赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
「むにゃ……ふふ……れんたろー……」
「……よく寝てるな」
優等生の延珠にしては珍しく、学校へ行く時間になっても目覚める気配がない。昨日……というか今日は深夜まで起きていたのだから、無理もない話だが。
「……俺も、今日は久しぶりにサボるか」
最近は真面目に学校へ通っていたのだが、延珠が目覚めた時に俺が居ないのでは悲しいだろう。そう思い、朝食の追加メニューを作りながら延珠の起床を待っていると……
「──なっ、もうこんな時間か!? 何故起こしてくれなかったのだ蓮太郎! というかお主も授業はいいのか!?」
「おはよう延珠。朝メシできてるぞー」
「おぉ、今日は随分と豪勢な──って違う! 何を堂々とサボっているのだお主は!?」
「俺だけ学校に行くのも悪いと思ってな」
「……いや、妾も登校するぞ」
ギョッとして、延珠の目を見る。
……本気だ。延珠は本当に、自分が呪われた子供であると知れたクラスに戻る気でいる。
「大丈夫、なのか?」
「……みんな、悪い奴ではないのだ。話せばきっと、分かり合える」
俺はそれを『楽観』だと、『皆が皆、真守のようにはいかない』と、そう言って止めるべきなのだろう。
だが、それでいいのか? この腐った世界で生き続ける限り、この問題からは逃れられない。その問題に自分から立ち向かおうとする彼女を、本当に止めるべきなのか?
「……あぁ、そうだな。頑張れよ、延珠」
「うむ!」
結局俺は、延珠を送り出した。
不安と心配で胸が一杯だったが、真守がいるなら最悪の事態だけは避けられるだろうと──そう思って、送り出した。
その結果……
*
「みんな、おはようなのだ!!」
『…………』
昼休みの時間。『いつも』のように、4年3組の扉を開けて挨拶をする。だけどクラスの反応は、当然ながら『普段通り』とはいかない。
地獄のような静寂と、冷たい目。解っていた拒絶であっても、やはり辛い。
──だけど大丈夫。そんな中にあっても、己の味方となってくれる者が居る。それを知っているから、耐えられる。
「……お前、よくここに顔を出せたな」
「皆ともう一度、友達になりたくてだな──っ」
前田はズンズンとこちらに迫って来て、思いっ切り妾の頬を殴った。
骨を折り、肉を抉るガストレアの攻撃に比べればなんてことはないが……肉体よりも、心が痛い。親指を握り込んで殴っていたから、きっと前田は今ので、指の骨が折れている。
「……保険室に、行った方がいい」
「余計なお世話だクソ野郎……! 今すぐ出ていけッ、真守と舞が戻ってくる前に……!」
「二人に何かあったのか!?」
「しらばっくれやがって……!」
慌ててクラス内を見渡すが、確かに二人の姿がない。
──猛烈に、嫌な予感がする。『ここに居てはいけない』と、本能が今更ながらに警鐘を鳴らしている。
「アイツらの両親が……! 昨日仕事中に、
「……ぇ」
殺された? 真守の家族が、自分と同じイニシエーターに?
『呪われた子供がやったんだ』
『お前達がやったんだ』
『だから、お前が殺した』
「ちっ、違う。妾じゃない」
でも、真守はそう納得してくれるのか?
これを機に、このクラスメイト達と同じになるのではないか?
『何も違わない』
『お前も、他の呪われた子供も』
『真守も舞も、俺達も』
『同じだ』
────逃げた。
赤い目を晒すことも厭わず、全力でアパートまで逃げ帰った。
「うっ、クッ……! ぅああぁあ……!!」
帰って、布団を被って、思いっきり泣いた。声を殺すためというよりも、何も視界に入れないために。
──でないと、何もかも壊してしまいそうだったから。
「──延珠、大丈夫かっ延珠!!」
「れんたろぉぉぉ」
担任から連絡が行ったのだろう。蓮太郎もすぐに帰ってきた。
抱きつくと、優しく背中をさすってくれる。
「どうした、何があった?」
「まもるのっ、舞ちゃんの、両親が……!」
学校で聞いたことを話すと、蓮太郎も顔を歪めた。
「そんな……どうしてそんなことが起こるんだよ……! チクショウ……ッ!」
そうして二人で泣いて、泣いて──蓮太郎はハッとした顔で、携帯を取り出した。
『里見くん、どうしたの? ケースの件?』
「いや、直接関係のある話じゃないんだけどよ……社長には、今回の作戦に参加してる民警の名簿が渡されてる筈だ。その中に、
『ちょっと待ってね、今確認するから──うん、
「その二人の名前って、もしかして……」
真守はよく、家族の話をしていた。名前も何度か聞いたことがある。特に彼と同じ『守護』の文字が含まれている、父のことは。
『……そうよ。知り合い?』
「……知り合いの、両親だ」
『……そう』
電話を切った蓮太郎は目を閉じて、深呼吸を数回した後──ドス黒い目で妾を見て、言った。
「アイツの両親を殺したのは、蛭子小比奈だ」
「そうか。あやつか」
──きっと妾も、同じ目をしている。
「次に会うのが、たのしみだ」