赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
──夢を、見ているのだろうか。
目の前には、巨大なガストレアの死骸があった。コモドオオトカゲを十倍くらいに巨大化したようなその個体は、下顎が吹き飛んでいた。
あぁ、それ自体は別に珍しくもなんともない。同じことは、私が持っていたショットガンでも可能だろう。
──だが、それを
少なくとも私には無理だ。いくら正面戦闘向きじゃないとは言え、序列
それでもイニシエーターならば、実行可能な娘もいるだろうが……私の目の前でアレを殴り飛ばしたのは、
では現在進行形でヘビのガストレアを振り回し、周囲のシカやカエル、その他元の生物が判別不能なガストレア達を一掃している赤目の男性は、一体何者なのか。
所有因子は黒い昆虫の外骨格と、膂力の強さから見て……
だが彼は、日本語を話した。私と会話が成立したのだ。ガストレアとも、言い切れない。……少なくとも、ガストレア化する前は人間の男性だったと見ていい。年齢は、
──そうこう考えている内に、彼はガストレアの
「フゥゥゥゥ……」
行進を止めたと言っても、全滅させたワケじゃない。動きを止めただけだ。今は互いに睨み合っている。
動物は、大抵の人間が思っているよりは賢い。人間と同じで個体差はあるものの、愚かじゃない。だから、明らかに自分より強い生物が暴れていれば、近付かない程度の知性は持っている。
──ガストレア達が、引き返していく。つまり彼は、それだけ恐ろしく強いということだ。
「……怪我、ナイ?」
「……えぇ、おかげさまで」
ガストレアは他の動物より体力も知性も高い傾向がある。そして何より再生力が違うので、意表を突くような捨て身の作戦を好んで練ってくることが多い。頭の良い脳筋戦法を取るのだ。
……だが、それでも彼には勝てないと判断させた。繰り返すが、恐ろしい強さだ。
その彼が、戦闘後も理性を保っている保証はなかった。そっと胸を撫で下ろす。
……しかしまさか、戦闘が終わってからの第一声が
「……アナタは、昨日の出来事を何か覚えていますか?」
「…………何モ」
つまり、彼は今日ガストレア化したばかりらしい。十中八九、今回の作戦に参加していたプロモーターの一人だ。
……ということは、彼がこうなった原因は……私が使った、爆薬のせいだろう。なのにこうして救って貰って、更に今から……口車に乗せて利用しようと、画策している。自己嫌悪で心が痛い。
「キミ、ハ……昨日、覚エテル?」
「……はい。そして、おそらく……私なら、アナタの名前を、思い出させて、あげられます」
「──ホント!?」
「ですので、それまでは……私と一緒に、行動、してくれますか?」
「勿論!!」
爛々と目を発光させ、彼は喜んだ。良心の呵責が増すものの……既に一度、利用してしまった後だ。今更引き返すことはできない。
私は──私の存在を肯定してくれた人に、里見さんに、生きていて欲しい。そのためなら、なんだって使おう。
きっと
──でも、この人がいればどうか。
私の見立てでは、
影胤の方は、ステージⅣを完封する斥力フィールドを持っているから……どう見てもステージⅢ以上ではない彼では、荷が勝つかもしれないが。瞬殺はされないと思われる。
問題は、完全な人間であるプロモーターに襲いかからないかどうか。個人的に、大丈夫そうな気はするものの……一応聞いてみる。
「アナタにとって、『人間』とは?」
「敵」
「──っ!!」
「同時、原料。同胞、増ヤス」
危なかった。事前に確認を取っていて良かった……今ならまだ間に合う。
「名前を知るために、少し……人間と、接触しなければ、なりません。敵は……仮面を着けた人間。それと……」
彼は、呪われた子供が同胞だと思っている。蛭子小比奈のことを、何と言えばいいか……
「……双剣を持った、裏切り者が一人。この二人以外は、攻撃、ダメです。同胞にも、しないでください」
「仮面、ト、双剣。覚エタ」
……さて、後は野となれ山となれ。
──勝っても負けても、この人に未来はない。
蛭子親子と戦って死ぬか、政府に捕獲されて
自己弁護するなら……私が放っておいても、この人には明るい未来がないという点。彼は人間とも相容れないが、ガストレアとも分かり合えない。どうしても、孤独になってしまう。
「……嫌な役ですね。全く」
非情に徹するべく感傷を打ち切り、私達は決戦の地へ向かった。