赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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間話:『いもうと』

 

 翌朝。

 惣菜パンと即席スープで軽い朝食を済ませ、オレは向かいに座っている舞ちゃん(いもうと)に、昨日のことを話した。

 

「……そ。帰りはいつ頃になりそうなの?」

「え、あ、んーと……今から説明受けに行くから、それ聞いてから報告するね」

 

 彼女は淡々とオレの話を聞いて、動揺することもなく、慣れた調子で先の予定を気にしていた。

 

「何キョドってんの? キモいんだけど」

「辛辣っ!? え、何。オレ達って仲悪かったの?」

「はぁぁ……メンド。別に、普通だったよ。このくらいの軽口を言い合える程度にはね」

「そ、そう……」

「というか、事情は把握してるんだからさ……露骨に避けるの、止めてくれない?」

「うぐっ」

 

 図星だった。

 記憶喪失になっても一般常識は残っているワケだが──『家族の距離感』というのは『人それぞれ』だ。しかもオレ達の場合、互いが唯一の肉親だという。

 端的に言って、距離感を想像しようにも……特殊なケース過ぎて全く分からなかった。下手にトライアンドエラーをするのもマズイだろうし……ということで、彼女とはこの一ヶ月ほぼ会話をしたことがなかったのだ。

 

「……ごめん。仕事から帰ったら、もっとちゃんと話そう」

「うわ。そういうクッサい死亡フラグ立てる? マジ引く……」

「やっぱキミ、実はオレのこと嫌いだったろ??」

「は? 世の妹が皆ティナちゃんみたく好意全開だと思ってんの? アレは絶滅危惧種兼特別天然記念物に指定されるくらいの例外。私は普通。むしろ優しい方だよ?」

「まぁ、うん。それは分かるけど……」

「ホントに分かってる? ()()()()だって──ぁ」

 

 不自然に、言葉が途切れる。

 彼女はハッとした顔で、口元を押さえていた。

 

「……聞かない方がいい、のかな? その二人のことは」

「…………ううん、話す。家族のことだもん。

 血の繋がってない妹はね、ティナちゃんが初めてじゃないんだ。私達にとって、あの子は三人目の義妹(いもうと)

「────」

 

 今の今まで、誰もその存在に触れてこなかったということは……

 

「……うん、お察しの通り。死んじゃったんだ、二ヶ月前にね。

 二人はお父さんとお母さんのイニシエーターで……殉職したの。四人共、同じ任務で」

「そう……でも、納得した。だからあの家、部屋数多かったんだ」

「んー……まぁ、それだけが理由ってワケじゃ、ないんだけどね」

「というと?」

 

「本当はさ、お父さんもお母さんも……東京エリア(こっち)に引っ越す時、民警を辞める予定だったんだ」

 

「そうなの?」

 

 すると彼女は、オレの足を指差した。

 

「そもそもの引っ越した理由が、真守が足を怪我して入院して、退院する時病院で暴れたせいで、仙台エリアに居づらくなったからなんだけど……」

「え、何やってんのオレ」

「真守は悪くないよ。私が当事者だったら刃傷沙汰になってたかもだし」

「え、何されたのオレ」

「詳細は省くけど、真守の恩人の『子供たち』がね……そこの病院に居た、医者を名乗る悪魔に殺されたの」

 

「────」

 

 ……気のせいだろうか? 今一瞬、()()()()()()()()()ような──

 

「それから真守ね、ずーーっと『あの子が死んだのは自分のせいだ』って気に病むようになってさ……一番酷かった時期には、魘されて夜起きて、たまたまトイレに起きた(あおい)──妹とバッタリ会った時、いきなり土下座して『ごめん』『ごめん』って泣き始めたこともあったらしいし。

 そんなんだったからさ……二人も遠慮しちゃって、『ペアを解消して家族だけで暮らしたらどうか』なんて言い始めてね……その時『民警を辞めてアパートを借りて、慎ましく暮らす』って案も出たんだ。

 ……まぁ真守が猛反対したから、結局間を取って『民警は続けるけど一時別居』って形になったんだけどさ。私達と二人は、それきりになっちゃった」

 

「そっ、か……」

 

 なるほどこれは確かに……舞が一瞬口をつぐむのも分かる話だった。

 

「あの家が大きいのはね、別居してた二人がいつ戻ってきてもいいようにっていうのもあるけど──将来真守が民警になった時、沢山人を匿うことになるだろうから……って、お父さんが気を利かせたからなんだよ。

 ……まさか月に一人のペースで拾ってくるなんて想定してなかったと思うけどね」

「お、おぅ……昔のオレがすみません……」

「だーかーらー、私に敬語使うのやめてよ気持ち悪い」

「……ごめん」

「ん。気にしてないよ。昔のことも、今のことも」

「……そっか。ありがとな」

 

 ──腕時計を見ると、そろそろ出発の時間が迫ってきていた。

 

「もう行かないと」

「うん、行ってらっしゃい」

「色々聞かせてくれて、ありがとな」

「うん──あ、ちょっと待って」

「ん?」

 

 振り返って待つと、舞はスタスタと近付いてきて──思いっきり、オレの脛を蹴った。

 

「え、いきなり何するん……?」

「〜〜〜〜!?!!? 痛っったぁぁぁ……! 何その身体、皮膚の代わりに鉄板でも張ってんの……!? ふざけんな! 死ね!!」

「逆ギレ!? てか不謹慎だなオイ!?」

 

「──足の傷!!」

 

「……うん、それが?」

「一月前まで、真守の足には傷が残ってたの……今蹴ったとこに」

「……ガストレア化してたのに?」

「そう。それが消えて、私は嬉しかった。真守がやっと苦しい思い出を忘れて、お父さんの真似を止めて、自分の道を進んでくれると思ってたから……」

「…………」

「でも、真守がまた戦いに行くっていうなら──生きて帰る理由は、多い方がいい。たとえそれが、呪いと大差ないものだとしても」

「……そっか。じゃあさっきのは、『お(まじな)い』だね。ありがとう」

「〜〜っ、私からは以上! じゃあね!!」

 

「──うん、いってくる」

 

 オレは生きて帰るだろう。この足がある限り、必ず道を踏破するだろう。

 

 あぁ、そうだ。()()()()()()()()()()のだ──

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