赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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第一章エピローグ:それぞれの着地点

 

 ──影胤テロ(アレ)から一週間。オレ達の環境は一変していた。

 

 まず蓮太郎さん。あの人は世界三例目にして唯一の、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』となった。

 それに伴い序列が12万台から1000位への超昇格。近い内に会社へ懸賞金も振り込まれるという。

 

 次に延珠ちゃん。

 ……彼女はやはり、正式に学校から追放された。腹立たしい限りだが、あれ以上在籍していても互いに良いことは無いだろうし……業腹この上ないが、仕方ない。本人にあまり気にした様子がない点も、幸いと言える。

 

 でもって片桐兄妹(玉樹さんと弓月ちゃん)

 安否を調べて貰ったところ、どちらも五体満足でピンピンしているらしい。あの二人が、足手纏い無しの状態で負傷するとは元々思っていなかったけれど……凄く、安心した。

 

 んで、最後にオレのことなのだが……

 

「ハーハッハッハ! ファァハッハッハァ!!

 コレは傑作だ! アインシュタインも顎外して目玉を落っことすだろうさ!!」

 

 場所は、勾田大学病院の地下室。そして今どういう訳か、オレは偉人の顎を外して眼球をくり抜いたそうです。

 

「分からないかね? 今の映像だけで、キミは腕と足を再生させているワケだが──キミと延珠ちゃん、蓮太郎くんの証言を信じるならば、キミは元々身長147cmの小学四年生。にも関わらず、今は目算で185cm程度の大男だ。さて一体、この体積差分の身体は何で出来ているのかな?」

 

 日本国家安全保障会議(JNSC)で記録されていた、対蛭子親子戦の記録映像を停止して、彼女──室戸(むろと)(すみれ)先生は、オレに問いかけた。

 そう。オレは『四賢人』の一角たる彼女に引き取られることとなったのだ。

 

「質量保存の法則に反している、と? それについてはオレに限らず、ガストレア全般に言える謎ですよね」

「あぁ。この十年、世界中で研究されているが……未だに答えは出ていない。その上で、キミは更に特殊だ」

「そうなんですか?」

「そうだとも。何せキミは──()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()んだから」

 

 何故だか分からないが……蓮太郎さんと延珠ちゃんがゾディアックを倒して戻って来た数分後、オレの目は黒茶色に戻り、身体を覆っていた外骨格も皮膚に染み込むように消えていった。(ちなみにすっぽんぽん(ネイキッドモード)だったが、その時はお説教タイムだったため運良く正座していたので、事なきを得た)

 目の色が戻っていたことで、蓮太郎さん達を回収するためやって来たヘリの運転手さんからも、特に嫌悪の目で見られることはなかったが……流石に、エリア内へ戻ってからはヤバかった。

 ヘリから降りてすぐ銃口に包囲されるわ、バラニウム製の手錠を三重にかけられるわ、天童閣下(菊之丞さん)からはエグい殺気を向けられるわ……しかもその状態で、(モニター越しではあったが)聖天子様直々の事情聴取。ちな『録音してるから下手な発言できないぜ☆』という脅し付き。

 ……まぁオレにやましいことなんてなかったし、聖天子様は聞き上手な上に、ガストレア新法の件からも分かる通りガストレアウイルスの保菌者(キャリア)に寛大だったから、いざ会話してみたらめっちゃ話しやすかったのだが。

 それで事の顛末を把握した聖天子様は、言葉少なに『同志たる貴方を、決して悪いようには致しません』と仰ってくれた。

 そしてオレは、此処に送られた。『〝室戸菫預かり〟になっている間は、他の研究者から文句が出ることはありません』『彼女は差別主義者ではないので安心してください』とのことだ。実際室戸先生は、オレや延珠ちゃんが相手でもにこやかに接してくれた。そこに文句はないのだが……ゥプッ

 

「あの、すみません。そのチュロス……」

「映像鑑賞の時はポップコーンかチュロスは必須アイテムだろう? もう一本あるから、キミも食べるなら解凍するが」

「いえ、遠慮しときます。酷い悪臭がするんで……」

「あぁ、死体の胃袋から出てきたブツだからね」

「消し炭にしていいですか??」

 

 マジでっ、マジでこの変態性さえなければ凄く綺麗で優秀で優しい文句なしの超人なのに……!

 

「コレを消し炭になんてとんでもない! キミが作る料理だけでは健康に良すぎるんだよッ、もっと私に不摂生をさせてくれ!!」

「多少のジャンクフードくらいなら構いませんが、ソイツはオレの鼻を仕留めに来てるんですよッ!」

 

 何せオレ、五感が超強化されてるからね!! 嗅覚も鋭くなってて、マジでキツい!!!

 ああもう限界だッ、気絶する前に燃やす!!

