赤目の守護者   作:ブラブレ8巻難民

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第七話:『情報屋』

 

 柔らかい感触と、身体を包む温もり。小さな違和感。

 薬の匂いに、静かな電子音。……ここは、家じゃない。どこだ。

 目を開くと、白い天井。どうやらオレは、病室に寝かされていたらしい。

 

「調子はどうかな? 真守くん」

「……最悪よりはマシってとこです」

「ハハッ、なら良しとしよう」

 

 ……なるほど、この人の仕業(しわざ)か。

 相変わらず、声色や仕草に反して目が死んでいて不気味だ……しかし何より不気味な点は、そこじゃない。

 

「オレが今日、あなたに会いに行こうとすることも……知ってたんですか?」

「ただの予測だよ」

 

 ……つまり、知っていたと。

 情報屋を営み『何でも知ってる不思議な人間』を自称する、フィクションから飛び出してきたようなこの存在は……本当に、『何でも』が誇張じゃない知識を持っている。

 

「そして一つ訂正しておくと、もう一日経ってるから、昨日のことさ」

「マジか……帰らないと……」

 

 一日経ったからなのか、自己申告通り気分もマシになっている。これ以上舞に心配をかけてまで、意地を張る気はない。

 ──なのに、

 

「それはオススメしないよ」

「……どうしてですか」

「だって、今日は世界が終わる日だからね」

「は?」

 

 まるで『その商品、隣の店で買う方が安いよ』とでも言うような気軽さで、何を言っているのかこの人は。

 

「『ステージⅤが来る』と言えば、キミなら分かるだろう?」

「いや、分かりませんよ……なんでゾディアックが来るんですか」

「分かってるじゃないか。ステージⅤが何なのか」

 

 モノリスの結界を無力化する、超巨大な11体のガストレア。内2体は討伐済みという話だが、残りを討伐する目処は立っていない。現れた時点でゲームオーバーの、大災害だ。

 それがどうして東京エリアに向かって来るのか……気にはなるが、聞いても答えてくれないのなら構わない。

 ……というか、所在不明である筈のゾディアックを、どうやって捕捉したんだこの人。そっちの方が気になる。どうせそれも教えてはくれないだろうから、聞きはしないけども。

 

「……じゃあ尚更、家に帰ります。妹と一緒に、叔父の居る仙台エリアにでも向かいますよ」

「へぇ? 妹以外は何人死んでもいいと」

「オレに何ができるって言うんですか。オレには、ステージⅤを止める力なんてありません」

「無力な少年だからこそ、できることもある」

 

 言葉と共に、寝台へ小さな箱が置かれる。

 開封を促され、中身を見ると──

 

「デザート、イーグル?」

 

 ハンドガンの中では最強格の火力を誇る銃であり、総じて硬いガストレアを倒すことを目的とした民警には人気の銃だ。父も使っていて、()()()()()()()()()()()が……

 

「いや、いやいやいや。まさかコレでステージⅤを撃てと? ライオンに鼻糞投げるのと何も変わりませんって」

「ハハハ、そんなこと言わないさ。キミが撃つべきものの名は──蛭子小比奈」

 

 ──女性名。

 

「オレは人間を撃つ気はありません。それが呪われた子供であっても、です」

()()()()()()()()()()()()?」

「…………詳しく、聞かせてください」

 

 心が黒く染まっていく。

 延珠ちゃんの情報をバラし、父さんと母さんを殺した相手が同一人物だったなら──

 

「……とまぁ、伝えるべき情報はこんなところかな」

「そうですか。じゃあ、行ってきます」

 

 銃を手に取り、寝台を降りる。

 病室の出口前には、二つの鞄が置かれていた。右には普段使っている見慣れた鞄。左には、あからさまに新品な迷彩柄の鞄。

 

「家に帰るなら、右だよ」

「ハッ、今更何を」

 

 左の鞄を開き、ホルスターとウエストポーチの付いたベルトを取り出して装備。サイレンサーを銃に取り付けホルスターに収納。

 

「点滴は打ったけど、キミのお腹はカラッポだ。水筒の中にヨーグルトを入れてあるから、まずはそれを飲むこと」

 

 言われた通り口に流し込むと、果物の甘み。バナナが入っているらしい。バナナもヨーグルト同様栄養バランスに優れた『完全食』と呼ばれるものかつ、消化吸収の良い最強の組み合わせだ。

 

「……何から何まで、ありがとうございます。そっちの鞄にオレの有り金全部入れて来てたんで──」

「情報代の子供料金1000円だけ貰っておくよ。他経費は全てサービスだとも」

「取っといてください。預金含めて20万円はあった筈ですから、銃の料金を含めても足りる筈です。あっ、引き出しに必要なパスは──」

「だから、いらないってば」

「……妹のことを頼みたいんです。叔父が保護してくれるまで、見ててください。その分の料金も含まれてます」

「うーん。いいけどボク、舞ちゃんと叔父さんに殺されないかい?」

「これだけオレを死地に送るお膳立てをしておいて、妹には何もなしですか?」

「それを言われると痛いねぇ。うん分かった。情報屋の業務内容じゃないから、割り増し料金1500円で引き受けよう」

「……じゃあそれで」

 

 今度こそ、扉を開く。

 

「さようなら、グークルさん」

「また会おうぜ、真守くん」

 

 ……『また』 か。

 きっとオレは死ぬだろう。確実と言っていいほどに、生きて帰れる望みはない。

 だけど、『何でも知ってる』あの人が『また』と言うのなら。オレは──

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

死亡診断書(死体検案書)

 

 氏名:神崎 真守  性別:男  生年月日:令和3年4月20日

 

 死亡したとき:令和13年5月3日 午後9時30分前後

 死亡したところ:未踏査領域元千葉県房総半島付近

 死亡の原因:複数のガストレアによる捕食

 

 上記の通り診断する医師:室戸 菫

 

 

 2036年5月4日、5年の保存期間が経過したため『神崎真守』は戸籍から完全に抹消された。




 
 原作では影胤との初戦闘が2031/4/28(月)となっていますが、翌日学校&防衛省、その翌日が休日となると、おそらく該当するのは昭和の日(4/29)なので……4/28は誤字であり、原作の初戦闘の日付けは本来4/27であったという設定にしております。
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