赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
──気付けば、アンプルを首筋に突き刺していた。連続使用は先生から避けるよう言われていたが、躊躇している余裕はなかった。
アンプルの効能により、世界の動きがゆっくりになる。一瞬でも早く、ティナを救命する方法を見つけなければならない。
見捨てるという選択肢は論外だ。考えろ、考えろ──
……なんて誤魔化してみたが、やっぱり駄目だ。
考えるまでもない。ティナを助けたいなら、遠くに見える病院へ運べばいい。オレの身体能力なら、視界に入る程度の距離なんてすぐだ。結論は既に出ている──
外科医という人種は、特に。あんな、ヒトの皮を被った汚物共に、家族を預けられるものか。
「はは……クズだなぁ、オレ……」
……分かっている。医者だって、全員が『ああ』ではない。室戸先生のような人だって、いるにはいる。
だが、怖いのだ。信用できないものはできないのだ。
故に──自力でなんとかするしかない。
幸い、手段はある。
GVBアンプル。この猛毒から有害性を取り除き、ティナに投与すれば良い。
そのために──もう一本、アンプルを首筋に突き刺した。
「足りない……」
三本目のアンプルを、突き刺した。
「ぐ、ァああ……」
身体が内側からはち切れそうだ。……コレでいい。
乞い願うは『治癒の力』
ただ目の前の一人を救うための力。
──そう言えば聞こえはいいが、その実はどうか。
一体どの程度の勝算がある? オリジナルの能力なんて、本当に手に入るのか? それに、形象崩壊した後理性を保っていられる保証はない。最悪の場合、東京エリアに大絶滅が訪れる。
「それが、どうした……!」
四本目のアンプルを突き刺した。
──どうせ最悪の場合でも、
だって、
先生に言われて、気付いたことがある。死にかけた時に見た母の姿──アレは、幻覚じゃなかった。
コレは、この血の力は、
そしてこの血は……同性である舞の方が、よく馴染んでいるだろう。きっと妹は、オレより強大な力を手に入れる。
「ククッ、ハハハ……!」
最低だ。最悪だ。
それはつまり、舞が怪物と化すことを意味していて。あの子に、兄殺しをさせるということで。
そして何より、オレ達の戦いに巻き込まれた人間達は大勢死ぬ。
──知ったことか。
イニシエーターに守られているくせに、この娘たちを『呪われている』だの『ゴミ』だのと罵る連中なんて死ねばいい。だから、コレでいい。
「ハハッ、アハハ! そうだ殺そう! 皆殺しだ!! フヒっ、ふひは……!」
笑って、嗤って、嘲笑う。
腐った世界を、腐敗した人類を切除する未来を想って──五本目を突き刺した。
「アハッ、ハハハ! ハハ、は……──ごめんティナ。やっぱりオレは、
げんかいがきて、ついにはじけた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
あぁ……オレは、何をしたかったんだっけ……ただ大きな感情の揺れだけが残っていて、叫ばずにはいられない。
すごく、悲しいことがあった気がする……すごく、許せないことがあった気がする……
天を仰ぐが、月は何も教えてくれない。
仕方なく、俯いてみる。すると、あるものが目に留まった。
ぼんやりとこちらを見つめる、エメラルドの瞳。金糸の髪。小さな小さな、可愛い小人のお人形。赤い汚れが玉に瑕。
「……ォオ……」
何故か強く心が惹かれ、屈んでそれをよく見ると──どうやら生きているらしい。赤色は汚れではなく、血ということか。
──ならば、助けねばなるまい。
尻尾の針から薬を出して、傷口に垂らしていく。
「──ッッ!? ああああああ!!!」
あぁ、暴れないでほしい。ただでさえ加減が難しいのに……全身びしょ濡れにしてしまった。
傷口に染みてしまったのだろうか。それとも、切れていた神経が再接続されることによる痛みだろうか?
「う、ぅぐ……え? 傷が……」
あぁ良かった。小人にも、この薬は効くらしい。流石は室戸先生が作った薬だ。
「…………真守、さん?」
マモル……?
「オガ、ア……」
訂正するために出た声は、ガラガラ過ぎて言葉を成していなかった。どうやら叫び過ぎたようだ。
仕方がないので『やれやれ、違うぜ』と首を横に振り、爪で地面に文字を書いて意思疎通を──と、思い至ったところで気付く。
そもそも、
というか、オレの尻尾や爪はこんなだったか? ……少なくとも、人間より極端に大きい生物ではなかったような気がするのだが。
「ヴゥ、ウウウ……」
あぁ、分からないことを考えたら頭が痛くなってきた。思考が堂々巡りになる。
こういう時は眠るに限る。だって夜だし。
「グウ……」
目を閉じると、すぐに睡魔が出迎えた。
あぁ、やはり疲れていたんだ。とりあえず、考えるのは起きてスッキリしてからに────
*
「……眠った?」
謎の傷薬を私に投与した竜は、数回首を振ったり唸ったりした後……目を閉じて動かなくなってしまった。
「えぇ……っと……どうすればいいのでしょう……」
……彼(?)は、真守さん……だと、思われる。
ステージⅣ基準でも巨大と言える、50m程度の体躯にこそなっているが……私を、助けてくれた。少なくとも通常ガストレアと違い、人類への攻撃性はないようだが。意識は残っているのだろうか。
そして三分ほど右往左往していると──彼の身に変化が起こった。
みるみる身体が小さくなっていき、以前と同じくらいにまで縮む頃には、人型に戻っていた。
「──えっ」
そして更に縮み、
「────」
露になった裸体の下半身に目をやらないようにしつつ、その顔を確かめてみると……やはり彼だった。
しかし、これは……
「真守さんが、子供になっちゃいました……」