麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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少し早めのメリークリスマス

ASMRの台本書きで忙しいこの頃です。余り書けてませんが、忘れられない程度に頑張っていきます。




(EX) クリスマス

 

 サンタクロースも飛行を拒絶する危険空域、空から降りてくるプレゼントなんて何もない。靴下をベッドにぶら下げた少年少女の時代すらこの土地には無いのだ。

 

 ただ、それでも入ってきた欧米人、世界の中心は自分だと声高に叫ぶアンクルサムのせいで肌の色も年齢も関係なく知識としてそれを知っている。

 

 メリークリスマス、この場所で、ロアナプラという地域においてこの言葉を正しく流用されているかどうか、白いひげのおじいさんの耳に届かないことを願う。

 

 

 

 

 

 

「メリークリスマス、プレゼントに断末魔を響かせてくれ。エフェクター代わりに鉛玉をぶっ挿してやる。ディストーションを駆けな、ジャンキーなデスボイスを一曲頼むぜ」

 

 

 笑いが飛ぶ。くだらないとも言いながら、皆盛り上がって卓上のお酒にキスを重ねた。

 

 飾りも音楽も、何の変りもない。イエローフラッグには今日も荒くれ者たちがその日その日を謳歌している。

 たいしてお酒に強くない僕は薄めたカクテルを口にする。かなり甘い、ここの人たちは決して好まない味だろう。ジュースと変わらない。実際ジュースにほんの少しだけ酔いの気を混ぜたものだ。

 

 

「へいレヴィ、その仕事の報酬はいくらだったんだよ……肝心な金の話が足りてねえぞ!」

 

「キャンキャンうるせえな、味噌っ歯ジョニー……盛りてえなら猫としてろ。金の話なんざ、今の話で察するところだろうが……たく、クリスマスだってのに景気が暗いったらありゃしねえ」

 

「おうおう、トゥーハンド様がご立腹だ。サンタクロースからは苦情が来ちまうぜ、飛行の邪魔をするんじゃねえってな!」

 

「るせぇ、空飛ぶ老いぼれなんざここには来ねえさ。来やがるにしても、マニラでガキの腹にプレゼントたらふくぶち込んでるに決まって、らッ」

 

 偏見まみれな軽口を吐き、退散するジョニーさんに中指を突き立てた。

 

 カウンターで飲む姿には仕事終わりなのだろう、応急手当らしき姿が痛ましい。犯罪で金を稼ぎ、必要とあれば暴力、殺しを必要過程とする。

 

 日々に変わりなく、クリスマスに立てる蠟燭は無い。灯されるのはタバコの先だけ

 

 

「んだよ、しけた酒飲んでんなぁ……ま、手前はそれがお似合いだ。エダ、手前は付き合えよ……ラムをロックで頼む、バオこいつにもな」

 

 

「冷やかすよことすんじゃねえっての……たく、こんな所来んじゃなかったぜ。なあケイティ、言ったろ……クリスマスだからってこの町は変わんねえ。期待しても無駄だよ」

 

 

「……それは、そうなんでしょうね」

 

 

 クリスマス、そうクリスマスだ。

 

 少しは行事を楽しみたいと思って僕はエダさんと一緒に街に出て、そして代わり映えの無いロアナプラを見て回り、最後はここにたどり着いた。

 

 どこに目を向けても町は殺伐としたまま。まあでも歪んだクリスマスを楽しむ人ばかりなのだから、案外それでいいのかもしれない。

 ただでさえ狂気の坩堝がこの町なのに、クリスマスなんて混ぜ合わせたらとんだゲテモノ料理だ。

 

「……ん~」

 

 

「なんだよ、何が不満だっつの?……おい、考えてること言えよな。抱えてちゃわかんねえよ、素直に口開け……じゃなきゃキスでこじ開けるぞ。」

 

 

「金庫にバールを捻じ込んで無理矢理に、ってか……たく、惚気やがって……酒が甘ったるい」

 

 

「ひがむなよトゥーハンド……お前さんだって手前の所の色男とハッピーなクリスマスパーティーを開けばいいじゃねえかw……って、まさか振られちまったか?……あちゃ、こりゃ悪いこと聞いちまった。悪い悪い、聖書にメモ付けしておくよ……聖夜におひとり様を憐れむべきってなw」

 

 

「おうエダ、おうおうエダッ……パーティーなら今ここで開いてやってもいいぜー!新鮮な臓物煮込みたらふく食えるコープスパーティーがなぁッ!」

 

 

