赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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第二十一話:決戦前夜

 

 ──事件の二日後、三回目の会談の日程が決まった。

 明後日の夜八時から。それが第三回非公式会談の予定日時。

 

「……何もかも早過ぎる」

「えぇ、私もそう思うわ」

 

 『第二回の時点で三回目の予定を立てていた』としか考えられない速度だ。それが意味することは……

 

「斉武宗玄、奴が暗殺の依頼人に決まってる……」

「でしょうね」

 

 初めから、二回目で聖天子を仕留める気は無かったのだろう。事前に事務所を襲撃したことからも分かる通り、狙いは邪魔な天童民間警備会社だった。

 

「それで、どうするの? 退くなら今よ」

「まさか。依頼は続行する」

「誰が死んでもおかしくないわよ」

「依頼を降りても、真守は一人で戦いに行く気らしいぜ? なら、俺達がサポートしてやった方が良い」

 

 延珠は真守を連れ帰る前、狙撃手に会ったという。そして、自暴自棄になっていた狙撃手に、罪を償うよう諭したとも。

 

(──だが、こうして三回目の会談が決まった。敵はまだ諦めていないと想定して動くべきだ)

 

「一人で戦うって……それで一回殺されかけてるのよね?」

「あぁ。心配なのは確かだけど、たぶん大丈夫だ」

「何を根拠に」

 

 基本的に過保護な蓮太郎は、無責任にこのようなことは言わない。そう分かっていても、木更は不安から語気が荒くなるのを自覚した。

 

「先生が『任せておけ』ってさ。あの人がそう言うなら、勝算があるってことなんだろ」

「そうかもしれないけど……!」

「気持ちは分かるぜ、木更さん。だからさ、実は()()()()()()()()()()()んだ」

「え?」

 

 豆鉄砲を喰らった鳩のような顔になった木更へ、蓮太郎は言い難そうに報告する。

 

「未織に頼み込んで、VR訓練室を借りた。今、対狙撃手用のプログラムを組んで貰って修行中だ」

「…………」

 

 VR訓練室は本来年単位で予約が埋まっている代物だ。それを横入りで利用するとなれば、司馬重工に大きな借りを作ることとなる。未織と犬猿の仲であり、つい先日も大喧嘩をしたばかりの木更は、いつも以上に嫌な顔をして──

 

「気に食わないけど、()()()()()。様子を見に行くわよ、里見くん」

「……俺一人でも、大丈夫だぜ?」

「別に邪魔とかしないわよ。背に腹はかえられないもの」

「なら、いいけどよ」

「何よ、そんなに意外? 心外ね。私だってTPOくらいわきまえてるわよ」

「…………」

 

 白昼堂々と、学校に、銃火器刀剣フル装備で、真面目な話の邪魔をしに行った女は誰だったか──蓮太郎は訝しんだ。

 そしてジト目の蓮太郎を尻目にテキパキと手荷物を纏めた木更は、気まずそうにボソボソと言った。

 

「……ウチの大事な稼ぎ頭だもの。こんな所で喪えないでしょ?」

「……あぁ、そうだな」

 

 素直になれない彼女と共に、蓮太郎は司馬重工へ足を運んだ──

 

(……この世はいつも、良い人から死んでいく。里見くんも、真守くんも、危なっかしくて見てられない。見てられないから──私は、暗い方を見つめるわ)

 

 『絶対悪』の胎動に、彼らは未だ気付けない。

 

 

 

 *

 

 

 

 無機質な電子音が仮住まいの自室に響き、目を覚ます。時刻は深夜二時半。

 

「……マスター、私です」

『第三回の警護計画書が流れてきた』

「早いですね」

 

 不自然だ。前回ですら早かったのに、今回は更に早い。

 違和感に眉を顰めながら、送られてきた計画書を見て──頭を抱える。

 早過ぎる日程、あからさまに遠回りなルート、あつらえたかのように絶好の狙撃ポイント、そして……彼と一緒に、歩いた場所。私はここの土地勘がある。

 

「……マスター、気付いていますか?」

『何にだ?』

「罠です。この計画書は偽物かと」

『まだ内通者が露見した形跡はない』

 

 呆れた。こんな見え見えの罠を張る方も大概だが、それに気付かずかかる阿呆が、世界で五指に入る頭脳とは……

 

「……分かりました。罠だった場合を想定しつつ、現場で臨機応変に対応します──ご安心ください、『鎧』を失った彼らに敗北する私ではありませんので」

『…………それについてだが、貴様……()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「──は?」

 

『私が殺せと命じた警官が生きているという情報が入った。それに、天童民間警備会社の社員も()()()()()だと──』

 

 ──全力で拳を壁に叩き付け、携帯を潰す勢いで握り締める。

 

「殺しました。確実に。生きているなら会わせてくださいよ」

『……そうか。ならいいが』

「マスター。私がこれまでに一度でも、アナタの命令に背いたことがありましたか? 任務に失敗して、逃げ帰ったことがありましたか?」

『……そうだったな。お前は私の最初の作品。最も長く私に尽くしている、愛用品だ。疑って悪かった』

「……私こそ、すみません。寝起きで気が立っていたもので」

『構わん。帰ったら、詫びに珍味でも馳走してやる。楽しみにしておけ』

「ありがとうございます──それでは」

 

 通話を切り、溜め息を吐きながらベッドに倒れ込む。

 危なかった。叛意を悟られてもおかしくない状況だった。

 

「……珍味、ですか」

 

 スーパーで買ってきた冷凍のたこ焼きは、()()()()()()()。幸い食感だけでも物珍しさが味わえたからよかったが。

 

「ふふ……私の好みなんて、知らないくせに」

 

 部屋に用意していたガソリンのタンクを開封し、中身をぶち撒け点火。部屋から撤退する。

 すぐに消防車が現れ、野次馬が押し寄せ歓声を上げた。

 ……こんなに人が居るのに、誰も私を見ていない。私の側には誰もいない。

 

「…………だれか……」

 

 ……自分の口から無意識に漏れた単語に驚いた。

 彼という温もりを知ってしまった私は、ここまで人との繋がりに飢えていたのか。

 

「誰か、私を──」

 

 殺してください……

 

 続く言葉は、アパートが倒壊する音に掻き消された。

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