赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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 後半は三人称視点ですが、一人称が混ざり気味な表現を多用しております。苦手な方には申し訳ありません……


第九話:girl meets Unknown

 

 弓月ちゃんの背中が小さくなって、やがて見えなくなるまでの様子を見届け──目蓋を閉じる。

 泣きそうな顔で振り返った彼女の顔が、『助けなきゃ』と叫んだ声が、塗り潰されてしまう前に。

 

 痛みは無かったから、独り言を言う余裕はある。以前にも一度だけ、肉が抉れる大怪我をしたことがあるけれど……その時も、痛かったのは最初だけだったことを覚えている。ただ今回は、前回よりも痛みの麻痺が早い。好都合だ。

 

「──やっってみろよガストレア! オレを異形にしてみせろ!

 お前らがオレの遺伝子を書き換えようと、父さんと母さんの血は()が繋いでくれる! そして在り方()は、このオレが引き継ぐッ! ガストレアになったくらいで、オレは変わらない!!」

 

 弓月ちゃん達を追っていたガストレアの群れが、足を止める。確実に捕食できる、ウイルスの苗床が落ちている場所へ、向かって来る。

 

「んゴボっ、ァアぁ゛あ……!」

 

 もう、言葉を発することもできない。

 口を満たし、溢れるこの液体が何なのかは……知らない方が良いだろう。鉄の味も混じっているので、オイシイ。

 ──違う。自分の血だと思った方が、精神衛生上ヨクナイ。治レ。

 

「──ォエ゛エェェ! 痛い痛い痛いイタイッ!!」

 

 神経が修復され、激痛が復活する。思わず患部を見ようと目を開き──すぐさま後悔に襲われる。

 

 視界一杯に(ひしめ)く蟲蟲蟲──それらが我先にと、口から管を出してオレの身体を貫いていた。

 

 あまりの衝撃に、気を失うかと思った。

 

 その様子に()()()()()()()()()()自分がいて、死ぬほど驚いた。

 

 ……あぁ、そうか。

 

 オレは、もう既に──

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ()()(おもむろ)に身体を起こすと、首を巡らせ周囲を見渡した。すると、ソレが目を覚ましたのは森の中であったことが分かる。

 そして周囲の()()達は、皆一方向へ向かっていた。そちらでは、銃声が鳴り響いている。ヒトがいるのだ。

 

 ソレは、急いでそこに向かった。

 ソレの目的は、同胞を増やすことと、守ること。ヒトがいるなら、同胞に迎え入れる。そうすることで、同胞との争いを止めるのだ。

 

 崖を飛び降り、()()()()で落下の勢いを殺し着地する。音が近くなった。

 そしてソレは、銃を乱射している下手人を補足し──武器を蹴り飛ばして破壊した。ソレと下手人の少女が、同時に()()()を見開き驚愕する。

 

「!?」

「オマエ、ナンデ……」

 

(──人型のガストレア!? しかもこの個体、言語を……!)

 

「ドウシテ、仲間、殺ス?」

 

 少女は咄嗟に答えることができず、口籠った。

 そしてソレは何かに気付いたのか、顔を近付けて少女を観察し始める。

 

「……オマエ、仲間、違ウ?」

「キィィィ!!!」

 

 少女が返答する前に突進してきた、コウモリらしきガストレアを──ソレは()()()()()

 

「話、マダ! 遮ル、駄目!!」

「ギッ!?」

 

 ソレは己の腕に噛み付いた同胞を、少し強めに振り払った。

 ──中学生程度の大きさを持つガストレアが、凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。

 

「ギッ、ギィィ!!」

「……?」

 

 コウモリの姿をした同胞はバタバタと逃げ出し、少女と殺し合いになるほど()()()()()をしていた他の同胞達も、ザワつき始める。

 その様子から、ソレは恐怖と困惑を感じ取った。

 

「……話、ヲ」

 

 ソレは、己が高次の知能生命体であるという自負があった。言語はそう在るために、重要なものであった筈だ。

 ──周囲の同胞から帰ってきたのは、理性の言語ではなく威嚇の声だった。

 

「アレ……?」

 

 ソレは、強烈な違和感に見舞われた。

 ソレは、ガストレアである筈だ。彼らも、ガストレアである筈だ。同族とは、意思疎通が取れるものではないのか。

 ……では何故、彼らは未知の存在と対峙しているような態度を取っているのだろう。ソレは、首を傾げるしかなかった。

 ならば、言葉を尽くして己が何者であるのか説明しなくては──と思い立ったところで、ふと気付く。

 

「オレ……誰?」

 

 ソレは、自分の名前さえ覚えていなかった。

 いや、基本的にガストレアは名前を持たない。それはおかしなことじゃない。

 ──では、名前が無いことに気付いたソレを(さいな)む、大きな喪失感は……一体何なのか。

 

 そうして疎外感が、孤独が、ソレを飲み込もうとした時だった。

 

「──話をしましょう!」

 

 同胞殺しの少女が、ソレの手を握り、声をかけた。

 

「私の名は、千寿(せんじゅ)夏世(かよ)。アナタと話がしたいです」

「──ォ、オォ……」

 

 ソレは途中から、彼女が完全なガストレアではないことに気付いていた。

 だが、彼女はソレの言語を理解している。そして、名前を持っている。

 ──『ならばもしや』と、ソレは思った。

 

「キミ、オレ、仲間?」

「……はい。そして奴らは、私の敵です」

「──オレ、仲間、守ル。オレ、敵──倒スッ!」

 

 彼女こそが同胞であり、目の前のガストレア達は敵である。ソレは、そう解釈した。

 実際、それは間違いじゃあない。だってそれは──神崎真守(かつての彼)が、望んだことなのだから。

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