赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
聖居前での遭遇以降は、原作とほぼ変化なしです。地味な変化としては、真守・夏世ペアが入社して収入が増えたので、木更の行き倒れがなくなり、里見家の家具が無事なことくらいです。
──さてそれでは、1st battle行きましょうか!
護衛任務の当日となった。
蓮太郎達は聖居から車で二時間ほどの位置にある、超高層ホテルを訪れていた。要人のセーフハウスとしてよく利用されているらしいこのホテルが、斉武と聖天子の会談の場所だ。
「……しかし、非合理的ですね。私達を置いていくとは」
なんでも『こういう真面目な場に子供は連れて行けません』とのことだが……安全性を考えると、彼女の言う通りだった。
「まぁまぁ、そうむくれるでない。良いではないか。蓮太郎がいるなら充分だろう」
「そうそう。聖天子様のすぐ近くで警護できないのは、オレとしても残念だけどさ……蓮太郎さんがいるなら、中で何かあってもオレ達が向かうまで対処できるでしょ」
「……私だって、里見さんを信頼していないワケではありませんが……」
「うむ、知っておる。夏世も蓮太郎ラブだからな」
「なぁっ!?」「えっ!?」
突然のカミングアウトに、夏世と真守が同時に驚愕の声を上げる。
「夏世の好きな人って、蓮太郎さん!?」
「ちっ、ちがっ……!」
「お主ら、隠し事が下手過ぎるのだ」
「そんな……私、この人と同レベルなんですか……?」
「あー……いや、すまぬ。言い過ぎた。流石にコレと同レベルはな……あっ、蓮太郎本人には気付かれてないから安心していいぞ」
「いつの間にかオレがディスられてる件」
「「だって、分かりやすい(です)し」」
「えぇー」
ただし延珠は、真守の恋心に気付いていない(友愛だと思っている)模様。
──平穏が破られるまで、あと二時間。
*
パラパラと、小雨が降ってきた。
ただでさえ夜間で視界が確保しにくく、ビル風で弾道の制御が難しかったのに、雨まで降ってきては狙撃なんて不可能だ──と、私以外の同業者は諦めるのだろう。
だがフクロウの因子と『
「目標補足……」
引き金に指をかける。冷たい感触。
指を曲げれば、弾は狙い通りに進む。そして
「は……?」
突如
すると狙撃弾は
「は……??」
意味が、分からない。理解不能な現象に、思考が固まる。
『──おいティナ、どうした』
マスターの声に反応し、ありのまま今起こったことを話す。
『……あのマヌケな聖天子付き護衛官以外にも護衛が居たのか。チッ、情報にはないが……そんなことができる奴に、心当たりがないでもない』
純粋に、驚いた。心の中で、マスターの評価が上がる。
『そこは日本……それも東京エリアだからな。
「奴?」
『室戸菫。私と同じく、機械化兵士作成技術を持つ人間だ。奴が与える個人兵装は、ガストレアの
私のシェンフィールドと同じく、進化したということか。
『ソイツの姿を見たか?』
「はい。しかし鎧らしきものを纏っていて、顔立ちは見えませんでした」
『分かった。ならこちらで調べておく。お前は速やかに撤退しろ』
命令に従い、撤退の準備をする。
最後にシェンフィールドを回収し……そこに映った敵へ思いを馳せた。
「私を邪魔したあなたは、誰?」
思わず出た自分の声に、負の感情が乗っていないと気付いた。
……何故? 任務を達成できなかったのに。私は……安心している?
まさか……聖天子の殺害を、躊躇しているのか? この私が?
──いや、あり得ない。そんなバカな。
今まで何人も殺してきたのだ。今更、たった一人の命を奪うことに抵抗なんてない。だからそう、証拠にそこらの一般人でも──
「……何をやってるんでしょうね、私は」
人混みに向けた銃口を下げ、冷たい引き金から指を離す。
「……今日はいつになく、手が冷えますね」
もうすぐ、夏が来るというのに。
凍りついた指は、温度を求めて携帯を握っていた。
*
──翌日。
私は、外周区を訪れていた。
周囲には巨大な怪物の足跡、血がこびりついた椅子、赤錆で真っ赤になった自動車などが散見される。
「こう言ったらアレだけど……変わってるね。観光名所とかをそっちのけで、真っ先に外周区を見に来るなんてさ」
「……よく言われます」
観光名所なんて人の多い場所へ行ったら、それだけ接触が増えてしまう。……仕事以外の殺人は、趣味じゃない。
「……それで、本当は何をしに来たの?」
「……外周区を見たかったのは、本当ですよ」
「でも、それだけじゃないでしょ」
「…………また手を握って、一緒に歩いて欲しい……と、言ったら……笑いますか?」
「いやいや、笑わないよ」
そう言って彼は、笑顔で手を差し出した。
「……笑ってるじゃないですか」
「
「……そうですね」
そうしてどこを目指すでもなく、彼の話を聞きながら歩いた。
彼は話し上手で、その声は子守唄のように心地良くて……どこまでも、こうしていたくて。カフェインの錠剤を、いつもより多めに頬張った。
「……眠いなら、寝ていいんだよ。それ、夜行性動物の因子でしょ?」
「──ッ!? いつから気付いて……?」
一瞬で眠気が吹き飛んだ。ボロを出した覚えはないのだが……
