

「女……答えろ、大事な確認事項だ」

 

 

「…………ッ」

 

 

 女、そう女と言ったのか

 

 頭が回る。溶けかけた体内で急激に活力が満ち溢れる。生きる可能性が見えたのだ。

 

 勘違い、何かの間違い、誤認逮捕、そうであれば伝えなくては、この人達にこれが間違いだって

 

 

 

 

 

 

 

 

「……狙い、そんなのは知らない」

 

 

「ほぅ」

 

 

「聞いてください、僕は……何もッ」

 

 

 知らない、人違いだ、その言葉を吐こうとした。けど

 

 

 それよりも先に、彼女の引き金は役目を終えた。

 

 

 

 

 

 

……ぐじゅ、じわッ

 

 

 

 

 

 

「……へ」

 

 

 

 

 

 痛い、足が痛い。熱くて仕方ない、燃えているように熱く痛い。

 

 

 痛い、痛いイタイ……なんで、なんでこんな

 

 

 

 

「叫べ、愚か者が出来る最後の道化はな……殺す相手が愉快痛快になる、そんな慟哭をかき鳴らすことだけだ」

 

 

 

 

「――――――――――ッ!!?」

 

 

 

 

 

……ズダン、ダンッ!!

 

 

 

 

 




今回はここまで、前回との落差がひどい


感想・評価たくさんいただいております。感謝です。励みになります。


最近ブラックラグーンの文庫版を読破しました。シャドーファルコン、あいつおもしろすぎませんか?原作に逆輸入されて欲しい、知らない人はポカン


次の投稿は早ければ今夜の11時ぐらいか、完成間に合えば投稿します。投稿しなかったら明日に

追記:土曜に投稿のつもりでしたが、やっぱりもう少しかかります。気長にお待ちください
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