赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
大っっ変お待たせしました!!!
待たせ過ぎたので、お詫びに皆様が安心して曇らせを摂取できるよう、もう少し先に出す予定だった話を持って来ちゃいました☆
そこは六畳一間程度の室内だった。
コンクリートの壁に囲まれた、無骨な空間。照明は薄暗く、線香の匂いが充満している。
そして中には一つ、担架があった。
その上には、布を被せられた人型の膨らみがあった。
膨らみには── 一切動きが見られなかった。
「……現場にいた『子供たち』から、ガイシャは『身分証も戸籍も無い、自分達と同じマンホールチルドレンの学生』だと聞いているが……一応大人にも身元を確認して貰えると、
蓮太郎は手に持っていた鞄を『ボトリ』と落とし、その手で布を捲った。
「……あぁ、間違いない。オレの生徒だ」
「そうかい。協力ありがとうな、兄ちゃん」
警官にしては砕け切った口調の彼を、蓮太郎は恨めしげに見て──予想に反して光のない瞳が映り、口をつぐんだ。
「……ひでぇことしやがるよな」
「……?」
「外周区に
……まぁ、あり得ない話じゃない。定期的に体内浸食率を計測できない外周区の『子供たち』にとっちゃあ、形象崩壊は突然くるものだ。自衛隊だって、いくら前線に戦力を集める必要があっても……内地を完全な無防備にはできない。誤射に関しては言わずもがな」
──『だけどよぉ』と警官は、震える声で続けた。
「なぁ、信じられるかよ? オイ……だって『子供たち』の話じゃそのガストレア、
あぁ、実際に戦闘はあったんだろうさ。大量の銃弾と空薬莢、爆弾の跡を見りゃあ、そうなんだろうよ。
あぁ、実際にそのガストレアは人を襲わなかったんだろう。現場に居た人間で、死傷者はただ一人だからな。
通報によるとそのガストレアは発電魚の因子を持った固体で、バラニウムは通じなかったらしい。だが発電能力による自傷で自滅したのか、肺呼吸ができなくて窒息したのか……
──で?
実際に焼かれた身体で見つかったのは、こんなに小さい男の子。通報にあった巨大なガストレアは、一体どこにいやがるんだ?
──この子の、本当の死因は何だ?」
そう言って警官は、ペンをへし折る勢いで握った。
「公式では、ほぼ自衛官の報告通りに記録がされる。他ならぬ俺が、今こうして、嘘っぱちと分かり切った妄言を綴っているからだ……!」
「……ありがとな、アンタ。コイツのために、怒ってくれて」
「……それくらいしか、してやれないからな。警察にこう記録される以上、司法に訴えたところで勝ち目は無いって話だ」
「分かってんよ。それでも、ありがとう」
蓮太郎はそう言うと、部屋を後にした。
*
──心は驚くほどに凪いでいた。
いつかこんな日が来ると、そういう想定をしておく理由は沢山あった。覚悟をしておく、時間もあった。彼の死因が、あまりにも彼らしくて……納得しかなかった。というのも、ある。
そして、何よりも。
一番辛いのは、子供たちだ。
俺は、彼女らよりかは『他人の死』という
やはりと言うべきか、一番荒れたのはティナだった。
彼の死と、下手人が自衛隊の人間であることを知った彼女は、すぐさま走り出そうとしたのだ。
近くに居た夏世が『どこへ行く気だ』と言って止めると、ティナは『最前線』と答えた。何をするつもりかは、明白だった。
ただ……
『──仇討ちがしたいなら、私を殺してから行ってください』
『彼が死んだのは私のせいです』
『私が嘯いた〝正しさ〟のために、彼は命を賭してしまった』
だから『怨むなら私を怨め』と。
自分の首とティナの腕に糸を巻き付けて、『覚悟はできている』と。
彼の相棒が、身を挺して止めてくれたことで……ティナも少し、冷静さを取り戻した。
『……今日のところは、アナタの顔を立ててあげます』
そう言ってティナは、腕に絡んだ糸を慎重に解いた。
……他の皆は暴れたりせず、表面上は静かだったが……内面はその限りではないだろう。特に舞ちゃんは、酷く憔悴している。遺体をどうするかという話になった時も……
『──また焼くの? 私達を守って、あんなになるまで焼け焦げた真守を……また、焼くの?』
こう言って反発したのは、舞ちゃん
……十年前のことを考えるに、(彼の体質を抜きにしても)今回葬儀を行うことは難しい。だがそれでも、大抵の遺体は火葬される。土葬では感染症のリスクが大きいからだ。
『──それ、
……まぁ、こう言われてしまったら黙るしかない。『自分達の住んでいる場所じゃないから』と、外周区に原発をポンポン建てまくった『大人側』の俺達が……今更何を言えるのか。
ただ、延珠に関しては……意外なことに、周囲を気遣う余裕すら見せていた。
『妾としても、焼くより土に還してやりたいとは思うが……舞ちゃん、良いのか? 手元に遺骨を残すこともできぬのだぞ?』
『…………いいよ、別に。お父さんも、お母さんも、そうだったから』
本当は俺が言うべき言葉だったが……両親の遺灰を投げ捨て、葬式を抜け出した過去が、口をつぐませた。
木更さんは前線で『やること』があったから、こちらには来ていないけれど。今回の件は、誰だって繰り返し話したい内容ではなかったから……電話を繋いで、当事者を集めて、スピーカーにして、纏めて報告して貰った。
皆、モチベーションは最悪だった。
そんな状況で──モノリスは突風により崩壊した。
*
轟音により、意識が急浮上する。
…………ここは、どこだ?
