麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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連日同人ASMRのシナリオを書く仕事が忙しい合間を縫ってえっちらほっちら書き進めています。

とりあえず今回の話で一区切り、無事原作の双子編が始まります。


(95) 大盛二杯に取り皿二つ

 

 

 豚頭を丁寧に処理してから一時間以上の下茹で、臭みを抜くために再度水で洗い汚れを綺麗になくす。

 

 頭骨は大きいからこの時点で裁断。砕くように骨を割り、最後に内側も綺麗に掃除して隋の詰まった骨だけになる。

 

 多少つく肉片も取り除き、とにかく徹底して処理を念入りに行い、ようやく本格的なスープ作りが始まる。

 スープの方向性は動物系のこってり系、旨味が強く且つくど過ぎない味わいを目指す。

 

 香味野菜にニンニクとネギ、それと甘みを付与する目的でニンジンと玉葱、くどさを払うためにセロリも使う。全体的に洋風な芳香になるが醤油ダレにアレを使うから悪くないはずだ。

 

 魚介は使わず、肉のイノシン酸と野菜のグルタミン酸の調和。

 

 今日のお客さんを見る限り、アジアテイストに寄り過ぎるよりはずっと食べやすいはずだ。

 

 

「ヴェロッキオさん……それと、連れのお子さんたちは」

 

 

 親戚か、甥っ子姪っ子を連れて観光、なんて朗らかなことはまさかあるまい。

 

 

「甥と姪だ、気にすんな」

 

 

「え、まじですか?」

 

 

「……」

 

「あ、すみません……とりあえず、三人前。それか1.5倍の大盛りを二人で分け合うとか?」

 

 提案、そしてヴェロッキオさんが後ろのテーブル席で待つ二人に視線を向ける。

 

 にこにこと、好奇心旺盛に店内を見て落ち着かない様子。そんな可愛らしい双子さんは僕にも目を向けてニコっと愛想よく笑った。

 

 

……可愛いなぁ

 

 

「あ、えへへ」

 

 手を振った。愛想のいい姪っ子と甥っ子さんだこと

 

「今言ったのでいい。じゃあ、待ってるぞ」

 

「あ、はい……承りました」

 

 双子の向かいの椅子をしいてドカッと座る。座高の高さから見てヴェロッキオさんの大きさが良くわかる。

 

 しかし、見ていてもどうも叔父とその子供たちの関係とは、まあ見えないものだ。双子は上機嫌、だのにヴェロッキオさんはいっさい面白みのない顔をしている。

 

 視線は二人に

 

 目を見れば人の感情の大体はわかる。

 

 

「?」

 

 

 哀れみ、そんな感情を向けているように見えたのは、気のせいか

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

……ズルルルル

 

 

 粋な食事音がテーブルマナーを無視して響く。すすりくらう麺の音は満足の証。そこに不快感は無い。

 

 

……チュルル

 

 

……チュルルル

 

 

「姉さま、これすごく美味しい!」

 

「そうね、とってもクリーミーだわ……だけど、しつこくないの。不思議ね、兄さま」

 

 

 用意したフォークを使い、二人はお椀によそった麺をちゅるちゅる啜り食らっている。

 

 

……お箸上手だ

 

 

 器用なのか、慣れないチョップスティックもすぐに適応して麺を掴んでは口に運ぶ。レンゲで口にするスープを咀嚼するように味わって嚥下、麺を4本ほど小さく先でつまんで半ばまで啜り噛み切る。

 

 咀嚼して、飲み込んで。熱かったのか、お冷を少し飲んでからぷはっと気持ちの良い息を吐く。

 

 男の子のほうも女の子の方も、額に汗を浮かべて頬を赤くしていた。

 

 

「お姉さん、これとってもおいしいよ」

 

「アジアのヌードル、初めて食べたけど悪くないわ。素敵なお料理を振舞ってくれて感謝しますわ。綺麗なお兄さん♪」

 

 

 兄様姉様と、互いを呼び合う双子は一卵性なのだろうか。互いに長子の座を譲り合っているみたいでほほえましい。

 

 そして、僕のことはどうやらどっちかわかりかねているみたいだ。うん、無垢な子供だから、仕方ない。

 

「あはは、お世辞でも嬉しいな……あと、僕はケイティ。こんな見た目でもちゃんと男だよ」

 

 口元を隠して品よく笑う姉さまといじらしく笑う兄さま。うん、信じてないな。それか揶揄っているのか、ならこの子たちは相当な生意気ということか。それもいいことだ。いい子たちなんだろう。

 

 

「ヴェロッキオさん、素敵な双子さんにガイドをしてあげるのは素敵ですけど……時間も考えてくださいね。夜は危ないから」

 

 

「……お代わりだ」

 

 

「早いなぁ、ちゃんと噛まないと」

 

 

 武骨な手が僕に空のドンブリを押し付ける。

 

 完食してくれた。スープも全部飲み干すなんて、随分時に召してくれたのだろう。

 

 

……舌が合うのかな?

