赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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『狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり』
 徒然草第八十五段より。

 ならば、聖人の真似とて人を救わば聖人なり。偽物とて人を守れば守護者なり──そう言っても、いいじゃないですか。


終話:崩御

 

 ──残すところ一日になった。

 民警軍団の団長は、モノリス崩壊前最後の日を完全自由にしたという。

 

「蓮太郎先生、早く来ないかな〜」

 

 蓮太郎さんは今日を『先生』として消化することに決めたと、さっき電話が来た。本来は一昨日の授業が最後の予定だったから、『また会える』と知った皆は大盛り上がりだ。……かく言うオレも、結構嬉しかったりする。

 戦闘員の中でオレだけアジュバントに所属していないから、正直寂しかったのだ。

 元から蓮太郎さんとペアを組んでいた延珠ちゃん、この大戦を機に社長とペアを組んだティナは勿論、臨時で()()()()()()()()()()()()()()()とペアを組んだ夏世すらも、本来は前線基地に待機予定だったからね。それに、戦闘中オレは人目を避けないといけないから、ホントに顔を合わせる機会が少ない。

 ちなみに別れ際に『ペアを組んだのか、オレ以外の奴と……』って呟いてみたら、本気で嫌そうな顔をされた後に『…………ネタが古いですよ。中身おっさんですか?』と返された。『ブーメラン』と言ってみたくなったが耐えた。

 

「──時間あるし、せっかくだから何か準備して待ちたいよね」

「でも、今から何かできる?」

「テンプレなのだと、黒板に絵とメッセージ描いとくヤツとか」

「いいね、じゃあ皆で描こ!」

「私絵下手だから、代わりに花冠作ってるね。この辺りシロツメグサいっぱいあるし」

「あっ、わたしもそっちがいい……」

「シロツメグサってどれー?」

「んー、クローバーって言えば分かるかな?」

「前に四つ葉探してたアレ?」

「そうそう。アレの花」

 

 それからは二手に分かれ、作業を進行していった。オレは花冠の方。

 

「大体できたね!? よし交代!!」

「交代!? 黒板の方もうやることないでしょ!?」

「寄せ書きなんだし、一人一文は書いた方いいでしょ!? あと私達も一個は手作りの花冠先生に渡したい!」

「たしかに!!」

 

 そうやってワイワイガヤガヤと、ラストスパートをキメて──やり切ったと思った、その時。

 

 

「真守ッッ!!!」

 

 

 突然舞ちゃんが、鬼気迫る様子でオレを呼んだ。

 ギョッとして彼女の方を見ると、限界まで見開かれたその瞳が上空に向けられたのが分かる。

 釣られてオレもそちらを見ると──ヘリコプター?

 迷彩柄と国旗から、自衛隊のものだと分かる。時期が時期なので、珍しくもない。彼女は何をそんなに焦っているのか。

 

 ──いや待て、違和感がある。

 

「あ」

 

 理解した瞬間、駆け出した。

 

 

「皆ッ、伏せろおおおおおお!!!」

 

 

 ()()()()()()()んだ。

 

 無造作に放られた『ソレ』を見て、歯噛みした。

 慣性と重力に従い、『ソレ』はこちらに向かってくる。

 

 迎撃? バリア? 駄目だ、駆け出すのが遅かった。後ろの皆を巻き込みかねない。

 

 ──身体で受けるしかない。

 

「ガアアアアアアッッ!!!」

 

 跳躍、からの形象崩壊。胎児のように身体を丸め、『ソレ』を包み込む。

 

 ──次の瞬間、極光と灼熱と共に、漆黒の金属が吐き出された。

 

 

 終わりは、唐突にやってきた。

 

 青空教室に、『爆弾』が投下されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

『おい、テメェら何やってんだ!?』

 

『何って、駆除だよ駆除! 邪魔だ退け!』

 

『──それ以上この子に近付いてみろ……撃ち殺すぞ、下衆共』

 

『そのライセンス──里見蓮太郎?』

 

『チッ、だったらなんだよ』

 

