赤目の守護者 作:ブラブレ8巻難民
「どうも、初めまして。突然ですがアナタ、民警ですよね」
防衛省近くに居た、民警らしき男性に声をかける。すると男性は、不機嫌そうにこちらを睨んだ。
「あぁ? なんだよガキ。民警とお巡りさんは違ぇぞ。今立て込んでるからよぉ、道に迷ったんなら──」
「蛭子親子の件で、話が」
「──っ!? テメェ、どこでその名を」
一発目でアタリだ。運がいい。
「どこでもいいでしょう? それよりも……未踏査領域に行くのなら、少しでも生き残る可能性を上げたいですよね?」
「……とりあえず聞いてやるが、ふざけた話だったら殺す」
「結構です。では早速本題なんですが──今回の作戦に、オレを同行させてほしいんです」
「……ふざけた話なら殺すと言ったよな? お荷物はいらねぇ」
「足手纏いにはなりませんよ。今ここで証明してみせましょうか」
デザートイーグルを抜いて、50mほど先にある木を指差す。
「右側の枝を一つ撃ち落とします」
両手でしっかり持ち、反動に耐えるよう足を広げて構える。
狙いを定め、引き金を引き──命中。反応は……?
「おいおいそれ実銃だったのかよ。なんでそんなモン持ってんだ……」
「それもどうだっていいことでしょう? それで、どうなんです。まだオレの腕は信用できませんか?」
「……静止状態とは言え、この距離で目標に当てられるなら……射撃の腕が高いことは認める。だが……」
「足手纏いと思ったなら、途中で囮にしても構いませんよ」
「──へぇ?」
ガストレアは賢い。獲物を狩るなら、確実に食える奴にする。
完全武装した大人と、貧弱装備の子供なら……どちらがそれに該当するかは言うまでもない。生き餌があれば、生存率は上がる。
「テメェから提案してきたんだ。今更吐いた唾は飲めねぇぞ?」
「同行させてくれるのなら、構いません」
「いいだろう。連れて行ってやる」
──こうしてオレは、未踏査領域へ向かうヘリに密航することに成功した。
担当区域に到着すると、街頭の無い本物の夜がオレ達を出迎える。昨日の雨で濡れた土の臭いが鼻を突き、異様な静けさは『あぁ、来てしまった』という後悔を掻き立てる。
「……この付近には居ねぇ。場所を移すぞ」
「え、あっ、あの……この付近を探すように、言われてました、よね……?」
「うるせぇ。黙ってついてこい」
「ひっ、すみません……」
……やはり、蓮太郎さんのような……イニシエーターを家族のように扱う人は早々いないか。
移動しながら、小声で少し解説してあげる。
「ぬかるんだ土ってさ、歩くたびに足が取られて嫌だよね。キミもそう思わない?」
「……え、え? もしかして、私に話しかけてくれてます?」
「うん、ちょっとした雑談がしたくなってね。嫌だった?」
「ヤじゃないです、ハイ!」
「オーケーありがとう。でも声は控えめにね?」
「ぁ、ごめんなさい……」
「そんなに落ち込むほどのことじゃないよ、大丈夫」
言葉を発する度に文字通り目を光らせて喜んだり、分かりやすくシュンとしたり……余程会話に飢えていたのか。
「声を潜めないといけないのは確かだけど、この付近ではあまり気にしなくていいかな」
「どうしてですか?」
「それはねぇ、さっきの話の続きに答えがあるんだ。
ぬかるんだ土は足を取られるだけじゃなくて、ヌチョヌチョって音もするでしょ? 敵も条件は同じだから、迂闊に歩くことすらできないんだよ。『儀式』がどういうものなのかは知らないけれど、何かしらの行動を取る必要があるなら、ここは潜伏に向いてない」
「な、なるほど……」
「──だが、俺達民警軍団の接近を察知しやすいのは事実だろう? 儀式が動きを必要としない行為であれば、潜伏に向いていることになる」
おっ、なんだ? 試されているのか?
