麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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低評価つけられても何も文句言えない。でも信じて欲しい。本作は、健全です。


(92) ヴェロッキオという男について

 アジアの景観から浮き出る西洋の意匠。視線を集めるその建物は一見興味本位で入り口を開けたくなるけど、ここの住人であれば絶対そんなことはしない。

 

 イタリアンマフィア、コーサノストラ。

 

 このレストランはそのロアナプラ支部の事務所。レストランの二階を事務所にしてるなんてなんともイタリア人らしい。

 しかし、まあ、そのレストラン部分。

 

 

……また改装してる。綺麗

 

 

 以前、何の気なしにもう少し店構えが明るい雰囲気だといいかも、なんてことを言ったのを思い出した。

 

 けど、まさか自分の一言で変えたわけではあるまい。

 

 マフィアの事務所、というのに玄関前からしてすでに荘厳。美麗。写真を撮ればそのままミシュランブックに載せても違和感はないだろう。

 

 まあ、出迎えてくるのが銃を懐に忍ばせた紳士でなければ、だけど

 

 

「こんにちはモレッティさん」

 

「シニョリーナ……今後はこういうことは控えてください。俺達も困りますので」

 

「……すみません」

 

 苦虫を飲み切った顔で、挨拶をしてきたのはヴェロッキオさんの部下だ。よく言えば右腕、悪く言えば外れくじを引いた人、らしい。

 ヴェロッキオさんに怒鳴られて疲れたと店で愚痴を吐いたのを聞いた。無論口外はしない。

 

 

「すみません、ヴェロッキオさん怒ってますよね。その、僕から謝っておきます。」

 

 

「いや、それはいい。それはいいから、いつも通り食事を楽しんでくれ」

 

「……はぁ」

 

 丁寧な物腰、一見すれば悪人には見えないその顔は苦労人の顔だ。ヴェロッキオさんもあまり強く当たらないで欲しい、こういう人は希少なのだから。

 

 と、そんなことを想いつつ僕はモレッティさんに被った帽子を手渡し、そして

 

 

「アブレーゴさん、大丈夫ですから入ってください。何もされませんよ、たぶん……しないですよね?」

 

「……しねえよ」 

 

 モレッティさんがそう言うと、皆も頷いた。でも目が怖い、目が怖いけどアブレーゴさんが相手だし皆張りつめてしまうのだろう。

 

 入ると店は重く戸を閉めた。僕らを囲むように、皆で一階レストランの中を進む。

 

「あんたはいつものvip席だ」

 

「はぁ……(何でいつもみんなと一緒じゃないのかな?)」

 

 食堂として利用しているから、広くテーブルと席がある。

 

 皆で食卓を囲みたい気持ちはあるけど、何故か毎回もてなしされて、特別扱い。正直申し訳ない。

 

 ロアナプラ亭とコーサノストラの関係を考えれば僕は下のはずなのに。

 

 

……こっちがお願いする立場なのになぁ。あ、また内装変わってる

 

 

 あくまでも構成員達の食堂のようなもの。だけど、外見だけじゃなく店内までもまたまた良い感じ、そのまま開店してもよさそうなぐらい綺麗で清潔で、そして暖かみがある。 

 

 仮にもマフィアのアジトなのに、ほんと訪れるたびにますます綺麗になっていく。

 

 今から行くVIP席だってそうだ。椅子もテーブルも、床も壁も天井も、インテリアの数々、カトラリー、何もかもが高級で纏められている。

 

「奥の席に」

 

「……はい」

 

 荘厳な扉の向こう、そこには二人分のテーブルとイスがある。そこでヴェロッキオさんは待っているのだ。

 

 毎度、お金を払わないのが申し訳ない。まあ、頼んでも受け取ってくれないのだけど。

 

 

「……(ボクモ、イッショ)」

 

「……おい、あんたは別席だ」

 

「あ、はい」

 

 アブレーゴさんったら緊張して、まるで借りてきた猫みたいだ。

 

 でも、まあ無理もない

 

 

