麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
レストラン、コーサノストラが所有する飲食店の二階に事務所がある。
マフィアが飲食店を有している理由は隠れ蓑というわけではない。
それが、直接彼らのしのぎに関係あることだからだ。
……グツグツグツ
コーサノストラの主な稼ぎは金融、貸し付けと資金洗浄にて大金を得ている。
そして、当然このロアナプラに店を構えている以上、生業に麻薬を扱うのは当然の事。
コーサノストラも他の組織同様に麻薬の原料を仕入れ、そして加工する。この加工という点においてそれぞれ組織の特色が出る。
例えば、張維新率いる三合会では加工済みの料理の中に仕込むことで外へと売り出し、バラライカは安全なルートでロシアに運びロシアで缶詰に加工してから日本を始めアジア地中海とウラジオストク港から各所へと売りさばいている。
そして、イタリア人達はこの麻薬を安全に運ぶ偽装手段に、パスタを用いていた。
「……」
その目と手つきは慎重に、科学実験の用具に茹でた乾燥パスタを乗せて、そこへ薬品を投入。
手袋をしたヴェロッキオは、薬品でドロドロに溶けた乾燥パスタをフィルターに乗せて、その上からさらに別の薬品を投下。
手順を踏むことではじめはただのお徳用パスタが溶けて分離、ビーカーの中に沈殿したでんぷん層とただの塩水、そしてその間に白い結晶の層が見える。
「…………」
その顔は満足いく結果に立ち会えたものとは言えない。含みを持った口元を拭うように、詰まった肺に葉巻の空気を取り入れる。
麻薬の匂いがする部屋を喚起して、窓際で葉巻を吸い、窓の外から拝む空に煙を吹き付けた。
落ち着く苦みに一息、しかしチルタイムを阻害する音が響く。
「……なんだ」
ノックの音に用件を尋ねる。
葉巻を窓から捨て、卓上に置かれたソレを懐に仕舞いヴェロッキオは入室の許しを告げる。
「……嫌なにおいがするわ」
「葉巻、それにこれは麻薬かな?もしかしてお邪魔したかな?」
「…………」
見下ろす。
大柄なヴェロッキオからすれば容易く潰せそうなほどな小人も同然。だが、その身にまとう無垢な狂気が緊張感を与えてくる。
双子は笑顔で、物珍しそうに卓上の実験器具に目を向けている。
そして、双子の後を続くようにモレッティが顔を出した。
「て、手前ら……あ、すみません兄貴……こいつら勝手に」
息を切らし、膝に手を突いて頭を下げるモレッティ、一瞥してヴェロッキオは再び葉巻を吸い、一服。
灰を落として、咥えたままなんてことの無いように余裕を振舞う。
「別にいい……顔を見せろと言ったのは俺だ、モレッティてめえはもう下がれ」
「で、ですが……大丈夫ですか?」
「構わねえ」
「……」
頭を下げて、モレッティは部屋を去る。
後に残るは、双子とヴェロッキオだけ
緊張感はそのままに、仕事の話を始めた。
〇
~翌日~
昨夜の背脂ラーメンは好評であった。
残り物を使って美味しいラーメンを作れて笑顔ホクホク、嬉しい気分のままケイティは昼の仕込みを始めるべく冷凍庫のドアを開けた。
そして、それを見つけてしまった。
「うわぁ、どうしよ」
食材を前に、僕は頭を抱えた。
× × ×
トンコツベースの醤油ラーメン、魚介出汁は使わず動物系のイノシン酸と野菜のグルタミン酸による味の奥行きを中心に味を組み立て。
豚頭、濃厚で甘みにも近い旨味が際立つクリーミーなスープ。これを作るために下処理は丁寧に丁寧に、血の臭み、油の臭みを徹底的に除去。
木べらでかきまぜて水と油を乳化させるのは根気のいる作業、だからここは素直に男手に頼ることにした。
「ふん!ふん!ふん!」
裏から聞こえるアブレーゴさんの声がたくましい。カンカンに火を焚いている寸胴鍋の前に立ちかきまぜる作業は大変だ。
シャツにエプロンにバンダナの出で立ちが良く似合うようになってきた。
あれ、この人ってバイトだっけ?マフィアの頭目だっけ?