「ただでさえ気温が低いのに、周囲の濡れたものは体温を容赦なく奪います。この点も長期の潜伏に向いていない要素の一つです」
「テント一つで解決できる問題だな。ビニールシートでもいい」
「冗談でしょう? そんなもの使ったら、見つけてくださいと言ってるようなものじゃないですか」
「なら、ガストレアはどうだ? 奴らは何処にでも潜んでいるぞ」
「それも考えにくいですね。まず足音がしない。地上を動く動物は居ません」
「なら鳥は?」
「虫の声も聞こえないので、虫を食べる小鳥は居ません。ということは小鳥を食べる大型の鳥も居ない。居ても羽ばたく音が聞こえます。怖いのはフクロウくらいです。ですが奴らの目は赤く発光しますので、少なくとも近くには居ないと考えていいでしょう」
「……合格だ」
「お、おぉ……! 私と同じくらいなのに、すごく頭がいいんですねマモルくんは……!」
「……勉強は、頑張ったからね。ありがとう」
尊敬の眼差しが痛い。個人的に『謙遜は嫌味』だと思うタイプの人間だから、素直に感謝するけれど……勉強だけできたって、オレなんて……まだまだ未熟だ。
「……言っておくが、地中からガストレアが出ることだってあるんだぞ。警戒は必要だ」
「えっ」「あっ」
完全に盲点だった。やはり未熟……
「……気をつけます」
「ふん、それでいい」
「ぁ、あまり落ち込まないでください。私だって言われるまで気付いていませんでしたから……!」
「……うん、ありがとう」
──これが天使か。
ハッ、いかんいかん。オレには延珠ちゃんがいるんだ……!
という冗談はさておき、このペアとも少しは打ち解けられてきたところで──アスファルトが見えた。
「……こっから、無駄話は一切無しだ。いいな?」
「承知」「はい……!」
三人で背中合わせの陣形を取り、死角を潰しながらゆっくり進む。
「……止まれ。ガストレアだ」
「……何も見えませんが」
「奴も俺達に気付いて、目を閉じたんだ。耳を澄ませ。逃げてくれるならいいが……近付いてくるなら、迎撃する必要がある」
言われて、集中する。
──物音と、一瞬の発光。
「……近付いてきてます」
「戦闘体勢に入れ」
ジリジリと敵が近付いて来ることで、呼吸が荒くなり、手が震える。
「実戦は初みたいだな」
「……恥ずかしながら」
「今回の迎撃はお前に任せようと思ってたんだが……俺がやってもいいぞ。どうする?」
「足手纏いにはなりませんよ。囮に使われたくはないので──ねッ」
赤い光が見えた瞬間発砲。
──重いモノが落ちる音がした。
「……やったか?」
暫く警戒するが、物音は聞こえない。
「……大丈夫そう、ですね」
「よかった……」
そうしてオレ達が、一息ついたところで──ライトを浴びせられる。
全員で武器を取り、そちらを向くと──
「ぐぉっ!?」
「きゃあっ!?」
背後から奇襲。一瞬で、オレ以外の二人が倒れていた。オレ自身も、何かで両腕を後ろ手に縛られる。しかも銃を落としてしまった。
「くそっ……!」
緩い感触に反して、全く取れない。粘着質で、もがくほど絡まっていく。
「何しやがるテメェら! 同じ民警だろ!?」
「黙れ」
「ひっ!?」
『ドゴッ』という重低音が響く。どうやら蹴られたらしい。
「ハイアンタ、ちょっと顔見せてね〜
……うわ、ホントに男の子じゃん」
「だったら何だ……!」
「分かんない?
「……え?」
予想外な言葉に、間抜けな声が漏れた。
「何が『同じ民警』だよクソファッキン。銃声がしたから来てみれば、男のガキを連れてるたぁどういう了見だ?」
……あ、これ二人がキツめに拘束されてんのオレのせいだ。
そう気付いたところで『オレが連れてって欲しいと頼んだ』と言ったら、再び重低音。
「えっ」
「オイ、今何でもう一回蹴りやがった……!?」
「責任逃れできるように脅迫までしてるとはな……テメェみたいな人間のクズがいるから、民警はいつまで経っても嫌われ者なんだ」
「あっ、あの……すみません、本当にオレから頼んだんですけど……」
「大丈夫。大丈夫よ。もう無理しなくていいから、ね? アンタは私と兄貴が、ちゃんと守ってあげるから」
イニシエーターの子が、慈愛に溢れた声で安心させようとしてくる。うわぁ、すっごく申し訳ない。
この状況、ホントにどうしよう……