……すごく綺麗なお店だから、ドレスコードじゃないと場違いだよね。

 

 

 幸いというべきか、バラライカさんが貸してくれたこの清楚な一張羅。これならまあ問題は無い。性別は間違っているけども

 

「モレッティさん。おねがいですから間違っても撃たないでくださいね」

 

「善処する……ほら、奥で兄貴が待ってるから」

 

「はい、ありがとうございます。アブレーゴさん、そっちも楽しんでくださいね……ここ、ほんと美味しいですから」

 

「……《(;´Д`)》ブルブル」

 

「丁重に、おもてなしをとのことです……ヴェロッキオの兄貴からね。なあ、お前たち」

 

 

 

「「「「「「————————ッ(無言の視線)」」」」」」

 

 

 

 別席へと向かうアブレーゴさんの背中に哀愁を感じる。どうしたんだろ、テーブルマナーがわからないのかな?僕もそんなに詳しいわけじゃないから、僕が隣に座っても何も意味無いだろうに。

 

 まあ、きっと構成員の皆さんが教えてくれるだろう。敵対組織とはいえ相手は顔役、ちゃんともてなしてくれるはず。って、アブレーゴさん震えてる?

 

 イタリア料理、美味しいからなぁ。ワクワクする気持ちはわかる。

 

 

「………………イ、イカナイデ(プルプルプル)」

 

 

……バタン

 

 

「ヒトリ、ヤダ……ママ(ウルウル)」

 

 

 小心者、強者を気取る弱者。そんなアブレーゴのことなど露知らずケイティは奥のVIP席へと向かう。

 

 一方で、だだっ広い食堂の真ん中にちょこんと座るアブレーゴ、取り囲むようにコーサノストラの皆は立ち、アブレーゴに対して

 

 

「「「「「………………ッ(何で敵の幹部が飯食いに来てんだよ。気まずいわッ)」」」」」

 

 

 彼らも彼らで、予定にない来客の存在に困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 金色の短髪、そして日に焼けた黒い顔。

 

 ガタイも大きく、ケイティと比べればまさに美女と野獣だ。実際、見上げるケイティも、アブレーゴさんはよくゴリラと呼んでなぁ、失礼だけど正直その形容は良くあてはまる、だなんて納得して内心頷いていた。

 

 

「お久しぶりです、この前来たときは大勢でごめんなさい……また今日も一人連れてきちゃいまして」

 

「……ふん」

 

 鼻息一つで返事。

 

 そっぽを向いている。だがケイティは動じない。見慣れているから。

 

「えっと、次からはもっと早めに連絡しますね」

 

「……ッ」

 

「あ、えっと……あ、ウェイターさん。ぶどうジュースください、炭酸入りで」

 

 

 ウェイター姿の構成員にケイティは注文。メニュー表を見てこれとこれ、と暢気に指さす。

 

 

「ロースト、食材はツグミですか……これ、禁鳥なんですよね。あ、日本の話です……質のいいジビエ、良く手に入りますね。流石裏社会」

 

「……」

 

 返事は無い。ヴェロッキオはワインを飲む。

 

 窓辺から入る光を浴びて、綺麗なスーツを纏う姿はまるで俳優のような清潔感と伊達男さを感じさせる。だが顔はゴリラだ。

 

 見るものが見れば指摘したくなってしまうだろうが、ケイティは暢気に食事気分を楽しんでいる。

 

「ヴェロッキオさんは何を頼みますか?」

 

「同じでいい」

 

「はい……えっと、ウェイターさん。これとこれとこれ、お願いします」

 

 

 注文を聞いてウェイターは下がる。部屋にはヴェロッキオとケイティの二人きり、気まずさしかない状況だが

 

 

「あ、そうそう。この前なんですけど、すっごくびっくりして」

 

 

 硬い反応、無口、そんなヴェロッキオに暢気にケイティは自分から話しかける。

 

 恐れも知らず、遠慮も無く、会食をエンジョイしているケイティだった。

 

 

「で、その時ローワンさんが……くす、もうほんと学習しなくて、ただでさえ爆発してるのに髪の毛が」

 