 

 

 

 

 今日のラーメン、欧風トンコツラーメン。名前からしてなんとも気取っているが、要は過去にやってきたことの延長でしかない。

 

 美味しいトンコツスープを作り、そして単調になり過ぎないように事前にストックしている冷凍の鶏ガラスープを解凍。

 程よい分量を鍋の中で一つに、徹底的にかき混ぜて乳化を促進させてクリーミーな濃厚スープを作る。それを裏ごしして、最後に再加熱。細かいアクも見逃さず、徹底して品の良いスープを取る。

 

 合わせるのは醤油ダレ。

 

 できるだけまろやかで癖のない醤油を使い、そこに煮詰めた生のトマトを入れる。

 

 甘みとうま味の強いトマトを含んだ醤油ダレを使い、くどさを消して爽やかな旨味と程よい塩味を付与。

 

 肉の旨味、トマトの旨味と甘みと酸味、欧風とは言うがつまりは欧州の食事で良く用いられる味の組み立て方をしているということだ。

 

 

「美味しいわ……それに、なんだか知ってる気がする」

 

 

「トマトだよ……サルマーレみたいにいっぱい使ってるんだろうね」

 

 

「?」

 

 

 知らない名前の料理、何処の国だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

~sideヴェロッキオ

 

 

 食事を振舞った後、ケイティの店を後にしてヴェロッキオは送迎の車に双子と同車。

 

 

「今……なんていったの、おじさん」

 

「どういう、ことかしら?」

 

 

「……」

 

 することなく、そこで別れを告げた。

 

 依頼主として、双子の殺し屋にクビを言い渡した。

 

「どうもこうもねえ……宿を用意したからそこでクソして寝て明日には移動するなり、ここで働き口を欲しがるなら手配師に取り立ててやる」

 

 双子に告げる。

 

 ヴェロッキオの言葉に双子はまず疑いを向ける。害をなそうとしているのか、都合が悪くなって切り捨てようとしている、そう腹積もりであるなら背に隠し持ったナイフで文字通り腹を割ればいい。

 

 もとより、双子はここロアナプラでコーサノストラに雇われ、その敵対勢力の頭目を殺せと聞いていた。

 

 なのに、それが突然帰れと言われたら、当然疑いを向ける。そして判断は二択になる。

 

 ヴェロッキオを殺すか、遊ぶか

 

 

「……よせ、勘繰りが良いのはわかる。だが、俺はお前たちに同情もしてない……ましてや、利用するつもりもない」

 

「信じろと」

 

「うまい飯を食わせてやった」

 

「それで?」

 

「あいつが死ぬと、悲しむ奴がここには多すぎる……逆も同じだ。」

 

 馬鹿なことを言っている、そんな自覚はヴェロッキオの中に当然ある。

 

 しかし、そんな馬鹿なことの為に、ヴェロッキオは運命を捻じ曲げてまで、組織に背中を見せた。

 

 

「コーサノストラは金融マフィアだ。麻薬も扱っているが、俺達にしかない独自の資金洗浄システムが安定した利益を産んでいる。最悪、たかだか世界の趨勢に関わる麻薬ルートだろうと、金の洗浄を牛耳る俺達には問題ない」

 

 しかし、その現状があるというのに、ヴェロッキオは今他精力を排そうと暗躍を請け負っている。

 

 上から下された指令、成果を出せと、そしてあてがわれたのは曰く付きの殺し屋。

 

 当然、ヴェロッキオはこれが嫌がらせであると理解した。

 

 

「手前らを使ってフライフェイスや張にアブレーゴを殺せと言われたが……そんな必要はない。不要だ、どうせ失敗する」

 

「だから、この話はオーバーだ」

 

 親の命令に背くことになる。

 

 それが身を破滅に導くとわかっていても、ヴェロッキオにはそれを拒むべき道理がある。

 

 

「ラーメン屋の店主、あいつを悲しませたくない……だから、手前らを俺は使わない」

 

 

 全て、告げた。

 

 双子たちはヴェロッキオの罪の告解にも似た説明に耳を傾けて、そして互いに目を見合わせる。

 

 既に、握った殺意は手放していた。

 

 

「急に食事に行くぞ、だなんていうから……本当に変な人」

 

 

「そうだね姉さま……おじさん、変な人だね」

 

 

 だけど

 

 

「うん、それなら殺せない……殺すなら、もっと汚い人間が良い」

 

 

「そうね兄さま……それに今はお腹がいっぱい、甘いものが欲しいわ」

 

 

「……運転手にいい店を教えておいてやる。途中立ち寄れ」

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 斯くして、ロアナプラの一夜は終えて朝日は昇る。

 

 来る吸血鬼の到来、それは本来たどるべき道筋をどうしてか反れてしまい、結末は明後日の方向へと修正される、かに見えた。

 

 だがしかし、物語は正しき道へと修正される。

 

 

 

 

 

「同士諸君、サハロフ上等兵とメニショフ伍長が冥府の門をくぐった」

 

 

 

 

 

「灯す鎮魂の火には贄がいる。新鮮で、肥え太ったその腹を食い千切り、脂を抉るのは他の誰でもない」

 

 

 

 

「我らだ。我らが成さねばならん、故に……総員、撃鉄を起こせッ」

 

 

 

 




今回はここまで、読了感謝です。


双子編、その結末がどうなることか期待しながらお待ちください。改編はします。おもしろおかしく。





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