赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

45 / 49
 
 最も生命が活気付く季節。最も長く地が照らされる季節。

 そして何より、最も熱い季節。
 彼が『彼』として生きた、『今』の季節。


第二十九話:夏の記憶

 

「──時間だ。そこまで」

 

 ストップウォッチのアラームが鳴り、蓮太郎の号令で答案用紙が回収される。

 『どれどれ?』と呟きながら答案を流し見する蓮太郎先生に、生徒たちは次々と『難しすぎ!』『わかんない!』『時間足りない!』と非難をぶつけた。(尚問題作成者は木更な模様)

 

(……二桁同士の掛け算は、()()早かったか)

 

 蓮太郎は、勉学の成績が『暗記力・応用(思考)力・興味力』の総合値で決まると考えている。

 その点外周区の『子供たち』が持つ『興味力』は非常に高いと、彼は評価している。それに実際……

 

(──ん??

 あれ、嘘だろ? これ……)

 

 流し見(義眼による超高速採点)の途中で、蓮太郎は己の眼を疑った。

 

 ──氏名「神崎真守」 採点結果:20/100

 

 赤点である。文句なしの落第点である。

 とてもではないが、民警ライセンスの座学免除試験を一発合格した男が取るとは思えない点数だった。……真守も蓮太郎と同じく、『興味力』の有無で成績が極端に偏る典型的な例であったのだ。*1

 

(今度補習が必要だな、こりゃ)

 

 ────南無三。

 

「……じゃあ次。今日はこれで最後な」

 

 そうして配られたプリント──作文用紙には、こう書かれていた。

 

 

「──将来の、夢?」

 

 

 

 *

 

 

 

(将来……それも『夢』とはねぇ)

 

 考えたことはなかった。

 喪失した過去の己であれば、『真の守護者』と書いただろう。

 絶望に呑まれていた頃のオレなら……白紙で出すか、体調不良を訴え逃げ出すかのどちらかだろう。

 

 だけど、今のオレは……

 

「書けました」

「おっ、早いな」

「一文しか書いてないので。駄目なら書き足しますが」

「あー、うん。察した」

 

 今のオレが抱く、将来の夢は

 

「ん……? ()()()()()()……? てっきりお前は、『守護者』って書くと思ったんだが」

「『真の守護者』になることは、オレの()()であり()()です。『将来の夢』ってのは、言い換えると『最終目標』のことでしょう?」

「……そっか。お前にとっちゃ、通過点なんだな」

 

 そう言うと蓮太郎さんは、オレの頭をグシャグシャと撫でた。

 

 ──この世界は間違っている。間違いだらけだ。なのに誰も、間違ってることにすら気付いてない。

 だから正す。そのための証明。オレと夏世(相棒)の、永遠を使った戦いだ。

 

 

 数分後、ストップウォッチが鳴るのと同時に用紙の回収が始まる。制限時間前に提出したのは、オレと延珠ちゃんだけだった。

 夏世は一応、時間前に鉛筆を置いていたけど……最後の方に突然鉛筆を握り直して、凄い勢いで何かを書いていた。

 

「……夏世はさ、何書いてたの? 裏まで使ってたよね?」

「相棒と同じですよ。ただ全く同じだとつまらないので、手慰みに『人類が全てのガストレアを駆逐できる確率』について算出していた論文を思い出しながら、そこに私と相棒を組み込んだ場合の再計算を」

「おぉう。すっご……ちなみに結果は?」

「聞くまでもないでしょう? ──100%ですよ」

「ははっ、確かに。愚問だったね」

 

 今回の件を含め、『モルフォ蝶事件』みたいな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そういった事例は得てして『対策を打つ猶予』がある。実際アルデバランも、モルフォ蝶も、ステージⅤと違って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というデータがある。

 だから極論、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。というか無理。故にオレ達の勝利条件は『ステージⅤを全滅させた時、東京エリアが存続している』ことだ。

 それならできると思う。他エリアは、知らん。

 

 ……うん。目標ができて、前よりちょっとだけ前向きにはなれたけど……それでも人が変わったかと言うと、そうではないワケで。大切な人以外はとことんどうでもいい、薄情者のままなのだ。

 

『そんなものですよ』

「…………」

 