 砕けるガラスの音、蹴とばす椅子

 

 銃は卓上に置いた。

 

 レヴィさんは拳を握り突き立てる。平和的な揉め事だと、カウンターの奥のバオさんが安堵の息を一つ、そして他の客たちに呼びかけるように

 

 

「てめえら、俺の店で殴り合いなんざすんじゃねえ!!」

 

 

 集客の合図、他の客たちが周囲を囲む。

 

 最前席で見ようと、僕は流されるように人込みから外へと吐き出されてしまった。

 

 

「気に食わねえ!……おらッ!」

 

 

「嫉妬してんじゃねえッ……くたばれ、レヴィ公ッ!!」

 

 

 スポーツの音が聞こえる。

 

 人も死なない、ただのステゴロ。殴り合いと、それに乗じた賭け。クリスマスの日に祈ることもケーキを食べることもしないロアナプラの住人だけど、聖夜の日を目いっぱい楽しむことだけは忘れていないらしい。

 

 

「…………」

 

 

……ドカッ……ズサァッ……バキッ……ドガァッ……ガシュッ……グシィッ、ガシャァアンッ!……ダンダンッ……ダァンッッ!!……ボボォオオオッ!!!

 

 

「おい、銃は止せッ……炎もやめろッ……店が燃えるッ……くそ、酒にッ……嘘だろ止めてくれ!最近リニューアルしたばっかりなんだぞッ!!」

 

 

 クリスマスの夜らしく、なってしまったかもしれない。二人の喧嘩に触発されて至る所で乱痴気騒ぎ。そこへ笑顔の素敵な火炎放射おじさんが乱入したことで状況はよりカオスに。

 

 ロアナプラの人達は今日も変わりなく。そして、とばっちりで店が燃えてしまい、皆は解散した。殴り合いだからと揉め事を止めなかったバオさんが悪いと、皆が口にする。鬼かな?

 

 河岸を変える、レヴィさんは血の混じった唾を吐いて寝ると言い帰っていく。けど、去り行く先でロックさんがばったりと表れて、そのまま二人で仲良さそうに街の中に消えていったのを見て僕は少しだけクリスマスを感じた。

 

 燃え盛るイエローフラッグが、レヴィさんとロックさんを照らす光景は、少しだけエモーショナルに浸ってしまう。悪いとは思いながらも

 

 

 

   ×    ×    ×

 

 

 

~ローワン・ジャックポッド・ピジョンズ~

 

 

「クリスマスなんざ、こんな街じゃ縁遠いな……ツリーを置いてほしいなら良いものを買ってやる。もちろん、先端には大きなお星さまを飾ってやろう。電飾もたっぷりだ……人一人ローストできるぐらいの電圧に耐えられる特注品を巻き付けてやる」

 

 

「それ、ツリー燃えませんか?」

 

 

「まあ燃えたな」

 

 

 過去形で応えた。

 

 

「いや、なぁ……クリスマス、確かにそんな文化を忘れない奴も、いないことはないさ。ウチにも依頼が来てな、三合会と懇意な関係を結ぶ良いアンクルサムのお友達だ。」

 

 

 この流れは怖い話だと察してしまった。離席しようにも、僕の隣にはアーシェ姉さんとコリンネ姉さんが挟んでいるから動けない。腕が柔らかく拘束されてしまっている。

 

 

「ふふ、大哥のお話……是非聞かせてくださいな♡」

 

 

 愛嬌たっぷりにおねだりするも、品の良さが所作には感じられてしまう。接客モードの姉さん達に張さんは饒舌に言葉をつづけた。

 

 

「なぁに、くだらん話だ。良き隣人を名乗る連中からパパラッチをなんとかしてくれと泣きつかれたのさ。面倒で断ろうとしたが、連中わざとロアナプラに滞在し続けてパパラッチをここに呼び寄せてきやがった。」

 

「まあ、賢しい隣人がいたのですね」

 

「ピザで肥えたデカ尻を隠し撮りしたついでに、この町の景観が写っちまうわけさ。ニューヨークのご婦人たちに、こんな汚れた町を見せるのは気が引ける……ようは気遣いの話だ」

 

「まあ、大哥はお優しいです~……ね~、ケイティ~♡……ほら、大哥に笑顔笑顔♪」

 

「あんたがセンターなのよ、笑顔笑顔♪……お酒も飲まないでいいし、何も握らなくていから……あんたは笑顔を振りまきなさい。キュートな笑顔、引きつらせちゃダメよ♡」

 

 

