赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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第二十三話:ヘンシン

 

 ──気付けば、アンプルを首筋に突き刺していた。連続使用は先生から避けるよう言われていたが、躊躇している余裕はなかった。

 アンプルの効能により、世界の動きがゆっくりになる。一瞬でも早く、ティナを救命する方法を見つけなければならない。

 見捨てるという選択肢は論外だ。考えろ、考えろ──

 

 ……なんて誤魔化してみたが、やっぱり駄目だ。

 考えるまでもない。ティナを助けたいなら、遠くに見える病院へ運べばいい。オレの身体能力なら、視界に入る程度の距離なんてすぐだ。結論は既に出ている──

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 外科医という人種は、特に。あんな、ヒトの皮を被った汚物共に、家族を預けられるものか。

 

「はは……クズだなぁ、オレ……」

 

 ……分かっている。医者だって、全員が『ああ』ではない。室戸先生のような人だって、いるにはいる。

 だが、怖いのだ。信用できないものはできないのだ。

 

 故に──自力でなんとかするしかない。

 

 幸い、手段はある。

 GVBアンプル。この猛毒から有害性を取り除き、ティナに投与すれば良い。

 そのために──もう一本、アンプルを首筋に突き刺した。

 

「足りない……」

 

 三本目のアンプルを、突き刺した。

 

「ぐ、ァああ……」

 

 身体が内側からはち切れそうだ。……コレでいい。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 乞い願うは『治癒の力』

 ただ目の前の一人を救うための力。

 

 ──そう言えば聞こえはいいが、その実はどうか。

 一体どの程度の勝算がある? オリジナルの能力なんて、本当に手に入るのか? それに、形象崩壊した後理性を保っていられる保証はない。最悪の場合、東京エリアに大絶滅が訪れる。

 

「それが、どうした……!」

 

 四本目のアンプルを突き刺した。

 

 ──どうせ最悪の場合でも、()()()()()()()()

 だって、()()()()()()()()()なのだから。

 

 先生に言われて、気付いたことがある。死にかけた時に見た母の姿──アレは、幻覚じゃなかった。

 コレは、この血の力は、()()()()()。特別な存在は、オレじゃなかった。

 そしてこの血は……同性である舞の方が、よく馴染んでいるだろう。きっと妹は、オレより強大な力を手に入れる。

 

「ククッ、ハハハ……!」

 

 最低だ。最悪だ。

 それはつまり、舞が怪物と化すことを意味していて。あの子に、兄殺しをさせるということで。

 そして何より、オレ達の戦いに巻き込まれた人間達は大勢死ぬ。

 

 ──知ったことか。

 

 イニシエーターに守られているくせに、この娘たちを『呪われている』だの『ゴミ』だのと罵る連中なんて死ねばいい。だから、コレでいい。

 

「ハハッ、アハハ! そうだ殺そう! 皆殺しだ!! フヒっ、ふひは……!」

 

 笑って、嗤って、嘲笑う。

 腐った世界を、腐敗した人類を切除する未来を想って──五本目を突き刺した。

 

「アハッ、ハハハ! ハハ、は……──ごめんティナ。やっぱりオレは、神崎真守(オレ)が嫌いだよ……」

 

 

 げんかいがきて、ついにはじけた。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 

 

 あぁ……オレは、何をしたかったんだっけ……ただ大きな感情の揺れだけが残っていて、叫ばずにはいられない。

 すごく、悲しいことがあった気がする……すごく、許せないことがあった気がする……

 

 天を仰ぐが、月は何も教えてくれない。

 仕方なく、俯いてみる。すると、あるものが目に留まった。

 ぼんやりとこちらを見つめる、エメラルドの瞳。金糸の髪。小さな小さな、可愛い小人のお人形。赤い汚れが玉に瑕。

 

「……ォオ……」

 

 何故か強く心が惹かれ、屈んでそれをよく見ると──どうやら生きているらしい。赤色は汚れではなく、血ということか。

 

 ──ならば、助けねばなるまい。

 尻尾の針から薬を出して、傷口に垂らしていく。

 

「──ッッ!? ああああああ!!!」

 

 あぁ、暴れないでほしい。ただでさえ加減が難しいのに……全身びしょ濡れにしてしまった。

 傷口に染みてしまったのだろうか。それとも、切れていた神経が再接続されることによる痛みだろうか?

 

「う、ぅぐ……え? 傷が……」

 

 あぁ良かった。小人にも、この薬は効くらしい。流石は室戸先生が作った薬だ。

 

「…………真守、さん?」

 

 マモル……? ()()()()()()()。なんだかとても、尊くて、でも同時に、おぞましい……心を締め付けられる名前。オレをその誰かと勘違いしているらしい。

 

「オガ、ア……」

 

 訂正するために出た声は、ガラガラ過ぎて言葉を成していなかった。どうやら叫び過ぎたようだ。

 仕方がないので『やれやれ、違うぜ』と首を横に振り、爪で地面に文字を書いて意思疎通を──と、思い至ったところで気付く。

 

 そもそも、()()()()()

 

 というか、オレの尻尾や爪はこんなだったか? ……少なくとも、人間より極端に大きい生物ではなかったような気がするのだが。

 

「ヴゥ、ウウウ……」

 

 あぁ、分からないことを考えたら頭が痛くなってきた。思考が堂々巡りになる。

 こういう時は眠るに限る。だって夜だし。

 

「グウ……」

 

 目を閉じると、すぐに睡魔が出迎えた。

 あぁ、やはり疲れていたんだ。とりあえず、考えるのは起きてスッキリしてからに────

 

 

 

 *

 

 

 

「……眠った?」

 

 謎の傷薬を私に投与した竜は、数回首を振ったり唸ったりした後……目を閉じて動かなくなってしまった。

 

「えぇ……っと……どうすればいいのでしょう……」

 

 ……彼(?)は、真守さん……だと、思われる。

 ステージⅣ基準でも巨大と言える、50m程度の体躯にこそなっているが……私を、助けてくれた。少なくとも通常ガストレアと違い、人類への攻撃性はないようだが。意識は残っているのだろうか。

 

 そして三分ほど右往左往していると──彼の身に変化が起こった。

 みるみる身体が小さくなっていき、以前と同じくらいにまで縮む頃には、人型に戻っていた。

 

「──えっ」

 

 そして更に縮み、()()()()()()()()()小さくなって──身体を覆っていた鱗が、皮膚に沈み込んでいった。

 

「────」

 

 露になった裸体の下半身に目をやらないようにしつつ、その顔を確かめてみると……やはり彼だった。

 

 しかし、これは……

 

「真守さんが、子供になっちゃいました……」

 

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