 心を見透かしたように、夏世は声に出さずそう言った。音にされなくても、彼女の言葉は何故か伝わるのだ。

 

「──そこ、何二人で通じ合ってるんですか?」

 

 背後から、少し不満気な声。

 振り返ると、絵に描いたような膨れ面。本人としては睨んでいるつもりなのかもしれないが、正直可愛いだけで全く怖くない。

 

「私への返事をほったらかして、他の女の子に現を抜かすとは……一体全体どういう了見ですか? お兄さん」

「待って待って待って。ちゃんと返事はするから、もうちょっとだけ待って」

 

 ティナのことが好きかと言われれば、『好き』だ。

 異性として見れるかと聞かれれば、『Yes』と答えよう。

 

 だけど……正直に言うと。

 

 もし『一番大切な人は』と質問されたら、オレはきっと夏世(相棒)の名を挙げるだろう。

 

 勿論、夏世への感情は彼女が男だったとしても変わらない。でもティナが男になったら、想像するだけでかなりショック。

 だからまぁ、『オレも好きだ』と返すこと自体には、何の問題も無いのだけれど。

 

 …………それでいいのか? と。

 

「しっかり、向き合い方を考えたいんだ」

 

 二人に、誠実な対応ができるように。

 

 

『──あぁそうだ。一つ言っておかないと……あの子はきっと、傷心につけ込むような(こういう)手を使いたがらないと思うので。私から』

 

『ぶっちゃけてしまうと、私とティナは()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その上で、二人はオレの味方だと。

 本物の『彼』を慕っていた舞ちゃんと延珠ちゃん、蓮太郎さんを騙し続けることを容認すると。その罪を一緒に背負うと、決めてくれたという。

 そこまで言われてしまったら、こんなに想われていると知ってしまったら、受け入れる以外の選択肢なんて無い。

 

 ……だけどそれはそれとして、いや()()()()()

 心を固めて、計画を練って、相応の愛を返したいのだ。

 

 そのためには、もう少し時間が必要なのです。けっして逃げではありません。えぇ、決して。

 

「……期日を過ぎても返事をしてくれなかったら、最終手段に出ますから」

「え、怖……」

「そう思うのでしたら返事はお早めに、です」

「善処する……」

 

 そうして話している内にプリントの回収が完了し、解散というところで──

 

 

「よしお前ら聞け! いまから課外授業だ!! 社会科見学、行きたい奴は手ぇ挙げろ!」

 

 

 やたらハイテンションな先生の様子にキョトンとして、ティナと顔を見合わせてまばたき二回(パチクリパチクリ)

 特に断る理由もなかったので、すぐさま全員の手が上がった。

 

 

 

 *

 

 

 

 電車に乗るというから少し身構えたが、目的地は第四十区。つまり外周区から出るワケではないと聞いて、肩の力を抜く。

 同時に、蓮太郎さんの目的も察した。

 

 駅を出て、森を抜け、廃ビル群を行き──オレ達は小さな公園に辿り着いた。予想通りだ。

 

「お前たちの中に、『関東会戦』のこと知ってる奴……いるか?」

 

 皆の視線が、示し合わせたように夏世へと集中する。

 彼女も分かっていたのだろう。『やれやれ』と言いたげに溜め息を吐くと、解説をしてくれた。

 

「関東会戦は過去に二回発生した、東京エリアにおける人類とガストレアの大戦争。

 一度目は十年前。まぁ、ガストレア大戦のことですね。

 問題は二度目。()()()()()()()()()()()()()()が、今回の課外授業の焦点──ですよね?」

「おう、満点花丸大正解だ」

 

 ──『回帰の炎』

 それが、この公園に置かれた金属碑の名前。プロモーターの座学試験で必ず出る問題……と、『彼』の知識にある。

 

「戦場だった此処が、モノリスの内側にあるってことは……だ。人類がガストレアに勝利し、生活圏を取り戻した証だ。

 いいかお前ら──()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……皆最近、暗い顔をしていた。

 モノリスの侵食が公式に報道されて、同時にシェルターの抽選券が配られて……その配布対象に『子供たち』が含まれていることを知った『大人たち』が今、暴徒と化している。

 

