水粘少年のヒーローアカデミア   作:白黒カラス

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第8話 再会

 夢を見ていた。

 水泡のように浮かんでは消えるそれは、少しずつ風景を形作っていく。

 遊園地に様変わりしたその光景に、水斗は見覚えがあった。

 これはヒーローだった両親が、二人そろっての休暇で遊びに連れて行ってくれた時だ。

 

『次はあれに乗りたい!』

 

 左右の手を両親と繋ぎながら、幼い水斗は大喜びしていた。

 ヒーローという職業に、休みはほとんどなかった。家族三人で遊びに行けるということがうれしかったのだ。

 だけど、幸せな景色は一瞬で塗り変わり、火の海に沈んだ。

 ヴィランが遊園地を襲撃したのだ。

 

 幸せそうな光景が気にくわなかったから。

 

 そんな身勝手で理不尽な言い分によって、遊園地は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。

 あちこちで爆発が起き、人々は逃げまどう。

 

 ――大丈夫。すぐ戻るからな。

 

 父はそう言って、ヴィランを止めようとした。

 その場にいるヒーローとして、やれることをしたのだろう。

 拳一つでヴィランの意識を刈り取った直後、爆発が父を襲った。

 

 ――水斗は離れてなさい。

 

 いつになく真剣な表情で、母は水斗の頭を撫でた。

 

『……でも、でも!』

 

 ――大丈夫。母さんだってヒーローなんだから。

 

 笑って背を向ける母親へ、水斗は言葉にならない叫びをあげる。

 水斗は母親が爆炎の中に消えていくのを見送ることしか出来なかった。

 それから数分後。現場へ急行してきたヒーローは、気絶した三人ヴィランを確保した。

 だけど、水斗の両親は帰らぬ人となった。

 

 ふさぎ込んだ水斗は、立ち直ることができずにいた。

 

 水斗がヒーローになりたいと思ったのは、両親がヒーローだったからだ。

 それ以外に理由なんてなかった。

 だけど、その両親もいなくなった。ヒーローだったからだ。

 

 小学生の水斗に現実を受け入れることなどできるはずもなく。

 ヒーローに期待しないようになった。

 

 転校先の学校で、水斗は上級生に絡まれる。

 周りの誰も助けようとしない。当たり前だ。厄介事に首を突っ込もうという人間なんて――。

 

『暴力はよくない、と思います』

 

 上級生を前に、恐怖しながらも立ち向かったその行動に、水斗は両親の後ろ姿を見た。

 たとえ、相手が自分より強くても、逃げないのがヒーローなのだと。

 この瞬間、彼女の行動が幼かった水斗の心を動かした。

 

 ヒーローになりたいと思うのは間違いじゃないと思えたから。

 

 

 

 

 教室の机で突っ伏していた水斗は、喧騒で目を覚ました。

 

(懐かしい夢だったな)

 

 両親がヴィランに命を奪われ、無気力になっていた時期。

 耳郎響香という少女と出会ったことで、再びヒーローへの憧れを認識した。

 そして今――。

 

(一番乗りで来たのはいいものの、拳藤とは違うクラスだったからな)

 

 同じ教室に響香の名前を見つけたときは、思わず胸が高鳴った。

 諦めなくてよかったという安堵。お互いに認識できるだろうかという不安。

 

(女子は化粧で化けるっていうし)

 

 拳藤は化粧っ気がそんなになかったけど、一般的に女子は化粧で印象をいくらでも変えられると聞いたことがある。

 ぐるりと周囲を見回す。既視感のある後ろ姿が目に入った。

 

「きょ……」

 

「あ、実技試験の時の!」

 

 肩を叩かれ、声の方に振り向く。

 金髪の少年が笑顔で話しかけてきた。

 

「やっぱ合格してたか。いやー、あんだけスゲーことしたら、そりゃ合格してるよな」

 

「君は――実技の時に電撃を貸してくれた」

 

 名前を知らないので戸惑っていると、彼は親指を自分に向けた。

 

「オレは上鳴電気。よろしくな」

 

「俺は水粘水斗だ」

 

 自己紹介でなにか反応があるかと響香を見るが、こちらを振り返ったりはしない。

 

(忘れられた……?)

 

 その可能性はある。

 約束したのだって小学校を卒業する頃だった。

 それ以前に、友達が大勢できたうちの一人になってしまったのでは。

 

「ははん。水粘、お前」

 

 上鳴がニヤニヤと口元を緩め、水斗と肩を組んで耳打ちする。

 

「もしかして、あの娘のこと狙ってるんだろ」

 

 視線の先には響香の後ろ姿。

 一瞬、水斗の思考がフリーズする。

 

(俺が、響香を狙う?)

 

 その意味に気づき、水斗は慌てて首を振る。

 

「そ、そういうわけじゃないぞ」

 

「みなまで言いなさんな。オレが代わりに色々聞いてくるから。水粘も他の女の子情報よろしく」

 

 上鳴は意気揚々と響香の席まで行って話しかける。

 

「そこの彼女」

 

「あ、おい!」

 

 なんてコミュ力だ、と戦慄する。

 

「……なに?」

 

 その横顔は、かつての面影を残している。そして、女性らしく成長していて。

 だけど、上鳴と言葉をかわす響香は、どことなく不機嫌そうだ。

 

(もしかして怒ってる!?)

 

 ぐるぐると頭の中で会話をシミュレーションする。

 

『久しぶり、響香』

 

『は? あんた誰?』

 

 失敗。

 どのパターンでも、悪い方向へ考えが転がっていく。

 そんなときだった。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 そこへ寝袋に身を包んだ男が廊下から入ってくる。

 あまりのインパクトに、クラスメイトは言葉を失っていた。

 

「静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 

 一瞬、教壇に立った男と視線が合う。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 クラスメイトからは担任なのかと驚きの声が上がっている。

 雄英高校では、教員はプロヒーローで構成されている。

 無精髭を生やし、ボサボサの髪。そのくたびれた風貌は、ヒーローに見えない。

 

「早速だが、体操服を着てグラウンドに出ろ」

 

 メガネの男子が手を上げるが、却下されている。

 相澤の考えがどうであれ、ここは学校。教師には従うべきだろうと結論づける。

 各々が体操服に着替えてグラウンドに出た。

 

「これから個性把握テストをやるから」

 

「個性把握テスト!? 入学式は!? ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 騒ぐクラスメイトに対し、相澤は淡々と答えた。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

 中学の頃にやっていた個性禁止の体力テスト。それとは違う、個性と自分の能力を知るための個性把握テストだ。

 相澤は一瞬、水斗を見た。しかし、すぐに視線を外し、爆豪という少年を呼んだ。

 彼が中学の時のソフトボール投げの記録は、67メートルだという。

 そんな彼が個性を使った場合。

 

「死ねぇ!」

 

 盛大な爆音とともにソフトボールは彼方へ飛んでいき、十倍以上の記録を叩き出していた。

 

「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

「なんだこれ! すげー面白そう!」

 

「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」

 

 クラスメイトの何人かは、個性を使えることに驚き、喜んでいる。

 

(自分の限界を知るにはいい機会だな)

 

 水斗も楽観的に考えていた。だけど――。

 

「面白そう、か。ヒーローになるための三年間。そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 相澤の雰囲気が変わった。

 

「トータル成績最下位のものは見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

 騒いだところで相澤の決定が覆される可能性は低い。

 そんな水斗の視界に、俯いているくせ毛の少年が目に入った。




上鳴くんはコミュ力高そうなのでこういう扱いになりました。
次回、緑谷くんと遭遇かも。
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