赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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 大っっ変お待たせしました!!!

 待たせ過ぎたので、お詫びに皆様が安心して曇らせを摂取できるよう、もう少し先に出す予定だった話を持って来ちゃいました☆
 


第三十話:開戦前/■■灯・■の■■

 

 そこは六畳一間程度の室内だった。

 コンクリートの壁に囲まれた、無骨な空間。照明は薄暗く、線香の匂いが充満している。

 

 そして中には一つ、担架があった。

 その上には、布を被せられた人型の膨らみがあった。

 膨らみには── 一切動きが見られなかった。

 

「……現場にいた『子供たち』から、ガイシャは『身分証も戸籍も無い、自分達と同じマンホールチルドレンの学生』だと聞いているが……一応大人にも身元を確認して貰えると、警察(こちら)としては助かるんだ。頼めるかい、兄ちゃん」

 

 蓮太郎は手に持っていた鞄を『ボトリ』と落とし、その手で布を捲った。

 

「……あぁ、間違いない。オレの生徒だ」

「そうかい。協力ありがとうな、兄ちゃん」

 

 警官にしては砕け切った口調の彼を、蓮太郎は恨めしげに見て──予想に反して光のない瞳が映り、口をつぐんだ。

 

「……ひでぇことしやがるよな」

「……?」

「外周区に()()、巨大ガストレアが出現。そこに()()()()居合わせた自衛官が応戦。()()()()一般人が戦闘の余波に巻き込まれ、死亡。それが今回起こったことだ。

 ……まぁ、あり得ない話じゃない。定期的に体内浸食率を計測できない外周区の『子供たち』にとっちゃあ、形象崩壊は突然くるものだ。自衛隊だって、いくら前線に戦力を集める必要があっても……内地を完全な無防備にはできない。誤射に関しては言わずもがな」

 

 ──『だけどよぉ』と警官は、震える声で続けた。

 

「なぁ、信じられるかよ? オイ……だって『子供たち』の話じゃそのガストレア、()()()()()()()()()()()()()()()()()って話じゃねぇか。

 あぁ、実際に戦闘はあったんだろうさ。大量の銃弾と空薬莢、爆弾の跡を見りゃあ、そうなんだろうよ。

 あぁ、実際にそのガストレアは人を襲わなかったんだろう。現場に居た人間で、死傷者はただ一人だからな。

 

 通報によるとそのガストレアは発電魚の因子を持った固体で、バラニウムは通じなかったらしい。だが発電能力による自傷で自滅したのか、肺呼吸ができなくて窒息したのか……()()()()()()()()()()()()()()()()という報告が入っている。

 

 ──で? ()()()()()()()()()()()()()()

 実際に焼かれた身体で見つかったのは、こんなに小さい男の子。通報にあった巨大なガストレアは、一体どこにいやがるんだ?

 

 ──この子の、本当の死因は何だ?」

 

 そう言って警官は、ペンをへし折る勢いで握った。

 

「公式では、ほぼ自衛官の報告通りに記録がされる。他ならぬ俺が、今こうして、嘘っぱちと分かり切った妄言を綴っているからだ……!」

「……ありがとな、アンタ。コイツのために、怒ってくれて」

「……それくらいしか、してやれないからな。警察にこう記録される以上、司法に訴えたところで勝ち目は無いって話だ」

「分かってんよ。それでも、ありがとう」

 

 蓮太郎はそう言うと、部屋を後にした。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──心は驚くほどに凪いでいた。

 

 いつかこんな日が来ると、そういう想定をしておく理由は沢山あった。覚悟をしておく、時間もあった。彼の死因が、あまりにも彼らしくて……納得しかなかった。というのも、ある。

 

 そして、何よりも。

 一番辛いのは、子供たちだ。

 俺は、彼女らよりかは『他人の死』という現象(もの)に慣れている。俺は、気丈でいなければ、ならない。

 

 やはりと言うべきか、一番荒れたのはティナだった。

 彼の死と、下手人が自衛隊の人間であることを知った彼女は、すぐさま走り出そうとしたのだ。

 近くに居た夏世が『どこへ行く気だ』と言って止めると、ティナは『最前線』と答えた。何をするつもりかは、明白だった。

 ただ……

 

『──仇討ちがしたいなら、私を殺してから行ってください』

 

『彼が死んだのは私のせいです』

 

『私が嘯いた〝正しさ〟のために、彼は命を賭してしまった』

 

 だから『怨むなら私を怨め』と。

 自分の首とティナの腕に糸を巻き付けて、『覚悟はできている』と。

 彼の相棒が、身を挺して止めてくれたことで……ティナも少し、冷静さを取り戻した。

 

『……今日のところは、アナタの顔を立ててあげます』

 

 そう言ってティナは、腕に絡んだ糸を慎重に解いた。

 

 ……他の皆は暴れたりせず、表面上は静かだったが……内面はその限りではないだろう。特に舞ちゃんは、酷く憔悴している。遺体をどうするかという話になった時も……

 

『──また焼くの? 私達を守って、あんなになるまで焼け焦げた真守を……また、焼くの?』

 

 こう言って反発したのは、舞ちゃん()()()()。クラスメイトの大半が火葬に嫌悪感を示す中、彼女は……ただ俯いて、一言も、喋ることはなかった。

 ……十年前のことを考えるに、(彼の体質を抜きにしても)今回葬儀を行うことは難しい。だがそれでも、大抵の遺体は火葬される。土葬では感染症のリスクが大きいからだ。

 