 皆、不安なんだ。

 外周区はモノリス崩壊後、真っ先に被害を受ける立地なのに……今は内側からも脅威が迫ってきて、板挟み。逃げ場が無い。

 

 だから蓮太郎さんはこうやって、皆の気分を晴らそうとしてくれている。

 

「……でも先生。自衛隊、負けたんでしょ? 敵地に向かった飛行機とかミサイルとかが、落ちたって……」

「それは……」

 

 先生が、こちらを見た。

 

 ────あぁ、構わない。

 

「それについては、このオレが説明しよう!!」

 

 視線を集め、『ニッ』と笑う。

 

 そうだ見ろ。見ろ──()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()を見せてやると、ザワザワとした喧騒が広がっていく。

 

「え、ちょっと、ウソでしょ? まもる、その目……」

 

「何驚いてんのさ。前から言ってたじゃん? オレ、ガストレアだって」

 

『いや冗談だと思うでしょ!?』

 

「虹彩の部分は元からだったじゃん? 冗談で目は赤く光らないよ??」

 

「いや、だって……」

「中央には、そういう売り物もあるのかなって……」

「うん。特殊なカラコンか何かかと……」

「なんなら男装女子説あったし……」

 

「おいコラ今『男装女子説』とか言った奴誰だ? この男前な顔のどこ見てそう思った??」

 

『ササなん』

 

「ササナちゃん、後で校舎裏」

「ウチ青空教室だよね!?」

 

 知ってる。

 

「まぁ気を取り直して、本題!

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()って話だよ。そこは本当」

『…………』

 

「なので不甲斐ない自衛隊の代わりに、オレがこないだ大将首を取っときました」

 

『それも本当だったの!?』

 

「バリバリ本当。だからまあ──安心して。皆のことは、オレが守るよ。

 具体的に言うと、自衛隊が負けた時点でなりふり構わず全力でガストレア軍を鏖殺する。無論、一匹残さずね」

 

「つー訳で、だ。コイツがいる限りお前らは死なねぇ。あとついでに、俺と木更先生も戦うしな」

「先生たちも戦うの?」

「あぁ」

「『奪われた世代(普通の人間)』なのに?」

「そうだ。……本来なら、俺達だけでやらなきゃいけないんだけどな」

 

「……みんな集まって!」

 

 突然の号令に、民警組以外が反応してスクラムを組んだ。

 ふむ、話の内容を聞くに……

 ……、…………。

 

「蓮太郎さん、夜道には気を付けてくださいね」

「え」

「たぶんそろそろ刺されますよ? いやマジで」

「え゛」

 

「──先生、合格です!」

 

 蓮太郎さんは、受験に失敗した学生のような顔になった。

 

「私達は、先生が好きです」

「結婚を前提にお付き合いしたい者が五人います。私もその一人です」

「冗談だろ……?」

「諦めてください。本気(ガチ)の匂いがしますよアレ」

 

 そして皆はジリジリと蓮太郎さんの方へにじり寄っていき、先生はその分後退りした。

 

「ま、待てお前ら。そうだ、真守はどうなんだ!? イイ男だろコイツ!」

 

『あー……』

 

「オイ、別にそういう目で見て欲しいワケじゃないけどそれはどういう『あー』なんですかねぇ皆さん??」

 

『略奪愛は、ちょっと』

 

「俺にも相手いるんだが!?」

 

「そうだぞ! 妾というフィアンセが──」

 

「お前はちょっと黙れ!」

 

『でも木更先生も夏世ちゃんも違うんですよね?』

 

「…………延珠、助けてくれ」

 

「皆、ヤッていいぞ」

 

 ──次の瞬間、ゾンビ映画もビックリの勢いで群がられた蓮太郎さんの悲鳴が響いた。

 

*1
第六話参照。




 
 押し倒されて、皆の顔が見える。

 チクショウ熱苦しいし動けん。ええい離れろ離れろ。

 ……ん? どうして皆泣いてるの?

 というか、あれ。押し倒されたのは蓮太郎さんじゃ……?

 てか、ホントに熱いな。おのれ太陽。焼け焦げるわ。

 …………いや、コレ()()()()()()()()()

 あ゛ー、クソ。頭回んねぇ。夢と現実がごっちゃになる……

 今、どうなってるんだっけ……? どうして、こうなったんだっけ…………?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。