水粘少年のヒーローアカデミア   作:白黒カラス

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お久しぶりです。
週一投稿なんて夢のまた夢でした。
よろしくお願いします。


第10話 想いと友情の間

 記憶の中の彼女は、いつも笑っていた。

 悲しいときも苦しいときも、最後には必ず笑ってみせた。

 だから、彼女ならヒーローになれる。そう思っていた。

 

 

◇

 

 

「例の幼馴染はどこか変わってた?」

 

 雄英高校に向かう通学路で、拳藤は尋ねた。

 隣を歩く水斗が、首を傾げる。

 

「背が伸びてた」

 

「そういうのじゃない。私が聞きたいのは、共通する話題じゃなくてその娘だけの変化」

 

 拳藤はジト目で水斗を睨みつける。

 思わずたじろいでしまうが、水斗は目を閉じて昨日を回想する。

 

「そう、だな」

 

 小学生の頃に比べて背は伸びた。口調も昔と変わっていないように思える。

 だとするなら、一番の変化は―‐。

 

「……笑顔が可愛くなった?」

 

「へえ」

 

 ハッとして横を見ると拳藤がニヤニヤとこちらを見ていた。

 

「その、なんだ」

 

 恥ずかしい話を聞かれてしまった気がして、言い訳を口走りそうになる。

 

「大丈夫そうだな」

 

 拳藤の言葉の意味はわからなかった。

 彼女が浮かべた微かな笑みを見て、喉まで来ていた言葉はどこかへ行ってしまった。

 

「なんでもない。それよりも幼馴染を待たせてるんだろ?」

 

 すぐに拳藤はいつもの調子に戻った。

 追求する間もなく、背中を押されて待ち合わせ場所へ向かう。

 雄英高校に続く坂道の途中に響香はいた。

 

「おはよう、響香。遅くなった」

 

 響香は落ち着かない様子で視線を巡らせていたが、声を掛けるとピンと視線を正してこちらを向く。

 

「お、おはよう」

 

 響香は挨拶も早々に、水斗と拳藤を交互に見やる。

 それから少し俯いて呟く。

 

「……じゃん」

 

「え?」

 

 響香の声が聞き取れなかったので、思わず聞き返す。

 しかし、彼女はなんでもないと首を振った。

 

「その人が中学の時のクラスメイト?」

 

「あ、うん」

 

 水斗の斜め後ろに控えていた拳藤は、何かを察したように小さく頷いていた。

 

「私は拳藤一佳。よろしく」

 

 そう言って拳藤は右手を差し出した。

 その手を困惑した様子で見る響香だが、おずおずと自分も右手を差し出す。

 

「耳郎響香です。よろしく」

 

 二人は握手を交わす。

 にこりと笑う拳藤に対し、響香は助けを求めるように水斗を見た。

 

「というわけで、水粘。お前は先に行ってくれ」

 

 有無を言わさず、笑みのままの拳藤は水斗の背を叩く。

 

「どういうわけだよ」

 

「私は耳郎さんに二人きりで聞きたいことがある」

 

 えっ、と響香から驚愕が漏れる。

 

「響香が聞きたがってるんだが」

 

「女子二人の会話にお前はついていけない」

 

 そんなことはない、と言い切れないのがこれまでの経験からわかっている。

 ズレたことを言って呆れられたこともよくあった。

 

「わかった」

 

「水斗!?」

 

 初対面の相手を二人きりにするのは気が引けた。

 だけど、それ以上に。

 

(こんなにやる気のある拳藤も久々だな)

 

 きっと悪いようにはしないだろうと判断し、水斗は響香の肩にポンと手を乗せる。

 

「響香、話し相手になってやってほしい」

 

「……まあ、いいけど」

 

 響香は口元を不服そうに歪めた。

 本当なら水斗が二人の橋渡しになるつもりだったが、そこは拳藤がなんとかしてくれるだろう。

 

「拳藤もあんまり余計なこと話すなよ」

 

「わかってるって」

 

 水斗は念を押して二人に背を向けた。

 

