赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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閑話:延珠と舞

 

 里見家にて。

 神崎兄妹の再会に伴い復縁した延珠と舞は、早速二人きりで遊ぶことになったのだが……

 

「──と、いう訳でだ。舞ちゃん、妾に料理を教えて欲しいのだ」

「ごめん延珠ちゃん、何が『という訳で』なのか全く分からないんだけど」

 

 彼女は以前、本人から『台所出禁』という話を聞いている。なので延珠が料理を習いたいと考えること自体は、そう不思議な話ではないと知っているものの……直前の会話内容との因果関係が掴めなかった。

 

「里見さんがアルバイトを始めたことと、延珠ちゃんが料理を習うことに、何の関係があるの?」

「では、順を追って話すのだ」

「うん」

 

 延珠はグラスに注いだりんごジュースを一口飲み、話し始める。

 

「妾がイニシエーターだ、ということは話したな?」

「うん。プロモーターが里見さんで、こないだ本当に世界を救っちゃったってところまでは聞いたね」

「うむ!」

 

 己の立場を偽ることなく話せることも、蓮太郎の名が英雄として公認のものになったことも、延珠にとっては至上の喜びだった。自然と目を光らせ破顔する親友の様子に、舞も目を細める。

 

「うむ、うむ……だが、だがしかし、だ。蓮太郎には、()()()()()()

「え?」

「疑問に思った筈だな舞ちゃん。何故ゾディアックなんていう超特大の賞金首を取っておきながら、民警としての地位名声を確保しておきながら、何故副業なんてやる必要があるのか」

 

 確かに、それは謎だ。舞は居住まいを正して、続きを促す。

 

「──有名に、()()()()()のだ。『里見蓮太郎』という民警は、最早気軽に雑用を頼める存在ではなくなった」

「あー、民警って半分便利屋みたいな扱いだもんね……」

 

 実際は蓮太郎相手に決闘の依頼が来ていたり、ゴキブリ退治の依頼が来ていたりするが……プライドの高い木更が蹴っている。後はそもそも、本業の依頼数が少ない時期というのもある。

 

「だが、真守と夏世には依頼が沢山来ている」

「らしいね。ずっと働き詰めで、今も(わたし)を放ってアメリカまで、鮫退治に行ってるみたいだし」

 

 現地で名のあるハンターも複数やられ、困り果てて日本まで依頼が回ってきたらしい。依頼主は大手企業に片端から声をかけているが、水中戦海上戦が得意な民警は、大抵所属地域に深い根を張って動こうとしない。

 そこで三ヶ島ロイヤルガーダーの影以(代表)が、モデルドルフィンの夏世に連絡を取ってみたという経緯である。

 

 ただ、つい最近まで危うい状態だった妹をほったらかすのはどうかと思うが……

 

「あー、あぁ……それは、うむぅ……」

「延珠ちゃんが口ごもるなんて珍しいね──何か知ってるんでしょ」

「まぁ、な……本人は一応隠してるつもりだったようだが、別に話しても問題あるまい」

 

 延珠は気不味そうな顔で舞を手招きすると、小声で耳打ちした。

 

「舞ちゃんの学費を稼いでいるのだ、真守は。蓮太郎もだがな」

「え?」

「阿呆よのぅ……二人だって未成年(こども)だろうに、すっかり意識が親代わりなのだ」

「……そう、だったんだ。私はてっきり……」

「棚ぼたで得た力に酔いしれる凡愚に見えたか? 真守が」

「正直、ちょっとね。

 ……でも、そっかぁ。私のため、かぁ」

 

 最近ブラコンを発症しつつある親友を生暖かい目で見つつ、延珠は話を本題に引き戻す。

 

「うむ。真守と蓮太郎が懸命に働いている理由が分かったところで……今の妾がどういう立場か、考えてみてほしい」

「……? 蓮太郎さんのイニシエーター、だよね?」

「そうだな。例の一件以来()()()()()()()()イニシエーター、だな」

「あっ」

「ついでに言うと妾は学生でもないから、実質ニ──」

「それ以上いけない!」

 

 それを認めたら自身もそうなってしまう舞としては、切実な話だった。いや、『児童が何を気にしているのか』という話なのだが……

 

「だからそうならないためにだな、妾は花嫁修行をすることにした。目標は専業主婦レベルだ。料理以外の家事は既に大体できるぞ」

「あぁ、そういう……」

 

 延珠の事情も、完璧に理解した。

 

「……それで、作りたい料理とかはあるの?」

「味噌汁と、それに合う料理だな!」

 

 蓮太郎がよく『俺より美味い味噌汁を作る女性に会ってみたい』と言うので、延珠は迷いなく返答した。

 

「じゃあ和食かな」

「そうなるな!」

 

 延珠から『家にあるものは好きに使っていい』と許可を貰い、舞は具材を物色する。

 

「うん、じゃあまず主食だね。炊飯器があれば簡単なお米でいいかな」

「うむ」

 

 延珠は計量カップで二合ほど米を取り、釜に移した。そして、

 

