麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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久しぶりの投稿です。忘れられていないと嬉しい


(93) いい匂いに釣られて

 背脂が余った。包装紙の霜をパリパリ割りながら封を開けて状態を確認。

 

 問題なく使える食材だ。元の処理で血抜きしっかり出来ているから脂身の血管も少なく見える。

 

「ん……良い」

 

 かけらをこそげ取る。ぼそぼそ崩れるアプラ身のかけらを指の上でチェック、こねて柔らかく溶かしてみると具合が触覚を通して伝わってくる。人肌の温度に変わった脂の匂いを知り、舌でも舐めてみて唾液に混ぜて嚥下。美味しいものでは決してない。だけど、状態が良いことはわかる。酸化もせず、質のいい健康的な動物の体に出来た脂のまま今まで保たれてくれたものだ。

 

 これをスープを作ると共に塊のまま入れてみれば濃厚なうま味とコクを出しつつ、脂身自体はプルプルの触感を伴うコクいっぱいの最高なトッピングへと変わるだろう。

 

 イメージするのは平ザルに乗せてチャッチャとラーメンに振りかける光景。

 

 今日のラーメンは煮干しスープの醤油ラーメン、その予定だったけどこんなに余ってるなら使わないわけにはいかない。

 二郎でも背脂はたくさん作った、いつかに九条ネギたっぷりの京都背脂ラーメンも作ったこともあった。でも同じものを作るのは面白くない。

 まだ背脂ラーメンのレシピはある。

 

 

「ん……ポクポクポクっと」

 

 

 背脂を使うラーメン、僕は脳内のラーメンレシピに検索をかける。

 

 師匠から教えられた背脂ラーメン、ご当地、醤油ラーメン、あっさり

 

 

「決まった」

 

 だから、今日作るラーメンは背脂ちゃっちゃ系のご当地ラーメン

 

 燕・背脂ラーメンを作ろう。

 

 

 

 

 

「ラーメン」

 

 

「はい」

 

 

 新潟県の燕市が発祥のご当地ラーメン、その主な定義は濃い目の魚介醤油スープにたっぷりの背脂と微塵切りの生玉ねぎが乗っていること。

 

 ただそれだけと思うなかれ、魚介醤油スープにコッテリ背脂の甘みが尖りのある味にまろやかさを与えてくれる。

 複雑さは無いからこそ力強い味が柱を作り食べる者に嫌でも食欲を促してくる。ガツンと響くうまさがそこにはある。

 

 

……ズルルルルルッ

 

 

 太めの平打ちの麺で啜り上げる強い魚介出汁と濃い醤油の風味、背脂と共に咀嚼して甘みすら感じる脂のコクに箸が止まらない。そこに生玉葱の微塵切りを絡めて運べばいくらでも食べられてしまう。

 

 濃い醤油+魚介+平打ち麺+背脂+玉ねぎ、シンプルな足し算で織りなす味にお客さん達はどう反応を示すのか

 

 

……ズルルルッ……ズルルルルルルルッ

 

 

…………ごっきゅ、ごっきゅ

 

 

……スチャ

 

 

「結構なお点前で」

 

 

「ど、どうも」

 

 

 空っぽのドンブリを受け取る。まるで茶道のような所作で、僕は差し出された空っぽのドンブリを受け取る。

 

 手渡しの際に触れたその手は武骨で皮も厚い。

 

 手袋と一体化したような掌を見て、手甲やニープレート、ボトムスにノースリーブに首に巻いたマフラー、全体的に黒い。

 

 黒と鋼で、なんというか、うん。

 

「……(忍者?)」

 

 改めて食べてくれたお客さんの全体像を見渡してみて、その姿のモチーフが僕の故郷でいう所の忍者なのだと理解できてきた。背中に背負っているのも忍者刀だし、腰には手裏剣らしきものも紐で結わえてあるし

 

 でも、なんというか

 

 

「結構なお点前だった。良き香りに釣られて入ってみたが、いやはや店主よ。貴殿の打つラーメン誠に美味なる逸品であったことを、この俳句でしたためてしんぜよう」

 

 全体的に、エセっぽい。

 

「あ、結構です」

 

 最初の枕詞の5文字を書き出すべき所にローマ字でMAKURAKOTOBAと書き始めたのを見て、僕は低調にお断りを伝えた。

 

「……この礼はいつか必ず」

 

 物腰丁寧なお客さんは深々と頭を下げる。その頭は金髪、肌は真っ白。この人、筋骨隆々の白人だ。

 

 面を上げた白人さんは来店した時に被っていた鉄の仮面、武将の兜のような重々しいそれをかぶり顔にも鉄の半面を装着。出で立ちは完全にアメコミに出てくるナンチャッテ忍者だ。アイエーとか叫びそう、それか

 

「えっと、忍者好きなんですね……まあアメリカではニンジャタートルなんて子供から大人まで「亀の話はするなッ!!」……え、あ、はい」

 

 

 食い気味に上から台詞を上書きされた。

 

 ドル札を渡すやおつりも受け取らず足早に去っていく。ごつくて大きいのに、何故か足音は静かだった。

 

 変なお客さん、まあでもこの街では珍しくない。悪人と同じぐらい変人も多いのがこの街の常識だ。

 

 完食してくれたし悪い人じゃないことは確か、今後も贔屓にしてくれると嬉しい。あと、亀の話はしないように気を付けないと。

 

 

……ガララ!

