赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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 聖居前での遭遇以降は、原作とほぼ変化なしです。地味な変化としては、真守・夏世ペアが入社して収入が増えたので、木更の行き倒れがなくなり、里見家の家具が無事なことくらいです。
 ──さてそれでは、1st battle行きましょうか!


第十五話:『お兄ちゃん』

 

 護衛任務の当日となった。

 蓮太郎達は聖居から車で二時間ほどの位置にある、超高層ホテルを訪れていた。要人のセーフハウスとしてよく利用されているらしいこのホテルが、斉武と聖天子の会談の場所だ。

 

「……しかし、非合理的ですね。私達を置いていくとは」

 

 車内(リムジン)に取り残された夏世が、不機嫌そうにぼやく。

 なんでも『こういう真面目な場に子供は連れて行けません』とのことだが……安全性を考えると、彼女の言う通りだった。

 

「まぁまぁ、そうむくれるでない。良いではないか。蓮太郎がいるなら充分だろう」

「そうそう。聖天子様のすぐ近くで警護できないのは、オレとしても残念だけどさ……蓮太郎さんがいるなら、中で何かあってもオレ達が向かうまで対処できるでしょ」

「……私だって、里見さんを信頼していないワケではありませんが……」

「うむ、知っておる。夏世も蓮太郎ラブだからな」

 

「なぁっ!?」「えっ!?」

 

 突然のカミングアウトに、夏世と真守が同時に驚愕の声を上げる。

 

「夏世の好きな人って、蓮太郎さん!?」

「ちっ、ちがっ……!」

「お主ら、隠し事が下手過ぎるのだ」

「そんな……私、この人と同レベルなんですか……?」

「あー……いや、すまぬ。言い過ぎた。流石にコレと同レベルはな……あっ、蓮太郎本人には気付かれてないから安心していいぞ」

「いつの間にかオレがディスられてる件」

 

「「だって、分かりやすい(です)し」」

 

「えぇー」

 

 ただし延珠は、真守の恋心に気付いていない(友愛だと思っている)模様。

 

 ──平穏が破られるまで、あと二時間。

 

 

 

 *

 

 

 

 パラパラと、小雨が降ってきた。

 

 ただでさえ夜間で視界が確保しにくく、ビル風で弾道の制御が難しかったのに、雨まで降ってきては狙撃なんて不可能だ──と、私以外の同業者は諦めるのだろう。

 だがフクロウの因子と『機械化兵士(NEXT)』の力を持つ私には関係ない。通常狙撃兵は単独では行動せず、最低限観測手(spotter)と二人一組み。欲を言えばそこに加えて護衛(flanker)も欲しいとされているが……私には、それすら必要ない。

 

「目標補足……」

 

 引き金に指をかける。冷たい感触。

 指を曲げれば、弾は狙い通りに進む。そして聖天子(target)が乗ったリムジンに直撃──する直前、猛烈な違和感。

 

「は……?」

 

 突如()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何者かが、()()()()()()()()()

 すると狙撃弾は()()()()()()()()、着弾と同時に()()()()

 

「は……??」

 

 意味が、分からない。理解不能な現象に、思考が固まる。

 

『──おいティナ、どうした』

 

 マスターの声に反応し、ありのまま今起こったことを話す。

 

『……あのマヌケな聖天子付き護衛官以外にも護衛が居たのか。チッ、情報にはないが……そんなことができる奴に、心当たりがないでもない』

 

 純粋に、驚いた。心の中で、マスターの評価が上がる。

 

『そこは日本……それも東京エリアだからな。()の根城と考えれば、そうおかしな話ではない』

「奴?」

『室戸菫。私と同じく、機械化兵士作成技術を持つ人間だ。奴が与える個人兵装は、ガストレアの完全体(stageⅣ)を葬る義肢。まさか弾丸の誘導機能まで付いているとは思わなかったがな』

 

 私のシェンフィールドと同じく、進化したということか。

 

『ソイツの姿を見たか?』

「はい。しかし鎧らしきものを纏っていて、顔立ちは見えませんでした」

『分かった。ならこちらで調べておく。お前は速やかに撤退しろ』

 

 命令に従い、撤退の準備をする。

 最後にシェンフィールドを回収し……そこに映った敵へ思いを馳せた。

 

「私を邪魔したあなたは、誰?」

 

 思わず出た自分の声に、負の感情が乗っていないと気付いた。

 ……何故? 任務を達成できなかったのに。私は……安心している?