『……いや。英雄だろうがなんだろうが、やっぱり民警が守ってるのは、市民じゃなくてそいつらなんだなって思っただけだ』

 

『あ゛?』

 

 

『──なぁ、聞いてくれよ。こんなことがあったんだ』

 

『……そうか。災難だったな』

 

『頼むぜ? シェルターが当たんなかった俺らは、お前ら自衛隊が負けたらオシマイなんだからよぉ……

 クソッ、アイツら安全な後陣に引き篭もってるくせに偉っそうに……』

 

『じゃあ俺が、代わりに痛い目を見せてやるよ。面白い噂があるんだ──』

 

『──へぇ? そいつぁ面白い』

 

 

『世話を焼いてた野良ガストレアが焼き肉になった時、英雄はどんな顔をするのかねぇ?』

 

 

 

 *

 

 

 

「──グッ、ァァ……」

 

 バラニウムの爆弾。

 バラニウムがガストレアに有効なのは最早言うまでもないが、再生レベルⅡまでのガストレアなら実のところ燃やせば死ぬ。そもそもガストレアは研究用の個体以外焼いてウイルスを殺しているのだ。真正の『不死』たるレベルⅤ以外の個体は、()()()()()()()()()()()()。それはオレも例外じゃない。ゼロ距離で直撃したのだ。流石にこたえた。

 

 ──だが、うずくまっている場合ではない。本当なら省エネモードに移行して再生に専念したいが……早く皆のところに、戻らないと。

 

「──兄さんッッ!!」

「真守!!」

 

 あぁ、良かった。皆の方から固まってこっちに駆け寄ってくれた。都合がいい。

 巨大化はそのままに、皆の上に覆い被さる。

 

 

 ──銃声。

 

 機関銃なのだろう。四方からの絶え間ない轟音で、耳がやられそうだ。

 

 

「ひっ!?」

「何!? さっきから何が起こってるの!?」

 

 ……爆弾一発だと、勘のいい子と足の速い子は逃げられるかもだからね。あらかじめ囲んでいたのだろう。本気でやるならオレでもこうする。

 

「──大丈夫。皆は、オレが守る」

 

 機銃なら、バリアで弾ける。時折放られる手榴弾も、熱はどうしようもないけど皆には通らない。だから後は、持久戦だ。

 

「〜〜〜〜っ、真守! もういい!! 私が外に出て、アイツらを追い払う!」

「ちょっ!?」

「無茶だよ! 舞ちゃんは普通の子でしょ!? やるなら私達が……!」

 

「──私、()()()()なんだよ? 普通だと、思う?」

 

『────』

 

 彼女は、目を赫く光らせていた。オレと──『彼』と同じ体質。

 

 前にも一度だけ見たことがあるが……見間違いではなかったか。それにそういえば、ヘリに最初に気付いたのも彼女だった。

 

 ……でも、(この子)はまだ止まれる。

 だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …………化物は、オレ一人で充分だ。

 

「舞……『寝てて』」

 

「えっ、何を──……ぅ」

 

「舞ちゃん!?」

 

 感覚で解る。彼女は『(オレ)』の血に共鳴しているだけだ。

 焼けて死にゆく身体が、再生のために血縁を辿ってちょっかいを出しただけ。……オレが死ねば、元通りになる。

 とは言え今リンクしているのは間違いないので、少し血流を操作して失神して貰った。……上手くいって良かった。

 

「……皆も、反撃なんて……考えないで、ね……?」

 

「でっ、でも……!」

 

「殺していいなら、オレがもうやってる……その意味を……考えて……」

 

「だけど真守っ、もう……!!」

 

 ああ。全身が焼けている。爆弾榴弾で外を焼かれ、内側も発電により感電しているから、正真正銘全身火傷だ。しかも再生のために、代謝で体温は際限なく上昇している。

 

「……大丈夫。奴らが退くまでは、耐えてみせる……」

「もういいッ! もういいから!! バラバラに逃げて、狙いを逸らせばなんとか……!」

「ハハッ……プロ、それも集団が相手だよ……?」

「でも見てるだけなんてッ」

「一番正しい選択は……得てして、辛いものじゃない……?」

「……っ!」

 