「あ、あはは……うぅ、頑張るから胸押し付けないで……顔赤くなるからぁ」

 

 

 夜のお店のVIP席で、露出多め破廉恥豊満な姉さん二人に挟まれて、僕もここでは新人娼婦の立場でこの人に接しないといけない。

 

 クリスマスを探しに入ってしまったボクのバカ

 

 確かにクリスマスの話は聞けたけど

 

 

「パパラッチは隣人だけに飽き足らずこの町の事情に首を突っ込んで写真を撮りまくった。ネカフェがあるだろ?ペドフェリアとハッカー達が通い詰めているあそこだ。取れたての画像を本国に送信しようとした所で捕まえてやったわけだ」

 

 少しだけ色を落として語りを続ける。

 

 だけど、聞いてみると珍しい話でもない。

 

 不用意にスキャンダルを拾おうと足を踏み入れたのが超ド級に危険な場所だったということだ。

 

「捕まえた後は、お決まりどころだが溺死だな。小遣い稼ぎに保険会社に加入させてから不幸な事故に会ってもらうのがここの通例」

 

 おぞましい通例があったものだ

 

 

「ま、当時はクリスマスだった。情も減ったくれもない俺たちにだって季節を嗜む情緒はある」

 

「それで、人間クリスマスツリーを作ったと」

 

 

 死体で作ったか生きたままなのか、オチを想像しながら聞いてしまった。なんとなく、ちゃんと関心を向けている風にしないといけない気がして。内腿をくすぐらないで欲しい、二の腕に胸をこすりつけないで欲しいッ

 

 

「ん?……ケイティ、欲しがりサンだな。だが、話は最後まで聞け……先生にも叱られなかったか?……とりあえず、お前さんの言う通りではあるな」

 

 

 人間クリスマススリーを作ったと、だが話はそこで終わらなかった

 

 

「鉢植えに樹を指して、飾りを縫い付けて……ヘルプを叫び散らす壊れたスピーカーにはご機嫌なおもちゃを突っ込んだ。あとは、煌びやかに電飾を巻き付けてライトアップ……処分、げふん……パパラッチの排除のついでに特注のツリーを送ってやったことで依頼主はたいそう喜んだよ。」

 

 困ったように笑う。愛想笑いにも限界が来たのか隣の二人も口の引きつりを抑えるのに必死だ。

 

「誤解が無い様に言うが、俺にその手の趣味は無い。だが、依頼主が悪趣味なサディスト性癖でな。隣人にはなりたくないが、商売上握手はせにゃならん。贈り物を渡してまた明日、とここで終わりな話だったんだが……いかんせん、ツリーに構造上の欠陥があってな」

 

 

「あの、電飾が……さっき、どうのこのうって」

 

 

「あぁ、電飾はネット通販で取り寄せるだろうと思って部下に頼んだんだ。俺が普通の電飾を頼むと注文しなかったのが不味かった。部下は悪くないんだ、ただ特注のモノをここロアナプラの人間に頼んじまった。ランチにサラダを付け足すように、普通の電飾には不釣り合いの高圧電流に耐えうる耐久性と専用バッテリーを搭載、拷問機能を持ったものを用意したわけでな……それで、まあ……こういうわけだ」

 

 

 卓上にはお酒の他に料理がある。僕が手ずから用意した品々は無い代わりに、普通のおつまみがいくつか並んでいる。皿に並べられた乾きもの

 

 小さい包装の菓子もさらにわざわざ興ぜられている。その中から、三角推の形のナッツの袋を一つ、張さんは手に取った。

 

 

「依頼主はクリスマスパーティーを開き、ツリーを飾った。悪趣味この上ないが、まあそういう手合いは珍しくもない。人間ツリーをライトアップして酒とターキーとケーキを楽しもうとした矢先、また新たな料理が運ばれたのかと皆鼻をくんくんと……犬のようにな、くんくんと……だが料理人はケーキに蠟燭をともしているだけで何もグリルしていなかった」

 

 

 包装紙を引っ張る。

 

 強く、思いっきり

 

 

 

……パァアアアンッ!!