 

「わーっ、待て! 今食べるから! ミイデラゴミムシの因子*1を使おうとするんじゃあないッ」

「フーッ、フーッ!」

 

 室戸先生は溶けかけチュロスを掻き込むと、不満そうな顔でこちらを見た。

 

「全く……堅物め」

「いや、コレはおそらくオレじゃなくても怒りますよ……?」

 

 ヤバい、クラクラする。そろそろ()()()()()()()()だし、撤退しよう。

 

「あぁ、もう時間か。行ってらっしゃい」

「ハイ、行ってきます……」

 

 悪魔のバストアップが刻まれた扉を開け、アホみたいに急勾配な階段を登る。ここからは、うっかり目を赤くしないよう注意しなければならない。

 そして南の正面玄関まで進むと──待ち人が見つかる。

 

「……顔色が悪いですね。また変なものでも食べましたか?」

「うん、室戸先生がね……今回は溶けかけチュロス」

「前回のスターゲーローパイとどっちが酷いですか?」

「ぅぷっ、思い出させないで……」

 

 千寿さんと合流し、軽口を言いながら歩いていく。目的地は、国際イニシエーター監督機構(IISO)だ。

 

「──今日が、最終試験ですね」

「うん、焼肉の日だね」

「もう合格祝いの話ですか?」

「当然。オレ達なら余裕でしょ?」

「──まぁ、その通りですがね」

 

 パートナーを喪った千寿さんは、序列を一旦剥奪されてIISO預かりになっている。そしてオレは、パートナー候補のいないプロモーター志望。となれば話は一つだ。

 オレは民警許可証(ライセンス)取得のために、試験を受けた。座学と実地共に免除試験には合格したので、後はパートナーとの連携訓練だけ。それもこの一週間で、最終段階まで仕上げられた。元々千寿さんのスタイルが後衛だったのは、本当に幸運だった。オレの身体能力を遺憾なく発揮できるよう、いつも適切なサポートをくれて助かっている。

 

「──神崎さん」

「んー?」

「合格したら、一つ……いや二つ、お願いをしてもいいですか?」

「聞いてみないと、なんともねぇ」

「じゃあ先に言っておきましょう。

 一つ目。下の名前で呼び合いたいです」

「モチのロン。嬉しいこと言ってくれるね、()()ちゃん」

「……ちゃんはいりませんよ、()()さん」

「ならそうする。んで、もう一つは?」

「…………」

 

 返事がないので『どうしたんだろう』と思い、横を歩いていた夏世の目を見ると──

 

「……私より先に死なないと、約束してくれますか?」

 

 泣きそうな顔で、彼女はオレを見ていた。

 ……相棒の死は、オレが思っていたよりも深刻な、彼女のトラウマだったのだ。

 

 だから守護者として、オレは

 

「ん──ごめん! オレ、好きな人いるんだわ!」

「…………はい?」

「いやー、うん。まさか民警のパートナーだけじゃなく、人生のパートナーまで申し込まれるとは……」

「自意識過剰です爆発してください」

「えー? だってさぁ、()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……え?」

「オレの身体、()()()()なんだって。つまり──オレの身体を研究すればイニシエーターの体内侵食率を下げることができる。()()()()()()()()寿()()()()()()()()()()()()んだよ」

「────」

 

 まぁ、うん。それが世間に知れたら、呪われた子供を殺そうとする勢力はより苛烈になるだろうから……薬が出来たとして、一般公開できるのは何十年先か分からないけど。

 

「でもって、戦場ではオレが夏世を守る。オレは夏世より先に死なないから、二人で永遠に生き続ける。ほら、生涯のパートナーじゃん」

「──っ、バカですね真守さんは! 私にも好きな人がいるんですよ!」

「ほうほう、ちなみにどなた? オレが知ってる人?」

「教えませんッ!」

 

 そう言って、夏世はズンズンと先に進んでしまった。

 

「あやや、フられちゃった」

「……バカですね。戦場でのパートナーは、断ってませんよ」

 

 クルリと振り返り、彼女は泣き笑いした。

 

「──生涯に渡り、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観察記録・対象:ステージ識別不能ガストレア『code name・Theseus』

 

 体内侵食率が零でありながら、ガストレアウイルスを自在に操る特異個体。平常時の姿は日本男児と見分けがつかず、知能も人間と遜色ない。IQは初計測時105。

 感染前のデータは『神崎真守』の頁を参照。

 観察を始めて160時間目の記録であるためデータ数は少ないものの、分かっていることを記す──

 

 

 

「……しかし、コレはマズいね……ド素人でも、気付く奴は気付いてしまう」

 

 菫は『神崎真守』のパーソナルデータを閲覧しながら、溜め息を吐いた。

 

「生年月日2021年5月……人間の妊娠期間は十月十日……実際はそれより短い場合が多いが、それでも神崎真守という生命は()()()()()()()()()()()()()()()。彼は厳密に言うと()()()()()()……」

 

 それは、つまり。

 

「彼は、()()()()()()()()()んだ……ッ!」

 

 その候補は?

 菫の脳内で、様々な考察が為される。改造説以外の線も、同時に探っていくものの……

 

(ガストレア出現当時、人口の9割が奴らに殺された。その内正確に何割がガストレア化したかは分からないが、10億は下らないだろう。真守くんがあくまで意志の力及び偶然の産物で意識を保っているなら、その中から一人も同様のケースが見つからないのは何故だ? 隠すにも限界がある。その場合は必ずどこかに噂程度でも痕跡が残る筈だが……!)

 

 見つからない。機密情報アクセスキーがあれば別かもしれないが……少なくとも今無いもののことは後だ。

 

「あぁクソッ、本当に腐ってるね。この世界は……!」

 

 敢えて不味い溶けかけチュロスで糖分を補給しつつ、四賢人の良心は研究を続行した。

*1
体内の化学物質を合成・爆発させ、100℃を超える有毒な気体を噴射する




 
 ちなみに延珠ちゃんも妊娠期間を考慮すると『アレ?』となりますが、彼女は捨て子なので生年月日不明。つまり何かしらの記念日を誕生日としている可能性が高いので、特に矛盾はありません。
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