「病院だよ」
言われてみれば確かに、
それで……キミは誰?
「ここに録音機器が無いのが残念でならないわね。有ったらもう一回言わせて、後でイジり倒してやるのに」
「……アカリさん、私は気にしてませんから」
どうやらもう一人居たらしい。
黒髪赫目の、若い女せ──
「アイム、ユア、マぁザぁー」
「……こちら、
そんな、バカな。随分前に亡くなった筈じゃ……
「えぇ、死んでるわよ? 私も、アンタも」
じゃあ、ここは……
「
「でも肉体は死んでるし、残った精神もこのままだと死ぬし、回避しようにも、できることが何も無いから実質『死』よ」
「アカリさん!!」
「現状は正しく認識させないとでしょ」
……じゃあ結局、ここはどこなんですか?
「私も知らない。ただ、そもそも『どこ』って表現自体が
……そうなの?
「……そう、だね。『記憶の整理場』って意味では、うん」
「そ。──という訳で今からアンタには、
「あの、アカリさん。ホント余計なこと言わなくていいですから」
…………記憶を取り戻せば、キミのことも分かる?
「……ホント、気にしてないのに。私のことなんて、思い出しても……傷が一つ、増えるだけだよ?」
……そっか。キミが、『足』の娘か。
「そうだけど、そこまで思い出す必要はないよ。キミに必要なのは最低限、天童流だけ」
「いや、どうせ思い出させるなら全部でしょ」
「……アカリさん、そろそろ怒りますよ?」
「真面目な話よ。天童流が一番必要なのはそうだけど、辛い記憶なら一月前のことだってあるんだし……それならこの機に全部思い出させた方がいい」
「……そうでしたね」
一月前のこと……形象崩壊と、記憶喪失の原因……
「まぁ、今のアンタならたぶん大丈夫よ。──正しさの証明、するんでしょ?」
──勿論。
「アンタが生き返れるかは、完全に外的要因頼り。人の力じゃどうにもならない『運』の要素が絡むけど……」
「キミの言葉を借りるなら、『それは今やれることをやらない理由にはならない』」
「幸い
「そうですね。もしかしたらアカリさんの記憶を観る時間もあるかもです」
「…………オススメはしないわ。天童流で充分よ」
「ふふっ。結局アカリさんだって、余計な辛い記憶はいらないと思ってるんじゃないですか」
「……息子のことよ? 当たり前でしょう」
……やっぱり愛されてたんですね。
「アンタも私の息子だっつってんのよ! 私だって贋作側だけど、『神崎燈』はそういうの気にしない
「その割に、私を此処へ送り込む時スッゴイ顔してましたけどね」
「そこ余計なこと言わない。……そりゃ、『他人がどう思うかは別』って認識くらいはあるわよ」
……優しいんですね。アカリさんは。
「うっさいわね。『優しい』なんて、アンタと大護さんほどじゃないし……もう、さっさと始めるわよ」
「メンドくさいツンデレですよね、この人」
「追い出されたいのかしら?」
「やめてください死んでしまいます」
ブラックジョークだェ……
「「それどうやって発音してるの!?」」
それはどうでもいいんで、早く始めましょう。
「グダグダね……」
「アナタが言いますか、それ」
「はいはい悪うござんした。じゃあ開始地点は、仙台エリアの──」
────走馬灯が、始まった。