 

 

「あ、いらっしゃいませ……って、ロックさんどうしました?顔に手を当てて」

 

 

「あ、いや……最近疲れてるかもしれないな。さっき、アメコミのナンチャッテ忍者みたいな変なコスプレ男が屋根の上を八船飛びみたいにぴょんぴょんって走って……平気で人の背丈より高いジャンプしてたし、なんだろうな……ドラッグなんてやってないはずなのにな」

 

 

「……ラーメンは?」

 

 

「貰うよ、大盛りで頼む」

 

 

 疲れ顔したロックさんにかける言葉が無く、僕は黙々とラーメン作りに専念することにした。

 なんというか、追い打ちをしたら余計に疲れてしまいそう。

 

「元気出してください。今美味しいの作りますから」

 

 

 

 

 

 

~深夜~

 

 

 夜が来た。

 

 ロアナプラの夜の時間。町全体が歓楽街みたいなもので、どんちゃん騒ぎも悪事もこの時間にこそもっと愉快痛快になる。

 

 酒を飲み、娼婦と遊ぶ、喧嘩をする、殺し合いをする。

 

 夜が騒がしい。

 

 夜に紛れて吸血鬼が入り込んでも、皆おのおのの夜に夢中できづかない。ましてや、視線を下げないと見ることも叶わない小さな子供であれば当然。

 

 

「綺麗な町だね、姉さま」

 

 

「そうね、でも色が多くて目が疲れちゃうわね。兄さま」

 

 

 身綺麗な服を纏う双子が夜を歩く。酒に浮かれ、女に浮かれ、薬に浮かれた街の者は双子を見てもゴミ拾いをするスラムとしか思わない。

 拾った身綺麗な服を着て、財布を狙おうとしているスリと思えば必然的に距離も空ける。

 

 夜が脅かされているとも知らず、皆双子の存在を看過する。

 

 いずれ、釘付けになるとも知らず。

 

 

「兄さま、あれを」

 

「うん、もう迎えが来ちゃった……お散歩も終わりだね。姉さま」

 

 

 残念そうに肩を落とす。

 

 視線の先、双子はドアを開けた車に近づく。そして躊躇いなく乗車し、ドアが閉まり車は走り出す。

 

 車はスモークガラスに対弾仕様の改造車。

 

 持ち主はコーサノストラ、組織が使うハイヤーに乗り双子は依頼主の待つレストランへと向かう。

 

 

「たく……勝手に出歩きやがって」

 

 

 悪態をつくモレッティの声が車内に小さく響いた。運転席、助手席、後部に二人、そして真ん中に双子。

 

 皆手元の重の引き金に指を置いたまま、運転手を覗いて皆この車の中で最も無害に見える子供にのみ警戒を向けている。

 

 

「子供が出歩くには危険な町だ。指示があるまでは留守番してろ」

 

 皮肉を込めてそんな言い方をする。

 

 モレッティの悪態と嫌悪感を込めた視線に、双子は上機嫌な笑顔でお答えした。

 

 

「そうね、とっても危険な町ね……魅力的過ぎて我慢できなくなっちゃいそう」

 

 

「……ッ」

 

 

 長い銀髪、小鳥のように可憐な声色。それでいてどこか妖艶さを秘めた色に染まって、危険に彼女は体を撫でる。

 

 高ぶりを沈めるように、平坦な胸を撫でおろし、腹の上を押さえる。

 

 

「おいしそうだったね、姉様」

 

 

「えぇ、殺してもいい人間がたくさんいたわ。殺している人間もいっぱいいた。あの路地裏、宿の二階部屋、すごく良い匂いがしていた」

 

 

「うん、この町はいい匂い、血の匂いがそこら中から漂っているよ。この車だって、消えていない……皆が手にしている銃にも、匂いが染みついているよ」

 

 

 瞬間、空気が震えた。

 

 車内の人間達、銃を手に取る皆の額に汗が浮かぶ。

 

 

……クスクス、クスクスクス

 

 

 笑う。愉快に、楽しそうに

 

 

「あら、依頼主を殺すほど狂ってなんかいないわ」

 

 

 釣られて笑う兄さま、面白いと感じないこの場で双子だけが愉快に笑う。

 

 

「気狂いが……言ってろッ」

 

 

 耐えきれず、モレッティは煙草に火を付けた。窓を開けて、空気を入れながら一服をした。

 

 

「あら、レディがいるのに良くないわ」

 

 

「……指示通り動いてもらう。これからボスに会わせるが、失礼の無いようにしろ。」

 

 

「嫌な人、会話が嫌いなのね」

 

 

「獣と会話する趣味は無い……とにかく、手前らは殺しをすればいい。俺達のボスから指示を受けて暴れればいいだけの仕事だ」

 

 

 

 

次回に続く




今回はここまで、次回もお楽しみに
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