「前者、いや後者……だったかな?……あれ、うん……うん?……あ~、ん~~……あ、そうだマニサレラカルテル、ロアナプラ支部のボスだ!」
ちゃんと思い出せた。安心安心
「店長!豚頭のトンコツスープ、仕上げっす!……確認お願いしまっす!!」
「は~い」
やっぱり違うかもしれない。
× × ×
夜も更けてきた。
暖簾を下げて、お客さんが列をなして、そして満足した顔で帰っていく。
「……————」
……ピーガガ
『ばいと、やとったんだね』
人口声帯で喋るソーヤさん。麺少なめの今日のラーメンを美味しそうに食べてくれている。
「はい、バイトです……あ、バイトじゃないか……えっと、まあいいや」
実際バイトみたいなものだ。でも不思議、何でこの人ほぼ毎日ここで働いているのか。
「店長、麺茹でお願いします!」
「はぁい、アブレーゴさん……あ、チャーシュそろそろ切れそうだから切っといてくれます?」
「しゃっす」
きびきびと、返事が良い。
慣れた動きで働くさまはまさにバイトリーダーともいえる貫禄だ。力仕事、配膳、掃除、この辺りは遠慮なく任せられる。
元々この店はワンオペでやってたけど、やっぱり大変なんだと理解させられた。手伝いを買って出てくれる人もいるけど、その度にローワンさんに貸しを作るのは気が引ける。
でもお給金だけでいいのか。この人マフィアだし、バイト代程度のお金で喜んでもらえるか、何かほかの恩返しがいるかも。今度、聞いてみようかな?
……いつもありがとうございます。僕にできることでしたら何でも言ってくださいね!
「はう!……なんだか今猛烈に俺の胸の奥がキュンキュンっと」
「うわ、急に叫ばないでくださいよもう、びっくりしたぁ……あ、チャーシュ分厚いですって。ちゃんと二ミリで切ってください!」
「————ッ」
……ピーガガ
『何を見せられているの?』
〇
~深夜~
本格的な夜の時間、バイトさんはもう返して後は一人で店を回す。
なんだかんだピークは深夜に入る前ぐらいなのだ。これより先は皆夜の時間。艶めかしく、荒々しい、そして物騒なロアナプラの夜の時間。
……ガラララ
「いらっしゃいませ~……はい、本日のラーメンはトンコツ醤油ラーメンです。いらっしゃいませ、はい大盛りですね」
ラッシュが終わって、狭い店内にまばらにお客さんが居座る。
じっとり張り付く暑さが嫌で、お冷で体の熱を冷ましながら、この冷房の効いた店内くつろいでいるのだろう。
外は熱い。
これならいっそ、冷たいつけ麺でも売ればよかったか。でも、損なことを言い出したら年中冷製ラーメンばかりになってしまう。
暖かいものを食べないと胃が弱ってしまう。力も入らない。
荒事をするにせよ、普通に働くにせよ、やっぱり暖かいものを入れないと人はしっかり動けないわけで
「……ん?」
物思いに一人ふけってしまった。何時の間にか、もうお客さんは皆帰ってしまって、一人になっていたみたいだ。
鍋をかき混ぜる手も止まって、ただ一人店内でぼけっと、考え事に夢中。
「あぁ……うぅ、寒ッ」
静かで、無駄に効く冷房が寒いぐらい。肌が冷えて、少しだけ嫌な予感がする。
経験則からか、奇妙な静けさに肌が敏感になってしまう。
「……早めに閉めようかな」
麺が切れた、スープ切れ、そんな言葉を書いた張り紙を用意して
……ガラララ
「あ、いらっしゃい……ませ?」
来客に応える。
体はラーメン屋が染みついてしまっているから、すぐに接客モードに戻った。
おそらく、今宵最後のお客さんは三人。
見知った顔、そして知らない顔が二人。
「いらっしゃいませ……って、あの……その二人は?」
見上げる先の顔は仏頂面のまま、返事はない。いつもの口下手故か。だから、僕は比較的返事が返ってきやすそうなにこにこ笑う二人に向けてみる。
……お箸使えるかな?
今回はここまで、さあさあ不穏な空気になってきましたよっと
一応次回は飯テロ予定です。
今回も読了感謝です。感想、評価などあれば幸い、モチベ上がってケイティの尻のふっくら具合が増しますたぶん。