「割と最初から。確証を得るための鎌かけだったんだけど、正解か」
「なら貴方は、私が『呪われた子供』だと知った上で誘いを受けたのですか……?」
「うん。それが?」
「…………私たちのこと……恐くないんですか?」
彼は一瞬、とても辛そうな顔をした。
「君たちの正体を知った途端に、手のひらを返す人達の方が……よっぽど恐いよ」
「──貴方の目の前に居るのが、人殺しだとしても?」
……何を、口走っているのだろう。
こんなことを言われたら、誰だって……
「……誰彼構わず殺したがる快楽殺人鬼じゃないなら、恐がる理由はないかな」
「……ぇ?」
拒絶しない、と言うのか? この人は。
「──ッ! 私が殺したのは、一人や二人ではありません! 何人も、何人も……! 数え切れないほど殺しました!」
……あぁ、さっきから私は、どうして会ったばかりの人に、自分の闇を曝け出しているのだろう。
「……そっか。辛かったね」
どうしてこの人は、私を突き放さないんだろう。
「……っ! 何なのですか、貴方はッ! なんで……!」
そうして『何故だ』と言いながら泣き始めた私の頭を、彼は優しく撫でて、落ち着くまで背中をさすってくれた。
こんなに泣いたのはいつ以来だろうか……でも、仕方ないだろう。両親が死んでからは、弱みを見せられる相手なんて誰もいなかったのだから。
次々と仲間が死んでいき、気付けば私を含めて六人になっていて。生き残った五人の仲間は、全員妹世代だった。だから私は年長者として、気丈であり続ける必要があったのだ。
年上なら一応マスターがいたが、あの人に弱音なんて吐いたら何をされるか分からない。
……あぁそうか。私はずっと──
「ありがとうございます。もう落ち着きました。真守さんは優しいですね……なんだか、
──こんな
「実際、キミくらいの妹がいるからね」
「そうですか……羨ましいなぁ……」
その妹さんは、幸せ者だ。
「二人だけの時は『お兄ちゃん』って呼んで、頼りにしてくれても良いんだよ? 最近妹は『お兄ちゃんって言うの面倒。真守なら三文字で済むから』とか言って、『お兄ちゃん』って呼んでくれないから……ちょっと寂しかったんだよね」
──少し、驚いた。
『羨ましい』の部分は面と向かって言うのは恥ずかしかったから、聞こえないように小声で呟いた筈なのだが……思っていた以上に声が出ていたらしい。
なら、少しくらい甘えても──
「嬉しいです、でも遠慮しますね。胸を貸してもらえただけで、十分以上に満足しましたから」
────駄目だ。
にっこりと笑顔を作り、辞退する。
私は殺し屋。命令とはいえ数多の人生を、幸福を奪ってきた極悪人。
そんな私が何かを望むなんて、烏滸がましいにも程がある。
「嘘だね」
「嘘じゃないです」
「いーや、嘘だね」
「……どうして、分かるんですか?」
この演技は、マスターや妹たちにも気付かれたことがないのに……
「ペインさん、もう何年も泣いてなかったでしょ? 泣き方が壊滅的に下手だった。
……オレの前では我慢しなくていいから、辛いことは吐き出して、やりたいことは遠慮なく言うこと。全部、受け止めるからさ」
「……まだ二回しか会ってない子供のために、そこまでする理由はなんですか?」
今までの自分の行動を棚に上げて、問い詰める。
でもとにかく、このままじゃ駄目だと思った。このまま彼の優しさに甘えたら、私はもう……殺し屋ではいられなくなってしまう気がして。
「──オレがオレであり続けるためかな」
「……え?」
彼の口から、予想外な言葉が出てきた。
「オレの名は真守。真の守護者と書いて『真守』
つまりキミを見捨てちゃったら、偽物の守護者『
「……ははっ、なんですか、それ!」
「なんで笑うのかな? オレは真剣なんじゃが? じゃが??」
「ぷっ、アハハハハ!!」
気付けば私は、今まで押し殺していた願いを吐き出していた。
ずっと行ってみたかった場所があると。
ずっと食べてみたかった料理があると。
ずっと読んでみたかった物語があると。
「よし、じゃあ一つずつ片付けていきますか!」
「……本当に、叶えてくれるんですか……?」
「男に二言はない!」
『これ、一回言ってみたかったんだよ』
そんなことを言いながら、彼は優しく私の手を引いてくれた。
だから──私もせめて、不義理はなくそう。
「……ペインさん?」
急に立ち止まった私に、彼は声をかけた。
だけどその名は、違うのだ。
「──〝ティナ〟です」
「え?」
「私の名前、本当は『ティナ・スプラウト』っていうんです」
「……そこもお揃いか」
またもや放たれた意外な言葉に、今度は私が『え?』と返した。
「オレもね、ちょっち事情があって……普段は偽名を使ってるんだ」
「……じゃあ、さっきの話は……」
「いやいや、真守は本名だよ。秘密だぜ?」
どうやら普段は、『守屋』と呼ばれているらしい。
本当の名前は、お互い二人きりの時だけ呼び合うということになった。
「──いいね?
「いいですよ、
──この時から、『痛い』だけだった私の人生から、
それは今だけの……この人といる時だけの錯覚なのだろう。
だがそれでも良い。今はただ、この時を楽しみたいと──そう思えた。