赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
「──で、遅刻しかけたと。バカじゃないの?」
「辛辣ゥ……」
──昼休み。給食の美味しくないスープを啜りながら、
どんだけ早く起きても、朝練してから家に帰ってシャワーで汗を流して朝食を食べるなんてことをしてたら、遅刻寸前になるのは自明の理だ。しかし……
「お前が汗臭いってうるさく言わなきゃ、もうちょい早く来れるんだけど?」
「朝ごはん、作って置いといてあげたの誰だと思ってるの?」
「貴女様ですごめんなさい」
「分かればよろしい」
ウチは仕事の関係上、両親が家を留守にすることが多い。だから家事は、オレと妹の二人でやりくりしている部分が大きいのだ。
「舞ちゃんは凄いな。妾なんて、台所出禁なのに」
「え、何したんだよ藍原……?」
同じ班の前田が、延珠ちゃんの発言に反応した。
正直オレも気になる。彼女に苦手なことがあったこと自体、凄く意外なのだから。
「前に一度、味噌汁を作ろうとしたのだが……変にしょっぱくなってしまってな?」
「その味噌汁、出汁取った?」
「ダシ? 味噌汁はお味噌を溶けばできるのではないのか?」
「味噌だけの味噌汁は美味しくないよ……」
典型的な失敗例だね。インスタントだと最初から出汁入りのものが多いから、普段料理しない人だと勘違いしてる場合がそこそこあるらしい。
「そうなのか。ならば次は鈴カステラではなくちゃんとダシを──」
「待って待って待って。鈴カステラ入れたの? 味噌汁に??」
「甘くすればしょっぱさがマシになるかと……」
……うん、流石にその失敗例は初めて聞いたかな。舞だけじゃなく、前田も呆れた顔をしている。
「……舞、真守。調理実習はお前らが頼りだ」
「流石にもうやらぬぞ!? 学校でも台所出禁は嫌なのだ!」
「ごめんね延珠ちゃん、調理実習の時は、私と真守の指示に従ってほしいな」
「ぐぬぬ……分かったのだ……」
延珠ちゃんが悔しがってるのも珍しい……てか『ぐぬぬ』なんて本当に言う人初めて見たわ。
……とまぁ、こんな感じでわちゃわちゃしながら給食を終え、昼休みは思いっきり遊び、真面目に授業を受けて、帰宅する。なんてことない日常だけど、充実した毎日。
世界がガストレアの脅威に包まれている以上、この平穏は続かないと分かっている。だからこそ、俺はいつ『日常』が壊れても後悔しないように、生きている。
……だけど。だけどさ……こんなの、あんまりじゃないか。
「──なぁ藍原。明日さ、前にお前が話してた『レンタロー』に会いに行ってもいいか?」
「うむ、構わないぞ! 特に予定は無いと聞いている!」
「じゃあ、お前んとこのアパート裏にある空き地に朝7時!」
「分かったのだ!」
帰宅路の途中で聞いた、前田と延珠ちゃんの何気ない会話。
祝日明けにする話のタネができたなって……そう思ったのに。
いざ登校してみれば──
「……は?」
黒板にデカデカと書かれたチョークの文字に、俺が憧れた少女の日常は壊された。