時は流れて、入学試験当日。
拳藤が傍にいるおかげで内申点を下げずに済んだ。
彼女からも水斗を合格させようとする熱量を感じていた。
「水粘。何キョロキョロしてるんだ?」
せっかくだから一緒に行こう、と拳藤に誘われて試験会場へ向かう。
「……いや」
「ああ、もしかして幼なじみを探してるのか?」
その通りだった。
今の水斗の姿を見て、彼女はどう思うだろうか。
少しばかり不安だった。
「そういうのは受かってから考えなよ」
見透かしたように微笑む拳藤に、そうだなと相槌を打つ。
すべてを始めるには、合格しないといけないのだから。
◇
プレゼント・マイクの騒がしい説明を聞きながら、実技試験の内容を考察する。
現れる仮想敵は4種類。0から3ポイントの点数が振り分けられている。
0ポイントはお邪魔虫。避けて通るべき相手だと周りの受験生は言っている。
(本当にそうか?)
1体しかいない仮想敵。その存在意義がわからない。
「眉間にシワ寄せてどうしたんだ?」
隣の席に座る拳藤が心配そうに顔を覗き込んでくる。
距離が近くてドキッとしたが、すぐに首を振る。
「戦略を練ってただけだ」
「そう? 体調が悪いなら……なんでもない」
体調が悪いなら無理しない方がいい。
きっといつもの拳藤ならそう言うだろう。
だけど、今はそうも言っていられないと考え直したようだ。
「最後に」
ふと、プレゼント・マイクの言葉が耳に残った。
「我が校〝校訓〟をプレゼントしよう」
それは――。
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていくもの、と!」
(不幸を乗り越える?)
もしそれがヒーローへ通ずるモノだというのなら。
「Plus Ultra! それでは皆、良い受難を」
その言葉を聞いて少しの間動けずにいた。
「……ほら、水粘。他の人が通れないでしょ」
拳藤に小突かれたことで我に返る。
そのまま、気づけば会場へと入っていた。
周りにいるのは、今まで拳藤以外に見たことのない、雄英高校でヒーローになろうとする受験生たち。
(響香、いるかな?)
会場は複数に分けられているのだから、受験していたとしても遭遇する可能性は低い。
それでも今の自分を見られたくない、と少しうつむき加減で開始の合図を待つ。
「だー! そこのあんた!」
「えっ、俺?」
気づけば金髪の生徒に声をかけられていた。
彼は頭を掻き毟りながら水斗を指差す。
「やる前から落ちたような面すんな! こっちも釣られて暗くなっちまうだろ!」
「……あ、悪い」
「いいから、前見てようぜ」
「あ――」
感謝の言葉を告げようとした。その時だった。
『はい、スタート!』
プレゼント・マイクが開始の合図をする。
突然のことで反応が遅れた。
「うおっ!? いきなりかよ!」
金髪の少年は慌てたように駆けていく。
ポイントを稼ぐのなら先のほうが有利だろう。
(彼の個性は電撃系か)
ロボに向けて放電する少年を横目に、水斗もまた駆け出す。
道中、他の受験生が倒し損ねた仮想敵を殴りつける。
拳が直撃した瞬間、ロボに張り付いた粘液が爆発する。
(父さんと母さんには感謝しないとな)
亡くなった両親の個性が複合されたゆえの爆破能力。
回数制限は特にないが、体内の水分量が減っていくと威力も下がる。
持ち込み自由という事もあって、水斗はペットボトルに水を入れてベルトに括り付けている。
(派手に暴れるほど強い敵が来るか)
仮想敵を倒している間に彼らの法則を掴む。
街に被害が出ないように注意を払って、水斗は両手に粘液を集める。
「こいつはどうだ?」
視界に入ったロボに向かって遠投する。近くに人がいないことを確認し、爆破する。
それを繰り返すことで周囲に敵ロボが群がっていた。
『ギギ、ブッ飛ばす』
「ロボなのに物騒だな!」
両手に粘液をためて周りの仮想敵に塗りたくる。
「爆ぜろ!」
爆風が連鎖して周りのロボを一掃した、かに思えた。
『ガガ!』
背後を取られていた。
気づくのが遅れた。一撃食らうのは仕方ない。そう思った瞬間。
バチバチと電気が地面を這う。
「大丈夫か!」
開始直前に話しかけてきた金髪の少年が、放電して助けてくれた。
疲れているのか肩で息をしている。
「助かった」
「じゃあな。気をつけろよ」
受験とはいえ、ヒーローの卵になろうとしているのだ。
(ピンチの人がいたら助けるのが当たり前、か)
一人感慨深く思っていると。
ゴゴゴと地鳴りがする。見上げるほどの巨大なロボが出現した。
受験生たちが逃げ惑う。
水斗も倣って走り出そうとして。
〝真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていくもの〟
プレゼント・マイクが言っていたことを思い出した。
もしも、ヒーローになったとして、凶悪なヴィランが現れたとして。
市民と一緒に逃げるのか?
(違う)
それはヒーローとしての姿じゃない。
だとするのなら、この試験は。
「そこの電気の君!」
「はっ、俺?」
水斗が呼び止めたのは、電撃を放っていた恩人の少年。
「あのロボを倒すために力を貸してくれないか?」
「倒す!? あんなのをか!?」
おかしなものを見たかのように彼は叫ぶ。
「これは俺の勝手な理想だけどさ。ヒーローは後ろに逃げている人がいるなら、自分は逃げないんじゃないかと思うんだ」
少年は出会ったときと同じように頭を掻きむしる。
「力を貸せ、ってどうするんだよ」
「俺に個性を使ってくれ」
「は!?」
「軽めのでいい。早く!」
「ああもう、わかったよ。恨みっこなしだかんな!」
バリバリという音ともに、電撃が水斗に降り注ぐ。
最初は変化のなかった体が、バチバチと光を放ち始める。
(さしずめ、サンダースライムってとこか)
そうこうしているうちに、巨大ロボが近づいてくる。
水斗は動かずに振り下ろされる拳を真正面から受け止める。
押しつぶされる。周りにいた誰もがそう思った。
「機械ってことは電撃に弱いだろ?」
まばゆい閃光とともに破裂音がする。
周りの人間は恐る恐る目を開く。水斗は握手でもするかのように巨大ロボの拳に手を当てていた。
「どうやら、機能停止させられたっぽいな」
その光景を見た他の受験生はポカンとしていた。
「す、すげぇ……」
誰かが呟く。
「終了~!」
皆があっけにとられている間に、試験は終わってしまった。
結局、響香がいるのかもわからず、電気の彼へ礼も言えずに帰宅した。
拳藤は手応えがあったという。
「俺はカッコつけただけだったかもな……」
少しばかりの後悔を胸に合否通知が来るときを待っていた。