 まさか……聖天子の殺害を、躊躇しているのか? この私が?

 

 ──いや、あり得ない。そんなバカな。

 

 今まで何人も殺してきたのだ。今更、たった一人の命を奪うことに抵抗なんてない。だからそう、証拠にそこらの一般人でも──

 

「……何をやってるんでしょうね、私は」

 

 人混みに向けた銃口を下げ、冷たい引き金から指を離す。

 

「……今日はいつになく、手が冷えますね」

 

 もうすぐ、夏が来るというのに。

 凍りついた指は、温度を求めて携帯を握っていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──翌日。

 私は、外周区を訪れていた。

 周囲には巨大な怪物の足跡、血がこびりついた椅子、赤錆で真っ赤になった自動車などが散見される。

 

「こう言ったらアレだけど……変わってるね。観光名所とかをそっちのけで、真っ先に外周区を見に来るなんてさ」

「……よく言われます」

 

 観光名所なんて人の多い場所へ行ったら、それだけ接触が増えてしまう。……仕事以外の殺人は、趣味じゃない。

 

「……それで、本当は何をしに来たの?」

「……外周区を見たかったのは、本当ですよ」

「でも、それだけじゃないでしょ」

「…………また手を握って、一緒に歩いて欲しい……と、言ったら……笑いますか?」

「いやいや、笑わないよ」

 

 そう言って彼は、笑顔で手を差し出した。

 

「……笑ってるじゃないですか」

笑顔(スマイル)声を出して笑うこと(ラフ)は別でしょ?」

「……そうですね」

 

 そうしてどこを目指すでもなく、彼の話を聞きながら歩いた。

 彼は話し上手で、その声は子守唄のように心地良くて……どこまでも、こうしていたくて。カフェインの錠剤を、いつもより多めに頬張った。

 

「……眠いなら、寝ていいんだよ。それ、夜行性動物の因子でしょ?」

「──ッ!? いつから気付いて……?」

 

 一瞬で眠気が吹き飛んだ。ボロを出した覚えはないのだが……

 

「割と最初から。確証を得るための鎌かけだったんだけど、正解か」

「なら貴方は、私が『呪われた子供』だと知った上で誘いを受けたのですか……?」

「うん。それが?」

「…………私たちのこと……恐くないんですか?」

 

 彼は一瞬、とても辛そうな顔をした。

 

「君たちの正体を知った途端に、手のひらを返す人達の方が……よっぽど恐いよ」

 

「──貴方の目の前に居るのが、人殺しだとしても?」

 

 ……何を、口走っているのだろう。

 こんなことを言われたら、誰だって……

 

「……誰彼構わず殺したがる快楽殺人鬼じゃないなら、恐がる理由はないかな」

 

「……ぇ?」

 

 拒絶しない、と言うのか? この人は。

 

「──ッ! 私が殺したのは、一人や二人ではありません! 何人も、何人も……! 数え切れないほど殺しました!」

 

 ……あぁ、さっきから私は、どうして会ったばかりの人に、自分の闇を曝け出しているのだろう。

 

「……そっか。辛かったね」

 

 どうしてこの人は、私を突き放さないんだろう。

 

「……っ! 何なのですか、貴方はッ! なんで……!」

 

 そうして『何故だ』と言いながら泣き始めた私の頭を、彼は優しく撫でて、落ち着くまで背中をさすってくれた。

 こんなに泣いたのはいつ以来だろうか……でも、仕方ないだろう。両親が死んでからは、弱みを見せられる相手なんて誰もいなかったのだから。

 次々と仲間が死んでいき、気付けば私を含めて六人になっていて。生き残った五人の仲間は、全員妹世代だった。だから私は年長者として、気丈であり続ける必要があったのだ。

 年上なら一応マスターがいたが、あの人に弱音なんて吐いたら何をされるか分からない。

 