 

 

 

「飛び散ったわけだ」

 

 

「豆がですか?」

 

 

「豆サイズではあるが、金属片だ」

 

 

「へ?」

 

 

……スピーカーにはご機嫌なおもちゃを突っ込んだ。

 

 

 今さっき口にした張さんの言葉を思い出す。これには、両隣のアーシェ姉とコリンネ姉も顔をしかめていた。

 

 

「まあ、面白いとは思ったんだ。破片手りゅう弾がたまたまサイズ的に丁度よくてな。もちろん安全ピンは抜いていない……抜いていなかったが、巻き付けた特注電飾の電流が通電、内部の火薬が燃焼してそのまま引火だ。……一瞬でローストツリーとローストピッグを完成させたまではいいが……まあ、被害がな」

 

 

「……うっぷ」

 

 

 飛び散った豆が他の皿にまで向かった。

 

 愉快なクリスマスパーティーは一瞬で真っ赤に染まったとのこと。

 

 

「とまあ、ひどい話だな……まったくもって神のいたずらとしか思えん。だが、まあ都合のいいことにそのパーティーでくたばった依頼主のカルテル、奴らはどのみち潰す予定でな。結果的に予定を前倒し、俺は気楽にハッピーニューイアーを満喫したわけだが……どうだ、くだらなかっただろう?」

 

 

 酒を片手にケラケラ嗤っていい気分。そんな張さんにお供の劉さんもどんな反応を見せていいのか悩んでこっちを見てくる。見ないで

 

 

「えっと、張さん……その…………発注書は、ちゃんと書きましょうね」

 

 

「あぁ、金言だな。来年も忘れずに記憶しよう」

 

 

 

 

 少し冷めた空気の中、プロの接客嬢な姉さんたちによって空気は変わる。

 

 誰もがしびれるいい男、三合会の張維新を時たまに揶揄する言葉。ギャグのセンスはいまいち、その言葉はふさわしくないかもしれないと僕は思う。人を食って楽しむ癖があるだけなのではと?

 

 

 

 

 

 

~ロアナプラ亭~

 

 

 夜分遅くにグツグツ、スープに火を入れる。

 

 白湯スープの淡くも深い匂い。食欲を駆り立てる良い匂いにお腹が空いてくる。

 

 自分でも清掃をするけど、定期的に業者も入れて店の中は徹底して綺麗に保っている。それもこれもラーメンの為に、濃いも淡いも、色んな味を作るだけに店内環境にも影響を及ぼしかねない。だから清潔に、特に今日のようにクリスマスの日は汚れを一掃した。

 

 新品同然ではないけれど、清潔な店内で良い匂いだけが漂っている。

 

 だけど、漂うスープの匂いよりも、今は人一人が醸す色香の方がずっと濃い。

 

 いやらしい感想かもしれないけど、この人の匂いを知ると僕はどうもおかしくなる。安らいで気を許して、お酒で溶けた思考になってしまうことを避けたい。

 

 息を繰り返し、新鮮な酸素を脳に行き届かせるけれど、それが同時にバラライカさんの香水の匂いを知ってしまう。

 

 花の香、バニラを感じる。甘く安らぐ良い匂い。

 

 そこに、ほんの少しビターな風味が混ざるのは、その日焦がした銃の砲身のせい。かもしれない。

 

 

「人を撃った」

 

「一発だけよ。今日は、ケイティ貴方と過ごすクリスマスだから……死人の香りは付けたくなかった」

 

 

「でも、撃っちゃったのは……撃っちゃったわけですか」

 

 

 スチェッキンの引き金を引いた。

 

 至近距離で、絶対に外さない一発を

 

 

「仕事だから。だけど、今日の私は甘いわ。安物のベリージャムみたいにべったり甘い、そんな私にさせたのは……どこの誰なのか」

 

 水を一口、透明なガラスにリップのルージュが移る。

 

 血なまぐさい仕事の後でも、この人は僕を前に身を綺麗に整えることを忘れていない。

 

 僕の好みの匂いを纏い、ドレスではなくいつものワインレッドのスーツに軍服を纏う姿で現れてくれた。

 

 いつも通り、だけど要所に気を遣う。日常の、ありのままの美しいバラライカさんをプレゼントしてくれた。

 

 

「嬉しいな」

 

 

 プレゼントは十分すぎるほどに

 

 ならば、こちらも相応のモノを差し出さなければ

 

 

「満足してもらえればうれしいですけど、お味はどうですか?」

 

 

……ズズ……コク……ック……コクン……ッ……

 

 

「不満足、だなんて言う舌はあいにく持ってないの……美味しいわ。今までに食べたことのない味よ」

 

 

 

 ベースにしたのは欧風カレー、チキンブイヨンに月桂樹やトマトペーストを入れて仕上げつつ、隠し味には珈琲とチョコを入れてみた。

 苦み、深見、薫り高いカレースープ単体は美味しくはあるけれど少し偏った味だ。カレー粉と共に炒めた小麦粉、隠し味に入れたのも珈琲とチョコ。苦みを入れることでチキンブイヨンの深いうまみを強調している。だけどそれだけでは甘みもコクも足りない。少なくとも、バターを利かせたパンと一緒に食べるならまだしも麺とは合わない。

