赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
彼が再び眠りについて、数分後。病室に、呼んでいた迎えが到着した。それはいいのだが……
「お待たせしました」
「……いえいえ。わざわざご足労頂き、ありがとうございます」
やって来たのは緑掛かった金髪の少女。事務所で一戦交えた、あのイニシエーター。
……よりにもよって、この娘が来るか。何故か分からないが、私はこの娘が苦手なのだ。できれば他の人に来て貰いたかった……というか私が電話をかけた相手は蓮太郎さんで、応答したのは赤髪の彼女だった筈なのだが。
「予想外の人選で驚きましたよね。里見さんは会談に同席中で、延珠さん──赤髪の娘は、万が一に備えて向こうに置いてきたんですよ。私より彼女の方が、護衛向きのスペックなので」
なるほど、そういうことか。
……しかし、聞いてもいないことをよく堂々と答えられますねこの人。違ってたら恥ずかしいとか考えないんでしょうか?
「あぁ、聞かれてもいないことをペラペラとすみません。悪い癖です──でも、
「……残念、ハズレです」
得意気な顔が無性にイラッと来て、つい意地悪で嘘を吐いてしまった。
「ハズレの場合は大抵、お相手の方が『何を言ってるんだろう?』という顔をするから途中で分かるんですよ。まぁ、私は外したことないんですけど」
「…………」
またドヤ顔。心の中でストレス値が上がっていくのが分かる。
「その場の感情でつい嘘を吐いてしまうなんて、意外と歳相応なんですね。安心しました」
「…………」
どうしましょう。私、この人と仲良くできそうな気がしません……
「──そういえば名乗っていませんでしたね。私は千寿夏世。夏世でいいですよ」
「……ティナ・スプラウト。ティナで構いません」
「ではティナさん。
──あっ、ダメですねコレ。絶対仲良くできない。
『相棒』という単語を強調したこの娘もまた、私と同じく……!
「何せ私──真守さんと
「……宣戦布告、ということでいいんですね?」
「──はい。相棒は渡しません」
「上等です。力尽くで奪い取ってやりますから……!」
『一生を共にする約束』というのが具体的にはどういうものなのかは分からないが……要は夏世さんが法的に結婚可能な年齢に達する前に、真守さんをオトしてしまえばいい。
今までの付き合いで、彼にも人並みの性欲があることは確認が取れている。裏社会で培った、男性を虜にする技術を総動員すれば──
「そうだ、最初に忠告しておきますけど……真守さん相手に色仕掛けはオススメしません」
「……それは、何故?」
「だって彼、性知識ほぼ皆無ですから。ハニトラ効かないんですよ」
「いやいや、年頃の男性ですよ? そんなまさか……」
「……真守さんは、まだ10歳です」
…………は?
え、それはつまり……
「……今の姿が、本来の状態ってことですか?」
「えぇ。私も実際に見るのは初ですけど」
「内面成熟し過ぎじゃないですか!?」
確かに子供みたいな面もあったけれど。それも『幼稚』というほど悪印象を残すものじゃなく、『愛嬌』といえる範囲に収まっていた。
「まぁ、私達も大概ですがね」
「でも『
恐ろしい可能性に気付いて、背筋が凍った。
彼はたしか、『両親が他界している』筈だ。
そして今、彼との付き合いが私より長い夏世さんは……本来の姿を初めて見たという。つまり二人が出会った時には、彼はもうガストレア化していたのだ。
── 一体いつから彼は一人で、何歳の時ガストレアに……?
場合によっては、私達よりも更に過酷な幼少期を送っていてもおかしくはない。
「あぁ、彼の両親が亡くなったのも、彼が『
「……そうですか」
なんとも、信じがたい話だ。だって彼は、『大人の振る舞い』に
「──ところでティナさん、真守さんは一度も目を覚ましていないんですか?」
「いえ、一度起きましたよ」
「……何か変わった点は?」
「記憶喪失になっていました。後は見ての通り身体が小さくなったのと、目の色ですね」
「記憶喪失……言葉は理解していましたか?」
「はい。以前と変わらず会話できていました」
「
では目の色……白目の部分はどうでしたか?」
「白でした。私達と同じ状態です」
「……そうですか」
それから彼女は泣きそうなほど震えた声で、小さく小さく『良かった』と呟いた。モデルオウルたる私以外では、聞き取れないだろう声量。
「聞きたいことは聞けました。帰りましょう」
「もういいんですか?」
「聖天子付護衛官隊長が暴走してやらかした件のことなら、ご心配なく。アレと繋がっていた運転手の方を、先に私の方で『潰して』おきましたから」
「…………」
あぁ、そちらはあまり気にしていなかったが……どう転んでも、彼の結末は
「……おっと、今回はハズレだったみたいですね。失敗失敗」
「……まぁ、そういう日もありますよ」
さっきの『良かった』とはなんのことなのか、聞く勇気はなかった。その意味が私の想像通りなら、きっと……私は非合理な行動を取ってしまうから。
「ティナさん、真守さんを背負って先に外へ出ていてください。目のことがあるので、起きる前の方がいいです。私は受け付けに行って、支払いを」
「あぁ、料金なら大丈夫ですよ。ここまで
「そうですか。なら軽く挨拶するだけで済みそうですね」
そう言って、彼女は小走りで出て行った。
その目に浮かんだ涙を隠すように──
*
『──夏世ちゃん。キミは今回の一件で、ほぼ完全に彼と同じ体質へと変化した』
『その通り。キミの体内侵食率は彼と同じく零であり──だが同時に約30%で固定されている状態とも言える』
『……そして、ここからが本題だ』
『キミはおそらく、
『……あぁ、キミが怒るのも解るよ。こんな最低最悪の依頼、私自身吐き気がする。でも夏世ちゃん、キミにしかできないんだ──』
「良かった、本当によかった……!」
彼は、人の心を保っていた。相棒は、私の知る相棒のままだった。
「
そう、私は真守さんほどの出力は出せないが、同じことができるようになった。あの一件以来、より彼との繋がりが濃くなったためだ。
──だから、逆のこともできる。
私は
再生レベルⅢの彼も、私がバラニウムで脳か心臓を貫けばギリギリ殺せてしまう。だから『もしも』の保険で、私が来た。
「全く、人騒がせなんですから……!」
記憶なんて無くていい。身体なんて小さくていい。目玉の色なんて気にならない。
私は、彼が生きているならそれでいい──
ちなみに今回、地味に盛大な勘違いが発生。
夏世「金髪、敬語口調、イニシエーターには珍しい後衛スタイル……属性だだ被りじゃないですか!? クッ……! 相棒ポジションは渡しませんからね!!!」
ティナ「恋敵……!!」(違う)
ただし夏世は半分解っててティナをからかってる部分はある。