 ……あぁそうか。私はずっと──

 

「ありがとうございます。もう落ち着きました。真守さんは優しいですね……なんだか、()()()()()()()()です」

 

 ──こんな頼れる人()が、欲しかったんだ。

 

「実際、キミくらいの妹がいるからね」

「そうですか……羨ましいなぁ……

 

 その妹さんは、幸せ者だ。

 

「二人だけの時は『お兄ちゃん』って呼んで、頼りにしてくれても良いんだよ? 最近妹は『お兄ちゃんって言うの面倒。真守なら三文字で済むから』とか言って、『お兄ちゃん』って呼んでくれないから……ちょっと寂しかったんだよね」

 

 ──少し、驚いた。

『羨ましい』の部分は面と向かって言うのは恥ずかしかったから、聞こえないように小声で呟いた筈なのだが……思っていた以上に声が出ていたらしい。

 なら、少しくらい甘えても──

 

「嬉しいです、でも遠慮しますね。胸を貸してもらえただけで、十分以上に満足しましたから」

 

 ────駄目だ。

 

 にっこりと笑顔を作り、辞退する。

 私は殺し屋。命令とはいえ数多の人生を、幸福を奪ってきた極悪人。

 そんな私が何かを望むなんて、烏滸がましいにも程がある。

 

「嘘だね」

「嘘じゃないです」

「いーや、嘘だね」

「……どうして、分かるんですか?」

 

 この演技は、マスターや妹たちにも気付かれたことがないのに……

 

「ペインさん、もう何年も泣いてなかったでしょ? 泣き方が壊滅的に下手だった。

 ……オレの前では我慢しなくていいから、辛いことは吐き出して、やりたいことは遠慮なく言うこと。全部、受け止めるからさ」

「……まだ二回しか会ってない子供のために、そこまでする理由はなんですか?」

 

 今までの自分の行動を棚に上げて、問い詰める。

 でもとにかく、このままじゃ駄目だと思った。このまま彼の優しさに甘えたら、私はもう……殺し屋ではいられなくなってしまう気がして。

 

「──オレがオレであり続けるためかな」

「……え?」

 

 彼の口から、予想外な言葉が出てきた。

 

「オレの名は真守。真の守護者と書いて『真守』

 つまりキミを見捨てちゃったら、偽物の守護者『偽守(ぎもる)』になっちゃうワケだ。語呂が悪くてとても恥ずかしい」

「……ははっ、なんですか、それ!」

「なんで笑うのかな? オレは真剣なんじゃが? じゃが??」

「ぷっ、アハハハハ!!」

 

 気付けば私は、今まで押し殺していた願いを吐き出していた。

 

 ずっと行ってみたかった場所があると。

 ずっと食べてみたかった料理があると。

 ずっと読んでみたかった物語があると。

 

「よし、じゃあ一つずつ片付けていきますか!」

「……本当に、叶えてくれるんですか……?」

「男に二言はない!」

 

 『これ、一回言ってみたかったんだよ』

 そんなことを言いながら、彼は優しく私の手を引いてくれた。

 

 だから──私もせめて、不義理はなくそう。

 

「……ペインさん?」

 

 急に立ち止まった私に、彼は声をかけた。

 だけどその名は、違うのだ。

 

「──〝ティナ〟です」

「え?」

「私の名前、本当は『ティナ・スプラウト』っていうんです」

「……そこもお揃いか」

 

 またもや放たれた意外な言葉に、今度は私が『え?』と返した。

 

「オレもね、ちょっち事情があって……普段は偽名を使ってるんだ」

「……じゃあ、さっきの話は……」

「いやいや、真守は本名だよ。秘密だぜ?」

 

 どうやら普段は、『守屋』と呼ばれているらしい。

 本当の名前は、お互い二人きりの時だけ呼び合うということになった。

 

「──いいね? ()()()

「いいですよ、()()さん」

 

 ──この時から、『痛い』だけだった私の人生から、痛み(pain)が消えていった。

 それは今だけの……この人といる時だけの錯覚なのだろう。

 だがそれでも良い。今はただ、この時を楽しみたいと──そう思えた。

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