赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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間話:You can (not) evolution

 

「──倒したぞ蓮太郎! 妾たちが一番乗りだ」

「無茶しやがって……でも、よくやったな」

「うむ!」

 

 これは、真守が倒れた日のこと。

 彼がそんな状態になっているとは(つゆ)知らず、蓮太郎達は七星の遺産(ケース)を追っていた。

 ケースを取り込んだ蜘蛛のステージI(ガストレア)が糸でハンググライダーを作成し、滑空していることを確認した木更は、ドクターヘリを手配。空中のガストレアを肉眼で確認した延珠は、ヘリから飛び降り敵に奇襲をしかけた。

 その後遅れて蓮太郎も地上に急行。突風で危うく転落死するところであったが、なんとか着地を成功させて延珠と合流し、今に至る。

 

「いたた……」

「大丈夫か?」

「左足を少し捻ったみたいだ。一時間もすれば治ると思うが……」

「……今蛭子親子に遭遇したらマズいな。さっさとケースを回収して撤退しよう」

「うむ」

 

 そして蓮太郎は、ガストレアの体に癒着したケースを引き抜いて──

 

「ヒヒ、ご苦労だったね里見くん」

「なっ」

 

 振り向きざまに拳銃を抜くが、影胤の方が早かった。

 蓮太郎は顔面を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられた。拳銃の照準を合わせようとするも、すぐさま投げられ木の幹に衝突。ダメージで視界が暗転し、意識が飛びかける。

 

(樹海で視界が悪いとは言え、こんな近くに居て気付かねぇなんて……!)

 

 雨の音で気配が読み難かったこともあるが、それ以上に影胤の潜伏技能が高過ぎた。

 

「蓮太郎ッ!」

「──ミツケタッ」

 

 延珠は蓮太郎の援護に回ろうとするが、小比奈の参戦により断念。彼女の討伐に専念することにした。

 

「小ぉ比奈ぁぁぁ!!!」

「イイね、斬り合お!!」

 

 二人が激突し、生木が轟音を立てて倒壊する。近接特化のトップイニシエーターが繰り広げる戦闘の余波に、周囲が耐えられていない。

 

「……おや。今日は随分と、そちらも乗り気みたいだね」

「事情があってな……こうなったら相棒がとことん()れるように、俺もちっとばかし『本気』でやってやる」

「──ほう? あの時本気じゃなかったのはお互い様だったワケだ」

「そういうことだ──行くぜ」

 

 蓮太郎はジェラルミンケースを放り投げ、影胤に肉薄。地を踏みしめ丹田に力を込める。

 

 天童式戦闘術一の型八番

 

焔火扇(ほむらかせん)──」

「イマジナリー・ギミックッ!」

 

 渾身のストレートが斥力(せきりょく)フィールドに接触。ベクトルが逸らされ拳が空を切るその直前──

 

三点撃(バースト)ッ!」

「なっ!?」

 

 蓮太郎の腕に亀裂が走り、人工皮膚が剥落(はくらく)。その下からブラッククロームが出現し、三連続の炸裂音と同時に空薬莢(からやっきょう)を排出する。

 文字通りの爆速で進む拳はバリアを貫通し、影胤の顔面へ突き刺さった。

 

「ゴブふっ、フヒヒ! バラニウムの義腕……まさか本当に同類だったとはっ!」

「改めて名乗るぜ、影胤。元陸上自衛隊東部方面第七八七機械化特殊部隊 『新人類創造計画』 里見蓮太郎だ」

 

 名乗りと共に百載無窮の構えを取り、義眼も解放。木更すら一度しか見たことがない、蓮太郎の本気。

 それを見て、延珠はポツリと呟く。

 

「……すまぬな蓮太郎。個人兵装はもう二度と使わないって、言ってたのに……」

「私の前で余所見ッ!?」

 

 小比奈は容赦なく、ガラ空きの首筋へ双剣を振るい──空振り。彼女の視界から延珠が消える。

 

「え?」

「こっちだノロマ」

 

 超速で小比奈の背後に回っていた延珠は、驚いた顔で振り向いた彼女の顔面を蹴り飛ばした。

 

(……首の回転で、威力を殺されたな)

(今の、何? いくらなんでも速すぎる……!)

 

 その後も小比奈の双剣は擦りもせず、延珠の蹴りは命中し続けた。

 

「ナニソレナニソレ! 凄いや延珠ッ! ソレどうやってるの!?」

「……さて、な。妾にも分からぬ」

 

 不思議な万能感が、延珠を包んでいた。対峙する小比奈は、その覇気から()()()()()()()()()()()()()()()圧迫感を感じているだろう。

 本来拮抗した実力を持つ二人の戦いは、不可解なことに一方的だった。それも、元から負傷していた延珠の勝勢という形で。

 ボロボロになりながら壮絶に笑う小比奈を、延珠は冷たい目で蹴り続け──遂に、小比奈は膝を突いた。

 

「あれ? 足、動かないや……」

「……最後に聞かせろ、小比奈」

 

 真っ赤な眼を紅蓮に燃やし、彼女は問う。

 

「神崎大護、神崎(あかり)という名に、聞き覚えはあるか?」

「潰したアリのことなんて一々覚えてないけど……『カンザキさん』って呼ばれてた女に、『ダイゴさん』って呼ばれてたヤツがいたのは……たまたまだけど、覚えてたよ」

「……最後に何を言っていたか、覚えておるか?」

「なんだったかなぁ。忘れちゃった。覚えてるのは、女のプロモーターがそこそこ良い腕してたのに、雑魚で役立たずのイニシエーターを庇って犬死にしたってことくらいだよ。笑えるよね」

「……そうか。分かった。もういい」

 

 そして延珠の踵落としが、小比奈の頭蓋を叩き割ろうとしたその時──延珠は突然飛び退いた。次の瞬間地面が弾け、同時に銃声が鳴り響く。

 

「ヒヒ、危ない危ない」

「──蓮太郎ッ!」

 

 影胤の姿を見た彼女は、相棒の安否を確認すべく視線を巡らせる。すると……一枚岩に背を預け、座り込む形で気絶している彼の姿があった。

 救出するには、影胤を突破して行かなければならないが……

 

(大丈夫だ、勝てる。『今の妾』なら……!)

 

 そうして彼女は足に力を込め──激痛。

 

「〜〜〜ッッ!?」

(足を酷使し過ぎた……! 怪我が、悪化して……!)

 

 延珠のコンディションが、急速に落ち込んでいく。先程までの万能感が、消えていく。

 しかしそれを悟られぬよう、彼女はいつでも飛び出せるような体勢で影胤を睨んだ。

 

「さて。取り引きをしないか、レディ?」

「……取り引き? 妾とお主がか?」

 

 意外な言葉に、延珠は思わず聞き返した。

 

「そうだ。私は里見くんに勝ち、キミは小比奈に勝った。今から勝者同士でやり合ってもいいが……敗者はどちらも重傷だ。すぐに治療が必要だろう。そこでだ」

「……互いに今は退こう、と?」

「その通り。悪い話ではないと思うがね?」

「……分かった。交渉成立だ」

 

 延珠は蓮太郎を背負い──影胤の手に渡ったケースを見て唇を噛んだ。

 

「ヒヒ、()()()()()()

(……バレていた、か)

 

 つまり実質、蓮太郎共々見逃されたということになる。

 

「くそぅ……すまぬ真守……二人の仇、取れなかったのだ……」

 

 痛む足に鞭を打ち、彼女も急ぎ帰路に着いた。

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