 箸が転がるだけで笑う子供ですら今の状況では笑わない。

 

 重々しい空気の中、ケイティは出された料理を食べて美味しいと喜び、そしてくだらない日々の話をヴェロッキオに聞かせる。

 

 何も話さず、反応するだけなのをいいことに、ケイティはティーンのごとくはしゃいでいた。

 

 

「それでエダさん怒っちゃって……あ、このカナッペ美味しいですね。」

 

 

「……ふん」

 

 

「パンもパスタも、ほんと美味しいですね……料理もおいしいですけど、やっぱり小麦粉の質が良いなぁ。ふふ、パン屋さん開いて出店で売れば儲かりますよ」

 

 

「しねえよ」

 

「そうですか、まあ忙しいですよね。あむ……ん、ぁっむ……ん、チーズ美味しいなぁ。チーズとコショウだけのパスタ、すごく美味しい」

 

 

「……黙って食え」

 

 

「え、でも……美味しくて、えへへ……その、ごめんなさい。ヴェロッキオさん、静かに食べる方が好きなんですね。イタリアって、家族や親戚大勢とご飯食べてるらしくて……その、にぎやかなのは嫌なんですね。すみません、頑張って我慢します」

 

 

 他意も無い。本当に美味しくて楽しくて、ヴェロッキオと二人の会食にケイティは嫌な気も起こさず、満足してこの場に居る。

 

 毒気が無さすぎる。そんなケイティに負けたのか

 

 

「好きにしろ……っく、っぐ」

 

 

 そっぽを向き、ワインを飲む。

 

 これでもう二本目だ。

 

 

「よく飲みますね。僕、そんなに強くないから……お酒飲めて背も大きくて、ヴェロッキオさんは男らしくて……良いですね」

 

 

「————ッ」

 

 羨ましいの意味で、良いと言った。しかし、聞き手には別の意味で聞こえてしまう。

 

 

「……ん、ふふ♪……あ、メイン来た、うわ丸ごとだ。すごく大きい、大きいのは良いですね」

 

 野菜や肉をパンに乗せた前菜、パスタを食べて、そして満を持してメインがやってきた。金属串で刺して大きなオーブンで焼いたツグミが目の前で捌かれていく。

 

 本国から呼んだという料理人が目の前で肉を部位ごとにカット、モモ肉と胸を皿に盛り付けてくれたことでケイティのテンションもマックスだ。ティーンの様に顔を喜びで震わせている。

 

 香りも良い。香ばしい。血が滴る肉汁がたまらない。

 

 

「美味しい。」

 

 凝ったソースではなく香草とスパイスだけでシンプルに仕上げているのも嬉しい。ジビエの血の旨味を感じられて、そこにぶどうジュースを流し込めばすっきり後味も良い。

 本当ならワインが良いだろうが、仕事があるからとお酒は控えるケイティであった。

 

 ケイティはヴェロッキオのワインを羨んだ。

 

「…………」

 

「あ、ごめんなさい……その、いいなぁって」

 

「————ッ」

 

 素直にそう告げる。ヴェロッキオを見て、ヴェロッキオの飲むワインを美味しそうと思い、そう素直に感想を告げた。 

 

「はっむ、ん……むぐ……皮、パリパリ……肉、柔らかくて美味しいなぁ、今回も本当に美味しいです。良いですね、ここの人達はいつもこんなおいしいものが食べられて……朝食だけでもいいから毎日ご相伴にあずかりたいぐらい」

 

 イタリアの朝は甘くて美味しいパン、ブリオッシュにクロワッサンと濃いエスプレッソで始まる。

 

 それはもう根っからの甘党文化、男であるが甘いものは女子並みに大好きなケイティは想像するだけで生唾を飲んだ。

 

「って、すみません……要求し過ぎですよね。あ、今のは忘れてください……えへへ」

 

 

「……別に、いい」

 

 

「?」

 

 

 何か言った。

 

 黙々と肉を頬張りワインを飲みながら、ヴェロッキオさんは何か小さく呟いた。

 

 

「別に、食いにきたけりゃ食いに来い……迷惑じゃねえ」

 

 

 そして、今度ははっきりと答えた。

 

 

「ヴェロッキオさん」

 

 会話をしてくれた。

 

 ちゃんと言葉を返したことに、ケイティは驚き覗き込むように視線を向ける。

 

 そこには、何ともワクワクした感情がやかましく張り付いている。え、返事したの?聞き流してない?ヴェロッキオさん反応してくれたの新鮮!

