赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
『おかけになった電話は、現在使われていないか──』
「クソッ」
放課後になった瞬間全速力で帰宅し、携帯で延珠ちゃんに連絡してみるも……繋がらない。
「……ダメ元で、一応かけてみるか?」
あまり期待せずに、登録された連絡先に電話をしてみるが……やはり繋がらない。そして見切りをつけ、電話を切ろうとした直前。
『……何の用だ』
「──蓮太郎さんっ」
繋がった。繋がった……!
そうして喜び勇んで用件を言おうとした、その時。気付いてしまった。
──オレは、何を言えばいいんだ?
オレが彼女にしてあげられることなんて、何一つ無いのに。
互いに無言の時間が過ぎていき、見かねた蓮太郎さんが会話を切り出してくれた。
『……延珠と話がしたいんだろ?』
「あ、はい。そう、なんですけど……」
『諦めろ。家には帰って来てねぇ』
「……え?」
信じられなかった。あれだけ蓮太郎さんに、好意を寄せていたのに……
でも、今までになく重いその声は……嘘じゃあないんだと、確信させられる。
「じゃあ、蓮太郎さんも……延珠ちゃんが今どこに居るのか、分からないんですか?」
『……あぁ』
「延珠ちゃんが行きそうな場所に、心当たりは……?」
『……あるにはあるが』
「じゃあ、探しに行かないとッ」
『──あぁ、そうだよな。行動しねぇと』
「場所どこですか!? オレも一緒に探します!」
『気持ちだけ受け取っとくよ。行くだけで金も時間もかかる場所だからな』
「……そう、ですか」
やっぱり、オレにできることなんて……
『そんなに落ち込むなって。これでも、お前には感謝してるんだ』
「……お世辞なんて、いりませんよ」
『世辞じゃねぇ。お前が延珠のクラスメイトで、本当に良かった』
「でもオレっ、あの子に何も……! 何もしてあげられなかったんです!」
『そう思うんなら今度さ、一緒に遊んでやってくれ。そうすれば、延珠もきっと元気になる』
「……そんなことで、いいんですか?」
『
「……因果関係が、分かりません」
『分かんなくていい。お前は、そのままでいてくれ』
「むぅ……分かりませんが、蓮太郎さんがそれでいいと言うのなら……」
それから蓮太郎さんは、『延珠を見つけたら連絡する』と言って電話を切った。
*
「……ありがとな、真守」
お世辞だろうとアイツは言ったが……本当に、何度感謝してもしきれない。
真守が電話をくれなかったら、俺はきっと……今も家の中で、何もできずにいた。
携帯に延珠の写真があることを確かめ、制服のまま外に出る。ふと財布の中にいくら残っていたかと思い、所持金を確かめて──
「ハハッ、帰りは徒歩だなこりゃ」
下手をすると小四の真守より貧弱かもしれない少なさに、我が事ながらつい笑ってしまう。これならついて来てもらった方が良かったかもしれない──なんて、脳内で冗談が言える程度の余裕は出てきた。
39区手前まで行く電車に乗り、終点で降りる。後はモノリスを目印に歩くだけだ。
進むにつれて
更に進めば、増えるのは『ただの廃墟』から『壊れた廃墟』に変わっていき──原子力発電所へと変わる。
「……チッ」
周囲の建物がボロボロであるにも関わらず、あからさまに新設されたそれらから読み取れるのは──中央在住の上級国民サマから溢れ出る欲望。現地住民への配慮が欠片も無い、身勝手な心の具現。
気分が悪くなるそれらを極力視界に入れないようにしつつ、最奥部手前まで歩いた。
記憶を頼りにとあるマンホールを探し、目的の物を見つけて蓋を叩く。暫く待つと蓋が持ち上がり、7歳ほどの少女が顔を覗かせた。
「なにー?」
「夜遅くにすまねぇ。人を探しててな……この子に見覚え、あるか?」
「……
──舌足らずな最初の声に反し、やけにハッキリとした口調の否定。まるで誰かに『こう言え』と指示された内容を、そのまま音にしているかのような声。
「一応他の人にも聞いてみたいんだが……大人の人、誰かいねぇか?」
「じゃあ長老になりますので、呼んできますので、中でお待ちくださいですので」
「あぁ」
独特なこの口調が、彼女の素なのだろう。先の疑惑が、より強まった。
言われた通り中に入って待つと……杖の反響音。
現れたのは、初老の男性。個人的には、長老と呼ぶにはまだまだ早いと思った。
「こんばんは。ここで子供たちの面倒を見ている、松崎といいます」
「民警の、里見蓮太郎だ」
名乗られたので、名刺と共に挨拶を返す。
しかし、身なりや体格を見るに……自発的に呪われた子供の世話をしているのか。頭が下がる。
「マリアから聞きました。人を探している、と」
「あぁ。この写真の子を見なかったか? 名前は延珠。藍原延珠」
松崎さんは少し考えた後、首を横に振った。
「残念ですが、知りませんな」
「本当に?」
「えぇ」
「嘘じゃなく?」
「随分と疑われているご様子ですが……知らないものは
「──その発音、マリアって子と全く同じだ」
「それはそうですよ。先程申し上げました通り、ここの子たちは私が面倒を見ています。自然と口調も似るというものです」
……これは手強い。
だが幸い、松崎さんは人格者と見た。彼が保護している間は、延珠も大丈夫だろう。後は何日でも通って、誠意を見せれば引き渡してくれる筈だ。
「そうか、失礼だった。悪い」
「いえいえ、お気になさらず」
「失礼ついでに頼みがあるんだが……」
「なんでしょう?」
「侵食抑制剤3本。コレをアンタに預けておく。延珠を見つけたら渡しておいて欲しい」
「……分かりました」
「あともう一つ。『真守もお前を心配してる』と、伝言を──」
「──本当か?」
「……延珠」
背後からの声に、振り返る。
あぁ、良かった。やっぱりここに居た。幻聴じゃなかった。
「真守も妾を心配しているというのは……本当なのか、蓮太郎……?」
「嘘じゃねぇよ」
「……本当の、ほんとうに? 真守は妾を……ガストレアだと、言ってはおらぬのだな?」
「あぁ。アイツが『遊び相手=ガストレア』と認識してる気狂いじゃなければな」
「じゃあ、妾はまた……真守と遊んでいいのだな?」
「あぁ」
それを聞いた延珠は、真っ赤な目をグシグシと拭いて──笑った。
「世話になったな長老! 妾はもう大丈夫だ!」
「……あぁ、それは良かった」
「松崎さん、何か困ったことがあったら名刺の連絡先に一報くれよな。力になるぜ」
「ふふ、ありがとうございます」
そうして俺達は、笑い合って別れを告げた。
マンホールから出て、約束通り真守に連絡をしよう──と思い立ったところで、今が深夜だったことに気付く。
「……メールでいいか?」
「いや、妾が明日直接電話する!」
「そうか。その方が良いよな」
──この時の選択を、俺は一生後悔することになる。
──里見蓮太郎により√N:『兎の安楽死』が棄却されました。√Hに分岐します。
現在√Hを進行中──世界線識別名称『■■■■■■』は現在表示不能──