赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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 事情聴取がなかった分、聖居を出るのが少しだけ早くなっています。不良くんたちは出番カットです。


第十四話:『殺し屋』

 

 ぐらぐら、ぐらぐら、揺らめいている。

 ふらふら、ふらふら、よろめいている。

 

 太陽は爛々とその存在を主張しているにも関わらず、昼行性(ヒト)の身である筈の肉体(カラダ)は、いつまで経っても言うことを聞いてくれない。

 この国では私達を『呪われた子供』と呼ぶらしいが、言い得て妙だと思った。人間の生態に反し、年々増していく光への忌避感は……まさに『呪い』だ。

 

「──ねぇ」

「うぇっ?」

 

 外部からの干渉により、ようやく最低限の意識が回復する。

 声を掛けてきたのは、若い男性。日本人としては高身長の、優しそうな雰囲気の青年だ。

 

「とりあえず、止まろっか」

「はい……?」

「自転車、降りれる? handle(ハンドル)の外側に付いたlever(レバー)を引いて、減速するの」

 

 ……私は、何故自転車なんてものに乗っているんだ?

 困惑しつつ、言われた通り車体を減速。慣性を失い不安定になるものの、青年の補助を受けつつ停止して降車する。

 

「さて、落ち着いて話せる状態になったところで……一つ確認。日本語は通じるって認識でいいんだよね?」

「あぁ……はい……」

「それでキミ、一人? 保護者の方は?」

「……いません」

「……それは、『今この場に』ってこと? それとも……」

「死にました」

「……そっか。お揃いだ」

 

 青年も、随分若く見えるが。比較的平和なこの国でも、そういう不幸は転がっているらしい。

 

「帰る場所は、あるの?」

「…………さあ?」

 

 両親と暮らした家には、帰れない。あのアパートは、『任務』が終われば焼き払う。マスターも、私も、沢山恨みを買っているから……帰った時、今の家が無事かも分からない。

 

(……服は綺麗で、体臭もない。だから生活拠点はこの近くにある筈と思ったんだけど……)

 

「……じゃあ、ウチに来なよ」

「あぁ……誤解させましたね。私、アパートの場所、わかります」

「……道、分かる?」

「はい」

「じゃあ、ここはどこ?」

「…………さあ?」

「ダメじゃん」

 

 そう言って彼は苦笑いすると、しゃがんで手を差し出した。

 

「一緒に駅まで行こっか。あそこなら周辺の地図があるし、駅員さんに道を聞くでもいいし」

 

 ──〝他人との接触は避けろ〟

 

「…………」

 

 回らない頭で少し考えたが、良い断り方は思い付かなかった。

 だから私は、彼の手を取った。

 

 ──久しく忘れていた、人肌の温度。

 

「……名前」

「ん?」

「あなたの名前、まだ聞いてなかったので」

「あー、そういえばそうだったね」

 

 そう言って振り返り、彼は名乗った。

 

「──真守(まもる)だよ。神崎(かんざき)真守」

 

 マモル……『safeguard』か。良い名前だ。

 

「キミは?」

「……ミラです。ミラ・ペイン」

「じゃあ、ペインちゃんだね」

 

 ──そうだ。私は『痛み(pain)』だ。何人も何人も、痛みの中に葬った。見ず知らずの子供へ手を差し伸べる、この人とは違う。

 

「……今日は、ありがとうございました」

 

 駅に着き、彼の手が離れたので、一礼をする。

 

「あっ、待って」

 

 立ち去ろうとした私に、彼は再び手を差し出した。

 

「これ、オレの電話番号ね。何かあったら電話して。すぐ飛んでくから」

「…………」

 

 パジャマの中に入っていた携帯を取り出し、番号を登録する。

 ……大丈夫だ。使わなければいい。

 

「携帯持ってたのかお前……ちょっと貸せ」

「あっ」

 

 神崎さんと一緒に居た青年は、私から携帯を取り上げると、少し操作をした後返却した。

 

「コイツだって、すぐに動けない場合もあるからな。俺の電話番号も登録しておいた」

 

 登録名は、『里見蓮太郎』

 

「……なんと、読むのですか?」

「サトミ、レンタロウだ」

「里見さん、ですね」

「蓮太郎でいい」

「オレも、真守でいいよ」

 

「……分かりました」

 

 思わず実名で、『私もファーストネームでいいですよ』と言いそうになってしまった。

 だけど、もうこの二人とは関わらない。関わってはいけない。何故なら私は、殺し屋だから。

 

「真守さん、蓮太郎さん──もう会うことはないでしょう(また会えるといいですね)

 

 私は、この腐った世界で出会った優しい人達を……きっと忘れない。

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