『──それ、()()()()()()()?』

 

 ……まぁ、こう言われてしまったら黙るしかない。『自分達の住んでいる場所じゃないから』と、外周区に原発をポンポン建てまくった『大人側』の俺達が……今更何を言えるのか。

 ただ、延珠に関しては……意外なことに、周囲を気遣う余裕すら見せていた。

 

『妾としても、焼くより土に還してやりたいとは思うが……舞ちゃん、良いのか? 手元に遺骨を残すこともできぬのだぞ?』

『…………いいよ、別に。お父さんも、お母さんも、そうだったから』

 

 本当は俺が言うべき言葉だったが……両親の遺灰を投げ捨て、葬式を抜け出した過去が、口をつぐませた。

 

 木更さんは前線で『やること』があったから、こちらには来ていないけれど。今回の件は、誰だって繰り返し話したい内容ではなかったから……電話を繋いで、当事者を集めて、スピーカーにして、纏めて報告して貰った。

 

 皆、モチベーションは最悪だった。

 そんな状況で──モノリスは突風により崩壊した。

 

 

 

 *

 

 

 

 轟音により、意識が急浮上する。

 

 …………ここは、どこだ?

 

「病院だよ」

 

 言われてみれば確かに、線香(消毒液)の匂いが漂っている。

 それで……キミは誰?

 

「ここに録音機器が無いのが残念でならないわね。有ったらもう一回言わせて、後でイジり倒してやるのに」

「……アカリさん、私は気にしてませんから」

 

 どうやらもう一人居たらしい。

 黒髪赫目の、若い女せ──()()!?

 

「アイム、ユア、マぁザぁー」

「……こちら、()()()さん。血縁上、キミの母親に当たるヒト」

 

 そんな、バカな。随分前に亡くなった筈じゃ……

 

「えぇ、死んでるわよ? 私も、アンタも」

 

 じゃあ、ここは……

 

()()()。ここは死後の世界じゃないよ。それに、キミはまだ死んでない」

「でも肉体は死んでるし、残った精神もこのままだと死ぬし、回避しようにも、できることが何も無いから実質『死』よ」

「アカリさん!!」

「現状は正しく認識させないとでしょ」

 

 ……じゃあ結局、ここはどこなんですか?

 

「私も知らない。ただ、そもそも『どこ』って表現自体が()()わね。『明晰夢』ってのが一番近いかしら」

 

 ……そうなの?

 

「……そう、だね。『記憶の整理場』って意味では、うん」

「そ。──という訳で今からアンタには、()()()()()()()()()()()わ。……まぁ、それで命が助かるワケじゃないんだけどね」

「あの、アカリさん。ホント余計なこと言わなくていいですから」

 

 …………記憶を取り戻せば、キミのことも分かる?

 

「……ホント、気にしてないのに。私のことなんて、思い出しても……傷が一つ、増えるだけだよ?」

 

 ……そっか。キミが、『足』の娘か。

 

「そうだけど、そこまで思い出す必要はないよ。キミに必要なのは最低限、天童流だけ」

「いや、どうせ思い出させるなら全部でしょ」

「……アカリさん、そろそろ怒りますよ?」

「真面目な話よ。天童流が一番必要なのはそうだけど、辛い記憶なら一月前のことだってあるんだし……それならこの機に全部思い出させた方がいい」

「……そうでしたね」

 

 一月前のこと……形象崩壊と、記憶喪失の原因……

 

「まぁ、今のアンタならたぶん大丈夫よ。──正しさの証明、するんでしょ?」

 

 ──勿論。

 

「アンタが生き返れるかは、完全に外的要因頼り。人の力じゃどうにもならない『運』の要素が絡むけど……」

「キミの言葉を借りるなら、『それは今やれることをやらない理由にはならない』」

 

「幸い()()()()()()()()()()()()()()()から、そこは不幸中の幸いね」

「そうですね。もしかしたらアカリさんの記憶を観る時間もあるかもです」

「…………オススメはしないわ。天童流で充分よ」

「ふふっ。結局アカリさんだって、余計な辛い記憶はいらないと思ってるんじゃないですか」

「……息子のことよ? 当たり前でしょう」

 

 ……やっぱり愛されてたんですね。神崎真守(アイツ)は。

 

「アンタも私の息子だっつってんのよ! 私だって贋作側だけど、『神崎燈』はそういうの気にしない性質(タチ)の女だから……本人の言葉と、思っていいわよ?」

「その割に、私を此処へ送り込む時スッゴイ顔してましたけどね」

「そこ余計なこと言わない。……そりゃ、『他人がどう思うかは別』って認識くらいはあるわよ」

 

 ……優しいんですね。アカリさんは。

 

「うっさいわね。『優しい』なんて、アンタと大護さんほどじゃないし……もう、さっさと始めるわよ」

「メンドくさいツンデレですよね、この人」

「追い出されたいのかしら?」

「やめてください死んでしまいます」

 

 ブラックジョークだェ……

 

「「それどうやって発音してるの!?」」

 

 それはどうでもいいんで、早く始めましょう。

 

「グダグダね……」

「アナタが言いますか、それ」

「はいはい悪うござんした。じゃあ開始地点は、仙台エリアの──」

 

 

 ────走馬灯が、始まった。

 

 神崎真守(オレ)の、はじまりの記憶が溢れ出す。

 

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