週一投稿なんて夢のまた夢でした。
よろしくお願いします。
記憶の中の彼女は、いつも笑っていた。
悲しいときも苦しいときも、最後には必ず笑ってみせた。
だから、彼女ならヒーローになれる。そう思っていた。
◇
「例の幼馴染はどこか変わってた?」
雄英高校に向かう通学路で、拳藤は尋ねた。
隣を歩く水斗が、首を傾げる。
「背が伸びてた」
「そういうのじゃない。私が聞きたいのは、共通する話題じゃなくてその娘だけの変化」
拳藤はジト目で水斗を睨みつける。
思わずたじろいでしまうが、水斗は目を閉じて昨日を回想する。
「そう、だな」
小学生の頃に比べて背は伸びた。口調も昔と変わっていないように思える。
だとするなら、一番の変化は―‐。
「……笑顔が可愛くなった?」
「へえ」
ハッとして横を見ると拳藤がニヤニヤとこちらを見ていた。
「その、なんだ」
恥ずかしい話を聞かれてしまった気がして、言い訳を口走りそうになる。
「大丈夫そうだな」
拳藤の言葉の意味はわからなかった。
彼女が浮かべた微かな笑みを見て、喉まで来ていた言葉はどこかへ行ってしまった。
「なんでもない。それよりも幼馴染を待たせてるんだろ?」
すぐに拳藤はいつもの調子に戻った。
追求する間もなく、背中を押されて待ち合わせ場所へ向かう。
雄英高校に続く坂道の途中に響香はいた。
「おはよう、響香。遅くなった」
響香は落ち着かない様子で視線を巡らせていたが、声を掛けるとピンと視線を正してこちらを向く。
「お、おはよう」
響香は挨拶も早々に、水斗と拳藤を交互に見やる。
それから少し俯いて呟く。
「……じゃん」
「え?」
響香の声が聞き取れなかったので、思わず聞き返す。
しかし、彼女はなんでもないと首を振った。
「その人が中学の時のクラスメイト?」
「あ、うん」
水斗の斜め後ろに控えていた拳藤は、何かを察したように小さく頷いていた。
「私は拳藤一佳。よろしく」
そう言って拳藤は右手を差し出した。
その手を困惑した様子で見る響香だが、おずおずと自分も右手を差し出す。
「耳郎響香です。よろしく」
二人は握手を交わす。
にこりと笑う拳藤に対し、響香は助けを求めるように水斗を見た。
「というわけで、水粘。お前は先に行ってくれ」
有無を言わさず、笑みのままの拳藤は水斗の背を叩く。
「どういうわけだよ」
「私は耳郎さんに二人きりで聞きたいことがある」
えっ、と響香から驚愕が漏れる。
「響香が聞きたがってるんだが」
「女子二人の会話にお前はついていけない」
そんなことはない、と言い切れないのがこれまでの経験からわかっている。
ズレたことを言って呆れられたこともよくあった。
「わかった」
「水斗!?」
初対面の相手を二人きりにするのは気が引けた。
だけど、それ以上に。
(こんなにやる気のある拳藤も久々だな)
きっと悪いようにはしないだろうと判断し、水斗は響香の肩にポンと手を乗せる。
「響香、話し相手になってやってほしい」
「……まあ、いいけど」
響香は口元を不服そうに歪めた。
本当なら水斗が二人の橋渡しになるつもりだったが、そこは拳藤がなんとかしてくれるだろう。
「拳藤もあんまり余計なこと話すなよ」
「わかってるって」
水斗は念を押して二人に背を向けた。
(拳藤が聞きたいことってなんだろうな)
一人そんなことを考えながら登校した。
◇
自分より先に連絡先を交換した女の子がいることが悔しかった。
耳郎響香の記憶にある水粘水斗という男の子は、奥手で女子と顔も合わせられなくて、そのくせピンチの人には手を差し伸べてしまう。
逆に言えば、そんな彼を変える出来事があったということだ。響香それが知りたい。
「それで」
響香は俯きがちに声を掛ける。
「聞きたいことっていうのは」
「ひとつは、たぶん耳郎さんと一緒かな。水粘水斗をどう思っているのか」
向き合った響香は息を呑んだ。
先程までと変わって、拳藤の表情に陰りが見えた。
「単刀直入に聞くよ。あなたは水粘のこと好き?」
「それは、どういう……」
「もちろん、異性として」
逃げ道を塞がれた。
確かに、これは水斗と一緒だとできない話だ。
ごまかすこともできただろう。だけど、響香は本音を吐き出した。
「まだ、わかんない。憧れてて、目標にしてて、大切な人なのは確かだけど、これが恋なのか、どうなのか」
久しぶりに再会して、印象も変わってて。それでも抱いていた思いは変わらなくて。
「そっか」
拳藤は納得したように頷く。
「拳藤さんは?」
「私? ないない。好ましいやつだとは思うけど、恋愛感情じゃないよ」
彼女はカラカラと笑う。
響香が疑いの眼差しを向けるもスルーされる。
「それ抜きだと、頼れるやつだとは思うよ。ただ危なっかしい」
「危なっかしい?」
問いに頷いて、拳藤は言葉を続ける。
「中学で、いろいろあってね。今は前を向いてるけど、なにかの拍子に遠くへ行ってしまいそうな」
見えない何かを見るように、拳藤は目を細めた。
響香の目にはその評定があまりにも悲しそうに見えて。
「なんてな。耳郎さんがいるから大丈夫そうだ」
次の瞬間には、水斗に見せていたあの表情に戻った。
そして、からかうような顔で響香の顔を覗き見る。
「水粘はさ、いつもあなたの話をしてたんだ」
「えっ」
どんな話をしていたのか。響香は両手を握りしめる。
「自分よりよっぽどヒーローに向いてる、格好いい幼馴染がいるって」
「……カッコいい」
悪くはない。水斗の口から出てきそうな言葉だった。
「あ、でも」
思い出したように拳藤は手を叩いた。
「今の耳郎さんは笑顔が可愛いってさ」
「えっ、え?」
あの水斗が可愛いって言う?
これからどんな顔して合えばいいの?
そんな考えがぐるぐると頭を巡る。
「あはは。もうこんな時間。急ごうか」
「う、うん」
駆け出した拳藤の後を追う。
肝心なことを聞き忘れたなぁ、なんて思いながら。
◇
「……これでいいんだよな」
一佳は独りごちる。
耳郎の表情が感情でコロコロ変わっていたのを思い出す。
ある意味、由貴と似ていたんだ。
耳郎の本音を聞きだしたことで一佳は確信した。
彼女こそ、水粘の守るべき日常なのだと。
だから、耳郎の水粘への想いを自覚させた。
『ごめんね、一佳ちゃん。わたし無個性だから、ヒーローになれないから』
だから――。
『わたしの代わりに水粘くんを助けてあげて』
彼女の最後の笑顔を思い出した。
ついに耳郎さんと拳藤さんが遭遇しました。
今回も心情メインです。
物語が動くのはもう少し先なのですが、そこにたどり着くのは時間がかかりそうです。
次回はオールマイトの授業。戦闘訓練は誰と組むことになるのか。
ありがとうございました。