(拳藤が聞きたいことってなんだろうな)

 

 一人そんなことを考えながら登校した。

 

 

◇

 

 

 自分より先に連絡先を交換した女の子がいることが悔しかった。

 耳郎響香の記憶にある水粘水斗という男の子は、奥手で女子と顔も合わせられなくて、そのくせピンチの人には手を差し伸べてしまう。

 逆に言えば、そんな彼を変える出来事があったということだ。響香それが知りたい。

 

「それで」

 

 響香は俯きがちに声を掛ける。

 

「聞きたいことっていうのは」

 

「ひとつは、たぶん耳郎さんと一緒かな。水粘水斗をどう思っているのか」

 

 向き合った響香は息を呑んだ。

 先程までと変わって、拳藤の表情に陰りが見えた。

 

「単刀直入に聞くよ。あなたは水粘のこと好き?」

 

「それは、どういう……」

 

「もちろん、異性として」

 

 逃げ道を塞がれた。

 確かに、これは水斗と一緒だとできない話だ。

 ごまかすこともできただろう。だけど、響香は本音を吐き出した。

 

「まだ、わかんない。憧れてて、目標にしてて、大切な人なのは確かだけど、これが恋なのか、どうなのか」

 

 久しぶりに再会して、印象も変わってて。それでも抱いていた思いは変わらなくて。

 

「そっか」

 

 拳藤は納得したように頷く。

 

「拳藤さんは?」

 

「私? ないない。好ましいやつだとは思うけど、恋愛感情じゃないよ」

 

 彼女はカラカラと笑う。

 響香が疑いの眼差しを向けるもスルーされる。

 

「それ抜きだと、頼れるやつだとは思うよ。ただ危なっかしい」

 

「危なっかしい?」

 

 問いに頷いて、拳藤は言葉を続ける。

 

「中学で、いろいろあってね。今は前を向いてるけど、なにかの拍子に遠くへ行ってしまいそうな」

 

 見えない何かを見るように、拳藤は目を細めた。

 響香の目にはその評定があまりにも悲しそうに見えて。

 

「なんてな。耳郎さんがいるから大丈夫そうだ」

 

 次の瞬間には、水斗に見せていたあの表情に戻った。

 そして、からかうような顔で響香の顔を覗き見る。

 

「水粘はさ、いつもあなたの話をしてたんだ」

 

「えっ」

 

 どんな話をしていたのか。響香は両手を握りしめる。

 

「自分よりよっぽどヒーローに向いてる、格好いい幼馴染がいるって」

 

「……カッコいい」

 

 悪くはない。水斗の口から出てきそうな言葉だった。

 

「あ、でも」

 

 思い出したように拳藤は手を叩いた。

 

「今の耳郎さんは笑顔が可愛いってさ」

 

「えっ、え?」

 

 あの水斗が可愛いって言う?

 これからどんな顔して合えばいいの?

 

 そんな考えがぐるぐると頭を巡る。

 

「あはは。もうこんな時間。急ごうか」

 

「う、うん」

 

 駆け出した拳藤の後を追う。

 肝心なことを聞き忘れたなぁ、なんて思いながら。

 

 

◇

 

 

「……これでいいんだよな」

 

 一佳は独りごちる。

 耳郎の表情が感情でコロコロ変わっていたのを思い出す。

 

 ある意味、由貴と似ていたんだ。

 

 耳郎の本音を聞きだしたことで一佳は確信した。

 彼女こそ、水粘の守るべき日常なのだと。

 だから、耳郎の水粘への想いを自覚させた。

 

『ごめんね、一佳ちゃん。わたし無個性だから、ヒーローになれないから』

 

 だから――。

 

『わたしの代わりに水粘くんを助けてあげて』

 

 彼女の最後の笑顔を思い出した。




ついに耳郎さんと拳藤さんが遭遇しました。
今回も心情メインです。
物語が動くのはもう少し先なのですが、そこにたどり着くのは時間がかかりそうです。
次回はオールマイトの授業。戦闘訓練は誰と組むことになるのか。
ありがとうございました。
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