 

 だから、ラーメンに組み替えなければならない。

 

 作り上げるラーメンに必要なスープはカレースープを含めて3つ。小麦粉でとろみをつけたカレースープとそん色ない粘り気まで濃く煮出した鳥白湯のスープ。

 そしてチキンブイヨンにも使ったものと同様の野菜を用いつつ、トマトやセロリ以外にもジャガイモやニンジン、根菜類にさらに香味野菜も織り交ぜてこれまた濃度を同程度に煮詰めた野菜ポタージュスープ。

 

 野菜とチキン、共通項を持たせつつスープの濃度を同じにした。これにより三つのスープは一体感を産む。違和感なく混ざることで、カレースープはカレーラーメンのスープとなる。

 

 完成したスープは薄まった分だけ塩分を足して調整、ドンブリに注ぐとそこに麺を入れて整える。

仕上げに表面を美しくするためと、味の濃淡を演出するために生クリームを少し。

 

 上に乗せる具材はシーズニングスパイスで味を付けた鶏肉のグリエ、彩に焼いたパプリカと茹でたインゲンを添える。

 

 これが今日作ったロアナプラ亭特製のカレーラーメンの全容。

 

 だけど、今日はクリスマスだから

 

 ほんの少し、贔屓のお客さんだけに特別なトッピングを一つ。

 

 

 

 

「美味しいわ……本当に、スパイスも聞いていて……風味が豊か。それに、うま味も複雑ね。チキンと野菜、味の種類はたいして多くないのに……同じ役者でも全く味が違う。溶けあいながらも、個を主張する……騒々しいようで、嫌だとは思わない。素敵な味よ……ケイティ」

 

 

「褒めてくれて嬉しいですね……少しは批判があっても良さそうですけど」

 

 

「そうね、いささかくどいとも受け取れる味……だけど……それをコレが和らげてくれるのね。いい香りよ、この……トッピングのチョコレートは」

 

 

 箸で摘まんだそれをカリっと音を立てて齧った。甘くて香しい花びらを一枚。

 

 そしてレンゲですくったスープを一口。官能的な味わいに、バラライカさんは艶めかしい吐息を一つこぼした。

 

 ラーメンには花が置かれている。黒味の濃い茶色の薔薇、のように見えなくもない素人ながら頑張って作ってみた手作りのショコラ。

 

そう、このカレーラーメンの決め手となる最後のトッピングだ。

 

 

……カリ

 

 

「貴方、パティシエにでもなるつもりかしら?」

 

 

「不格好な出来ですよ。だから溶かして食べてください。このチョコは溶かすためにあるんです」

 

 花の花弁のように固めた薄いチョコの欠片がスープの熱で溶けている。意図的に崩さずとも、食べるうちに段階的にチョコが溶けてその蠱惑的な甘い香りがスープの中に軽やかさをもたらす。

 

 自家製チョコに使ったのはカカオ70%のショコラ。煮溶かした中に香料やハチミツ、香ばしいアーモンドパウダー、他にも配合を工夫してラーメンを引き立てる特別なチョコを作ってみたのだ。

 

 そもそも、チョコレート自体が油分の塊であることから、かなりこじつけだけどこれは香味油とも言えるだろう。味噌ラーメンに浮かべるバターのように、固形のまま置くことで変化を常にもたらす。

食べ始めから食べ終わりまでの中に味の変化をもたらすことにより最後まで美味しく召し上がることができる。

 

 この、濃厚で滋養も薬効も、そしてカフェインも強く入っている

 

 まるで、男女が営みの前に召し上がるティラミスのように。滋養強壮を目的とした補給。

 

 そんな意図を込めて、僕はこのラーメンを作った。

 

 

 

 

……カチャ

 

 

「ふぅ……少し、食べ過ぎてしまったわね。スープまで完食してしまったわ……熱いわね」

 

 

 額に流れる一筋の汗

 

 食べる者に滋養をもたらす。

 

 僕は、あのフライフェイスと皆が恐れるバラライカさんに一服を盛ってしまったのだ。

 

 

「————……ッ」

 

 

 ドンブリを片す。キッチンの火はすでに落とした。

 