 それからしばらく耐えて、耐えて、耐えて。

 

 どんだけ弾薬浪費してんだよ殺意高過ぎだろとか、悪態を吐く余裕もなくなって、いよいよヤバいなって思うくらい耐えて。

 

 ────ようやっっと銃声が聞こえなくなって、身体を起こして。

 

 反響定位で周囲を探って、自衛隊が撤退してることを確認した。

 

「はぁぁぁ…………」

 

 緊張を解き、省エネモードに移行。

 …………うん、指一本動かせない。あと一分長引いてたらアウトだったかも。すぐさま寝落ちする。

 

 

「──な、にが……起こったと、いうのですか……?」

 

 

 耳に入ったその声に、意識を浮上させる。

 

 ──あぁ、相棒。会いたかったぜ。遅かったじゃねぇか。

 

 

 

 *

 

 

 

 東京の通学路というには些か牧歌的過ぎる通学路を、私は走っていた。

 

 嗅ぎ慣れた、あまりにも場違い過ぎる臭い──硝煙と、生きた動物が焼ける臭いが、そこに満ちていたから。

 

 そして、そして。私達の、教室は。

 

 椅子も机も黒板も、全てが壊れて飛び散って。

 

 何よりも、大切なものが。

 

 私の相棒が、黒炭になって横たわっていた。

 

 なんとか掠れる声で『何があった』と聞くと、彼は薄っすらと()()()()()

 

 ────生きてる!!

 

 『ならば』と駆け寄り、抱き起こす。

 

「もう大丈夫ですよ。今、病院に連れて行きますから」

「ん……それよか、水が欲しい……今、持ってきて貰ってて……」

「──駄目ですッ!」

 

 水を経口摂取すると火傷した喉が腫れ上がって窒息する。更にはミネラルバランスが崩れてしまう。

 必要なのは生理食塩水。それを経口摂取以外で──つまり点滴だ。

 

「今、病院に運びますから」

 

「……うん」

 

「幸い、ここの病院は信頼できます。相棒が記憶喪失になった後、最初に起きたところです」

 

「…………うん」

 

「全く、勘弁してくださいよ。記憶喪失前含みで、まだ二ヶ月しか組んでないんですよ? 私達。月一で死にかけてるじゃないですか」

 

「………………」

 

「ちょっと、返事しないのやめてくださいよ。怖いじゃないですか」

 

「……大丈夫だよ、相棒。だって…………」

 

「……だって?」

 

「まだ、何も始まってない……告白の返事も、できてない……それに……オレ達の……戦いは……証明、を……」

 

「えぇそうです、そうでしょう? これからじゃないですか」

 

「…………」

 

「……相棒、意識はありますか? 指を動かすでもいいですから、何か反応を……」

 

「────」

 

「あの、ホントに。冗談だったら怒りますよ? 相棒……相棒ッ!」

 

 一度、背負っていた彼を下ろして脈拍を見る。

 

「──ッ!」

 

 止まっている。だが、さっきまで返事をしていた。

 胸骨圧迫──いや、もっと効率的に。

 

『──動け』

 

 私の心臓と共鳴させて、彼の心臓を動かすよう働きかける。

 

『動け……!』

 

 前回はコレで動いたのに、今回は上手く動かせない。

 

「どうして……! 私の心臓、代わりに止まっても構いませんから! お願い動いて……!」

 

 ──動かない。

 

「……ぁ」

 

 そうだ、心臓を動かそうにも今の彼は()()()()()()()()のだ。まずはそこだ。体内のウイルスが死滅する前に再生を促して、血を溶かさないと。

 

「あぁ……」

 

 でも、水は飲ませられない。病院は間に合わない。点滴も、刺したところで心臓が動かなければ意味がない。

 

 

 ────詰みだ。

 

 

「…………こんな、世界。滅びればいいのに」

 

 

 そんなことを呟いたのが、悪かったのだろうか。

 

 この、すぐ後のことだった。

 

 ──政府の予想より一日早く、モノリスが崩壊した。

 

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