水粘少年のヒーローアカデミア   作:白黒カラス

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お久しぶりです。
週一投稿なんて夢のまた夢でした。
よろしくお願いします。


第10話 想いと友情の間

 記憶の中の彼女は、いつも笑っていた。

 悲しいときも苦しいときも、最後には必ず笑ってみせた。

 だから、彼女ならヒーローになれる。そう思っていた。

 

 

 

 

「例の幼馴染はどこか変わってた?」

 

 雄英高校に向かう通学路で、拳藤は尋ねた。

 隣を歩く水斗が、首を傾げる。

 

「背が伸びてた」

 

「そういうのじゃない。私が聞きたいのは、共通する話題じゃなくてその娘だけの変化」

 

 拳藤はジト目で水斗を睨みつける。

 思わずたじろいでしまうが、水斗は目を閉じて昨日を回想する。

 

「そう、だな」

 

 小学生の頃に比べて背は伸びた。口調も昔と変わっていないように思える。

 だとするなら、一番の変化は―‐。

 

「……笑顔が可愛くなった?」

 

「へえ」

 

 ハッとして横を見ると拳藤がニヤニヤとこちらを見ていた。

 

「その、なんだ」

 

 恥ずかしい話を聞かれてしまった気がして、言い訳を口走りそうになる。

 

「大丈夫そうだな」

 

 拳藤の言葉の意味はわからなかった。

 彼女が浮かべた微かな笑みを見て、喉まで来ていた言葉はどこかへ行ってしまった。

 

「なんでもない。それよりも幼馴染を待たせてるんだろ?」

 

 すぐに拳藤はいつもの調子に戻った。

 追求する間もなく、背中を押されて待ち合わせ場所へ向かう。

 雄英高校に続く坂道の途中に響香はいた。

 

「おはよう、響香。遅くなった」

 

 響香は落ち着かない様子で視線を巡らせていたが、声を掛けるとピンと視線を正してこちらを向く。

 

「お、おはよう」

 

 響香は挨拶も早々に、水斗と拳藤を交互に見やる。

 それから少し俯いて呟く。

 

「……じゃん」

 

「え?」

 

 響香の声が聞き取れなかったので、思わず聞き返す。

 しかし、彼女はなんでもないと首を振った。

 

「その人が中学の時のクラスメイト?」

 

「あ、うん」

 

 水斗の斜め後ろに控えていた拳藤は、何かを察したように小さく頷いていた。

 

「私は拳藤一佳。よろしく」

 

 そう言って拳藤は右手を差し出した。

 その手を困惑した様子で見る響香だが、おずおずと自分も右手を差し出す。

 

「耳郎響香です。よろしく」

 

 二人は握手を交わす。

 にこりと笑う拳藤に対し、響香は助けを求めるように水斗を見た。

 

「というわけで、水粘。お前は先に行ってくれ」

 

 有無を言わさず、笑みのままの拳藤は水斗の背を叩く。

 

「どういうわけだよ」

 

「私は耳郎さんに二人きりで聞きたいことがある」

 

 えっ、と響香から驚愕が漏れる。

 

「響香が聞きたがってるんだが」

 

「女子二人の会話にお前はついていけない」

 

 そんなことはない、と言い切れないのがこれまでの経験からわかっている。

 ズレたことを言って呆れられたこともよくあった。

 

「わかった」

 

「水斗!?」

 

 初対面の相手を二人きりにするのは気が引けた。

 だけど、それ以上に。

 

(こんなにやる気のある拳藤も久々だな)

 

 きっと悪いようにはしないだろうと判断し、水斗は響香の肩にポンと手を乗せる。

 

「響香、話し相手になってやってほしい」

 

「……まあ、いいけど」

 

 響香は口元を不服そうに歪めた。

 本当なら水斗が二人の橋渡しになるつもりだったが、そこは拳藤がなんとかしてくれるだろう。

 

「拳藤もあんまり余計なこと話すなよ」

 

「わかってるって」

 

 水斗は念を押して二人に背を向けた。

 