 

 

「ふふ……迷惑じゃないんですね。良かった、ヴェロッキオさん堅物に見えてちゃんと気の良いところあったんですね」

 

「————ッ」

 

「部下に対して厳しくて、硬い人だって印象でしたけど……もしかして、実はシャイなだけだったり?……くす、だとしたらちょっと可愛いですね。もっとそういう所、人に見せた方が良いですよ。その方が素敵です、少なくとも僕はそう感じます」

 

「…………」

 

「ん、あの……どうしたんですか?……俯いて」

 

「……ッッ」

 

 がつがつ食らう。骨まで噛み砕かん勢いで、ヴェロッキオは卓上の料理にかぶりつく。

 

「えっと、そんなに急に食べて……あぁ、骨まで……小鳥でも喉に刺さりますよ」

 

「……ッ!」

 

 

……ズルルルルッ!!

 

 出されたパスタも一気に平らげる。

 

 フォークで巻かず、端からズルルと

 

 

「え?イタリア人ってパスタ啜って食べるんですか?」

 

 

……ごっきゅ、ごっきゅ

 

 

 開けた二本目のワインボトルをラッパ飲み。完全にやけになって、離籍したくて食事を終えようと必死になってるヴェロッキオ。

 

 ついに飲み干したら、残るグラスに残った分も一気に煽る。

 

 

……ガシャンッ

 

 

 ビールジョッキみたいに飲み終えたワイングラスを置いた。

 

当然割れたし、さらに慌ただしく飲んでいるから手に血が付いているように見えている。

 

 

「……あ、慌ただしい……ですね。」

 

 

 目の前の奇行に驚くも、その手の怪我は見過ごせない。

 

 ケイティは席を立つ。そう、離籍しようとしたヴェロッキオの前を塞ぐように

 

 

「!」

 

 

「血が出てませんか?……ワインでわからない、ああもう……お水かけますね」

 

 

 ごつごつしたヴェロッキオの手を取る。まだ使っていないフィンガーボウルの水だから、そのまま手を洗うのに使って、手の傷を確認。やっぱり、切り傷がある。ケイティは躊躇いなく

 

 

「指、ちょっとだけ切ってますね」

 

「……別に……これぐらいなんでもねえ。おら、席に戻れ」

 

「ダメですって……えっと、止血……ん」

 

 

 血の雫が浮き出る。

 

 零れ落ちて、溢れて血の線が伸びていく。

 

 それを見て、何を思ったのかケイティは血迷った。まさに、血を見て判断を迷わせた。目の前の傷を前に、よりにもよって民間療法を施してしまったのだ。

 

 

「……ぁ……ぁあ、っむ……ん」

 

 

……ちゅぷ

 

 

……ちゅう~……れりゅ、くちゅ

 

 

「!?」

 

 

「ん……あむ……んぅ、くちゅ」

 

 

 小さなお口が太い指を舐める、というか舐めまわしている。

 

咥えて吸って、ワインと汗の味を混ぜてケイティは唾液と共に嚥下した。

 

 ヴェロッキオの、太い親指を、その口で咥えて、強くチュウチュウと吸ったのだ。

 

 傷がある故に、丁寧に、優しく舌を使って。そこに生理的嫌悪は一切なく、相手が誰であるかも関係なく 

 

 

「ん……ぁ、ん……ぁっむ……んぅ……っく」

 

 

 邪魔な髪を耳に引っ掛けて、丁寧に親指を吸う。出る液を吸っては唾液を塗布、ヴェロッキオの視点にはケイティの愛らしい顔に手を添え、親指に吸い付くその顔を保持して、つまり、そう、舐めさせている視点がその眼の奥に現在進行形で焼きつけられていた。

