赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

4 / 49
第四話:分岐する未来

 

『おかけになった電話は、現在使われていないか──』

「クソッ」

 

 放課後になった瞬間全速力で帰宅し、携帯で延珠ちゃんに連絡してみるも……繋がらない。

 

「……ダメ元で、一応かけてみるか?」

 

 あまり期待せずに、登録された連絡先に電話をしてみるが……やはり繋がらない。そして見切りをつけ、電話を切ろうとした直前。

 

『……何の用だ』

「──蓮太郎さんっ」

 

 繋がった。繋がった……!

 そうして喜び勇んで用件を言おうとした、その時。気付いてしまった。

 

 ──オレは、何を言えばいいんだ?

 オレが彼女にしてあげられることなんて、何一つ無いのに。

 

 互いに無言の時間が過ぎていき、見かねた蓮太郎さんが会話を切り出してくれた。

 

『……延珠と話がしたいんだろ?』

「あ、はい。そう、なんですけど……」

『諦めろ。家には帰って来てねぇ』

「……え?」

 

 信じられなかった。あれだけ蓮太郎さんに、好意を寄せていたのに……

 でも、今までになく重いその声は……嘘じゃあないんだと、確信させられる。

 

「じゃあ、蓮太郎さんも……延珠ちゃんが今どこに居るのか、分からないんですか?」

『……あぁ』

「延珠ちゃんが行きそうな場所に、心当たりは……?」

『……あるにはあるが』

「じゃあ、探しに行かないとッ」

『──あぁ、そうだよな。行動しねぇと』

「場所どこですか!? オレも一緒に探します!」

『気持ちだけ受け取っとくよ。行くだけで金も時間もかかる場所だからな』

「……そう、ですか」

 

 やっぱり、オレにできることなんて……

 

『そんなに落ち込むなって。これでも、お前には感謝してるんだ』

「……お世辞なんて、いりませんよ」

『世辞じゃねぇ。お前が延珠のクラスメイトで、本当に良かった』

「でもオレっ、あの子に何も……! 何もしてあげられなかったんです!」

『そう思うんなら今度さ、一緒に遊んでやってくれ。そうすれば、延珠もきっと元気になる』

「……そんなことで、いいんですか?」

()()()()()、か……お前は、良い民警になれるよ』

「……因果関係が、分かりません」

『分かんなくていい。お前は、そのままでいてくれ』

「むぅ……分かりませんが、蓮太郎さんがそれでいいと言うのなら……」

 

 それから蓮太郎さんは、『延珠を見つけたら連絡する』と言って電話を切った。

 

 

 

 *

 

 

 

「……ありがとな、真守」

 

 お世辞だろうとアイツは言ったが……本当に、何度感謝してもしきれない。

 真守が電話をくれなかったら、俺はきっと……今も家の中で、何もできずにいた。

 

 携帯に延珠の写真があることを確かめ、制服のまま外に出る。ふと財布の中にいくら残っていたかと思い、所持金を確かめて──

 

「ハハッ、帰りは徒歩だなこりゃ」

 

 下手をすると小四の真守より貧弱かもしれない少なさに、我が事ながらつい笑ってしまう。これならついて来てもらった方が良かったかもしれない──なんて、脳内で冗談が言える程度の余裕は出てきた。

 

 39区手前まで行く電車に乗り、終点で降りる。後はモノリスを目印に歩くだけだ。

 進むにつれて人気(ひとけ)が少なくなり、廃墟ばかりが増えていく。

 更に進めば、増えるのは『ただの廃墟』から『壊れた廃墟』に変わっていき──原子力発電所へと変わる。

 

「……チッ」

 

 周囲の建物がボロボロであるにも関わらず、あからさまに新設されたそれらから読み取れるのは──中央在住の上級国民サマから溢れ出る欲望。現地住民への配慮が欠片も無い、身勝手な心の具現。

 