(拳藤が聞きたいことってなんだろうな)

 

 一人そんなことを考えながら登校した。

 

 

 

 

 自分より先に連絡先を交換した女の子がいることが悔しかった。

 耳郎響香の記憶にある水粘水斗という男の子は、奥手で女子と顔も合わせられなくて、そのくせピンチの人には手を差し伸べてしまう。

 逆に言えば、そんな彼を変える出来事があったということだ。響香それが知りたい。

 

「それで」

 

 響香は俯きがちに声を掛ける。

 

「聞きたいことっていうのは」

 

「ひとつは、たぶん耳郎さんと一緒かな。水粘水斗をどう思っているのか」

 

 向き合った響香は息を呑んだ。

 先程までと変わって、拳藤の表情に陰りが見えた。

 

「単刀直入に聞くよ。あなたは水粘のこと好き?」

 

「それは、どういう……」

 

「もちろん、異性として」

 

 逃げ道を塞がれた。

 確かに、これは水斗と一緒だとできない話だ。

 ごまかすこともできただろう。だけど、響香は本音を吐き出した。

 

「まだ、わかんない。憧れてて、目標にしてて、大切な人なのは確かだけど、これが恋なのか、どうなのか」

 

 久しぶりに再会して、印象も変わってて。それでも抱いていた思いは変わらなくて。

 

「そっか」

 

 拳藤は納得したように頷く。

 

「拳藤さんは?」

 

「私? ないない。好ましいやつだとは思うけど、恋愛感情じゃないよ」

 

 彼女はカラカラと笑う。

 響香が疑いの眼差しを向けるもスルーされる。

 

「それ抜きだと、頼れるやつだとは思うよ。ただ危なっかしい」

 

「危なっかしい?」

 

 問いに頷いて、拳藤は言葉を続ける。

 

「中学で、いろいろあってね。今は前を向いてるけど、なにかの拍子に遠くへ行ってしまいそうな」

 

 見えない何かを見るように、拳藤は目を細めた。

 響香の目にはその評定があまりにも悲しそうに見えて。

 

「なんてな。耳郎さんがいるから大丈夫そうだ」

 

 次の瞬間には、水斗に見せていたあの表情に戻った。

 そして、からかうような顔で響香の顔を覗き見る。

 

「水粘はさ、いつもあなたの話をしてたんだ」

 

「えっ」

 

 どんな話をしていたのか。響香は両手を握りしめる。

 

「自分よりよっぽどヒーローに向いてる、格好いい幼馴染がいるって」

 

「……カッコいい」

 

 悪くはない。水斗の口から出てきそうな言葉だった。

 

「あ、でも」

 

 思い出したように拳藤は手を叩いた。

 

「今の耳郎さんは笑顔が可愛いってさ」

 

「えっ、え?」

 

 あの水斗が可愛いって言う?

 これからどんな顔して合えばいいの?

 

 そんな考えがぐるぐると頭を巡る。

 

「あはは。もうこんな時間。急ごうか」

 

「う、うん」

 

 駆け出した拳藤の後を追う。

 肝心なことを聞き忘れたなぁ、なんて思いながら。

 

 

 

 

「……これでいいんだよな」

 

 一佳は独りごちる。

 耳郎の表情が感情でコロコロ変わっていたのを思い出す。

 

 ある意味、由貴と似ていたんだ。

 

 耳郎の本音を聞きだしたことで一佳は確信した。

 彼女こそ、水粘の守るべき日常なのだと。

 だから、耳郎の水粘への想いを自覚させた。

 

『ごめんね、一佳ちゃん。わたし無個性だから、ヒーローになれないから』

 

 だから――。

 

『わたしの代わりに水粘くんを助けてあげて』

 

 彼女の最後の笑顔を思い出した。




ついに耳郎さんと拳藤さんが遭遇しました。
今回も心情メインです。
物語が動くのはもう少し先なのですが、そこにたどり着くのは時間がかかりそうです。
次回はオールマイトの授業。戦闘訓練は誰と組むことになるのか。
ありがとうございました。
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