 

 

……ちゅる……ちゅっぱ

 

 

「……あ、ごめんなさい。つい、口で」

 

 

 唾液も舐め取り、後に残るは少し湿った親指。傷口は開いたまま、しかし不思議と血は収まっていた。

 

 血が出血点よりも別の場所を優先して向かっているからか

 

 ヴェロッキオの傷はケイティのちゅぱちゅぱ行為により止血を完了していた。

 

「————ッ」

 

 何も言わない。何も動けない。

 

 ヴェロッキオは、ただその場でたっていた。

 

「いけない、舐めたりしたら余計にダメなのに……えっと、傷口拭いて……それと、包帯……えい!……あぁ、こんな民間療法なんの効果も無いのに、僕動揺して、何してるんだろッ」

 

 卓上にナイフがあるから、スカートの端を一部切った。

 

 真っ白なスカートの切れ端を使って指に巻き付ける。巻き付けて、血が溢れてこないようにして、応急処置を終える。

 

 

「ヴェロッキオさん、本当に失礼しました。その、えっと、ごめんなさい!……い、嫌でしたよね」

 

 

 視線を指の傷からヴェロッキオの顔へと上げる。

 

 ケイティから見るその顔は

 

 

「真っ赤、お、怒ってる……ご、ごめんなさい。その、気持ち悪いですよね……あぁ、どうしよう」

 

「————ッ」

 

「えっと……えっとえっと、あの」

 

 

 二歩下がる。

 

 固まって動けないヴェロッキオに、ケイティはどうしたものかと悩む。怒ってはいない、怒鳴らないなら憤りでは無いのだろう。では、困惑しているのか?

 

 考え、ヴェロッキオに対して、落ち着かせるために何かをしないといけない。そう、思った結果また同じ過ちを繰り返そうとする。

 

 ケイティはしなを作った態度と声色でジョークを繰り出した。

 

 

「……その、今は……ほら、僕のこの姿は女の子の格好です。だから、えへへ~」

 

 

 その場で、くるっと回転。

 

 一部割かれたことで太ももチラ理と艶めかしい。そんなスカートの裾をつまんで軽く持ち上げて、さらに綺麗なおみ足を見せつけて、一礼

 

 黒髪のショートヘアー、あどけない少女が可憐に舌を出して、ごめんなさいを告げた。

 

 

 

「可愛いシニョリーナ(お嬢ちゃん)のイタズラと思って、許してくれませんか?……なんて、えへへ」

 

 

 

 

 恥じらい、はにかみながらあざとく言い放つ。

 

 笑って過ごしてくれと、場を和ますジョークとしてはなったケイティのソレは、ヴェロッキオに見事炸裂。

 

 視界に映る愛らしい少女?の艶姿に、その二つの鼻腔からは赤い線が二本。そして、同時に

 

 

…………パァンッ

 

 

 

 

「え、何今の音……破裂音みたいな」

 

 

「————」

 

 

……バタンッ

 

 

「え、なんで……ヴェロッキオさん!どうして、前かがみに倒れて……誰か、モレッティさん!!……ヴェロッキオさんが!!」

 

 

 知らず。何もかもが天然無自覚のコンボでゴリラ面の堅物男をノックアウト。

 

 ケイティは最後まで己の過ちに気付かない。

 

 だってケイティだから

 

 

 

 

 

 

~夕方~

 

 

 ロアナプラ亭、開店前。

 

 昼間の騒動は目まぐるしく、しかしケイティ自身には結局どうしてヴェロッキオが倒れたのかもわからず、ただ解放しようとして近づくことをモレッティに止められ、レストランの外に追い出された。

 

 会食は中断、しかし会食はあくまでも本来の目的の前の催しでしかない。ケイティはあの場に、あくまでも商談に赴いたのであるから故

 

 

「……メイン、食えなかった」

 

 

「美味しかったですよ。」

 

 

「……(´・ω・`)クゥン」

 