 緊張感が走る。食べ終えてしまったことで、当たり前だけど僕はもう引けない。クリスマスを理由に、大胆な行為に走ってしまったのだ。

 

 

 

「ねえ、ケイティ……貴方は何が欲しいのかしら?」

 

 

 

 クリスマスなんて風情はこの町には無い。煌びやかなツリーも、華やかなクリスマス商戦に浮かれる商店街やショッピングモールもこの町には無い。だから、クリスマスの風情は自分の手で演出するしかない。

 

 町に出て、色々と見て回ってクリスマスなんて風情が無いことは確認した。

 

 だから、恋人と過ごす特別なクリスマスを楽しむ僕は、町の皆に申し訳ないと思うぐらい今とっても幸せだ。

 

 幸せで、温かい。

 

 

「バラライカさん……あの、息が」

 

 

……ッ……————ッ————————ッッ

 

 

 息を吸うけど、吐いた空気が熱され艶めかしい風味を伴い帰ってくる。

 

 抱きしめられて吸う空気が、この淀んだローグタウンの空気とは思えない。

 

 

……ナデナデ……ムギュ

 

 

「……はふぅ」

 

 

 ムードも何もない。ただのラーメン屋の店内で、二人きり。

 

 抱きしめるのならもっと別の部屋の方がいいのに、この人も、僕も、我慢が出来ない。

 

 

「!」

 

 

 いや、違うのだ

 

 僕が盛ってしまったからだ。クリスマスを楽しみたいがために、この人の中に甘い薬を注いでしまった。

 

 僕のせいだ。僕が加害者だ。

 

 だから、この人は今、猛烈に仕置きがしたくて仕方がない。撫でる手は、頭を撫でながら徐々に下へと降りてくる。首を過ぎて、背中をくすぐり、腰を掴んで引き寄せて離さない。

 

 

「メリー、クリスマス……私のカワイイ悪い子」

 

 

「……ッ」

 

 

 

……むぎゅ……っぎゅ……むぎゅ、ぐ、っぐ

 

 

 

「河岸を変えるなら車を出すわ……それとも、我慢はもう出来ないのかしら?」

 

 

  

……——————ッ

 

 

 撫でられる手の先が首を掻いた、頷いたことで敏感な場所を搔かれてしまって、声が漏れてしまった。それが媚びる声に思われてしまったからか、バラライカさん息遣いが乱れた。

 

 

 

「そうね、ふふ……我慢、出来ないわね」

 

 

「貴方の寝屋に招きなさい」

 

 

「あのアメリカ女の匂いがするのは癪に障るけど……上書きするのも、一興ね」

 

 

「……怒られそう」

 

 

 想像する、怒られて、そして埋め合わせを求めてくるエダさんのイメージがありありと。

 

 今この時バラライカさんと夜を越せば、明日の夜はエダさんと同じことを繰り返す。クリスマスは一夜では終わらない。

 

 

「駄目よ、ケイティ……今は……私だけを見ろ、私だけを想い浮かべ、私だけに依存しろ」

 

 

「……はい」

 

 

「いい子ね……私のバユシキバユ、撫でてあげるわ」

 

 

 明かりを消して、舞台はビルの四階。

 

 私室の寝床、シャワー、なんなりと用意が出来ている。

 

 クリスマスを祝うこともないローグタウンにも聖夜は存在した。

 

 街路樹の飾りも、ジングルベルが鳴るショッピングモールも無いけれど

 

 メリークリスマスを言い合える相手がいるのなら、それはもう十分すぎるほどに贅沢だから。これはきっと妬み嫉みを買ってしまう。だから、何物にも知られないように、ひっそりと

 

 暗くした部屋で、声を抑えて、抑えて、抑えて……抑えて

 

 

 夜を明かさないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深夜~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ムッシィ……クチャクチャ

 

 

 

 マニサレラカルテル、ロアナプラ支部の頭目。Mr・アブレーゴ、彼もまたロアナプラでクリスマスを意識した一日を過ごしていた。

 

 

……クチャクチャ……ムシャムシャ

 

 

 

「……チキン冷めちゃった」

 

 

 

 

fin

 




読了感謝です。オチ無し山無し、クリスマス要素を含んだ日常エピソードでした。

ラーメンのネタは料理漫画から切り取って考案、美味しく出来るかどうかは知らんけど理論上可能だと信じたい。


とりあえずロアナプラ亭今年最後の更新でした。



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自分、37級建築士がシナリオ制作を担当しています同人ASMR作品です。クリスマステーマな作品になります。
※成人向け注意

~リンク~

https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01524112.html
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