「お米を洗う、と──」

「待って待って待って。水洗いでいいから。洗剤(しかも原液)入れたら死んじゃうから」

 

 お約束を発揮しつつ、米とぎも完了。後は二合分の水を入れて炊飯のスイッチを押せば終了だ。

 

「これだけか?」

「これだけです」

「習ってみれば意外と簡単ではないか。蓮太郎め……」

「本当は調味料と具材を入れて釜飯にしようかとも思ったんだけど、最初だからね」

 

 単純に白米単体を炊くだけでも、使う水を変えたり漬ける時間を変えたり、細かい工夫はできるが……最初はこれで充分だ。

 

「次に、味噌汁です」

「よし来た!」

「まず鍋に具材、今回はもやしを投入します」

「うむ」

「水を張って、火にかけます」

「うむ」

「一煮立ちしたら火を止めて、味噌を溶きます。味噌カスが出るタイプなので、味噌こしを使いましょう」

「うむ」

「ちょうどいい色になったら、顆粒出汁を入れます。分量は箱に書いてあるので、しっかり確認しましょう」

「うむ」

「味見をします。薄かったら出汁か味噌、濃かったら水を足してね」

「ちょうどいいな」

「はい、完成です」

「早い!?」

「うん、顆粒出汁を使ったからね。蓮太郎さんはイチから取ってるみたいだけど……」

「そっちを教えて欲しかったのだ……これじゃ全然料理をしてる気が……」

「初心者が焦らないの。まずは成功体験から、かな」

「そういう、ものか……?」

「うんうん」

 

 何事も、まずはできることから。基本である。

 

「さて、味噌汁が冷めない内に次を作ります」

「おー!」

 

 そして舞が取り出したのは、生卵。

 

「和食を作る時は基本的にお米と一汁三菜。三菜は主菜一つと副菜二つなんだけど……今回は初めてだから、主菜と副菜一つずつでいこうと思います」

「ほうほう」

「今から作るのは主菜。主にお肉とかお魚、タンパク質のあるものだね。今回は卵を使うよ」

「卵は安くて栄養豊富だと、蓮太郎がよく言っていたな」

「そうそう。それに使えるメニューも多いから、とりあえず買っといて損はないんだよね」

 

 閑話休題(それはともかく)

 

「まず卵をボウルに割り入れて、液状の昆布出汁と一緒にかき混ぜます」

「うむ。どこにでも出てくるな、ダシ」

「人間って塩と出汁があれば大体のものを食べれちゃうから……フフ……人間ってホント……」

「お、おぅ……? なんだか怖いぞ舞ちゃん……?」

「──ハッ、危ない危ない。闇堕ちして延珠ちゃんに天誅されるところだった」

「舞ちゃんは、たまにノリが男子になるなぁ……」

 

 閑話(それは)休題(ともかく)っ! 話が進まないっっ

 

「そしたらこの四角いフライパンに、1/3くらい投入します」

「うむ──あ゛っ、半分くらい入ってしまったのだ!」

「大丈夫大丈夫。そしたらフライパン全体に薄く伸ばして……」

「うむ……」

「全体に火が通ったら、ヘラで巻きます──そうそう、上手。やっぱり器用だよね、延珠ちゃん」

「ふっふっふ、流石妾」

「──よし、巻き終わる直前くらいで位置を戻して、溶接する感じで卵を継ぎ足して」

「うむ」

「今度は最後まで巻いて、『出汁巻き玉子』完成!」

「コレも早いな! もう少し手の込んだものはないのか!?」

「じゃあ最後は延珠ちゃんお待ちかね、包丁を使った料理です!」

「おー!」

「まず夏野菜たちを、食べやすい大きさに切ります。

 ……包丁は構えないでね」

「何故やる前から分かった……?」

「延珠ちゃんもノリが男子なとこあるから……」

 

 ただし器用な延珠は、ふざけなければ包丁の扱いに関して特に言うことはなかった。

 

「火の通りにくい根菜から、あらかじめ油を引いて加熱したフライパンに投入します」

「うむ」

「ある程度火が通ったら、葉物とお肉、臭み消しに料理酒を投入します」

「うむ……なんだか嫌な予感が」

「お肉に焼き目が付いたら火を止めて、塩胡椒で味付けをします。オイスターソースがあったので、少量加えると味に深みが出るでしょう。肉野菜炒めの完成です」

「やっぱりか!」

 

 一食のメニューが、全て簡単に揃ってしまった。ごはんと味噌汁に関してはインスタントと手間がほぼ変わらない。

 

「延珠ちゃんの目標は、専業主婦レベルなんでしょ? 主婦って休日もなく毎日家事をやるんだから、むしろ主婦ほど凝らずに適度な手抜きを覚えるものだよ?」

「クッ……! じゃあ次! 次はその『凝った料理』を教えて欲しいのだ!」

「はーい」

 

 そうして自分達で作った昼食を食べ、二人は日が暮れるまで仲良く遊んだという──

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