 気分が悪くなるそれらを極力視界に入れないようにしつつ、最奥部手前まで歩いた。

 記憶を頼りにとあるマンホールを探し、目的の物を見つけて蓋を叩く。暫く待つと蓋が持ち上がり、7歳ほどの少女が顔を覗かせた。

 

「なにー?」

「夜遅くにすまねぇ。人を探しててな……この子に見覚え、あるか?」

「……()()()()()

 

 ──舌足らずな最初の声に反し、やけにハッキリとした口調の否定。まるで誰かに『こう言え』と指示された内容を、そのまま音にしているかのような声。

 

「一応他の人にも聞いてみたいんだが……大人の人、誰かいねぇか?」

「じゃあ長老になりますので、呼んできますので、中でお待ちくださいですので」

「あぁ」

 

 独特なこの口調が、彼女の素なのだろう。先の疑惑が、より強まった。

 言われた通り中に入って待つと……杖の反響音。

 現れたのは、初老の男性。個人的には、長老と呼ぶにはまだまだ早いと思った。

 

「こんばんは。ここで子供たちの面倒を見ている、松崎といいます」

「民警の、里見蓮太郎だ」

 

 名乗られたので、名刺と共に挨拶を返す。

 しかし、身なりや体格を見るに……自発的に呪われた子供の世話をしているのか。頭が下がる。

 

「マリアから聞きました。人を探している、と」

「あぁ。この写真の子を見なかったか? 名前は延珠。藍原延珠」

 

 松崎さんは少し考えた後、首を横に振った。

 

「残念ですが、知りませんな」

「本当に?」

「えぇ」

「嘘じゃなく?」

「随分と疑われているご様子ですが……知らないものは()()()()()

「──その発音、マリアって子と全く同じだ」

「それはそうですよ。先程申し上げました通り、ここの子たちは私が面倒を見ています。自然と口調も似るというものです」

 

 ……これは手強い。

 だが幸い、松崎さんは人格者と見た。彼が保護している間は、延珠も大丈夫だろう。後は何日でも通って、誠意を見せれば引き渡してくれる筈だ。

 

「そうか、失礼だった。悪い」

「いえいえ、お気になさらず」

「失礼ついでに頼みがあるんだが……」

「なんでしょう?」

「侵食抑制剤3本。コレをアンタに預けておく。延珠を見つけたら渡しておいて欲しい」

「……分かりました」

「あともう一つ。『真守もお前を心配してる』と、伝言を──」

 

「──本当か?」

 

「……延珠」

 

 背後からの声に、振り返る。

 あぁ、良かった。やっぱりここに居た。幻聴じゃなかった。

 

「真守も妾を心配しているというのは……本当なのか、蓮太郎……?」

「嘘じゃねぇよ」

「……本当の、ほんとうに? 真守は妾を……ガストレアだと、言ってはおらぬのだな?」

「あぁ。アイツが『遊び相手=ガストレア』と認識してる気狂いじゃなければな」

「じゃあ、妾はまた……真守と遊んでいいのだな?」

「あぁ」

 

 それを聞いた延珠は、真っ赤な目をグシグシと拭いて──笑った。

 

「世話になったな長老! 妾はもう大丈夫だ!」

「……あぁ、それは良かった」

「松崎さん、何か困ったことがあったら名刺の連絡先に一報くれよな。力になるぜ」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 そうして俺達は、笑い合って別れを告げた。

 マンホールから出て、約束通り真守に連絡をしよう──と思い立ったところで、今が深夜だったことに気付く。

 

「……メールでいいか?」

「いや、妾が明日直接電話する!」

「そうか。その方が良いよな」

 

 ──この時の選択を、俺は一生後悔することになる。




 
 ──里見蓮太郎により√N:『兎の安楽死』が棄却されました。√Hに分岐します。
 現在√Hを進行中──世界線識別名称『■■■■■■』は現在表示不能──
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。