水粘少年のヒーローアカデミア   作:白黒カラス

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第2話 約束

 耳郎響香にとって、水粘水斗(すいねんすいと)の存在が大きくなったのは、彼が転校してきてしばらくしてからだった。

 小学四年生の頃に引っ越してきた彼が、転校生ならではの質問攻めにあっているのを遠巻きに見ていた。

 髪は色素が薄い灰色。肌の色は青白く、瞳の色は深い青色をしている。

 無愛想なのが減点ポイントだろうか。なんて評価をつけていた。

 そんなある日、上級生の男子が水斗に因縁をつけていた。

 

「暴力はよくない、と思います」

 

 自分より体格差のある相手を前に、恐怖していた。

 少しずつ小さくなっていく声を響香は恥ずかしく思った。

 それでも、困っているであろう水斗を助けたいと彼らの前に立ちふさがった。

 

「ヒーローでもないのに口出しするなよ」

 

 苛立たしげに彼らは響香を突き飛ばした。

 そんな時、水斗が受け止めてくれた。

 

「先輩」

 

 先ほどとは雰囲気が違った。

 

「言っとくけど、俺は強いよ」

 

 でも、それは明らかに虚勢だった。

 声は震えていたし、体はガチガチだった。

 それでも、カッコいいと思わされた。

 だけど、水斗はボコボコにされ、先生に説教を食らっていた。

 落ち込んでいるかもしれない。そう思って、解放された水斗を追いかけた。

 怪我の状態を聞いて、彼が笑みを浮かべているのを見て耐えられなくなった。

 

「水粘くんはさ」

 

「うん」

 

「ウチが余計なことしたって思ってない?」

 

「え?」

 

 呆けたように水斗は響香を見つめていた。

 

「ウチが行かなければ殴られなかったかもしれない。ウチが先生のところに先に行ってたら水粘くんも悪者扱いされなかったかもしれない」

 

 泣いてしまいそうだった。

 痛かったのは水斗のはずなのに。

 自分は出しゃばっただけで何もできなかったのに。

 だけど。

 

「思ってないよ」

 

 彼は吹き飛ばすような笑みを浮かべた。

 

「むしろ、ヒーローみたいだと思った」

 

「ウチ、何もしてないよ」

 

 余計なことしかしてない。

 そう口に出してしまいそうだった。

 

「俺を助けようとしてくれたじゃん」

 

 彼は本当に嬉しそうに、笑っていた。

 

「だからさ、俺と友達になってくれないかな」

 

 言いながら右手を差し出してくる。

 

「えっ」

 

 何を言われたのかわからなかった。

 だけど、水斗の表情は真剣で、とても優しげで。

 

「嫌ならいいんだけど」

 

 彼は慌てて手を引っ込めようとする。

 

「い、嫌じゃないよ!」

 

 寂しそうな彼に大声で否定してしまったのは恥ずかしかった。

 

「そう? じゃあ俺のことは水斗って呼んでくれ」

 

 笑顔を浮かべる彼と握手したのを覚えている。

 水粘水斗との始まりの記憶。そして、これがヒーローになることを決意させてくれた少年との出会い。

 彼はいつだって、困っている人がいたら見過ごさなかった。

 重い荷物を持った老婆の手助けをしたり、迷子の男の子と一緒に母親を探してあげたり。

 

「水斗は、ヒーローになりたいの?」

 

 一度だけ、そんな質問をしたことがあった。

 その問いに彼は珍しく険しい表情を浮かべて唸っていた。

 

「なれればいいかなぁ、くらいだな」

 

「そうなんだ」

 

「ヒーローじゃなくても人助けはできるし」

 

 ヴィランと戦うだけがヒーローじゃない。そう思わせてくれた。

 彼と一緒ならどこまででも行ける。そんな気がしていた。

 でも、水斗はこの街を去る。

 だから、耳郎響香は彼の住むアパートの前に立っていた。

 

「よし」

 

 最後の挨拶。

 もしかしたら、もう会えないかもしれない。

 そんな不安もあった。

 チャイムを鳴らす。

 

「……あれ?」

 

 おかしい。

 いつもなら水斗が出てくるはず。

 もう一度チャイムを鳴らそうとしたところで。

 

「あれ? 響香ちゃん? どうしたの朝早くに」

 

 出てきたのは水斗の叔母。水粘水花(すいねんすいか)だった。

 水斗に似た色素の薄い灰色のような髪色。どこか掴みどころのない柔和な顔立ち。

 初めて見たときは水斗の姉だと思っていた。

 

「す、水斗の見送りをしようと思いまして」

 

 今の自分はガチガチに緊張していることを自覚していた。

 挨拶くらいはしておかないと気合を入れる。

 

「そうなんだ。だけど、残念。水斗は先に行っちゃったのよ」

 

「えっ」

 

 そんな。

 最後に挨拶もできないなんて。

 

「水花さん。嘘つかないでよ」

 

 ひょっこり水花の後ろから顔を覗かせる水斗。

 響香は何がなんだかわからず、水花と水斗を交互に見る。

 

「ゴメンね。響香ちゃん。さっきのは嘘。でも、あと一時間遅かったら出発してたわよ」

 

 こういう人だった。

 たまに突拍子もない嘘をつかれて困惑したことを思い出した。

 水斗が事故に巻き込まれたとか。水斗が家出したとか。

 実際は事故現場にいて救急車を呼んだだけだったり、迷子の女の子を送り届けて遅くなったりとか。

 

「見送りに来てくれたんだ」

 

「ま、まあね」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべる水斗。

 彼を見ているとこっちまで表情が緩む。

 

「約束、覚えてる?」

 

「もちろん。雄英高校にいって最高のヒーローになる、だろ?」

 

「そこまで言ってた?」

 

「オールマイトみたいなヒーローになりたいって話をしてなかったか?」

 

「……言ってたような言ってないような」

 

 思い出してもそんな話をした記憶はないのだけど。

 でも、約束をしたのは覚えてくれていた。

 

「とにかく! ウチは雄英高校に行って、ヒーロー目指すから」

 

「うん。俺も頑張ってみるよ」

 

 水斗が突き出してきた拳に、響香も拳をぶつける。

 

「いじめられたら帰ってきてもいいから」

 

「いじめられないように頑張るよ」

 

 また会える日まで。

 頑張ろう。

 たとえ離れていても、この想いは変わらないはずだから。




幼馴染編終了。
駆け足感が否めないですが、接点を作りたかったんだ。
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