 

 二人まとめて店から出て、そのままロアナプラ亭に帰宅。

 

 そして、そのまま開店準備、暇そうだからとアブレーゴにも手伝いをさせて、そうしたらもうすっかり夕方の時刻。

 

 しかし、このままでは店は開けられない。スープも具もある。だが、肝心なモノがまだない。まだかまだかと待ちかねて、ようやく車の音が聞こえた。

 

「おい、ありゃイタ公共の車じゃねえか」

 

「よかった、忘れてなかったみたいです」

 

 

 店の前にはイタリア人たちが数名、そこにはヴェロッキオの右腕であるモレッティの姿もある。

 

 彼らは店前に車を止めるや、車のトランクより布で蓋をされた四角い箱を運び出す。

 

 運ぶ彼らのスーツには、多少なりその運ぶ中身に使われたと同じものが付着していた。

 

 

「モレッティさん……すみません、毎度のことながら。うん、良い感じ……アブレーゴさんも運ぶの手伝って!」

 

「おう!」

 

……(こいつ、カルテルの顔役だよな)……(たぶん、そうだと思う)……(うちのボスと似た者同士だな。)

 

 

 何やらこそこそ喋ってるイタリア人たちを置いてバイト、じゃなくてアブレーゴは受け取った箱を裏へと運ぶ。

 

 裏にある麺の保管所へと運ばれていくその中身は麺。それもパスタやペンネではない、紛れもない中華麺である。

 

 

「……ふぅ、昼間のことでもしかして、なんて思いましたけど」

 

 

「ちゃんと届けたぜ、じゃないとヴェロッキオの兄貴に殺されちまう」

 

 

「?」

 

 

「本気でわかってねえって顔だな。まあいい、あんたは知らない方が良いだろ」

 

 

「……はぁ」

 

 

 モレッティの言葉に首を斜めにするケイティ、呆れながら注文書を手渡していそいそと車に乗り去っていく。

 

「あ……聞けなかった」

 

 

 終ぞ、ヴェロッキオが何故倒れたのかケイティは聞けず終い。心配してみるが、同時にまあ大丈夫だろと楽観的にもなる。

 

 というのも、今に始まったことではない故

 

「……しっかし、まさかイタ公どもに麺づくりさせてたとはなぁ。って、おい……お~い、ケイティお前どうした?」

 

「いや、その……ヴェロッキオさんのこと、未だによくわからなくて」

 

 

 わからない、だが悪いようにされていない。ヴェロッキオはケツ持ちとして役目を全うし、さらには製麺の業務を請け負いケイティの手助けもしている。会食で美食を振舞いもてなしている。

 

 そこにある、男のある一つの思いに、ケイティは

 

 

「ん~……小麦粉の仕入れで困ってたら、相談に乗ってくれて……製麺業務が大変だって言ったら、自前のレストランでも出来るからって受け入れてくれて……それからも、会食で美味しいイタリア料理を振舞ってくれて……ん~~、なのに……わからない。あの人、恥ずかしがり屋さんなのかな?……話しかけても無口になるし、でも気にかけてくれるし……わからない、わからない人なんです。でも良い人なんです……う~ん、謎だなぁ~」

 

 

 気づかない。

 

 ケイティはやっぱり気づかない。

 

 だって、ケイティだから。

 

 

「……」

 

「あれ?アブレーゴさん、包丁研いでくれてるんですね。すみません、助かります」

 

「……( ´・_ゝ・)」

 

 包丁を持ってどこか遠くを見ている。

 

 そんなアブレーゴを見て、何かに気づきそうなものではあるが

 

 

……この人も、やっぱりよくわからない人だなぁ

 

 

 

 何も気づかず。

 

 ケイティは常にケイティのまま

 

 フラグは立つも両者ともに何も関係性はステップアップしない。

 

 

次回に続く。

 

 




以上、ついに登場しましたヴェロッキオという男について

感想で読者の反応を知るのが楽しみ。ただ改めて告げておきます。本作は健全作品です!

次回もお楽しみに。
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