赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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第十八話:決別

 

 規則的な機械音が、病室の静寂を埋めていた。

 

「……何やってんだよ、木更さん」

 

 蓮太郎と木更は、襲撃が来ると分かっていた。

 ……正確には夏世と菫が事前に想定し、心構えをさせていた。故に日常生活においても、常に二人以上で行動するよう徹底していた筈なのだ。

 にも関わらず、木更が部屋に一人だったのは……蓮太郎との喧嘩が原因である。当初夏世と行動していた彼女は、『蓮太郎と二人で話したい』と言って、夏世に席を外してもらっていた。その結果がコレだ。

 ……まぁ蓮太郎が呆れているのは、彼女が今ここにいる理由が()()()()()()()()からなのだが。

 

「事務所が襲撃されたって連絡のすぐ後に、アンタが病院に搬送されたって聞いたから、急いで来てみりゃ……心配させやがって」

「……悪かったわね」

 

 『ぷいっ』という効果音が付きそうな膨れっ面で、木更は外方(そっぽ)を向いた。

 彼女が搬送された理由は、戦闘による負傷ではない。腎臓の機能が停止している木更は、定期的に血液の透析治療を行わなければならないのだが……彼女はそれをサボっていたのである。

 

「……でも今は私のことより、真守くんの方を心配してあげて」

「……そうは言ってもよ、どう声をかければいいってんだ──」

 

 

  襲撃犯が知り合いだった時の慰め方なんて、俺は知らねえぞ

 

 

 

 

 *

 

 

 

 ──ティナだった。

 

 木更さんの首を絞めていたあのイニシエーターは、間違いなくティナだった。タオルで顔を一部隠していたが、知り合いなら一発で分かる。事務所に帽子が落ちていたから、本来それと合わせて目元以外を隠していたのだろうが……

 

「……ティナの匂いだ」

 

 結果的に、正体を隠すための帽子が『見間違い』という線も潰してしまっている。確実に、あの娘が犯人だ。

 

「〜〜っ、どうすりゃいいんだよ……!」

 

 司馬重工の未織さん曰く、聖天子様を撃った狙撃手の技量は『実在を疑うレベル』らしい。

 だが、オレは知っている。あの娘の因子──フクロウの眼なら、夜という不利はほぼ無効。動体視力も、申し分ない。

 

「敵が何人いるのか分かんねぇけど、ティナは多分……」

 

 あの狙撃手と、同一人物だろう。

 だとすると、生きて拘束したとして……死刑を免れることは、できるのか?

 

「駄目だ……! オレにはできねぇ……!」

 

 ──なら、護衛を降りるか?

 

「それも駄目だ……! それは、絶対に……!」

 

 あの狙撃は、蓮太郎さんと延珠ちゃんの二人レベルでもギリギリだ。聖天子様だけじゃなく、二人共殺されたっておかしくない。

 

 ……なら、取るべき行動は一つじゃないか。

 

「……覚悟を決めろ、オレ」

 

 

 

 *

 

 

 

 ──深夜。

 

「こんな時間に、珍しいですね──真守さん」

『……うん。大事な話があってさ。ティナがしっかり起きてる時に、話しておきたくて』

「……なんでしょう?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()で、私は携帯を耳に押し当てた。

 

『ねぇティナ──オレの養子にならない?』

「…………え?」

 

 彼の口から発されたのは、全く予想していた言葉ではなかった。

 ……しかしまだ、安心できない。

 

「経済面なら大丈夫ですよ。私これでも、高給取りなので」

『……仕事なんて辞めちゃってさ。まだ子供なんだし、命懸けてまで働かなくてもいいでしょ』

「そうはいきません。私が辞めたら、相棒が困ったことになるので」

 

 そうしたら彼はきっと──貴方のことも殺すだろう。

 

『……困らせておけばいいじゃん。大人なんだから、子供に頼らず自力でなんとかしやがれって話だよ』

「ハハッ。それ、プロモーター全般に当て嵌まっちゃいますよ?」

『──ティナ!!』

 

 初めて、彼が怒鳴る声を聞いた。

 

『……ごめん、怒鳴っちゃって……でも、お願い。真面目な話なんだ……茶化さず答えてほしい。ティナは……今の仕事、楽しいの?』

「……楽しくはありませんよ」

『──だったらッ!』

 

()()()()()()

 

『どうして……!』

 

 彼の焦りように、私は……『最悪の想定』が当たってしまったことを悟る。

 

「『どうして』ですか。こちらの台詞ですが──いいでしょう。言い当ててあげます。アナタが急にこんなことを言い出した、そのワケを」

 

 残念なことに、今は夜。人々は眠り、私は夢から覚める時間。

 

「──()()()()()()んでしょう? 私の正体が、殺し屋だって」

『……!』

 

 彼は息を呑み、絶句する。沈黙は肯定であり、私はその肯定を嗤った。

 

「恐怖で言葉も出ませんか? フフッ、言ってましたもんねぇ。『快楽殺人鬼じゃないなら恐がらない』って──逆に言うと、快楽殺人鬼は恐いってことですもんねぇ?」

『違っ、そういうことじゃ……!』

「いいんですよもう、取り繕わないで──アナタの作戦はこうです。私の正体に気付いていないフリをしながら、私を電話で(おび)き出して捕まえる。とてもシンプルな内容です。ですが、正体を知ってしまった以上、『いつも通り』を演じることに自信がなかったアナタは……こんな茶番を企てた」

『ちっ、違う! 誤解だ!!』

 

 あぁ、知っている。貴方は優しいから……こんな私を、本気で助けようとしてくれたのだ。

 

「──ウソツキ。でも恥じることじゃありません。私もアナタに嘘を吐きました」

『話を聞いてくれティナッ、オレは本当に……!』

「私ホントは殺すのダイスキですし、アナタみたいな兄貴ヅラした偽善者がダイキライなんです。だからもう、殺したくて仕方なかった」

『────』

 

 嘘です。今言ったこと、全部嘘です。

 そう言ってしまえたら、どれだけ楽になれるか。

 

「次に会ったら殺します。命が惜しければ、もう私に関わらないでください」

 

 それだけ一方的に言い捨て、電話を切った。そしてすぐさま、彼の番号を『着信拒否』に設定する。

 

 ────これでいい。これで。

 

「ぅ、あぁああ……! あ゛ァあああ……!」

 

 バレた原因は分かっている。アパートに帰ってすぐ、紛失したことに気付いたあの帽子──部屋中探し回ったが、元から狭い上に物も少ないからすぐに分かった。私はアレを、戦闘中に落としたのだ。そして『鎧』に、素顔を見られた。

 

「忘れててくださいよ……! なんで覚えてるんですか……!?」

 

 たった一度会っただけの相手。しかも顔の下半分は隠れていて、粉塵で視界も悪かったろうに。お門違いの怒りと分かっていても、文句を言わずにはいられない。

 

「──ころしてやる」

 

 そうだ、ころしてしまえばいい。私を苦しめた分、苦しめて殺せばいい。

 

「殺してやる……!」

 

 元よりその予定だったが、俄然やる気が湧いてきた。かつてない程のモチベーション。

 

 ──耳元で、再び『止めろ』という警鐘。

 

「うるさいですね……」

 

 幽鬼のような足取りで、印刷した第二回会談の護送ルートを取り出しに向かう。アイデアは全て書き込まなければ。確実に、逃がさないように、奴の命を刈り取るために。

 

 ──人生最大の絶望は、もうすぐそこに。




 
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