入試から1週間が経過した。
合否は未だ届かず、水斗はリビングのソファーで天井を眺めていた。
(最後の巨大ロボ、倒さなきゃよかったか?)
勇敢と蛮勇は違うと言われても、仕方のないことだ。
電気の少年から浴びた個性を体内の複数ある核で増幅し放つ。
あの場にいた中で、自分と相性の良い個性は彼しかいなかった。
それでも、あの電撃がなくとも倒す算段はついていた。
(あのロボに潰された状態で、まとわりついて爆破すれば倒せなくもなかった)
今の実力では賭けに近かったのも事実。しかし、潰れても死なないというのは、過去にトラックで轢かれたときに実証済みだ。
筆記は自己採点で合格ラインを余裕で上回っている。
(まあ、あれだけ拳藤には世話になったし)
これまで勉強を見てくれた拳藤には感謝しかない。
自分自身。そして、彼女のためにも合格したい。
「水斗。雄英高校から手紙届いてるわよ」
背後から叔母の水花がやってきて、封筒を手渡してきた。
水花は少し目を伏せ、バシッと水斗の背を叩いた。
「大丈夫。水斗なら合格してるって」
言いながら水斗を部屋に押し込んだ。
「どうしたのさ」
「なんだか緊張しちゃって。私、少し買い物に行ってくるから。落ちてたら連絡ちょうだいね」
ドタバタとしながら、彼女は玄関から出ていった。
一人になった空間で息つく。
「合格してたら、じゃないんだ」
そんな呟きと共に水斗は苦笑する。
「水花さんにも心配かけたからな。……合格してるといいけど」
封を切って中身を取り出すと円盤状の物体が現れた。
「何だ?」
それは空間に何かを投映し始める。
『ネズミなのか犬なのか熊なのか』
後ろを向いた二足歩行のなにかがいた。
『かくしてその正体は――校長さ!』
こちらを振り向いたのは、顔に傷のある人間大のなにか。
「ネズミ!?」
『ははは。私が雄英高校の根津さ』
巨大ネズミが流暢に言葉を話しているのも、校長だというのにも驚く。
『ネズミのような何かが現れてさぞ驚いたと思う。だけど、私の方がもっと驚いたのさ』
今までの笑顔を控え、根津校長は指を立てる。
『まずは筆記試験。これは問題なくクリアしていたよ』
それは当然と言える。拳藤に勉強を教えてもらっていたからだ。
『次に実技試験。これは全体でも上位となる敵ポイント60』
「ってことは」
『合格!』
「よしっ」
『と言いたいところだけど……』
(ここまで煽てといて不合格とかあるか?)
どこぞのクイズ番組のような間を挟み、根津校長は手を叩いた。
『我々雄英の実技試験。見ていたのは敵ポイントだけにあらず』
ババンとテロップが表示される。
『審査制の救助活動ポイント! 戦闘能力以外のもう一つの基礎能力さ』
「レスキュー、ポイント?」
言葉通りに受け取れば、誰かを助けたポイントということだろう。
意識して助けたのは数人だったため、それほどポイントは入っていないはず。
『いやはや、あの巨大ロボを機能停止させるとは思っていなかったのさ』
(敵ポイントが0だけど、あのロボが動いていたら被害が広がってた。それを止めたことが点になったってことか?)
『その場の受験生と協力して対応したのも加点されたよ。水粘水斗レスキューポイント60! 合計ポイント数は120。ぶっちぎりの主席合格さ』
とはいえ、と根津校長は顎へと手を当てる。
『他の受験生と得点が違いすぎる、ということが議論になってね。本来であれば合格者36人という定員をひとつ拡大したのさ。特別枠というかたちでね』
「そんなことが……?」
水斗に応えるかのように、根津校長は大きく頷く。
『可能なのさ。ここはなんでもアリの雄英高校だからね』
呆れるような感心するような。感情が入り混じって水斗は頭をかきむしる。
『ようこそ、雄英へ。ここが君のヒーローアカデミアさ』
笑みを浮かべる根津校長が、こちらに向かって手を伸ばしていた。
しばらく放心状態で動けずに立ち尽くす。
「合格。俺が、雄英に?」
実感の湧かないまま、拳藤に連絡を入れる。
「結果発表どうだった、っと」
チャットアプリで送信するとすぐさま返事が返ってくる。
――無事合格。そっちは?
――合格してた。
――そっか。
そのやり取りのあと、しばらく時間が空いてから。
――お互いに頑張ろうな。
その短い返信に。
拳藤の優しさが垣間見えて。
――ああ。
ただそれだけを打ち返した。
◇
その言葉をかけるのが正しいのか。
頑張るとは一体何だ?
返信内容を考えながら、拳藤一佳はためらっていた。
「一応、気を使ってくれてるみたいだけど」
俺は合格したけど、お前はどうだった?
などと聞かれるよりはよっぽど良いのだけど。
――合格してた。
その短い文面から感情を読み取れるのは、よほど相手のことを理解しているだろう。
想像でしかないが、今の水粘は焦っているのかもしれない。
だから、事実を共有できる人を探しているのだ。
――そっか。
その後に頑張ろうと何度か打ち込んで。
彼が今まで努力していたことを知っているから、なかなか送信できなかった。
誰かを思いやれる優しさも。
誰かを守れる強さも。
あの娘を守れなかった後悔が根源にあると知っているから。
だから、あの娘ならきっとこう言うように。
――お互いに頑張ろうな。
その一文を送信していた。
すぐさま返事が来る。
――ああ。
「なんだよ。ああって」
心配してる自分が馬鹿みたいで一佳は悔しくなった。
だけど、すぐにふっと息を吐く。
「私も頑張るからな。由貴」
親友の写真に目をやりながら一佳は軽く微笑んだ。
クラスメイトたちを取りこぼさないためには、こうするしかなかったんです!